植物育成論 - Biglobe

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by S.Ichihashi、 2014
植物育成論
第1章 必須元素と肥料
1 必須元素
植物は完全な生育をとげるために、土壌中、空気中から幾
つかの元素を吸収しなければならないが、生存に必要な炭水
化物、ビタミン、アミノ酸など各種の有機物は自分で作り出
すことが出来る。したがって、組織培養、細胞培養など特別
の場合、光合成機能を有しない腐生植物などを除けば、緑色
植物は有機物を外部から取り入れる必要はない。このような
栄養形態を独立栄養(autotrophism)という。独立栄養の場合
に、外部から取り入れなければならない無機元素は必須元素
と呼ばれ、どれが欠乏しても生育は全うされない。栽培条件
では、必須元素は作物によって吸収され、収穫物として土壌
中から持ち去られ(収奪)欠乏しやすいので、いくつかの元素
は肥料として供給される。これらのうち、多量に必要とする
ものを多量元素・多量要素(Major elements)、微量で足り
るものを微量元素・微量要素(Minor elements)と呼ぶ。何れ
が欠乏しても、元素の種類に特有の欠乏症状が発生し、生育
は抑制される。欠乏症状は、各元素の絶対量が不足する場合
のほか、他の元素が相対的に多いため現れる場合もある。こ
れは拮抗的吸収阻害によるもので、カリュウムが過剰の場合
には、同じ陽イオンであるマグネシュウム、カルシュウムの相対的濃度が低くなり、そのイオンの吸収が阻害され、欠乏症
が発生することがある。同様な関係はカルシュウムとマグネシュウム、他の陽イオンや微量元素の間にも認められる。また、
陰陽イオン間にも相互作用があり、吸収されやすいイオン(K+、Cl-など)は対になるイオンの吸収を相乗的に促進する。すな
わち、CaCl2の場合よりはKClの場合に、またK2SO4の場合よりもKClの場合に、カリイオン(K+)あるいは、塩素イオン(Cl-)の
吸収が促進される。
(1)
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1)必須元素の種類
水(H、O)
酸素(O)
二酸化炭素(C、O)
チッソ(N)
リン(P)
カリ(K)
カルシュウム(Ca)
マグネシュウム(Mg)
イオウ(S)
テツ(Fe)
自然に多量に存在するため肥料とは考えない
────┐ ───┐
”
”
│
│
施設栽培では肥料と考える場合もある(二酸化炭素施肥) │
│
─────────────┐ ────── ┐
│
│
肥料の3要素
│
│
│
│
肥料として最も重要
─┘ 肥料の4要素 │
│
│
3要素についで重要 ──┘
│10要素 │
露地栽培では肥料として施す必要は少ない
│
│必
”
”
│
│須
─────────────────────── ┘
│元
│素
マンガン(Mn)
───────────────────────────── ┐
│
アエン(Zn)
必要量は土中に含まれるため露地栽培では
│
│
ドゥ(Cu)
微量要素
│
│
モリブデン(Mo)
肥料として施す必要はない
│
│
ホーソ(B)
│
│
エンソ(Cl)
│
│
ニッケル(Ni)
───────────────────────────── ┘
─┘
植物体および土壌の元素含有率(対乾物;ppm )
─────────────────────────────────────
元素
植物体
土壌
元素
植物体
土壌
─────────────────────────────────────
C
*
454,000
20,000
Si
▽
200
330,000
O
*
410,000 490,000
Zn
+
160
50
H
*
55,000
Fe
+
140
38,000
N
*
30,000
1,000
B
+
50
10
Ca
*
18,000
13,700
Sr
26
300
K
*
14,000
14,000
Rb
20
100
S
*
3,400
700
Cu
+
14
20
Mg
*
3,200
5,000
Ni
+
2.7
40
P
*
2,300
650
Pb
2.7
10
Cl
+
2,000
100
V
1.6
100
Na
▽
1,200
6,300
Ti
1
5,000
Mn
+
630
850
Mo
+
0.9
2
Al
▽
550
71,000
─────────────────────────────────────
*;多量要素,+;微量要素,▽;有用元素。
2)各成分の役割
水(H2O);水は,最も多量に必要とされる成分であるが,日本では比較的利用しやすく,水の不足により植物の生育が制
限されることは少ない。水は光合成の基質であり水分欠乏状態では光合成は抑制され,生育は阻害される。さらに,生物の生
体反応はすべて液体状態の水を溶媒として行われ,光合成,呼吸などに必要な酵素反応はすべて水溶液の中で行われる。また,
肥料は水に溶け根から吸収され蒸散流として各器官へ輸送される。水欠乏の状態では,光合成が抑制される,肥料が吸収され
ない,体温が上昇(日焼け,萎れる)するなど,生育は抑制される。甚だしい場合は,下葉が黄化落葉し枯死に至る。土壌中の
水分が過剰な場合にも,通気性不良により根が酸欠状態となり根腐れすると,根で生産されるサイトカイニンの地上部への
供給が減少し葉の老化が促されるとともに水分吸収が抑制され,最終的には水分欠乏状態に陥る。水分の過不足何れの場合
も下葉が黄化落葉するのは,水ストレスによって発生するエチレンの生理作用である。
二酸化炭素(CO2 );緑色植物では,光エネルギーを化学エネルギーとして固定するための基質として必要である。二酸
化炭素濃度が低い場合には,光エネルギーが固定・利用できないため生育が劣る。現在の大気中の二酸化炭素濃度は,過去の
地球の歴史の中の変動幅(0.03%-0.3%)で最も低いレベルである。C3植物は高CO2 濃度に適応した植物であり,現在の二
酸化炭素濃度は不足の状態であり,濃度を高めると植物の生育は促進される(植物工場,CO2 施肥)。C3作物をCO 2 濃度
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330ppmと660ppmで栽培するとバイオマス量で40±7%,収量で26±9%増加する(内嶋,1992)。
酸素(O2 );炭水化物を分解して化学エネルギーを取り出すために必要である(呼吸)。酸素欠乏状態では嫌気的呼吸
(アルコール発酵)により一時的な炭水化物の分解は可能であるが,高等植物では長時間そのような条件に置かれるとアル
コールの害作用によって壊死する。空気中に20%存在し,茎葉などの器官では水没でもしない限り酸欠状態にさらされること
