「思いや疑問,取り組みたいことを言え, 失敗を恐れず意欲を持って取り組もうとする生徒の育成」 ~生徒自身が発する言葉と挑戦する気持ちを大切にする作業学習のあり方~ 仙台市立田子中学校 1 教諭 首藤雅浩 はじめに (1)研究主題設定の理由 震 災 直 後 の 平 成 23 年 4 月 ,私 は 本 校 に 着 任 し た 。そ の 年 度 に 担 当 し た の は ,自 閉 症・情 緒障害学級だった。生徒たちは,身辺処理や日常の大人との会話を行えたが,指示理解や 協調性,根気強さや働こうとする気持ちに課題があったため,作業学習を通してそれらの 力を育てたいと考えた。 そ こ で ,平 成 23 年 度 は「 指 示 さ れ た こ と を 理 解 し そ の 通 り に 行 う 」, 「集中して根気強く 働 き 続 け る 」,「 完 成 の 喜 び を 味 わ う 」 こ と を 大 き な ね ら い と し て , 野 菜 作 り と 箱 作 り を 行 った。様々なことを考えながら取り組んだ作業学習では, 指示理解,協力して行おうとす る気持ち,集中力や根気強さなどに高まりが認められた。その一方,難度が低く単調な作 業の繰り返しが集中力や意欲の低下を招いているにもかかわらず,生徒たちは誰も不満を 訴えなかった。言われたことを黙々と続けることは,年度初めに私が願った姿である。し かし, 「 や り た く な い 」と 言 わ ず に た だ 黙 々 と 作 業 を 続 け る こ と が ,本 当 に 将 来 働 く た め の 力になるのだろうかと疑問を抱くようになった。 このことから, 「 思 い や 疑 問 ,取 り 組 み た い こ と を 言 え ,失 敗 を 恐 れ ず 意 欲 を 持 っ て 取 り 組もうとする生徒の育成」に取り組んでみたいと考えた。 (2)求める生徒像 私が作業学習で大切にしてきたことは,将来働くために必要な様々な力を高めることで ある。そのために,あいさつや返事はもちろん,指示されたことをその通りに行い,仕事 を 終 え た ら 報 告 す る 。ま た ,根 気 強 く 黙 々 と 働 き 続 け る 力 も 必 要 で あ る 。だ か ら と い っ て , はじめから失敗体験をしてしまう作業学習では力が高まらない。そこで,教師の指導とし て目の前の生徒は何ができるか,どうやったらできるかを考察し,作業種目を決め,成功 体験を積める工程を組み,完成までつながるようにしてきた。そして,他者から認められ る機会も持つようにしてきた。 しかし,言われたことを黙々と続けるだけで,やりたくないとも言わず,作業に意欲を 持てなくなった生徒たち。その姿には,作業学習のあり方をもう一度見つめ直さなければ ならないというメッセージが込められていると思うようになった。 そこで,次のような生徒像を考えてみた。 ・自ら何でも言葉にできる生徒 ・自己有能感と新たな課題に挑戦しようとする生徒 ・働く意欲を持ち続ける生徒 2 研究の視点 作業学習は,知的障害のある生徒に教育を行う特別支援学校で行われている「領域・教 1 科 を 合 わ せ た 指 導 」 の 一 つ で あ る 。 そ の 目 的 は ,「 作 業 活 動 を 学 習 活 動 の 中 心 に し な が ら , 児童生徒の働く意欲を培い,将来の職業生活や社会自立に必要な事柄を総合的に学習する ものである」と学習指導要領解説にある。 こ れ ま で の 作 業 学 習 に お い て 私 は ,将 来 働 く た め に 必 要 な 力 の 育 ち に 力 点 を 置 い て い た 。 し か し , 平 成 23 年 の 生 徒 の 姿 か ら ,「 言 わ れ た 通 り に 行 う 」「 黙 っ て 仕 事 を す る 」「 ミ ス を しない」など「職場で働くとはこういうことだ」という既成概念にとらわれすぎていたと 考えるようになった。 