一般社団法人ディレクトフォース 企業ガバナンス部会 第 7 回研修会 企業ガバナンス部会、第 7 回研修会は服部暢達教授により、下記の講演を頂いた。豊富な事例とメリハリのきいた説明により、大好評であった。 開催日時 平成 27 年 4 月 16 日(木)午後 3 時~5 時 場所 学士会館 203 号室 演題 「M&A 日本企業の成功と失敗」 講師 服部暢達氏 早稲田大学大学院ファイナンス研究科 客員教授 《Ⅰ.全体の動向》 ① 世界のM&Aは、2007 年に 4.0 兆ドルで過去ピークを記録。2014 年は 3.2 兆ドル、今年も、ほぼ昨年ペース。日本企業の海外M&Aは、 80 年代後半、2000 年のネットバブルを経て、外国企業を買いまくる、第 3 次アウトバウンドブームを迎えている。円安に転じた以降も好 調が持続している。 ② 日本企業の海外M&Aの成功率は低く、失敗事例が多い(後述-Ⅳ)。 ③ 海外企業によるインバウンド案件(1999 年以降ばかり)も、失敗或いは失敗の可能性が高い案件が多い。具体的に、シティー⇒日興、ヴォ ーダフォン⇒日本テレコム、GEキャピタル⇒東邦生命、日本リース、カーライル⇒DDI(倒産)、ウォールマート⇒西友等、失敗例が多い。 ④ 日本企業同士のM&Aも、1999 年にブレイク、5~10 兆円規模で継続している。金額上位には、銀行の統合・合併が並ぶ。しかしながら、 1989 年当時、23 行あった大手銀行の経常利益が 3.8 兆円、2006 年には 9 行に統合されたものの、経常利益は同水準で、統合効果が出 たとは言えない。対等合併という様式が統合効果の実現を阻んでいる。 ⑤ M&Aの成功確率はおよそ 50%、日本企業の成功確率は高くはない。世界ベースの買収プレミアムは、時価総額の 30~40%程度。日本で は、対等合併が多く、海外に比し、買収プレミアムは概ね低め。 ⑥ 何故、M&A が起きるか、それは売手、買手共に、株主価値が増大すると考えるからである。買収プレミアムが付く為に、売手はノーリスク だが、買手は負けから始まる投資。買収プレミアムを上回るシナジー効果をどのように実現していくか、その為のマネジメントを理解してい ないと成功しない。日本企業は買うのは大好きだが、売るのは嫌う。国内 M&A は対等が多く、プレミアムは無いが、統合効果は実現し難い。 海外 M&A では、事業経営をそのまま任せるため、プレミアム分をカヴァーするだけのシナジー効果の実現が難しい。 《Ⅱ.M&A 成功の必要条件》 M&A では、売手はプレミアムを受領するので、成功確実だが、買手は投資開始時にプレミアムの支払が生じ、成功確率は不確実。M&A を成功に 導く必要条件を考えると、下記 5 点となる。 ①負けから始める投資である事の理解(投資信託などとは比較にならない高リスク) ②勝つため、つまり支払プレミアムを上回る価値創出の綿密な計画(人・モノ・金・時間の全てを綿密に) ③そのためには、経営権の取得。折衷案としての 49%は最悪(49%出資は経営権が持てず、かつリスク量は最大となる) ④そのためには自分で経営できる力(自分が CEO に就き、任せるのは COO 迄) ⑤欧米人経営者へは、飴と鞭 + 労働意識の違い(欧米人は金! 日本人は会社への帰属感) 《Ⅲ.事例研究》 成功:11 例、失敗:25 例の概要を説明頂く。 《Ⅳ.M&A 成功と失敗 その原因分類》-上記研究事例(Ⅲ)を原因別(成功は〇、失敗は●)に分類 原因分類&具体事例 ○ 戦略上のシナジー実現(論理的帰結) ⇒ 「真理は至って単純明快!」(判り易いシナジー) (例) [インバウンド] ロッシュ⇒中外製薬、 [国内同士]DDI⇔KDD⇔IDO、NKK⇔川崎製鉄 成 功 [アウトバウンド] ブリヂストン⇒Firestone、京セラ⇒AVX、日本たばこ⇒RJR&Gallaher、 ○ 対象会社経営者の能力(たまたま) (例) [アウトバウンド] イオン⇒Talbot's、第一勧銀⇒CIT、富士銀⇒Heller Financial、住銀⇒Goldman Sachs, [ インバウンド] ルノー⇒日産 ● 一時的な業界のバブルに賭けていないか? 好況は持続可能か? (例) [アウトバウンド] 三菱地所⇒RGI、NTT ドコモ⇒AT&TW並びにタタ、NTTCom⇒Verio、古河電工⇒Lucent OFS ● 自社・相手株式の評価は妥当か? 割高であれば対価として現金ではなく自社株を使用するチャンスではないか? [アウトバウンド] NTT ドコモ⇒AT&TW並びにタタ、NTTCom⇒Verio、古河電工⇒Lucent OFS、リコー⇒IKON、武田薬品⇒Nycomed (例) [続き] サントリー⇒Beam、 [国内同士]パナソニック⇒三洋電機 失 敗 ● 環境変化で劇的に不況化しないか? (例) [アウトバウンド] 日本鉱業⇒Gould、富士通⇒ICL、NEC⇒Packard Bell、日立⇒IBM HDD ● 不測の事態に対するリスクヘッジは充分できているか? (例) [アウトバウンド] 第一三共⇒Ranbaxy ● 事業特性を理解しているか? 他人任せでなく自分で経営できるか? (例) [アウトバウンド] ソニー⇒Columbia Picture、松下⇒MCA
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