はないが,根は長雨が続いて湛水状態になった場合とか,過湿になつたような場合には容易に酸欠状態になり,酸欠による根
腐れを引き起こする。イネなど湛水状態で生育する植物の場合は,根に酸素を送る仕組みがあるため(蓮根の孔),植物体の
一部分が空気中に出ていれば窒息することはない。
窒素(NH4+,NO3-);窒素はもっとも多量に根から吸収されまた流亡しやすいため,最も欠乏しやすい成分であり,肥料とし
て重要な成分である。マメ科,カバノキ科,グミ科,ヤマモモ科,モクマオウ科,ドクウツギ科,ツツジ科,バラ科,ハマビシ科,
アカネ科,ソテツ科,マキ科,マツ科,ミズゴケ科などの植物では,共生菌が窒素固定能力をもち空気中の窒素を利用できるた
め,自然状態では窒素肥料を与えなくとも生育できる。これらの植物は,肥料分の少ない荒地でもよく生育する。しかし,栽
培する場合には肥料として与えた方が生育は促進される。
窒素は,硝酸態(NO3-)あるいはアンモニア態(NH4+)窒素として陰陽両イオンの形で存在し,陸生植物では主に硝酸体窒素と
して吸収される。吸収された窒素は,還元態となりタンパク質,アミノ酸,核酸塩基,葉緑素,種々の補酵素や植物ホルモン・
ビタミンなどの構成成分となる。欠乏すれば生育は抑制され下葉は枯れあがるが,根の生育はあまり阻害されない。根を収
穫する野菜などでは窒素肥料過多になると,茎葉などの生育は促進されるが根の生育は抑えられるので,窒素肥料は多用し
てはいけない。また生殖器官の発達も窒素の多用で抑制されるため,果菜類,花などの栽培においても窒素の多用は好ましく
ない。
リン(H2PO4-,HPO4--,PO4---);リンはリン酸イオン(主にH2PO4-)の形で吸収され,リン酸の形のままで生体内に存在する。
リンは核酸,核タンパク質,リン脂質として原形質の重要な構成成分となり,またATP およびNADHまたはNADPH として,生体内
におけるエネルギ―転位反応と酸化還元反応において基本的役割を果たしている。欠乏すると葉幅がせまくなるとともに暗
緑色となり,下葉が赤紫色を帯びてかれる。
カリウム(K+);N,Pとともに肥料の3要素であり,多量に吸収されるがその生理作用については不明な点が多い。土壌
中・植物体内では大部分がイオンの形(K+)で存在し,分裂組織,代謝活生の高い部分に集積する。カリゥムの生理的機能は,
原形質の構造元素ではなく,細胞内で物質代謝が正常に行われるための場(浸透圧,タンパク質の立体配座の安定化)を作る
ために役立つているものと考えられる。植物体内での移動性に富み,欠乏すると古い組織から若い組織に移動するため,古い
葉の周辺部が黄褐色となり欠乏症状を示す。欠乏すると炭水化物代謝や窒素代謝が乱れ,植物体内に低分子化合物の集積が
みられ。
イオウ(SO4--);イオウは硫酸イオン(SO4--)の形で吸収され体内で還元されて有機イオウ化合物となる。アミノ酸のう
ちシステイン,メチオニンなどの構成成分でありタンパク質の必須成分である。また,ビタミンB群に属するチアミン,ビオ
チンなどや,その他補酵素,酵素の活性基となり,重要な構成成分でもある。イオウが欠乏すると,タンパク質合成が低下する
ため,窒素欠乏と同様な症状を呈する。天然供給量が多いため施肥を行わなくと
も欠乏症は見られない。過剰に与えると窒素欠乏所が発生する。
カルシュウム(Ca++);他の元素と異なり,植物体内では難移動性のため古い
組織での含量が多い。生理的機能としては,酵素の活性化,細胞壁中のペクチン
酸の成分となり,機械的強度に関係すると考えられている。また,液胞内にシュ
ウサン塩あるいは炭酸塩の結晶として集積するが,その生理的意味は不明であ
る。欠乏症は,欠乏の起こった時点の若い組織(新葉など)にネクロシス(褐色
あるいは黒色に変化し細胞組織が崩壊する,トマトの尻腐れ,白菜の心腐れな
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ど)としてあらわれる。症状が病気の場合に似るため間違えやすいが,若い組織にしか発生しないこと,周りに伝染しないこ
と,殺菌剤の散布は効果がないことで区別出来る。
露地栽培の場合は,整地・地こしらえの段階で畑前面に石灰を施すため,肥料として施す必要はないが,鉢栽培などでカル
シュウムの含まれない肥料(露地栽培用)を多用すると,欠乏症が発生する。酸性土壌,ピートなど酸性用土ではカルシュウ
ムが欠乏しているため,植え付ける前に水酸化カルシュウム(消石灰)で酸度を矯正しておく。特にナス,ピーマン,エンド
ウ,ホウレンソウ,レタス,インゲンなど,また石灰岩地帯原生の植物(パフィオぺデイラムなど)はカルシュウムを好み耐酸
性度が劣るため,植え付け前に用土のpHを十分に矯正する。ただし水酸化カルシュウムなどアルカリ性物質とアンモニア態
窒素を含む肥料が混ざるとアンモニアが発生し,植物に害を及ぼすこと,また有効成分が揮散するため,事前に時間的余裕を
もってpHは矯正しておく。カルシュウム施用は病害対策にも有効で,消石灰,石灰窒素などはそれ自体殺菌効果を持つほか,
高カルシュウム条件では多くの病害の発生が抑制される(山崎,1995)。
マグネシュウム(Mg++);葉緑素の構成成分となるとともに,RNA,タンパク質の単位粒子の結合,各種酵素の活性剤,色
素類やリボゾームの安定化に作用する。欠乏すると葉緑素の合成が阻害され,クロロシス(緑色の白化あるいは黄化症状)
を呈する。植物体内では移行しやすく,不足すると古い葉の葉肉が黄化し葉脈
は緑色をのこす。
鉄(Fe++,Fe+++);酵素類や電子伝達体の活性基。欠乏すると葉の葉脈間が黄
化してクロロシスを呈する。日本の土壌では欠乏することはないが,水酸基濃
度が上昇した場合(pHが上昇,アルカリ性になった場合)には鉄イオンが不溶
性の水酸化鉄となるため鉄欠乏となる。また養液栽培でも,キレート鉄を用い
ない場合には鉄が不溶化しやすく鉄欠乏が発生する。
マンガン(Mn++);光合成,カルボン酸代謝に関係。初期の症状は鉄欠乏に
似るが,黄化部分は壊死を伴う。
ホウ素(BO3---);糖の移動に関係。若い組織がもろくなって壊死する。
銅(Cu++,Cu+);酵素類(ポリフェノール酸化酵素,アミン酸化酵素)の構成成分。光合成に関係。生育が劣り,柔らかな感
じとなる。
アエン(Zn++);炭酸脱水素酵素の構成成分。葉が黄化して生育が劣る。
モリブデン(MoO4--);硝酸還元酵素(ニトロゲナーゼ)の構成成分。欠乏すると硝酸態窒素の集積が起き,古い葉の葉脈間
にクロロシスを生じ葉が巻き込む。
塩素(Cl-);光合成に関係していると考えられる。葉が萎れて生育が不良となる。自然条件下で必要量は十分存在するた
め,欠乏することはない。