そ こ で 平 成 24 年 か ら ,意 欲 を 高 め 持 ち 続 け て い く た め に ,生 徒 自 身 が 発 す る 言 葉 と 挑 戦 する気持ちを大切にする作業学習のあり方について考えていきたいと思った。 3 研究仮説 ・言 葉 に す る 機 会 と そ の 発 し 方 を 工 夫 す れ ば ,自 ら 何 で も 言 葉 に で き る よ う に な る だ ろ う。 ・取 り 組 み の 段 階 を 設 定 す る と と も に ,自 己 決 定 や 選 択 す る 機 会 を 取 り 入 れ れ ば ,自 己 有能感と新たな課題に挑戦しようとする気持ちが高まるであろう。 ・言 葉 と 挑 戦 す る 気 持 ち の 成 果 で あ る「 意 欲 の 好 循 環 」を 積 み 重 ね て い け ば ,働 こ う と する意欲が高まり,その意欲を持ち続けていくことができるであろう。 4 研究の内容 (1) 平 成 24 年 度 の 実 践 平 成 24 年 度 の 特 別 支 援 学 級 は ,自 閉 症・ 情 緒 障 害 学 級 に 病 虚 弱 と 知 的 が 加 わ り ,3 学 級 となった。生徒たちは,身辺処理に課題のある生徒,細かな作業が難しい生徒,指示をし っかり把握できない生徒,協調性に乏しい生徒など,個々の課題が多様化した。 年度はじめに各学級担任と話し合いをもって作業学習の必要性を確認し,可能な限り全 員で取り組ませるように教育課程を編成した。週あたりの時数は 4 時間だった。 ① 実 践 に あ た っ て (「 意 欲 の 好 循 環 1」, 平 成 24 年 度 版 ) 研 究 仮 説 を も と に , 平 成 24 年 度 は 図 1 の よ う な 流 れ を 考 え た 。 選 択 や自 己 決 定 が やりとげた喜 びと 意欲 できる仕 組 み 周 りからの評 価 言 葉 にする機 会 と工 夫 自 己 有 能 感 の醸 成 と意 欲 の高 まり 作業学習の 難 易 度 の高 い 基礎学習 課 題 への挑 戦 図 1 「 意 欲 の 好 循 環 1」 2 ② 主な実践内容 ア)言葉にする機会と工夫 ・あいさつと返事 本校は,生徒会を中心に朝のあいさつ運動を行っ たり,廊下でのあいさつを積極的に行ったりするな ど ,あ い さ つ を す る こ と に 力 を 入 れ て い る 。特 別 支 援 学 級 の 生 徒 も 朝 の あ い さ つ 運 動 ( 写 真 1) に 参 加 す る 写真 1 朝のあいさつ運動 が,その頻度は年数回で,通常の学級の生徒との交流が少ないこともあって, 自発的に あいさつをするという習慣が身についていない。 また,指示されたことを受け止めたかどうかを表現するために,大きな声で返事をし な け れ ば な ら な い 。し か し ,小 声 で あ っ た り ,う な づ く だ け で あ っ た り す る 生 徒 が 多 い 。 そこで,あいさつや返事がとても大切であることやあいさつや返事の仕方について繰 り返し伝えた。そして,大きな声で授業始まりと終わりのあいさつをすること,大きな 声で相手の目を見ながら返事をすることを「授業の約束」にした。 ・困った時のSOS 指示されたことを受け止められない,分からなくなった,トラブルが発生した,トイ レに行きたいなど,授業中に言いたくなることや言わなければならないことが生じるの は当たり前のことである。 ところが,そのことが言えずに作業が止まったり,ミスをそのままにして次のことを 行ったり,分からないために違ったことをしてしまうことがある。 トラブルやミスを最 小限にするには,SOSをタイムリーに言えるかどうかである。 