企画展からみえるもの

特集
vol.
35
季刊
2015
春
企画展から見えるもの
I N A X ラ イ ブ ミ ュ ー ジ ア ム は 、
01 [特集]
LIVE
東 日 本 大 震 災 の 復 興 を 支 援 し て い ま す。
企画展から見えるもの
RE PORT
06
開催報告
07
vol.
企画展 壁のパブリックアート
講演会 パブリックアートとしてのモザイク壁画
表紙写真
新常滑市民病院 エントランス壁画プロジェクト
SCHEDU LE
08
季刊
2015
春
まだまだ寒い日が続くなか、
ぽっかり訪れたぽかぽか陽
気の一日。重い上着を脱い
で、リラックスした様子で散
策を楽しむ来館者の姿が見
られました。 (2015.3.8)
新市民病院で、
いよいよ壁画(モザイクアート)施工
LIVE
35
企画展 雨と生きる住まい
関連ワークショップ わらぶき帽子を作ろう
撮影:加藤弘一
これからの催し
企画展 マカオのアズレージョ
̶ポルトガル生まれのタイルと石畳
常滑クラフトフェスタ2015
09
企画展 大地の赤̶ベンガラ異空間
ゴールデンウィーク特別イベント
みんなでシャボン玉を飛ばそう
常滑から ※
34
と こ な め の ガ ウ ディ た ち
特集
企画展から見えるもの
小
関
雅
裕
︵
も
の
づ
く
り
工
房
︶
く
こ
と
を
期
待
さ
せ
ま
す
。
他
の
地
区
で
も
拡
が
っ
て
い
市役所東
市役所西
未来絵の道
た
ち
も
作
っ
て
み
た
い
﹂
と
、
手
作
り
の
作
品
た
ち
。
﹁
私
味
違
う
、
ほ
の
ぼ
の
と
し
た
ト
が
創
作
す
る
作
品
と
は
一
デ
ザ
イ
ナ
ー
や
ア
ー
テ
ィ
ス
駅
常滑
手
作
り
モ
ザ
イ
ク
ア
ー
ト
が
、
常滑駅前
常滑駅西
郵便局
01
vol.35
N
警察署
ライブミュージアムがいつも心がけるのは、その名のとおり「ライブ」感。建物も、その感触を、その空間を、五感で感じることを大切にし
ているし、展示についてもできる限り本物にこだわり、うなずいたり、考えたり、わくわくしてほしいと思っています。そこで今回は、好評の
うちに終了した「土・どろんこ館」での企画展「雨と生きる住まい」の裏側をご紹介。多くの人が、職人が、一つひとつの展示に真剣にかか
わって作り上げました。その展示から見えてくるものは―。
市役所
目
を
楽
し
ま
せ
て
い
ま
す
。
ビ
ー
チ
へ
向
か
う
人
た
ち
の
大
型
商
業
施
設
、
り
ん
く
う
ポ
ッ
ト
と
し
て
、
市
役
所
や
ェ
16
点
が
、
新
し
い
名
所
ス
と
そ 活
の 動
成 し
果 て
の き
立 ま
体 し
オ た
ブ 。
ジ
ル
で
未
来
に
遺
し
、
繋
ご
う
ら
未
来
¦
を
モ
ザ
イ
ク
タ
イ
常
滑
の
﹁
大
切
な
も
の
﹂
¦
文
化
、
暮
ら
し
、
伝
統
か
ト
で
す
。
タ
イ
ル
を
愛
し
た
ガ
ウ
デ
ィ
の
よ
う
に
、
ワ
ー
ク
﹂
が
中
心
に
な
っ
た
手
作
り
の
プ
ロ
ジ
ェ
ク
よ
っ
て
ス
タ
ー
ト
し
た
﹁
と
こ
な
め
未
来
絵
ネ
ッ
ト
使
っ
て
楽
し
く
街
を
紹
介
し
よ
う
と
、
市
民
数
人
に