ニッケル(Ni++) ;ウレアーゼは活性中心にニッケルを持つ蛋白質であり,尿素を利用するためには必要な元素である。
有用元素;すべての植物に必要であるとは証明されていないが,特定の植物の生育を促進する元素がいくつか知られてい
る。ヨウ素(I)はエンドウ,トマトの無菌培養された根の生育速度を促進する。コバルト(Co)はビタミンB12 の構成成分
であり,このビタミンを生育に必要とする植物はコバルト要求性をもつ。また,マメ科植物,非マメ科植物が,共生的窒素固定
に依存しているときは要求性をもつことがわかつている。ナトリュウム(Na)も塩性沼沢植物にとつては必須である。また,
アルミニュウムは茶樹の生育を促進し,ケイ酸(Si)はイネ,キュウリの病害抵抗性を増し生育に好ましい影響を及ぼす(山
崎,1995)。
2 肥料
作物は正常に生育するため,必要量の必須元素を吸収しなければならない。自然条件下では,生育は最も供給量の少ない必
須元素によって制限される(最小律)。自然条件では収穫物の収奪がないため,自然供給によつて生態的バランスがとれ,施
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肥しなくとも植物は生育する。しかし
畑では,収穫物を収奪しそこにあった
必須元素を持ち去るため,土壌中の必
須元素は欠乏しやすい。これらのうち
特に欠乏しやすい元素は肥料として
補給しなければ,作物は正常に生育で
きない。必須元素は欠乏しやすさの程
度によって3要素,4要素,10要素,微
量要素に分けられる。
1)肥料の種類
作物の生育に必要な成分が,吸収可
能な形(可吸態)あるいは可吸態に変
化出来る形で含まれ,作物にとつて有
害でないものが肥料として利用でき
肥料の種類と有効成分含量(%)
種類
N
P2O5
K2O
CaO
MgO その他(SiO2 MnO B2O3 など)
単肥
硫
安
石灰窒素
尿
素
硝
安
過リン酸石灰
熔性リン肥
硫酸カリ
塩化カリ
石
灰
苦土石灰
複合肥料
各種化成肥料
各種液体肥料
マガンプK
ハイポネックス
有機質肥料
堆
肥
鶏
糞
菜種油粕
米 ヌ カ
ニシン 粕
イワシ 粕
骨
粉
草 木 灰
20
21
45
34
50-60
15
20
47.5
60.0
70
45
+
+
4
6.5
+
+
40
6
+
+
5
19
0.5
0.25
2.0
2.0
6.72-3.77
3.39-1.30
2.96-1.25
5.49-2.65
11.78-5.99 7.80-3.08
9.26-6.93
8.34-3.67
4.0
22.0
1.20
+-
+-
+
20
+-
+-
15
+
+-
+
0.50
1.05
1.62-0.81
2.35-1.11
0.55-0.45
5.50
27.0
19.0
る。硝酸とかアンモニア水は有効成分
を高濃度に含むが,有害であるので肥
料とは言わないが,中和すれば肥料と
なる。また大気中の4/5は窒素である
が植物はこれを直接利用できないた
め,肥料とは言はない。肥料は色々な
観点から分類され様々な呼び方がさ
肥料成分含量の表示法は,例えば,硫安(NH4)2SO4の分子量は132 でありそのうちNは28でありN含量は28/132=21%
である。肥料の硫安では,不純物が含まれるためN含量は20% 程度となる。N以外の成分は,酸化物の含量で表示さ
れる。これは分析法・表示法が法律で定められ,分析結果が酸化物の形態で表示されるためである。たとえば,塩化
カリKClの分子量は74.6(39.1+35.5)であり,Kの含量は39.1/74.6=52.4%であるが,保証成分はK2O(39.1x2+16=94.2)
に 変 化 し た 場 合の 含 量 と して 表 示 さ れる 。 39.1g の K は 47.1g の K2O に相 当 す る た め ,KClの 保 証 成 分含 量 は
47.1/74.6=631%となり,酸素ぶんが上乗せされた値になる。また,硝酸カリ(KNO3)の分子量は101.1であり,そのうちK
の含量は39.1/101.1=38.7%であるが,保証成分はK2Oの含量として表示される。39.1gのKは47.1gのK2Oに相当するた
め,KNO3の保証成分含量は47.1/101.1=46.6%となる。化合物の分子式から有効成分含量を計算する場合は,この点に
注意しないと市販肥料との比較はできない。
窒素以外の成分は,これらの場合と同様に酸化物にの含量が保証表に表示される。したがって,保証表の成分表示
がN:P:K=10:10:10の場合は,Nが10%,P2O5が10%,K2O が10% 含まれている。 肥料の成分含量は,N,P2O5,K2O,CaO,MgOな
ど肥料100g中の酸化物(窒素は例外)の含量(%)が表示されている。
れる。
法律的分類(特殊肥料,普通肥料,家庭園芸用肥料)
肥料取締法では,肥料は特殊肥料と普通肥料に大別される。特殊肥
料は米糠,油粕,堆肥などの肥料で,その価値が必ずしも有効成分含量に依存しないもので,成分の保証なしでの販売が許さ
れている。普通肥料は特殊肥料以外のもので,販売に際して保証成分量や正味重量を記載した保証表の添付が法律的に義務
づけられている。保障表にはN-P2O5-K2Oの肥料100g中に含まれるg数(%)が表示されている。この表示法は分析法に基づくもの
で,肥料に含まれる各元素の存在形態,植物が吸収する形態を示すものでは
ない。普通肥料のうち家庭園芸専用と表示し正味重量が10kg以下で販売す
るものは,保証成分量,保証表の記載事項の規制が緩和されており,家庭園
芸用肥料と言う。
製法・原料による分類(化成肥料,有機質肥料) 肥料ないしは肥料原料
に化学的操作を加えて製造されるもの,あるいはそれを配合したものを化
成肥料という。有機質肥料は魚粕,骨粉,油粕などの動植物由来の普通肥料
で,生育に必要な多くの成分を含み,遅効性である。有効成分濃度は原材料
によって一定しないが通常低濃度で,微生物に分解されて少しずつ可吸態
となり吸収されるため,肥効は長続きし濃度障害は出にくい。
成分数による分類(単肥,複合肥料,総合肥料)
有効成分の種類が比較
的少なく,高濃度に単一あるいは少数の有効成分を含む化学肥料を(硫酸ア
ンモニュウム=硫安,硝酸アンモニュウム=硝安など)を単肥という。速効
性であるが,過剰に与えた場合に濃度障害があり肥効は長続きしない。肥料を配合したもの,あるいは原材料に由来しもとも
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と複数の有効成分を含む化成肥料を複合不良という。複合肥料のうちほとんどすべての必須元素を含むものを総合肥料とい
う。
効き方による分類(速効性,遅効性肥料)