そこで,教師が机間巡視をしながら,困っている生徒の側にたたずみ,その生徒が自 分から言えるような状況を作るようにした。教師がすぐ近くに寄る,教師が指で指す, 肩をたたくなど,生徒によって状況作りの仕方を工夫した。 ・願いや思い 自分の願いや思いを他者に伝えることの重要性が言われて久しい。それは,障害のあ る児童生徒にとっても同様である。しかし, 23 年 度 の 作 業 学 習 に は , そ の 視 点 が 欠 落 し て い た 。そ こ で , 「 言 葉 を 発 す る 」活 動 を 取 り 入 れ る よ う に し た 。教 師 に 発 す る だ け で なく,他の生徒の前で話す機会を多くした。また,様々な機会を活用して,言葉を発す る状況や定型の話し方を設定した。 例 え ば ,野 菜 作 り で は 1.5 メ ー ト ル 四 方 の 区 画 を 自 分 専 用 の 畑 に し , 「 マ イ 畑 」と し て 責任を持って野菜を育てることにした。何を植えるか,どんな作業が必要かを考え,み んなの前で発表した。また,考える過程で教師に「○○したいのですが,どうしたらい いですか」などの質問をしながら,自分の考えをま とめていった。 箱作りでは,自分が貼りたい箱や色紙を教師に言うようにした。前年度は,教師主導 で箱や色を決めていたが,自分で選択するようにした。 切 り 絵 で も ,準 備 段 階 で「 カ ッ タ ー を 貸 し て く だ さ い 」,切 り 絵 を 始 め る 際 に「 ど こ か ら 切 っ た ら い い で す か 」, 切 っ て い る 途 中 で は 「 先 生 刃 が 折 れ ま し た 」「 間 違 っ て 切 っ て しまいました」など,場面ごとに定型の言葉を使うように した。 3 イ)取り組みの段階の工夫と自己決定や選択する機会の取り入れ ・はじめはできること どのようなことでも,初めてのことや難しいと感じられることには,取り組もうとす る時に勇気が必要である。1 年生にとっては作業学習自体が初めてのことであったし, 2,3 年 生 に と っ て も 切 り 絵 は 初 め て 体 験 す る 作 業 種 目 で あ っ た 。特 に ,切 り 絵 は 今 ま で に使ったことのない道具を使わなければならず,生徒にとっても教師にとってもかなり ハードルが高い作業種目であった。 そこで,それぞれの作業種目の工程を分析し,失敗しないために「今ある力でできる こ と 」か ら 取 り 組 ま せ る よ う に し た 。具 体 的 に は ,野 菜 作 り で は 「 ポ ッ ト へ の 土 入 れ と 種 ま き 」「 苗 植 え 」 「水やり」 「 雑 草 取 り 」,切 り 絵 で は「 の り つ け 」「 広 い 面 の 紙 貼 り 」,切 り 絵 で は「 直 線 切 り 」で あ る 。こ れ ら の 内 容 で も ,必 要 に 応 じ て 補 助 具 を 用 意 し た 。例 えば,調理用の浅型バットと網を使ったのりつけ台 や,刃の向きを間違えないように筆記矯正器具を利 写真 2 デザインカッタ 用 し た デ ザ イ ン カ ッ タ ー (写 真 2 の 下 )で あ る 。 ー ・次はちょっとがんばってみよう 前 述 の 内 容 を 行 え る 生 徒 に は ,次 の 課 題 と し て「 少 しがんばればできる内容」に取り組ませるようにし た 。具 体 的 に は ,野 菜 作 り で は「 土 お こ し 」,箱 作 り で は 「 狭 い 面 の の り つ け 」「 ニ ス 塗 り 」, 切 り 絵 で は 「 模 様 」「 簡 単 な 絵 」 (写 真 3)な ど で あ る 。 これらは,スコップやはけ,デザインカッターの 特性を理解して作業しなければならない。