2016 年 3 月 4 日 片岡剛士コラム 「消費低迷の特効薬」を考える 経済・社会政策部 主任研究員 片岡剛士 2016 年 1 月の家計調査の結果が総務省から公表された。二人以上の世帯を対象とした結果をみると、 実質消費支出は前年比 3.1%減、前月比 0.6%減とさえない動きが続いている。実質消費支出から世帯規 模(人員)の変動の影響や、人口の高齢化の影響を除いて推計される消費水準指数(季節調整済)の動 きをみても、2016 年 1 月の結果は前月比 1%弱の増加であって、水準は 2015 年 10~12 月期の平均値に も届いていない(図表 1) 。2014 年 4 月以降家計消費は停滞したまま L 字型のような形で推移し、2015 年 9 月以降さらに減少傾向にある。2016 年 1 月の持ち直しの動きも鈍いと言えるだろう。 図表 1:消費水準指数の推移 110 (2010年=100) 108 106 10~12月 期平均値 (97.2) 104 102 4~6月期 平均値 (96.2) 7~9月期 平均値 (96.7) 100 98 96 94 92 2013年 平均値 (100.5) 90 4~6月期 平均値 (95.5) 7~9月期 平均値 (95.5) 93.8 1~3月期 平均値 (96.7) 10・12月 平均値 (94.0) 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2013 2014 2015 2016 (出所)総務省「家計調査」より、消費水準指数(総合、季調済、実質値、世帯人員及び世帯主の年齢分布調整済、二人 以上の世帯)を掲載している。 以上は商品を購入する家計側から見た消費の動きだが、売り手側からみた消費もさえない動きを続け ている。図表 2 は経済産業省「商業販売統計」と総務省「消費者物価指数」から実質小売業販売額の動 きを試算した結果だが、2016 年 1 月は前月比 0.8%の減少となり、2015 年 10~12 月の平均を 1.8%下回 る。 ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected] 1 図表 2:実質小売業販売額の推移 (2010年=100) 115 110.5 110 2015年 10- 12月 期 平 均 値 :100.5 105 100 98.7 95 93.9 90 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2013 2014 2015 2016 (注)商業販売統計は消費税込みの数値であるため、消費者物価指数(総合、季節調整済)を用いて実質化 している。 (出所)経済産業省「商業販売統計」、総務省「消費者物価指数」 業態別に動きをみていくと、コンビニ実質販売額は緩やかながら堅調な増加を続けるものの、スーパ ー実質販売額は前月とほぼ変わらず、百貨店実質販売額は前月比 4%を超える落ち込みとなった。売り 手側から見た消費の動きにはインバウンド消費の影響も含まれているが、それを考慮に入れても落ち込 みが確認できるのが 2016 年 1 月の結果だ。 家計消費の趨勢は、商品を購入する買い手側と商品を売る売り手側の双方の統計の動きを加味して推 計され、その結果は消費総合指数という形で内閣府から公表されるが、2016 年 1 月も 2015 年に引き続 き家計消費の動きは低調という結果に終わるだろう。以下では、家計消費の低迷を打開するための政策 について検討してみたい。 ■リーマン・ショック以来となった家計最終消費支出の「底割れ」 去る 2 月 15 日に内閣府から「四半期別 GDP 速報(2015 年 10-12 月期・1 次速報)」が公表された。 筆者の注目点は家計最終消費支出の動きであったのだが、2015 年 10~12 月期の GDP 統計から得られる 家計最終消費は、統計的に見て 2002 年 1~3 月期から 2012 年 10~12 月期における前期比 0.2%増のト レンドから統計的に見て有意に下ぶれたことを確認させる結果となった。 図表 3 の青い実線は家計最終消費支出の実績値、黒い点線は 2002 年 1~3 月期から 2012 年 10~12 月 期のデータから計算した傾向線(トレンド) 、つまり、消費税増税による駆け込み需要といった変動を 除いた 2002 年から 2012 年までの家計最終消費支出の趨勢としての動きをみたものである。