化成肥料,液肥など主成分が無機塩類のものは,初めから水に溶けているある
いは溶けやすいため,植物には吸収されやすく,肥効はすぐにあらわれる。一方,有機質肥料は肥料成分が高分子の有機体と
して含まれるため,微生物によって分解されたのち吸収されるため,効果があらわれるまでに時間を要する。化成肥料でも,
樹脂コーティングなどによって肥効の時期を調節し,遅効性にしたものも利用される。
その他
主体となる有効成分の種類による分類(窒素肥料,カリ肥料,リン酸肥料など),性状による分類(粒状,粉状,液
肥)などがある。
レポート
NH4NO3を1gとKH2PO4を1g混ぜ合わせたものの保障成分量表示(N:P2O5:K2O=□: □: □)はどうなるか。それ
ぞれの元素の原子量はN:14,P:31,K:39,O:16,H:1として計算せよ。レポートの作成は、ワードでA4設定に,学籍番号,氏
名,計算方法と解答(N:P2O5:K2O=□: □: □)を記載しワードファイルをメールに添付して提出。ファイル名、メールの
件名は学籍番号氏名
提出期限
提出先
例
2090000市橋正一
次々週欠曜日24:00
[email protected]
評価の観点 指示がまもられているかどうか。提出期限は守られているか。
メールが送れたか否かの確認をしたい場合は、メールのツールで開封確認メッセージの要求にチエックをつける。
NNH4NO3の分子量は,14x2+1x4+16x3=80 ,したがってNH4NO380グラム中28グラムの窒素が含まれ,NH4NO3 1グラム中に
は1x28/80=0.35グラム含まれる。したがって,KH2PO4を1gと混
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2)肥料のきき方と与え方
(1)肥料成分のパランスと最小律
肥料として根から吸収される元素は,イオンとして水
に溶けた状態で吸収される。これらのうちの特定の元素
が欠乏すればその元素に特徴的な欠乏症が発生し,過剰
であればその元素に特徴的な過剰症が発生する。これら
の生理障害は,欠乏元素を施用するか過剰の元素を取り
除くことでのみ回復できる。欠乏症状は,各元素の絶対
量が不足する場合のほか,他の元素が相対的に多いため
表れる場合もある。これは拮抗的吸収阻害と呼ばれる現
象で,カリュウムが過剰の場合には同じ陽イオンであるマグネシュウム,カルシュウムの吸収が相対的に阻害され,欠乏症が
発生する。同様な関係は陽イオン間(NH4+,K+,Ca2+,Mg2+,Na+)だけでなく,陰イオン間(NO3-,SO4-- ,H2PO4-, Cl-)や微量元素の間に
も認められる。したがって,施肥では各成分が適当なバランスで含まれていることが重要である。一つの元素が足りなけれ
ば,他の元素がいくらあっても,生育は最小の元素の利用によって規定される(最小律)。
(2)きき方
肥料は水に溶けた状態で根から植物に吸収される。したがって水不足の場合は肥料の吸収も劣る。有機質肥料の窒素成分
は,蛋白質・アミノ酸などの有機態で含まれ,そのままでは植物に吸収されない。まず,土壌中で徐々にアンモニア化成菌に
よってアンモニア態窒素に分解される。その後,硝酸化成菌によって硝酸態窒素に分解され,作物に吸収される。一方,化学
肥料のうち,硝酸態窒素を含むものでは,直ちに植物に吸収されるため,肥効の現れるまでの時間に違いがある(遅効性―速
効性)。化学肥料のうち,アンモニア態窒素を含むものでは,硝酸態窒素に分解されてから吸収されるため,有機態窒素より
は肥効は早く現れるが,硝酸態窒素よりは遅れる。イネなどはアンモニア態のままでも良く吸収する。このように,分解され
てから植物に利用されるものでは,土壌微生物が存在しない用土(砂,ピート,バーミキュライトなど)では完全に栄養化で
きず,効果が劣る。また,温度が低い冬季なども微生物活性が低く,肥効が劣る。
リン酸は,不溶性の化合物を作りやすいため,土壌中では不溶化し易く移動しにくい。したがって,作物に吸収される以上
に多量に施す必要があり,追肥として与えても効果は少ない。酸性条件では僅かであるが溶け,徐々に植物に吸収される。日
本は酸性土壌が多く,人骨は残りにくい。カリは,水にとけやすく,不溶性化合物を作りにくいため,土壌中で移動しやすく速
効性であるが,雨の多い場合,頻繁に水などを与えた場合には溶脱しやすい。
有機質肥料; 微生物によって分解(腐敗)されたのち吸収されるため肥効が遅いので,予め施肥を行う元肥などに適し,直
ぐに肥効を期待する追肥には適さない。追肥の場合は,早めに施す必要がある。
化成肥料; 肥効が早いので,追
露地栽培における施肥量
施肥量(N-P-K-Ca kg/a)
元
肥
追 肥
回数
施肥量合計
しないので,肥切れになりやす
葉 菜 類
1.5-1.5-1.5
+
堆肥 0.5-0 -0.6 x2
2.5-1.5-2.7
い。現在では樹脂によるコーテ 根 菜 類
0.3-0.7-1.5
+
堆肥 0.3-0 -0
x4
1.5-0.7-1.5
小型葉菜類
0.4-0.7-0.4
+
堆肥 0.4-0 -0
x3
1.6-0.7-0.7
ィングなどによって遅効性にし
ト マ ト
0.8-1.5-1.0-8.5
+
堆肥 0.2-0 -0.5 x4
1.6-1.5-3.0
たもの(肥効調節型肥料;IB化 ナ
ス
0.6-1.2-2.4
+
堆肥 0.5-0 -0.2 x5
3.1-1.2-3.4
ス イ カ
0.2-1.5-0.5-1.2
+
堆肥 0.3-0 -0.2 x4
1.4-1.5-1.3
成,プロミクス,エードボール,
キンギョソウ
1.6-1.8-1.9
0.8-0.9-1.4 x2
3.2-3.6-4.7
ロングなど)もよく利用される。 グラジオラス
1.6-1.8-1.9
1.6-1.8-1.9
ストック
2.4-2.2-2.2
1.2-1.1-1.1 x1
3.6-3.3-3.3
液肥;最も速効性であるが,肥
ダ リ ア
堆肥 0.8-0.8-0.8 x2
1.6-1.6-1.6
効は最も持続しにくいので,薄
堆肥は250kg/a 施用。リン酸は追肥では効きにくいため元肥を主体に施す。
肥に適する。逆に,肥効が長続き
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いものを潅水とともに頻繁に与
鉢栽培の元肥
える。追肥としての効果は速い。
持続性化学肥料; 長期間にわ
たって肥効は継続するが,肥料か
ら一時に供給される量は少ない。
化成肥料 (g)
マガンプK(g)
生油粕
(cc)
完熟油粕 (cc)
作物によっては肥料不足となる
場合があり,その時は他の肥料と
中肥
小肥
2
6
5
8
1
3
3
5
0.5
2
2
3
- 4
- 8