言葉で説 写真 3 簡単な絵 明することはもちろん,教師が手本を示したり一緒に行ったりして,失敗しないよう配 慮した。 ・どっちにする マイ畑の場所をどこにするか,箱の色をどのようにするか,どの切り絵作品に取り組 むかなど,自分で選択したり決めたりする機会を意図的に設定した。また,生徒が選択 したり決めたりしたことを,尊重するようにした。 ・失敗してもいいんだよ 平 成 23 年 度 の 作 業 学 習 で 教 師 が 行 っ て い た 内 容 が ,箱 作 り の「 角 処 理 」だ っ た 。こ れ は 判 断 す る 力 や 巧緻性が求められる工程であり,失敗してしまう可 能 性 が 高 い と 考 え た か ら で あ る 。ま た ,切 り 絵 で は , よ り 細 か な 切 り 方 が 求 め ら れ る 作 品 (写 真 4)は ,失 敗 の可能性が高い。 写真 4 難しい絵 しかし,取り組もうとする気持ちを大切にし,挑戦させることにした。 4 ウ )「 意 欲 の 好 循 環 」 の 積 み 重 ね 上述のように, 「 言 葉 に す る 機 会 と 工 夫 」と「 取 り 組 み の 段 階 の 工 夫 と 自 己 決 定 や 選 択 す る 機 会 の 取 り 入 れ 」を 作 業 学 習 に 取 り 入 れ ,そ の 過 程 や 結 果 で 一 人 一 人 が 見 せ る 姿 を 評 価・ 賞賛するようにし,新たな課題への意欲付けを行った。 ③ 対象生徒と作業種目・学習の内容の年間計画 対象生徒 1 年 6 名(病弱 1 名,知的障害 2 名,自閉症情緒障害 3 名) 2 年 3 名(自閉症情緒障害 3 名) 3 年 1 名(自閉症情緒障害 1 名) 作業種目と 月 学習の内容 4 野菜作り 計 10 名 (教 職 員 は 4 名 ) 箱作り 野菜の学習 作り方の説明 「マイ畑」作り 下貼り 苗植え 下貼り 小学校へプレゼント 下貼り 6 水 や り ・雑 草 取 り 本貼り 7 野菜収穫 本 貼 り ・ニ ス 塗 り 8 じゃがいも収穫 ニス塗り 9 野菜収穫・販売 田子中発表会で販売 10 さつまいも収穫 デザインカッター 11 雑草取り 切り絵トレーニング 5 12,1 2,3 ④ 切り絵 切り絵について 切り絵トレーニング 土おこし 切り絵 平 成 24 年 度 の 成 果 ア)言葉にする機会と工夫 ・年度初めは大きな声を出せない,声をかけられてから返事をするなど,あいさつや返事 に消極的な姿が目立ったが,行い方やその大切さを理解するようになった。また,全員で 声を合わせたり友だちよりも大きな声を出したりすることの良さを感じられるようになり, 促されなくても行うようになってきた。 ・きっかけがあると教師に助けを求める生徒が増え,困った時にはすぐにSOSを出して いいんだという気持ちが芽生えてきたと感じられた。しかし,教師が近づかないとSOS を出せない生徒も多く,状況作りは年度末まで継続した。 ・育 て た 野 菜 苗 を 出 身 小 学 校 へ 贈 っ た 時 に ,ど の 生 徒 も 胸 を 張 り「 ぼ く が 育 て ま し た 」と 言って,小学生から「これは何」と質問されると,自信をもって答えた。 ・ 箱 作 り で は ,「 こ の 箱 ど う で す か 」,「 何 色 が い い 」,「 こ っ ち が い い ん じ ゃ な い 」 な ど と 教師に質問したり,級友同士で話したりする場面が増えた。 ・様 々 な 機 会 を 活 用 し て ,言 葉 を 発 す る 状 況 や 定 型 の 話 し 方 を 設 定 し た と こ ろ ,少 し ず つ で は あ る が 自 分 の 思 い を 話 す こ と が で き る よ う に な っ た 。