※ INAXが生まれ育った常滑のやきものや土に関わる人、風景、できごとなどを、INAXライブミュージアムのスタッフが伝えます。
め
未
来
絵
プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
﹂
。
﹁
や
き
も
の
素
材
﹂
を
て
い
た
常
滑
市
制
60
周
年
特
別
記
念
事
業
﹁
と
こ
な
大
人
た
ち
ま
で
、
多
く
の
市
民
の
参
加
で
進
め
ら
れ
昨
年
、
約
一
年
間
に
わ
た
っ
て
小
・
中
学
生
か
ら
見ると雨の日がだいたい3分
火を通して焼き物にな
は 水 を 得 て 形 と な り、
企画展の発想
土
る︱︱﹁火、水、土﹂はライブ
ミュージアムの、そして毎回
という発想は、早々に
ャワーで雨を降らせる
雨 音 も ラ イ ブ で。
展示室に
雨を降らせる
シ
転 換 し た。ま ず 水 量 が 違 う。
の企画展の根底にあるテーマ
だ。今回の題材は雨。
﹁日本の
1時間
ミリの雨でも、シャ
建築は、雨がデザインしたの
の1だ。さらに、シャワーは
その原点は草の屋根だ。日本
違う。シャワーと雨は似て非
滴では、降っている時の音も
粒 の 水 滴 だ っ た。﹁水 流 と 水
わら
の民家や神社に多く見られる
かやぶき
茅葺の、あの細い藁や茅がど
なるものでした﹂と、スタッフ
作用して、茎で編んだ屋根の
に降った雨粒は、表面張力も
質が水をはじくからだ。屋根
ラスに水を吹きつける専用ノ
久性を測るためにフロントガ
歩き、自動車のワイパーの耐
を降らせるため専門家を訪ね
の中斎。屋根に雨と同じ水滴
表面をコロコロコロと流れて
ズルを探し出した。
瓦屋根が雨を防いだ仕組みは
が 目 の 前 で 見 え た ら 楽 し い。
いく。﹁日本の一年間の天気を
つひとつ、問題をクリアして
湿気や臭いはどうするか。一
とま ぶき
展示室に実物大の屋根をつ
くろう。しかも職人がつくる
本物の屋根を。そして雨を降
の茅葺民家が残る集落。なか
捨茅を入れ、勾配を保ちながら
葺く技術が必要になる。
らそう。本物の雨を。それら
でも、中野さんの仕事場があ
物の中に入りにくく、薄く葺いて
も漏れにくいのが特徴。
は自ずと、何かを語ってくれ
展示室のサイズ、屋根に上る
る北村は、平成 5 年 に 国 の 重
外にくるので長持ちするが、重
ねていくと勾配がゆるくなり雨
が漏りやすい。それを防ぐため
るはずだ。
貴重な体験です。通常の仕事
職人の数などを想定して何度
要伝統的建造物群保存地区に
葺の2つの茅葺屋根。作業は
て葺く方法。太く丈夫な根元が
呼ばれ、万葉集にも詠われてい
る。細く柔らかい穂先が垂れ下
がって屋根を覆うので、雨が建
こう決まって、各担当者は
もあって、時間のやりくりは
ばる京都美山からやってきた
も書き直していただいて恐縮
指定された﹁美山かやぶきの
下地づくりから。太い竹を縦
逆葺 茅の穂先を下に向け 真葺 茅の根元を下に向け
どのようなものか
︱。
ない、屋根の上のそんな原理 降 ら せ た 水 を ど う す る か、
いく。普段は見ることができ
それは、植物の油分や繊維
なか さい
うして雨を防げるのか。
家屋で雨をしのぐのは屋根。 連続の水流だが、雨は一粒一
企画会議が始まった。
ではないか。
﹂そんな視点から、 ワーの水量のわずか100分
10
て重ねていく方法。
「苫葺」とも
