ミトコンドリアDNAを標識とした放流ヒラメの移動の解明

ミトコンドリアDNAを標識とした放流ヒラメの移動の解明
独立行政法人水産総合研究センター日本海区水産研究所
海区水産業研究部 沿岸資源研究室
[ね ら い ・ 目 的 ]
ヒラメの放流効果の評価のためには放流されたヒラメ種苗の移動を把握することが必要
で あ る 。 そ こ で , ミ ト コ ン ド リ ア D N A ( mtDNA) を 標 識 と し て 放 流 ヒ ラ メ の 移 動 の 実 態
に検討を加えた。
成 果 の 特 徴 : 標 本 の 採 集 は 平 成 12∼ 14年 度 に 日 本 海 沿 岸 12府 県 の 水 産 試 験 研 究 機 関 お よ
び種苗生産機関の協力により行われた。
① 漁 獲 さ れ た 放 流 ヒ ラ メ ( 無 眼 側 に 体 色 異 常 の あ る も の を 放 流 ヒ ラ メ と し た ) 1837個
体 を 分 析 し , 1412個 体 の 生 産 施 設 を 特 定 し た 。 分 析 し た 個 体 の 約 70%を 全 長 40cm以
下の未成魚が占めた。
② 放 流 ヒ ラ メ の な か に は 300km以 上 の 移 動 を し た と 考 え ら れ る 個 体 も あ っ た が , 多 く
は 放 流 さ れ た 海 域 の 近 辺 で 漁 獲 さ れ て い た 。( 図 1 )
③ 府 県 境 を 越 え て の 移 動 は 主 に 晩 秋 か ら 冬 に か け て 西 部 日 本 海 で は 全 長 40cm以 上 , 北
部 で は 35cm以 上 の も の に 認 め ら れ た 。( 図 2 , 3 )
④生産施設を特定できないものの割合は体色異常が軽微であるほど高く,何らかの理
由で無眼側の体色に異常をきたした天然魚を放流魚として計数していることが示唆
さ れ た 。( 図 4 )
[成 果 の 活 用 面 等 ]
ヒラメの放流効果の正確な評価が可能になる。
[具 体 的 デ ー タ ]
100%
他県産
自県産
80%
図1 海域A∼Jにおいて漁獲さ
れた放流ヒラメに自県産のものが
占める割合。
漁場が県境に近いA,D,およびG海
60%
域では他県で放流されたヒラメの割合
40%
が比較的高くなっている。なお,日栽
20%
協産および隣接県で種苗のやりとりの
あった場合についてはデータから除外
0%
A
B
C
D
E
F
海域
G
H
I
J
した。
100%
他県産
自県産
45-45
-40
-35
100%
80%
80%
60%
60%
40%
40%
20%
20%
0%
0%
3∼6月 7∼10月 11∼2月
3∼6月 7∼10月 11∼2月
図2 G海域において漁獲された放流ヒラ
メに自県産のものが占める割合の季節変化。
図3 G海域において漁獲された放流ヒラ
メ の 全 長 組 成 ( cm) の 季 節 変 化 。
3 月 か ら 10 月 に か け て は 全 長 35cm 以 下 の 前 年 放 流 群 の 漁 獲 の 増 加 に 伴 っ て 自 県 産 の ヒ ラ メ の 占 め る
割 合 が 高 く な っ た が , 11 ∼ 2 月 に は 他 府 県 で 放 流 さ れ た ヒ ラ メ の 占 め る 割 合 が 高 か っ た 。 今 回 調 査 し た
中ではG海域が最も顕著な季節変化を示した。
100%
未特定
特定
80%
60%
40%
20%
図4
体色
生産施設が
合の違い。
黒
化
斑
(3
点
0%
黒
未
化
満
(3
0% )
以
上
)
全
面
黒
化
尾
鰭
尾
黒
柄
化
部
巻
き
込
み
0%
無眼側体色異常のパターン
異常のパターンによる
特定されたヒラメの割
体色異常が軽微であるほど生産施設が特定されたヒラメの割合は低かった。生産施設が特定できなか
ったヒラメの塩基配列はほとんど個体ごとに異なっており,その多くは体色異常のある天然魚であるこ
とが示唆された。尾鰭黒化,尾柄部における有眼側色素の無眼側への巻き込みの程度や斑点のパターン
にはばらつきがあり,どのパターンであれば放流魚と判断してよいかの検討が急務である。