し か し ,様 々 な 状 況 に 応 じ た 自 分なりの表現をすることは難しく,次年度への課題とされた。 イ)取り組みの段階の工夫と自己決定や選択する機会の取り入れ ・ 「 今 あ る 力 で で き る 」や「 補 助 具 の 活 用 」と い う 取 り 組 み を 通 し ,不 安 な く 作 業 学 習 に 取 5 り組む姿が見られた。これは以前から大切にしてきた視点だが,作業学習や初めての作業 種目に取り組む際に重要な視点だと再認識した。 ・ 「 次 は ち ょ っ と が ん ば っ て み よ う 」と い う 取 り 組 み を 通 し て ,ほ と ん ど の 生 徒 が ,個 々 の 作業工程や作品作りを自分の力で行えるようになり,作業に対する見通しと自信をもてる ようになった。この成功経験を通して,もう少し難しいことに挑戦してもいいという気持 ちをもてるようになった。 ・自分で決める,作品を選ぶという取り組みを増やしたところ,挑戦しようとする気持ち が高まり,かなり難しい作品に取り組む生徒が増えた。一方で,自分の技術では成功しな い作品に取り組む生徒もいて,失敗を繰り返してしまう結果となった。 ウ )「 意 欲 の 好 循 環 」 の 積 み 重 ね 言葉にする喜びやできた喜び,たとえ失敗しても挑戦した気持ちなど,自分が行ったこ とについて,教師からよい点を評価され,だんだんと自信が芽生えてきたと思われる。ま た,その経験を積み重ねてきた結果,より大きな声で発しよう,よりよく作ろう,また挑 戦しようというように,自分を高めていこうとする姿も見られるようになった。 ( 2 ) 平 成 25 年 度 の 実 践 平 成 24 年 度 の 取 り 組 み を 振 り 返 り ,あ い さ つ や 返 事 ,で き る こ と や ち ょ っ と で き る こ と に取り組むことは成果が確認でき,研究仮説の方向性は妥当と考えた。しかし,SOSや 思いの表現,新たなことへの挑戦については,次のような 課題が明らかになった。 ・教師が近づけばSOSを発するが,それまで待っている 生徒 ・決まった表現を,その場面でしか言えない生徒 ・失敗は当たり前だが,自分でできることからかけ離れている作品に取り組む 生徒 こ れ ら の 課 題 を 踏 ま え , 平 成 25 年 度 の 作 業 学 習 を 検 討 す る こ と に な っ た 。 平 成 25 年 度 の 特 別 支 援 学 級 は ,肢 体 不 自 由 学 級 が 加 わ っ た 。生 徒 の 増 加 と 個 々 の 課 題 の 多様化のため,作業学習の内容の検討も必要となった。 ① 実 践 に あ た っ て (「 意 欲 の 好 循 環 2」, 平 成 25 年 度 版 ) 平 成 24 年 度 を 踏 襲 し な が ら , 新 た な 課 題 を 解 決 す る 視 点 が 必 要 と 考 え た 。 そ れ は , ・教師が近くにいなくても思いを伝えるためのきっかけづくり ・定型の表現だけでなく,様々な表現を用いるための取り組み ・失敗を恐れずに挑戦して欲しいが,失敗ばかりでは自信につながらない。 自信をも てる作品作りをするための選択の仕方 で あ る 。 こ れ ら 「 き っ か け 」「 様 々 な 表 現 」「 選 択 の 仕 方 」 を 新 た な 視 点 と し て 取 り 入 れ , 図 2「 意 欲 の 好 循 環 2」 を 描 い た 。 6 選 択 や自 己 決 定 が やりとげた喜 びと 意欲 できる仕 組 み 周 りからの評 価 言 葉 にする機 様 々 な表 現 会 と工 夫 きっかけ 自 己 有 能 感 の醸 成 と意 欲 の高 まり 作業学習の 難 易 度 の高 い 基礎学習 課 題 への挑 戦 選 択 の仕 方 図 2 「 意 欲 の 好 循 環 2」 ② 主な実践内容 ア)言葉にする機会と工夫 ・あいさつと返事 あいさつと返事を大切にすることを継続した。