走り出した。
に依頼した。
の1、会場で雨を降らす頻度 ﹁一 部 だ け れ ど 本 物 の 茅 葺
も同じくらいにしました﹂と、 屋根のフレームを自分の手で
土壁でできた土・どろんこ館
た い へ ん だ っ た で し ょ う が、
中斎のこだわり。いま思えば、 加工して組めるということは、
に雨を降らすのは無謀だとは
は、相当持って行きま
茅葺職人の技
かや ぶき
楽しさがあったと思います﹂。
モ ノ を つ く っ て い く 高 揚 感、
だれも考えなかったのだ。
画者の一人である編集
土台を組む
企
者 の 坂 井 基 樹 さ ん は、
建築家の安藤邦廣さんに土台
中野誠さん。伊勢神宮の式年
した﹂
と言うのは、はる
藤先生は茅葺木造住宅を何棟
遷宮にも携わった若き実力派
﹁茅
も設計している第一人者。﹁展
と屋根の設計を依頼した。安
示室の設計図なんてすぐ書い
しました﹂
。こうして、茅葺屋
ていただけると思いましたが、 の茅葺職人だ。美山は、多く
根2棟、瓦葺屋根1棟の設計
里﹂。﹁茅葺の魅力を広く知っ
ともに駆けつけた。
て も ら え る な ら﹂と、職 人 と
図が仕上がった。
設 計 図 を 受 け 取 っ た の は、
とう
板倉構法という木造の伝統構
法で住宅をつくる建築家の東 今回つくるのは、真葺と逆
海林修さん。材料の準備から
かい りん
組み立てまでを担当した。現
に、細い竹を横に渡し荒縄で
ていく。
固定したら、軒から茅をのせ
在、住宅の材料加工のほとん
ど は プ レ カ ッ ト︵
だが、今回はすべての部
用の道具を使って茅の先端を
材を手で加工する。東海林さ 気を使ったのは、仕上げ。専
んはあえて、若い一人の大工
ま ぶき
さか ぶき
土・どろんこ館の企画展
示室につくられた2つの
茅葺屋根。向かって左が
真葺、右が逆葺。施工過
程もDVDで見てもらう。
工
場
で
の
機
械
02
vol.35
vol.35
03
加
工
︶
ノズルの角度、水量ともに、日々微妙
な調整をした。
茅 ススキ、ヨシなどイネ科の
かや
多年草の総称。今回は、逆葺で
稲わら約 3 0 k g、真 葺でススキ
揃えた後、茅を刈り込んでい
く作業だ。
﹁やっぱり職人なん
でね。外で屋根を見るのと違
って、目の高さで見るでしょ。
そこはきれいにやりたいんで
す﹂
。約3日間をかけて、﹁いつ
も 通 り の 作 業﹂を 終 え た 中 野
さん。目の高さと同じ位置に、
迫力ある屋根が仕上がった。
は雨を降らせたことで
の展示のすごいところ
雨をしのぐ
茅葺屋根の知恵
﹁こ
すね﹂と中野さん。
﹁茅は雨粒
をポンと外に切る感じで出す。
次に残さんかったら、あかん
それを前提に、1枚1枚の瓦
る瓦が多く焼かれた。職人は、
今ほど高くなく、ねじれのあ
僕は、何が何でもこの技術を 昔は瓦を焼く技術の精度が
うやり方だ。
いと水が戻ってし
と思います﹂。その思いは、ま
日 本 の 原 風 景 を つ く る も の。
それには茅の葺き方が大事で、 人が育っている。﹁茅葺屋根は、 の 工 法﹂と は、下 地 に 土 を 使
まう。ここでは茅
すます強くなっている。
たった一本でも茅の向きが悪
葺屋根で雨がどう
ことで、うちが施工すること
持 つ 常 滑 の﹁屋 根 誠﹂。﹁昔 な
したのは、100年の歴史を
と構える瓦屋根を施工
示会場の入口に、堂々
った﹂と言うのは東海林さん。