- 10
- 15
ハイドランジャ
ポットマム
ゼラニューム
草花
組み合わせて施す。(前項化成肥
料参照)
多肥
- 4
- 5
- 5
- 10
シクラメン
クンシラン
サツキ
ウメ
-
1
3
4
5
アナナス
オモト
ツバキ
ラン
5号鉢の場合。どれか1種類を用いる。
(3)与え方
鉢栽培の液肥による追肥
草花の種類
潅水中の液肥濃度
作物の生育に必要な肥料は,作
多肥
0.7%
144倍
ゼラニューム,ペラルゴニューム,ポットマム,ポインセチア
ハイドランジャ,セントポーリア,ラナンキュラス
中肥
0.5%
200倍
ブーゲンビレア,アサガオ,ボタン,バラ,ウメ,アマリリス
チューリップ,キンセンカ,パンジー,ホクシャ,ゴムノキ
グロキシニア,シクラメン,クンシラン,アザレア,サツキ
小肥
0.1%
1000倍
ヒメシャクナゲ,ツバキ,サザンカ,カルミア,カンパニュラ
サギソウ,オモト,イッサイザクロ,アナナス,カトレア
デンドロビュウム,ファレノプシス
物の大きさと生育速度によって
変化する。吸収量は,苗のうちは
少なく生育するにつれて増加し,
生育が完了すると減少する。理想
的な施肥方法は,生育速度・吸収
量に見合った量が供給されるこ
とであり,元肥と追肥を組み合わ
せるか鉢栽培では潅水を兼ねて
液肥を施すことによって肥培管
理する。
肥料の混合;肥料は配合してもよい組み合わせと混ぜ合わせてはいけないものがある。アンモニア態窒素を含む肥料
(硫安,ケイフンなど)とアルカリ性肥料(石灰窒素,石灰,草木灰)は混合してはいけない。この組み合わせでは,有効成
分のアンモニアが気体として空気中に揮散し,肥効が劣る。過リン酸石灰とアルカリ性の肥料の組み合わせでは,リン酸が
難溶解性となる。過リン酸石灰は遊離酸を含むため,硝酸態窒素を含んだ肥料(硝安など)を混合すると硝酸が揮散し,有
機質肥料を混合すると硝酸態窒素が還元されて窒素ガスとなつて揮散する。
a) 露地栽培
伝統的方法(元肥+追肥)
元肥; 直接播種するとき,苗を植えるときは,その前に元肥として施肥する。短期間に生育を完了するものは速効性のも
のを,長期間のものは速効性と遅効性のもの(堆肥等)を組み合わせて与える。畝を作る前に,地面全体に肥料を撒き,耕土
全体に肥料を混ぜ合わせる「全層施肥」,畝の中心に溝をほり,そこに施肥して土を薄くかけ,その上に播種あるいは定植す
る,「植え溝肥」などがある。りん酸肥料は土中を移動しにくいため,作付け前に全層に施肥しておく。最近は,マルチ栽培
が一般的になってきているため,元肥主体になっている。
追肥; 元肥の後に施す。速効性のものを主に,生育期間に合わせて,何回かに別けて施す。株の脇に浅い溝をつけ,そこに
施肥し土をかける「そば肥」,株の根元に肥料を置く「おき肥」,尿素などを薄く水に溶かし,葉の上から散布する「葉面散
布」などがある。
最近の方法;
栽培期間に合わせて肥効調節型肥料を最初に施用する。マルチ栽培では追肥を行うことが困難なこと,また
省力的な栽培が可能なため,肥効調節型肥料の使用が増加している。また必要以上に施肥するため、環境汚染の原因になっ
ている。大型の果菜類では株ごとにチューブを配管し,潅水を兼ね液肥を必要量与える養液土耕法も普及してきている。
b) 鉢栽培
露地栽培では,肥料成分の自然供給(0.4 - 1.5 kg/10a/年)があるほか,根が養分を求めて伸長する。しかし,鉢栽培では
これらが制限されるため,施肥管理には格別の注意が必要である。元肥と追肥によることは露地栽培と同様であるが,きめ細
かい管理を行うには,追肥は液肥によるのが望ましい。
元肥;持続性の化成肥料あるいは油粕などを鉢用土に予め混合して用いる。混合量は作物の肥料要求度により,種類によっ
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て異なる。
追肥; 鉢栽培では,根域が限られるため,少しの肥料でも局部的に高濃度となり,濃度障害を受けやすい。また,毎日の潅水
によって流亡し,欠乏しやすいため,遅効性・持続性肥料によるか,潅水を兼ねて低濃度の液肥を毎日施すのが好ましい。追
肥の時期は,気温,潅水量・回数によって異なるが,化成肥料では1ー3か月,有機質肥料では1ー4か月,持続性肥料では7
ー12か月に1回である。
3 養液栽培
植物は,必須元素が適当な方法で供給されれば,土壌がなくても生育出来る。土壌は作物の生育に必要不可欠のものではな
く,その緩衝作用,養水分供給能力など,作物を育てる場合には好都合な特性をもち,栽培管理を容易にする。しかし,その特
性が逆に根の環境条件の完全な制御を不可能にする。一方必須元素を水に溶かし作物に養分を供給する養液栽培では,根の
生育条件を最高の状態に管理することが可能で,作物を最高の状態で生育させることが出来る。
養液栽培では,施設設備費を要し養分管理は複雑であるが,潅水施肥は自動化が可能である。また,土壌を用いないため
清潔な野菜の栽培が可能であり,連作障害,塩類集積など土壌に起因する問題がないため,連続して同種の作物を同じ場所で
栽培することが出来る。養液栽培には以下のような栽培方がある。
れき(砂)耕栽培;第2次大戦後1946年米軍が生鮮野菜の供給を目的に,調布と大津ではじめたのが日本での養液栽培の
最初である。日本での営利的養液栽培は施設栽培の普及後,1960年代の中頃からである。れき耕栽培では,土の代わりにレキ
を用いるため,連作障害などの問題点は解決されず,現在では水耕栽培へと発展している。
水耕栽培;れき耕栽培ではれきによる緩衝作用のため培養液管理が緩和されるが,水耕栽培では培養液の管理は的確に行
う必要がある。また根は固定されないため支持法も工夫しなければならない。水耕栽培の方法は,養分と酸素の供給方法の
違いにより,種々の装置が工夫されている。
養液土耕栽培;畑に植わった作物の根元に直接培養液を施用する栽培方法で,灌水と施肥を同時に行う。植物に吸収され
るだけの肥料と水を供給すれば,環境に易しい省資源的な栽培となる。養液栽培と土耕栽培が発展的に融合したものである。
1)培養液
培養液に求められる特性は,作物に必要な元素が必要量溶解していることである。特定の成分が欠乏すれば,その成分を追
加すればよい。しかし,その都度分析してその成分を追加することは非常に厄介である。作物の種類によって好適な培養液
の組成と濃度は異なるが,それぞれの種類では好適な組成は栽培期間を通じてほとんどかわらない。従って,各イオンの組成
を作物が吸収する比率に等しい組成とすれば,栽培期間を通じて同じ組成の培養液を追加すれば,各要素は過不足なく,作物
は良好に生育する。このような培養液は均衡培養液(下表)と言われ,電気伝導度(Electric
Conductivity)を測定し,E