また,それらに加え,報告についても その仕方を伝え,行うようにした。 あ い さ つ や 返 事 が 大 切 で あ る と い う こ と は , 教 師 か ら だ け で な く 2, 3 年 生 か ら 1 年 生へ伝えてもらうようにもした。 ・困った時のSOS【きっかけづくり】 SOSを言うきっかけがつかめない生徒がいること か ら ,「 S O S カ ー ド 」 (写 真 5)を 作 り , 全 員 に 配 っ た 。 使 う 必 要 が な い 生 徒 も い る が ,全 員 に 配 る こ と に よ っ て 「 誰 で も 使 っ て い い 」と い う 安 心 感 が 得 ら れ る と 考 え た からである。 ・願いや思い【様々な表現】 写真 5 SOSカード 表現するということは難しく,前年度は「定型の表現を特定の場面で言える」ことを 成長ととらえた。しかし,これから生きていく上で,いつも決まったパターンがあるわ けではない。そこで,定型の表現を大切にしながらも,教師が 様々な表現で投げかけな がら,言葉のやりとりを行うようにした。 また,他教科においても質問されたことに答える機会を多く設定し,大人の力を借り ずに自分で考えて表現するようにした。どう表現したらよいかが分からなくなった場合 は,SOSカードを使うようにしたり,自分から発するのを待つようにしたりした。 イ)取り組みの段階の工夫と自己決定や選択する機会の取り入れ ・はじめはできること&次はちょっとがんばってみよう 前年度の取り組みを踏襲し,1 年生に作業学習の流れを理解させようと考えた。 野菜 作りと箱作りの作業は行なえるようになったものの,4 名のうち 2 名は切り絵を続ける ことができなかった。できることを検討し,補助具を工夫するなどしたが,切り絵を行 7 うことが難しいと判断せざるを得なかった。そのため,年度途中から作業学習を行う教 室を 2 つに分け,新たな作業種目としてビーズ細工を取り入れた。 ・どれにする&失敗してもいいんだよ【選択の仕方】 失 敗 し て も い い と は 言 う も の の ,失 敗 続 き で は 自 信 を も て な く な っ て し ま う 。そ こ で , 取り組む作品に段階を設定し,その段階をクリアしたら次へ進むことができるという流 れにした。段階の設定は教師の主観によるが,各段階で選択できる作品の種類を 複数に することによって,生徒の取り組み意欲を維持しようと考えた。 ウ )「 意 欲 の 好 循 環 」 の 積 み 重 ね 平 成 24 年 度 同 様 ,一 人 一 人 が 見 せ る 姿 を 評 価・賞 賛 す る よ う に し ,新 た な 課 題 へ の 意 欲 付けを継続した。 ③ 対象生徒と作業種目・学習の内容の年間計画 対象生徒 1 年 4 名(肢体不自由 1 名,知的障害 1 名,自閉症情緒障害 2 名) 2 年 6 名(病弱 1 名,知的障害 2 名,自閉症情緒障害 3 名) 3 年 4 名( 知 的 障 害 1 名 ,自 閉 症 情 緒 障 害 3 名 ) 作業種目と 月 野 菜 作 り (全 員 ) 箱 作 り (全 員 ) 学習の内容 切 り 絵 (12 名 ) ビ ー ズ 細 工 (2 名 ) 4 野菜の学習 箱作り 芋畑作り 下貼り 苗植え 下貼り 小学校へプレゼント 本貼り 6 水 や り ・雑 草 取 り 本貼り 7 野菜収穫 本 貼 り ・ニ ス 塗 り 切り絵について 8 じゃがいも収穫 ニス塗り カッタートレーニング 9 収 穫 ・販 売 ・雑 草 取 り 田子中発表会で販売 切り絵 10 さつまいも収穫 11 雑草取り 5 切り絵 12,1 2,3 ④ 計 14 名 (教 職 員 は 5 名 ) 土おこし ビーズ細工 切り絵 ビーズ細工 切り絵 ビーズ細工 切り絵 平 成 25 年 度 の 成 果 ア)言葉にする機会と工夫 ・先輩があいさつや返事の大切さを伝えたところ,後輩たちは早くできるようになった。 ・教師が近くにいなくてもカードを掲げ,自分の困りごとを発言できるようになった。 ・少しずつだが自分なりの表現で発することができるようになってきた。しかし,自分の 思いを正しく伝える表現の仕方については,どこまでできればいいのかという基準が不明 瞭であり,今後も継続した取り組みが必要であると思われる。 イ)取り組みの段階の工夫と自己決定や選択する機会の取り入れ ・切り絵を行うことが難しいと判断した 2 名の生徒は,ビーズ細工で力を発揮し,たくさ んの作品を作ることができた。 8 ・取り組みの段階を設定することで失敗経験が少なくなった。 ・選択できる作品の種類を多くしたことで,十分ではないものの「したい」という気持ち を維持できた。それは,生徒たちが「この作品をクリアできれば,やりたい作品に取り組 める」という気持ちを持ち続けてくれているからだと考える。 ウ )「 意 欲 の 好 循 環 」 の 積 み 重 ね 言 葉 に す る こ と や 挑 戦 す る こ と の 大 切 さ に 気 づ き ,互 い に 言 葉 を 交 わ し た り 評 価 し た り , 競い合ったりする姿が多く見られるようになった。作業学習だけでなく,普段の生活でも 同様の成果が見られる。 意 欲 の 積 み 重 ね か ら ,集 中 力 や 持 続 力 は も ち ろ ん ,次 の 作 業 学 習 の 時 間 を 心 待 ち に す る , 授業変更で作業学習ができないと落胆する姿も見られるようになった。 5 成果と課題 平 成 23 年 度 の 取 り 組 み を 教 訓 に ,「 思 い や 疑 問 , 取 り 組 み た い こ と を 言 え , 失 敗 を 恐 れ ず 意 欲 を 持 っ て 取 り 組 も う と す る 生 徒 」を 育 て た い と 考 え ,平 成 24 年 度 か ら 作 業 学 習 に 取 り組んできた。この 2 年間の取り組みから得られた成果と課題についてまとめてみたい。 (1)成果 ア)言葉にする機会と工夫 ・あいさつや返事だけでなく,願いや思い,困ったことを言葉にすることの大切さに気 づき,ほとんどの生徒が大きな声で発言する,定型の言葉で発言するようになった。ま た ,平 成 24 年 度 は 教 師 が き っ か け を 作 っ て 言 葉 の や り と り を 行 っ た り ,自 分 か ら 発 す る のを待つようにしたりした。その結果,自分がしたいこと,したくないこと,どのよう にしたいのかなど,自分なりの表現で発言できるようになってきた。 ・返事や報告を忘れている後輩に対して,助言する先輩が見られるようになった。 ・状況作りやカードを使用した結果,作業学習だけでなくどの授業でも困った時には手 を 上 げ た り ,S O S カ ー ド を 掲 げ た り す る よ う に な っ た 。困 っ た 時 や 分 か ら な い 時 に は , 遠慮せずに声に出して良いと考えるようになってきたと思われる。 イ)取り組みの段階の工夫と自己決定や選択する機会の取り入れ ・選択や自己決定,失敗を恐れずに挑戦するといった視点を取り入れた作業学習を行っ た 。し か し ,失 敗 続 き で は 意 欲 が 高 ま ら な い 。そ こ で , 「 い ま あ る 力 で す る 」, 「少しがん ば っ て す る 」,「 失 敗 を 恐 れ ず に す る 」 と い う 段 階 や 選 択 の 仕 方 を 工 夫 し た 。 