そして二つ ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected] 2 の赤い点線で囲まれた部分は、家計最終消費のトレンドが統計的に成り立ちうる範囲(95%信頼区間) を示したものである。 図表 3:実質家計最終消費支出の推移(2003 年~2015 年) 330 (兆円) 2002年1-3月期~2012年10-12月期ま でのデータから計算した家計消費のト レンド(前期比平均伸び率0.2%) 320 駆込需要 家計最終消費支出(実績値) 310 300 290 280 東日本 大震災 リーマン ショック 消費の底割れ 270 95%信頼区間(赤破線部) 260 250 03 04 05 06 07 08 09 10 (出所)内閣府「四半期別GDP速報(2015年10-12月期、1次速報)」 11 12 13 14 15 (年、四半期) アベノミクスが開始された 2013 年以降の消費の動きをみていくと、家計最終消費支出はトレンドを 示す黒い点線から上ぶれる形で推移して、2013 年 4~6 月期以降はほぼ赤い点線上限近辺で推移してい た。これは、アベノミクスにより家計最終消費支出の拡大が生じ、それが 2002 年から 2012 年までの家 計最終消費支出のトレンドから統計的に有意な形で上ぶれつつあったことを意味する。そして消費税増 税の駆け込み需要が生じた 2014 年 1~3 月期には一時的に上限を上回った。しかし消費税増税後には動 きが一変する。今度はトレンドを示す黒い点線から実績値が下ぶれて推移して、ついに 2015 年 10~12 月期に家計最終消費支出は下限を下回ってしまったのである。これは統計的にみて「消費の底割れ」が 生じたということだ。 図表 3 にはリーマン・ショック直後と東日本大震災の家計最終消費支出の値を明示している。東日本 大震災が生じた 2011 年 1~3 月期の値は大きく落ち込んだものの、赤い点線の下限を超えて落ち込むと いう「消費の底割れ」はかろうじて避けられた。統計的にみて、家計最終消費支出の底割れが生じたの はリーマン・ショックから 1 四半期が経過した 2009 年 1~3 月期である。2015 年 10~12 月期の家計最 終消費は 2002 年以降のトレンドで見て、リーマン・ショック直後以来 2 度目の「消費の底割れ」が生 じていることを示しているのである。 確かに「消費の底割れ」は一時的で、再び家計最終消費支出は増加に転じてトレンドの周りを推移す ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected] 3 る可能性もある。だが、筆者はこうした見方が本当に成り立ちうるのか今のところ確信が持てない。図 表 4 は図表 3 と同様の方法で、1985 年 1~3 月期から 1995 年 10~12 月期までのデータから家計最終消 費支出のトレンドや 95%信頼区間を計算した結果だが、1997 年 4 月の消費税増税前後の家計最終消費 支出の動きは、1995 年以降トレンドと 95%信頼区間の下限で囲まれた領域を推移し、駆け込み需要に よりやや持ち直したものの、1997 年 4~6 月期以降は再びトレンドに復帰することはなかった。1985 年 から 1995 年までのトレンドは前期比平均 0.8%程度の伸びであったが、図表 3 にも示したように 2002 年から 2012 年までのデータで計算したトレンドは前期比平均 0.2%程度の伸びに留まってしまっている。 つまり図表 3 と図表 4 とを合わせて考えてみると、一旦「消費の底割れ」が生じた際にそれを放置し てしまうと、家計最終消費支出のトレンドは下ぶれし、それが家計最終消費支出のさらなる停滞につな がってしまう蓋然性が高まるということだ。 図表 4:実質家計最終消費支出の推移(1986 年~1998 年) 310 (兆円) 290 家計最終消費支出(実績値) 270 95%信頼区間(赤破線部) 消費税 増税 250 230 210 消費の底割れの 持続 1985年1-3月期~1995年10-12月期までのデー タから計算した家計最終消費支出のトレンド (前期比平均伸び率0.8%) 190 170 150 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 (出所)内閣府「四半期別GDP速報(2015年10-12月期・1次速報)」、94年以前は簡易遡及系列を使用。