Cが一定になるように培養液を調整すればよい。
2)培養装置
装置に求められる最低限の条件は,根に生育に必要な元素が供給出来ること,植物体を保持できることである。現在,養液
栽培に用いられる装置は,根への酸素・養分の供給方式,作物の根元を支える方式により多数の装置が開発されている。
土壌のかわりに他の固形物に根をからませて管理する方式は,レキ耕栽培,砂耕,クン炭耕,シートカルチャー,NFT
(Nutrient Film Technique),ロックウール栽培へと発達した。
培地を用いずに根は水中に発達させる方式は,養液強制循環水耕,噴霧水耕,M式水耕へと発達した。いずれも培地やタン
ク,給配液関連の設備が簡易化される傾向にある。NFT,ロックウール栽培など酸素を自然供給に依存する方法では,培養
装置に求められる機能は水と肥料の自動供給であり,鉢栽培における自動潅水装置に求められる機能と基本的には同じもの
である。また最近は,畑に直接培養液を点滴潅水し,施肥量と潅水量を節約する養液土耕法も行われている。この方法では施
肥潅水量が大幅に削減でき,環境汚染も少ない。
栽培水槽;初期の養液栽培では,コンクリート製の大型の培養液貯蔵槽と栽培槽が用いられたが,貯液槽は省略され栽培槽
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も発泡スチロールとビニールフィルムによる組み立て方式になつてきている。
植物体の固定;固形培地を用いる場合は或る程度根による支持効果が期待できる。小型の野菜ではとくに支持する必要が
ないが,大型の果菜類では通常の栽培の場合と同様に,紐か支柱による誘引あるいは垂らして栽培するなどの工夫が必要で
ある。固形培地を用いない場合は,植物体による自立効果は期待できないため他の支持方法が必要となる。栽培槽の上ぶた
に穴をあけウレタンなどで固定するか,育苗鉢ごと穴に
挿入する,上ぶたのかわりに網目のトレイをのせてその
なかにレキなどを入れて,定植する方法などがある。
培養液の供給;根に酸素と培養液を同時に供給するた
めには,ポンプで培養液を循環させなければならない。
NFTなどでは酸素供給は自然になされるが,培養槽内
に培養液量がすくないため組成が変化しやすく,タンク
から培養液を循環させる必要がある。一方,培養槽が貯
蔵槽を兼ね培養液の多いものでは,溶存酸素を増やすた
めに培養液の循環が必
要となる。養液中の酸
素濃度をあげるために
は,家庭用の空気吸い
込み蛇口,流水サッカ
ーなどが利用される。
3)培養液の管理
EC; 均 衡 培 養 液 で
は組成と同じ比率で各
成分が吸収されるため,それぞ
れの要素がどれだけ吸収された
かは問題ではなく,一律に処方
組成で追加すればよい。溶液中
の無機塩濃度は電気伝導度ある
いは浸透圧にほぼ比例する。こ
れは,希薄溶液では塩はほとん
ど解離しているためである。し
たがってECを測定すれば培養液中のイオン濃度すなわち無
機塩濃度を測定することが可能で,減少分を追加すれば培養
pH;培養液のpHは一定の範囲内にたもたなければなら
ない。5.5ー6.5の範囲が作物の生育に好ましい。極端なpH
になるのでなければpHの直接的な影響は少なく,上記のpH
範囲外で生育が劣るのは,不溶化する成分があるためである。
特に調整しなくとも普通の状態ではこの範囲に収まり,栽培
中もこの範囲の外になることはない。pH変動が激しい場合
EC (mS)
液組成は一定に保つことが出来る。
3
2.8
2.6
2.4
2.2
2
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
トマト水耕培養液の電気伝導度(EC)と希釈倍率
y = 0.3038x - 0.005
y = 0.2925x - 0.07
y = 0.26x - 0.02
y = 0.2263x - 0.035
0
(10)
0.25
0.5
15℃
20℃
25℃
30℃
線形 (30℃)
線形 (25℃)
線形 (20℃)
線形 (15℃)
1
倍率
2
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は,培養液組成に問題があるか,根の状態が異常になっていると考えられる。
酸素;根が正常に活動するためには,酸素を吸収し呼吸する必要がある。水耕栽培では自然供給量は少ないため,強制的
な方法で必要量の酸素を溶け込ませる必要がある。酸素欠乏になると,根は懐死し養水分の吸収は阻害される。開花期ー収
穫期のメロンが必要とする酸素量は,昼間が夜
間より多く,170-422ml/株/日である。これがメ
ロンの根によつて吸収される酸素の量であり,
この分が供給されなければならない。湛水状態
の液面からの自然供給は0.08ml/l/hr(23℃)
であり,0.5時間の強制循環で0.5-1.0ml・l-1 付
加される。したがつて,培養液が25リッター/
株の場合 は 25ml-50ml/ 時 間の酸 素供給 であ
り,10時間の循環が必要となる。もっとも,培養
液量,水温,酸素供給方式によりこの時間は異
なる。
3
潅水(Sprinkling)
土壌中の水は,作物の葉からの蒸散と土壌表面からの蒸発
によつてたえず消耗し,作物が正常に生育を続けるためには
常に水が供給されなければならない。雨が多く地下水の豊富
な日本では,畑に植わった植物には毛管水として地下水が自
然に供給され,普通は特に潅水しなくても萎れることなく生
育を継続する。しかし鉢栽培では潅水を停止すれば,作物は水
分不足にさらされ萎れてしまう。これは,鉢土の中の水は有限
であためである。
1)土壌水分の表示法
含水率; 土に含まれる水の量を示し,(採取時の土の重量
- 105℃・24時間乾燥後の土の重量)/乾燥後の土の重量 x
100であらわす。植物の利用出来る水は液体の水であるが,こ
の値は植物が利用出来る水であるか否かとは無関係に表示さ
れる。すなわち,同じ含水率であつても,土壌の種類によって
作物に利用出来る水(有効水)の量は異なる。土壌が最大限に水を
含んだ時の含水率を最大容水量と言う。その値は,細砂(44.5% ),
砂質壌土(58.0% ),微砂壌土(76.5% ),微砂植土(87.0% )程度
で,それぞれの土壌の含水率が40% の状態では,細砂では多湿な状態
であるのに対し,植土では乾燥状態となる。
水分張力; 土壌粒子が水分を引き付ける力の強さを示し,水中の高
さ(cm)かその指数(pF)で表示する。根が水分を引き付ける力の
強さが浸透圧であり,浸透圧よりも水分張力の方が大きければ,その
水は作物には吸収出来ない。逆の場合は有効水であり,根か吸収でき