いうちには経験がある職人が
かなというくらいですが、幸
わりました。僕も何軒やった
大震災以降、工法が大きく変
ていたのですが、阪神・淡路
は100パーセント土で葺い
整できますから。親父の世代
の勘で瓦の押し込み具合を調
ある瓦もなじみやすい。職人
た。
﹁下地が土なら、ねじれの
を見ながら組み合わせていっ
流 れ て い く か を、
ぜひ見てほしい﹂。 茅葺屋根の保存
瓦職人の見せ場
に な り ま し た﹂と 言 う の は、
屋根なしでは成立しない﹁建
中野さん。都会か
活動にも取り組む
4 代 目 の 竹 内 賀 規 さ ん。﹁昔
築﹂。雨 露 を し の い で こ そ、
展
山に戻り、紆余曲
ら生まれ育った美
の瓦屋根でも、瓦の若干の誤
り。がむしゃらに技術を学び、 がらの工法でやりたいという
折を経て地元の職人に弟子入
差をきれいに収め、職人とし
んの元では
てから、すでに
人の若い茅葺職
年。中野さ
代の職人として注目を集め
いました﹂
。今回の施工は、か
て納得のいく施工をした。
よし き
つての勘を蘇らせるいい機会
雨の音が響く展示会場。
らさらと屋根を流れる
ライブな展示が
問いかけるもの
さ
だ。﹁あ れ だ け 目 の 前 で 見 せ
屋根を見るなんてほとんどな
ては、手が届くような近さで
できたことです﹂。
それは本物の屋根だったから
ながら建築とは何かを考えた。
た。だ か ら 改 め て﹁展 示 を 見
暮らしは始まり、豊かになっ
にもなったと言う。
勝負﹂。図面を見て、届いた瓦
﹁瓦 職 人 は 葺 き 始 め る 前 が
の大きさを確認して、葺くイ
メージをつくる。しかし、や
きものという特性から、瓦に
訪れた人たちは、間近で大き
心地よい音とともに、会場を
も 数 ミ リ の 誤 差 は つ き も の。
収めたいという瓦職人の信条
葺き始めと終わりをぴったり
な屋根を見つめた。
るものなので、ちょっと緊張
いから、ちょっと哲学的にな
どう調整するかが腕の見せ所 ﹁建 築 を や っ て い る 者 と し
を全うする上で、この誤差を
し ま し た﹂と 竹 内 さ ん。展 示
﹁日本建築には、日本特有の
雨と湿気をしのぐ住まいの知
恵 が 詰 ま っ て い る。そ れ は、
日本人が長い歴史の中で獲得
してきたもの。これからの住
まいでも、考え方は活かせる
のでは﹂と言うのは坂井さん。
現代の建築と暮らし。そこに
古 く か ら の 日 本 の 知 恵 と、
欠けているものは何か ︱︱ 今
回の展示は、そんな問いを投
げかけたのではないか。
ライブな企画展示はいつも
スタッフの当初の思いを超え、
新しい発見と、
その向こうにあ
る貴重な風景を見せてくれる。
ぜ込んで練った葺き土を乗 せ、
その上に瓦を載せる。一般的な
切り妻屋根では、軒瓦、袖瓦を先
に葺いてから、桟瓦を下から上に
葺いていく。
11
茅葺屋根の裏側を間近で
見てもらうのも今回のポ
イント。
「少しでも美しく」
と、職 人も特に気を 使っ
たところだ。
瓦 下葺きの上に、土に藁を混
20
20
04
vol.35
vol.35
05
150kgのほか、稲わら、麻ガラ、
杉皮など計20 0kgを使用した。
防火性、耐雨性、耐久性
に優れ、江戸中期から都
市部で推奨された瓦葺。
展示は庶民への普及に大
きな役割を果たした「和
型」
。常滑市内にも多い。