(年、四半期) 2016 年 1 月も 2015 年に引き続き低調な結果に終わり、その後も十分な回復が見込めない状況が続け ば、家計最終消費支出は前期比 0.2%増のトレンドから更に下ぶれる可能性が高まる。家計最終消費支 出に限ってみれば、悪化度合いはリーマン・ショック後に匹敵する。早期に対策を行うことが今求めら れているのである。 ■デフレ脱却前に消費税率を引き上げるのは誤り ではどのような対策を行う必要があるのだろうか。図表 3 の家計最終消費支出の動きからは家計最終 消費支出の落ち込みが続く主因は 2014 年 4 月から始まった消費税増税であると考えられる。安倍政権 は 2014 年末に 2015 年 10 月に予定していた 8%から 10%への消費税増税を延期して、2017 年 4 月から ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected] 4 の増税を表明したが、その後も家計消費の低迷は続いている。 消費税増税の影響は税率が変わらない限り恒久的に続く。家計消費の低迷を打破するには、2017 年 4 月の消費税率引き上げ撤回し、消費税増税時期を白紙に戻すことで先行きの消費への不安材料を払しょ くし、合わせて 8%の消費税増税の悪影響を乗り越える二段構えの財政政策が必要である。つまり 10% への消費税増税の凍結と、家計消費を再拡大させるための財政政策が求められているのだ。 2013 年 9 月 5 日に公表した拙稿(リフレ・レジームと消費増税1)で具体的に論じ予想したとおり、 2014 年 4 月に行われた消費税増税は、予想インフレ率に働きかける金融政策の転換(リフレ・レジーム の採用)と、そのことで生じた予想インフレ率の拡大を毀損させることにつながったと考えられる。図 表 5 は内閣府「消費動向調査」から試算した家計の 1 年後の予想インフレ率2、消費者物価指数、さらに 点線で 2013 年 4 月の量的・質的金融緩和以降、段階的に物価上昇率が拡大して 2015 年 4 月に消費者物 価指数(生鮮食品除く総合)前年比が 2%を達成・維持した場合の経路を記載している。 図表 5:予想インフレ率、消費者物価指数の推移 消費税増税 (%、前年比) 4 予想インフレ率 ( 消費動向調査) 安倍首相増税表明 (2013年10月) 原油安 3 2.3 追加緩和 消費税増税 (2014年4月~) (14年10月) 2 1 0.7 0.0 0 -1 消費者物価指数(生 鮮食品を除く 総合) -2 消費者物価指数(食 料( 酒類を除く)・エネ ルギ ーを除く 総合) 2015年4月に2% インフレを達成す る経路 -3 12345678910 1 1 212345678910 1 1 212345678910 1 1 212345678910 1 1 212345678910 1 1 212345678910 1 1 212345678910 1 1 21 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (月) 2016 (年) (注)2014 年 4 月以降の物価上昇率は消費税増税の影響を除いている。 (出所)総務省「消費者物価指数」 、内閣府「消費動向調査」より筆者作成 1 http://www.murc.jp/thinktank/rc/column/kataoka_column/kataoka130905.pdf 2 日本銀行「経済・物価情勢の展望(2016 年 1 月) 」に記されている各種予想インフレ率の動き(図表 39、図 表 40)を見ると、2014 年に入り予想インフレ率の伸びは停滞し、2015 年以降、伸び率は低下基調にあるこ とがわかる。 ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected] 5 これをみると、2013 年以降、予想インフレ率の伸びは高まり、そこから 3 カ月程度遅れる形で消費者 物価指数の伸びが高まっていき、2013 年中の消費者物価指数の伸びは点線で示した 2%インフレを達成 する経路を上回るペースで推移していたことがわかる。しかし、安倍首相が記者会見で 8%への消費税 増税を表明した 2013 年 10 月以降に予想インフレ率の伸びはマイルドとなり、消費税増税が行われた 2014 年 4 月から 6 月にかけて予想インフレ率の伸びは大きく落ち込んでいく。