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る。作物は,pF 0 - 3.8の水を利用でき,pF 2程度で最もよく生育する。
潅水直後のpFは0であり(最大容水量),その一部分は重力によって移動
する。潅水後24時間のpFを圃場容水量(pF1.8程度)と呼び,作物の萎
れ始める初期しおれ水分点(pF 3.8)との間の毛管水が,作物によって利用
される主な土壌水分である。圃場容水量は土壌の種類,排水の程度によっ
て異なる。また鉢栽培では,圃場容水量の持つ意味は少なく,最大容水量
水ポテンシャルの単位の換算は以下による。
1 bar(1000 mbar) =105 Pa =103 hPa =102 kPa =105 N・m-2 =105
J・m-3=106 ダイン・cm-2 =750.06 mmHg =0.98693 気圧(atm)
1 atm(気圧) =1013250 ダイン・cm-2 =1013.25 mbar =1013.25
hPa =760 mmHg =1033.6 cmH2O (x1.36 mmHg)=pF3.014
pFは水中で表した圧力の常用対数
log1033.6=3.0143525 (pF)
にあたる容器容水量が鉢用土の特性を表す指標として用いられる。初期
しおれ水分点ではすぐに潅水すれば萎れは回復する。萎れ状態がさらに続き,回復しなくなる点を永久しおれ点(pF 4.2,15
気圧)という。pFの低い場合は,土壌の間隙中に自由水が多く作物にとっては最も水を吸収しやすい状態であるが,空気(気
相,酸素)が少ないため,根の生育(呼吸)が抑制され,水の吸収・養分吸収が阻害される。はなはだしい場合は,酸欠によっ
て根腐れする。常に根が培養液につかる方式の養液栽培では,常にpF3前後の状態であり(園試処方ではpF2.89)水分欠乏にな
ることはないため作物の生育は極めて良好となるが,酸欠が発生しないように強制的に通気あるいは空気を養液に溶け込ま
せなければならない。生育の速さだけを考えるのであれば低pFで水が吸いやすい状態に置くことが望ましいが,耐乾性,耐寒
性,日持ち,味など品質に関しては,水欠乏状態にさらされた方が優れたものになる。
2)水ポテンシャルと水の吸収,移動,蒸散
土壌中の水は土壌によって拘束された状態にあり,自由水(重力水)よりも低いエネルギー順位にある。このような水の
拘束状態を表すのに,水分ポテンシャル,吸引圧,張力,浸透圧などの言葉が用いられる。水分ポテンシャルの高い水は拘束
状態の低い水(何も解けていない自由水)であり、植物は利用しやすい。水の拘束は水溶液中の溶質によっても起こり,溶液
(水に溶けるものを溶かし込んだ水)では溶質(水に溶けているもの)の濃度に応じた水ポテンシャルの低下が起こり,これが
浸透圧として知られている現象である。ちなみに海水中の水は溶質である各種無機塩によって30気圧(pF4.5)もの強い拘
束を受けているため,通常の植物は海水からは吸水できない。したがって植物には海水は利用できない。また塩類集積した
施設栽培土壌でも土壌水の水ポテンシャルは低下(浸透圧は上昇、水分張力が上昇)するため,露地栽培に比べ多潅水で栽培
しなければならない。鉢栽培での底面給水法など鉢からの肥料の溶脱がない潅水法の場合にも,塩類集積により鉢内の水ポ
テンシャルは低下する。
培地(糖は除外)あるいは培養液の水ポテンシャルは-49 kPa(Knop)~-218
kPa (MS)の範囲に含まれ,しょ糖を30g・l-1
添加すればこの値はさらに23.4kPa低下する(古在ら,1993)。この範囲はpFに換算すると2.70(2.87)~3.35(3.39)であるが
実際にはこれに寒天が含まれるため,培地の水ポテンシャルはさらに低い。ハウス栽培での果菜類の潅水点がpF2.4前後であ
ることからすれば,培養条件の植物は極めて水の吸いにくい状態すなわち生育しにくい状態に置かれていることになる。
根あるいは培養組織が土壌溶液あるいは培養液を吸収できるのは,半透膜で隔てられた異なった浸透圧の溶液では,低い
方から高い方への水の移動が起こるためである。細胞溶液の浸透圧が培養液よりも高いあるいは細胞溶液の水ポテンシャル
が低い場合にだけ,培養液が吸収される。土壌,植物,大気間の水移動は水ポテンシャルの高い方から低い方へおこり,大気の
水ポテンシャルははるかに低く(数百bar),液状の水・飽和水蒸気状態のとき以外,水蒸気はたえず大気によって持ち去ら
れるため,葉では水ポテンシャルが低い水欠乏状態は継続する。植物の体内での水移動の主要な原動力は水ポテンシャルの
落差であるが,茎を切った時の排水(ヘチマ水),葉からの排水現象は,根による能動的イオン吸収(根圧)による吸水もあ
ることを示すが,その量は蒸散による水欠乏をまかなえるのに十分な量ではない。
蒸散流は無機イオンの吸収と輸送などの原動力となるが,蒸散速度が低くてもイオン濃度上昇によって輸送量は確保され
るため,無機イオンの輸送が滞るようなことはない。蒸散は,水を気体として気孔から蒸発する現象であり,気化熱の放出に
よる体温低下をもたらすが,水ポテンシャルが低下すれば葉温は上昇するにもかかわらず気孔は閉じられる。蒸散による葉
温の低下は植物の生存にとって不可欠なものではなく,二酸化炭素の吸収のために生ずる望ましくない不可避的な現象とい
(12)
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える。もし蒸散による葉温低下が植物の生存に必須の現象なら,CAM型光合成植物は存在しないはずである。
レポート 海水の塩分濃度は,3.2~3.5%であるが,海水にはNaClだけが3%溶けているとして,27℃の
時の浸透圧とpFを求め,海水で植物が生育できるかどうかを考察せよ。
Naの原子量は23,Clは35.5として計算せよ。ただしNaClは水に溶けると,ほぼ完全にNa+イオンとClイオンに電離するため,2倍のモル濃度を与える。希薄溶液の浸透圧(兀)は次式で求められる。
兀=CRT(C;溶質のモル濃度,R;気体定数0.082 気圧・mol-1 ・T -1,T;絶対温度,℃に273を足したもの)
・ワードファイルをメールに添付して提出。
ファイル名、メールの件名は学籍番号氏名
提出期限
提出先
例
2090000市橋正一
次々週欠曜日24:00
[email protected]
評価の観点 指示がまもられているかどうか。提出期限は守られているか。
メールが送れたか否かの確認をしたい場合は、メールのツールで開封確認メッセージの要求にチエックをつける。
(23+35.5)*2*0.082*(273+27)=25.23気圧
25.23気圧 =25.23x1033.6 cmH2O =26077.728 cmH2O
→26077.728=10x X=log26077.728=4.42 pF=4.42