そ の 結 果 , 難しい作業工程や作品に取り組もうとする生徒が増えたことはもちろん,上手にできる ようにもなり,それぞれの工程を任せられるようになった。 ・選 択 す る ,決 定 す る こ と を 大 切 に し て き た 。そ の 結 果 ,自 分 の 取 り 組 み 作 品 を 大 切 に 扱おうとする気持ち,集中して取り組もうとする気持ちが高まってきた。 ・失敗しようとも挑戦する気持ちが大切だと繰り返し伝えてきた。その結果,作業学習 だけでなく,学校生活全般に積極的な姿が見られるようになった。 ・「 今 あ る 力 で で き る 」や「 補 助 具 の 活 用 」と い う 取 り 組 み を 通 し て ,不 安 な く 作 業 学 習 に取り組む姿が見られた。これは以前から大切にしてきた視点であるが,作業学習や初 9 めての作業種目に取り組む際に重要な視点だと再認識した。 ・ 「 次 は ち ょ っ と が ん ば っ て み よ う 」と い う 取 り 組 み を 通 し て ,ほ と ん ど の 生 徒 が 個 々 の 作業工程や作品作りを自分の力で行えるようになり,作業に対する見通しと自信をもて るようになった。この成功経験を通して,もう少し難しいことに挑戦してもいいという 気持ちをもてるようになった。 ウ )「 意 欲 の 好 循 環 」 の 積 み 重 ね 言葉にする喜びやできた喜び,たとえ失敗しても挑戦した気持ちなど,自分が行ったこ とについて,教師や級友からよい点を評価され,自信が芽生えてきた。また,その経験を 積み重ねてきた結果,より大きな声で発しよう,よりよく作ろう, また挑戦しようという ように,自分を高めていこうとする姿も見られるようになった。 (2)課題 ア)言葉にする機会と工夫 ・自分なりの言い方で言葉にしようとする生徒が増えてきている が,様々な場面で適切 な発言ができているわけではない。言葉は相手や状況に応じて使い分けなければならな い。相手の気持ちやその場の状況を把握することが難しい生徒が多 いため,作業学習と い う 限 定 さ れ た 場 か ら そ の 他 の 場 面 へ ,ど の よ う に 汎 化 し て い く か が 今 後 の 課 題 で あ る 。 イ)取り組みの段階の工夫と自己決定や選択する機会の取り入れ ・挑戦しようとする気持ちや積極性が高まり,作業学習を心待ちにする生徒も多くなっ た。意欲の高まりが感じられる一方,早く次の作品に取り組みたいという気持ちが強い ために失敗を繰り返してしまう生徒がいる。今行っている作品の完成まで,ていねいに 作業を進めていく力をつけていかなければならない。 6 今後の取り組み 生徒たちは,言葉の大切さを理解し,何でも積極的に発言しようとするようになった。 また,難しい作品に挑戦しようとする気持ちや集中力が高まるなど,積極性の高まりを確 認 で き た 。 そ れ 以 上 に ,「 意 欲 の 好 循 環 」 を 核 に す る こ と で , 作 業 学 習 を 心 待 ち に す る 姿 , 作品の完成を笑顔で報告する姿が数多く見られるようになったことが,私にとって一番の 喜びである。 解決しなければならない課題はあるものの,2 年間の取り組みから得られた成果は大き く,今後もこの視点を大切にしながら実践を続けていけたらと考えている。 参考文献・資料 「 特 別 支 援 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 」, 文 部 科 学 省 , 2009 「 平 成 2 6 年 度 版 仙 台 市 の 特 別 支 援 教 育 」 , 仙 台 市 教 育 委 員 会 編 , 2014 「特別支援教育 作 業 学 習 ハ ン ド ブ ッ ク 」 , 広 島 県 教 育 委 員 会 編 , 2011 10
© Copyright 2024 ExpyDoc