2014 年 7 月からは原油 価格の急落が始まるが、予想インフレ率は 6 月以降伸び率を強めていき、2014 年 10 月の日銀による追 加緩和や安倍首相による消費税増税延期の記者会見(2014 年 11 月)といった出来事を通じて 2015 年 1 月までは伸び率を高めていったと考えられる。 だが 2015 年 2 月以降、予想インフレ率の低下が緩やかに進んでしまっている。予想インフレ率の低 下には原油安が一定の影響を及ぼしていると思われるものの、以上紹介したとおり消費税増税表明ない し増税実行のタイミングで予想インフレ率の変化が生じていることを念頭におけば、消費税増税がリフ レ・レジームを毀損させるきっかけとなったと言えるだろう。予想インフレ率が 2%のインフレ目標を 達成・安定化させるアンカー(碇)として機能する前に消費税増税に踏み込めば、再度のリフレ・レジ ームの毀損は避けられない。こうなった場合の金融政策への負荷はさらに高まるだろうし、インフレ目 標の達成・維持もさらに困難となるだろう。 そして財政政策を考える際には、デフレ脱却ないし金融政策の出口政策のタイミングも合わせて考慮 することが必要だ。安倍政権が 2017 年 4 月に消費税増税を延期した当時の金融政策・財政政策のシナ リオは次のようなものであったと考えられる。つまり、2016 年半ばまでに 2%のインフレ目標を達成し た上で、インフレ率が安定化したことを確認して 2017 年 4 月に消費税増税に踏み切り、消費税増税の 影響が一服した段階で金融政策は出口政策に移行していくというシナリオだ。 しかし消費税増税を主因とする総需要の低迷や原油価格の大幅な低下により、日銀は 2%のインフレ 目標達成時期を 2017 年度前半頃まで後ずれさせている。これを念頭におくと、予定通り 2017 年 4 月か ら消費税増税を行えば、デフレ脱却を完全に果たし得ないまま政府は再び増税に踏み切ることになる。 デフレ脱却を果たさぬまま消費税増税を行った場合、その悪影響を抑制するための財政政策はほぼ効力 を持ち得ない。それは 2014 年度実質 GDP マイナス成長という高い代償を払って既に学習済みである。 なお、財政運営の観点から考えても消費税増税は非効率である。5%から 8%への消費税増税を行うに あたり、政府はその悪影響をあらかじめ抑制するために 2013 年度補正予算(2014 年 2 月 6 日成立)と して 5.5 兆円を支出し、さらに 2014 年 4 月以降の実質 GDP の悪化に対処するために 2014 年度補正予算 として 3.1 兆円(経済対策の国費は 3.5 兆円、2015 年 2 月 3 日成立)を支出した。2014 年度(決算)の 消費税収は 16 兆円、2015 年度の消費税収(当初予算)は 17.1 兆円であるため、2013 年度消費税収 11 兆円と比較すると 2 年間の累計で 11.1 兆円(≒5 兆円+6.1 兆円)だけ消費税収が増えたことになる。つ まり 11.1 兆円分の消費税収を増やすために、8.6 兆円(≒5.5 兆円+3.1 兆円)の支出を行ったとも言える ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected] 6 のである3。消費の低迷が 2015 年度で収まれば良いが、やっと持ちあがりかけた名目 GDP が再び低下基 調に入り、さらにデフレに逆戻りということになれば、デフレからの完全脱却の途中で消費税増税を行 ったことの代償はより大きくなるだろう。 つまり、以上でふれたリフレ・レジームの維持、政府が行う財政政策と日銀が行う金融政策の今後の シナリオ、ポリシー・ミックス、さらに財政運営の観点からは、2017 年 4 月の消費税増税は最低限、延 期すべきなのである。 ■消費拡大のための財政政策とは さて先程述べた金融政策・財政政策のシナリオを考慮しつつ、家計消費を再拡大させるための財政政 策はどうあるべきか。財政政策のメニューは、定額給付金、社会保険料の一時的減免、低所得労働者を 対象とする給付付き税額控除など様々なものが考えられるが、最も効果が大きいと考えられるのは「消 費税減税」である。消費税減税のメリットは、簡明かつ現下の家計消費の落ち込みに直接影響を及ぼす ことが可能であることだ。筆者が本コラムで再三論じているように、消費税増税の影響が甚大であるの ならば、消費税減税の効果も大きなものとなるはずだ。 わが国の総需要(実質 GDP)と総供給(潜在 GDP)の差である GDP ギャップは、内閣府の試算によ れば 7 兆円弱のデフレギャップ(総需要不足)の状況にある。また図表 3 における家計最終消費の 2015 年 10~12 月期実績値 296.8 兆円と、2015 年 10~12 月期のトレンド 304.9 兆円との差を計算すると、現 状の消費をトレンドの水準まで復帰させるために必要な金額は 8.1 兆円だ。消費税率 1%に相当する税 収を 2.7 兆円とすれば、8%から 5%への消費税減税の規模は 8.1 兆円(2.7 兆円×3=8.1 兆円)となる。 以上からはデフレギャップを埋め、かつ「消費の底割れ」が生じている家計最終消費支出をトレンドま で引き戻すためには 8%から 5%への消費税減税を行う必要があることがわかる。 そして金融政策・財政政策のシナリオ、ポリシー・ミックスを考慮すれば、8%から 5%への消費税減 税を行う際には図表 6 のような形で実行することが必要ではないか。 図表 6:消費税減税の枠組み ●ステップ 1 日銀が 2%インフレ目標を達成・安定化するまでの期間(仮に展望レポートにおける 2%インフレ目 標達成時期を念頭におけば 2016 年度、2017 年度)の時限措置として政府は 8%から 5%への消費税減税 (財政政策)を行う。 3 さらに 2015 年度補正予算(2016 年 1 月 20 日成立)3.3 兆円まで含めれば、消費税収の増分は補正予算の金 額を下まわってしまうことになる。 ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected] 7 ●ステップ 2 日銀は展望レポートで示しているとおり 2%のインフレ目標を 2017 年度前半中に達成することに全力を 尽くす。なおインフレ率の基調判断は、消費税減税による物価押し下げ効果や原油価格の影響を差し引 いた上で行う。 ●ステップ 3 2%インフレ目標達成から半年間の経過期間を置いてデフレからの完全脱却がなされたことが確認され た場合、改めて毎年 1%ずつのペースで消費税増税を行う。なお、消費税増税は、あらかじめ開始年次 を定めることなく、あくまでデフレからの完全脱却が確認された後で決定する。 ●ステップ 4 1%ずつのペースで消費税増税を行い、最終的に 8%まで消費税率を戻しつつ、物価や経済動向を勘案し ながら、日銀は段階的に出口政策に踏み込む。 図表 6 について少し補足しておこう。ステップ 1 は消費税減税の実行期間について述べているが、日 銀が 2%のインフレ目標を達成し、かつインフレ率を安定化させるまでの期間が目安になるだろう。ス テップ 2 にまとめているとおり、日銀は 2%インフレ目標の到達時期を「2017 年度前半頃」としている。 この点を念頭におけば、2016 年度と 2017 年度の 2 年間に渡って消費税減税を行うことが必要となる。 仮に 2%インフレ目標の到達時期が遅れることになれば、消費税減税の期間は長期化する。ステップ 3 でまとめているとおり、消費税減税を行う期間をあらかじめ限定しないことが望ましい。なぜかと言え ば、2014 年 11 月に消費税増税の延期を安倍政権が表明した際に「2017 年 4 月に 10%への消費税増税を 行う」と述べたことが、家計に将来の再増税のタイミングを確信させることで、現在の消費低迷の一因 として作用していると考えられるためである。 ステップ 4 では、消費税減税を行った後、デフレ脱却を確認した上で 1%ずつの段階的増税を行い、 消費税率を元の 8%に戻すとしている。消費税増税は社会保障の財源を確保することが目的だが、消費 税そのものには、低所得者ほど負担率が高まる逆進性の問題や、消費税率を引き上げるたびに経済の落 ち込みが深刻となる、税率を引き上げるほど益税に代表される税の不公平が助長されてしまう、といっ た様々な問題点を抱えている。社会保障の財源を消費税増税に頼るのではなく、経済成長による税収増 や現行の相続税を廃止の上で新たに 100 兆円とも言われる相続対象資産に一律に 20%の税率を課すとい った対策を行えば、消費税率は 5%据え置きでも問題ないと筆者は考える。こうなれば、消費税率をあ えて引き上げる必要もないため、日銀は消費税率引き上げの影響を考慮することなく、出口政策のみに 集中することが可能となるだろう。 以上の政策を行う際に、財源を心配する方もいるかもしれない。仮に 2 年間を目途として 8%から 5% への消費税減税を行うために必要な財源は累計 16.2 兆円となる。減税を行えば経済成長も高まり、デフ ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected] 8 レ脱却が進むことも相まって税収も増加することが見込まれる。合わせて外国為替特別会計に眠る内部 留保(積立金)22.7 兆円(2015 年 3 月末時点)や、政府資産の売却を前倒しで実行していくことも考え られる。内部留保や政府資産の売却、さらに税収増を財源とすれば、財政が悪化することはない。現在、 日銀が 1 月に採用した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和策」の影響もあって長期名目金利がマイ ナスに突入している状況である。デフレからの完全脱却が達成されれば、長期名目金利は 2%のインフ レ目標にみあう値まで緩やかに上昇することになるだろう。だがマイナス金利である現時点では、政府 が国債を新規発行した場合に生じる金利負担はない。中長期的な財政運営の観点に立てば、こうしたタ イミングこそ国債を増発して必要な財源をファイナンスすべき時だ。 2016 年 2 月 28 日に閉幕した上海 G20 の共同声明を見ると、成長や金融の安定の強化のために金融・ 財政・構造改革という全ての政策手段を用いること、特に機動的に財政政策を実施する旨が述べられて いる。これは金融政策に過度に依存した現在の政策状況を転換して、金融政策・財政政策のポリシー・ ミックスを行うということであって、金融政策が無効であることを意味していない。そして中国経済の 先行き懸念、資源輸出国を中心とする新興国の経済停滞の深刻化が進む中、世界経済の GDP 成長率の 下方修正が相次いでおり、資源輸入国、特に先進国の総需要喚起策の実行も期待されている。5 月 26 日・ 27 日に開催される「G7 伊勢志摩サミット」でも、内需拡大のために先進国が行うべき具体策が議論・ 決定されるだろう。 これまで述べてきたように「消費の底割れ」はリーマン・ショック以来である。そして「消費の底割 れ」が実質 GDP や名目 GDP の拡大を阻害している。日経平均の動きに目を転じてみても、年初来の株 価の落ち込みは、同様に年初から株価下落が始まった 1990 年(バブル崩壊)、1998 年(アジア通貨危機、 金融危機) 、2008 年(リーマン・ショック) 、2014 年(消費税増税)のいずれの時期と比較しても悪化 が進んでいる。 「いついかなる状況下でも消費税率を 10%に引き上げることが必要だ」という主張は非 合理としか言いようがないが、現下の状況は、まさに安倍首相が消費税増税の再延期に際して述べた必 要条件を満たしつつあるのだ。 名目 GDP600 兆円を達成するという「名目 GDP 水準目標政策」を安倍政権が真剣に達成するつもり があるのならば、消費税増税は延期ではなく凍結すべきであり、かつ消費税減税に踏み込むべきだ。消 費税減税を行うために乗り越えるべきハードルは高いだろうが、消費拡大の特効薬であることは確かで ある。それこそが日本経済にとっても、また世界経済にとっても必要な政策だろう。 - ご利用に際して- 本資料は、信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。 また、本資料は、執筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社の統一的な見解を示すものではありません。 本資料に基づくお客様の決定、行為、及びその結果について、当社は一切の責任を負いません。ご利用にあたっては、お客様ご自身でご判断くださいます ようお願い申し上げます。 本資料は、著作物であり、著作権法に基づき保護されています。著作権法の定めに従い、引用する際は、必ず出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティングと 明記してください。 本資料の全文または一部を転載・複製する際は著作権者の許諾が必要ですので、当社までご連絡下さい。 ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected] 9
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