3)鉢植えの乾き
素焼き鉢植え(5号鉢,表)の場合鉢の中の水分は,おおよそ30%は葉から,20%は鉢土表面から,50%は鉢壁の表面から蒸発
し失われる。鉢中から鉢壁表面への水分の移動に伴って水に溶けた肥料分も鉢壁へ移動し,水の蒸発に伴って鉢壁に析出す
る。鉢の乾燥の仕方は,植物体の大きさ,鉢の大きさ,鉢の種類により異なる。植物体が植わっておれば,土中からも乾燥し,
葉面積が大きくなればその蒸散量は増加する。鉢が小さい場合は,鉢壁表面から蒸発する水の比率が増加する。鉢が大きい
場合には,保水量が増加することの他に,表面積の割合が小さくなるため乾燥しにくくなる。
プラスチック鉢,化粧鉢などでは鉢の壁面からの水分の蒸発はなく,この分乾燥しにくい。素焼鉢は鉢壁の表面からの水の
蒸発によって乾燥しやすいため,夏季には鉢壁からの蒸発が盛んになるため地温が上昇しにくく,乾燥に注意すれば根の生
育は良好になる。このような水分の移動の様相の違いは鉢内の肥料の動向にも影響する。素焼き鉢では鉢壁への水の移動に
伴って,鉢内の肥料濃度は低下しやすいが鉢壁への塩類集積が起こる。一方プラスチック鉢では過剰に潅水して洗い流され
ない限り,また植物によって吸収される以外は鉢内の肥料はなくならない。したがって,素焼き鉢と同様な肥培管理では肥効
は良く,過剰障害が発生しやすい。特に,水を切って乾燥させると肥料の濃縮効果により鉢内の塩類濃度が上昇し,根傷みを
起こす。素焼鉢の場合は乾燥しても,肥料の濃縮は起こりにくい。
プラスチック鉢,化粧鉢では鉢壁からの水分の蒸発がないため,乾燥しにくく,地温は上昇しやすいい。素焼き鉢と同様な
用土・潅水管理では過湿になりやすい。また,夏季には地温が高温になりやすいが冬季には地温が上昇して根の生育は良好
となる。どんな鉢を使おうとも,その特性を補うような栽培管理を行えば,鉢の特性は活かすことが出来る。
いずれにしろ鉢栽培では,潅水はかかせない作業である。潅水を減らすためには,鉢底を湿らせた不織布,地面などに接触
させ,露地栽培と同様に下から毛管水を供給したり,鉢を大きいして鉢表面積の比率を減少すれば乾燥しにくくなる。用土の
配合によつても,鉢内の最大溶水量を増やし乾燥を防ぐことは可能で,最大容水量から水分張力が400 になるまでの時間は,
田土:腐葉土=7:3では2日,田土:ピート=7:3では4日,ピートだけでは6日以上要する。
4)水ストレス
水ストレスは,植物体内の水分の平衡状態がくずれた水欠乏の状態を指す。葉は最も水ストレスの影響を受けやすく,水ス
トレスのレベルを表示する尺度として葉内水分不足度(水欠差,Water Saturation Deficit: W.S.D.)あるいは水ポテンシ
ャルが用いられる。水ポテンシャルの低下によって植物は水ストレ
スにさらされ,光合成の低下,生育の遅延,組織・器官の枯死,個体の
枯死に至る。水ストレスの主要な原因は蒸散による水の消費が吸水
を上回ることで,葉に最も顕著にあらわれる。真夏の日中に発生す
(13)
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るW.S.D.の上昇は基本的には過剰な蒸散のためであり,土壌水分の不足によるものではない。したがって,蒸散を抑制するよ
うな方策(遮光など)によらなければ水ストレスは解消できない。水ストレスに対する植物側の対抗策は気孔の閉鎖による
蒸散の抑制であるが,気孔の閉鎖は結果的には光合成速度の低下,葉温度の上昇,無機養分吸収阻害などの悪影響をもたらす。
植物の水ストレス(乾燥)に対する進化的適応は,地中海気候型植物,サバンナの植物などに見られる,種子あるいは球根
の状態で休眠により回避するものなどと,さらに乾燥に適応したCAM植物など保水と貯水により乾燥期間中も組織の高い水
ポテンシャルを維持する(サボテン,多肉植物など)ものなどがある。特に乾燥に適応していない植物の場合も,乾燥条件で
栽培すると乾燥に強くなることはよく知られた現象であるが,植物は組織中の水ポテンシャルの低下によってある程度の乾
燥条件に耐えることができる。植物が水ストレスに耐えて生長を続けるには,細胞液の濃縮(無機イオン,有機酸,糖などの
濃度上昇)によって浸透(圧)調整がおこなわれなければならないが,細胞液の浸透圧調整能力の有無・程度は植物によって
異なり,これが種による乾燥適応能力の違いの原因である。
5)潅水方法
潅水方法は大別すると,鉢の上部から潅水するものと,下部から潅水する方法に分けられる。前者では,鉢底から水が流れ
出る程度に潅水すれば老廃物が流れ去り,鉢土内の空気を新鮮な空気と入れ替わり,過剰な肥料の集積は防がれるため,特に
根の生育が良好になる。水の収支だけでみれば潅水量は鉢の容水量になるまでが合理的であり,それ以上は流れ去りむだに
なる。しかし潅水・施肥の絶対量は同じでも,鉢底から水が流れ出ないように数回に分けて潅水した場合には,塩類集積によ
る過剰障害の発生の危険性が高まる。鉢底から水が流れ出すように過剰に潅水すれば塩類集積がないため根の発達は良好と
なり,イオンストレスによる生育遅延も起こらないが,肥料は流亡しやすくなるため余分に施肥しなければならない。
後者
の潅水法では水の移動は鉢の下から上になり肥料は流亡しないが,鉢土の上面に肥料が集積し塩類集積による濃度障害の危
険がある。また鉢の下部は湿りやすく通気性が劣るため上根となりやすい。
(1) 上部からの潅水
じ ょ う ろ
ホース・ジョゥロ潅水; 最も基本的な潅水法であり,ホースに取り付けた蓮口あるいは如雨露から水をかける。鉢を見な
がら潅水するため,乾き具合,病害虫の発生を調べながら潅水できるため栽培管理の上で副次的効果がある。シクラメンなど
鉢表面が葉で覆われる場合には一鉢ごとに葉を脇によけて確実に給水できるが,多くの人力にたよらなければならず,省力
化の妨げとなる。
ノズル潅水; 鉢の上部に塩ビパイプを配管し,それにノズルを取り付け散
水する。ノズルの取り付け位置に注意しないと,散水むらがでやすい。散水
量は潅水時間で調整し最も自動化が容易な潅水法である。しかし過剰に散
水されるため過湿になりやすく,植物体上の水が長時間乾燥しない場合に
は病気などが発生しやすく,花などは痛みやすい。さらに水しぶきにより病
原菌の飛散が助長されるため,病害がひろがりやすいなどの問題点もある。
チューブ潅水; 水圧調整タンクから低圧水をパイプで配管し,さらに細い
チューブで水を導き,一鉢ごとに滴下潅水する。植物体に直接水がかからな
いので,過湿にもなりにくく散水により病害が広がることはない。花,果実
なども傷まないが,水はけの良い土壌,大きな鉢などでは潅水むらが出来や
すい。散水量は,チューブの数,潅水時間で調節するが,配管が繁雑になりや
すい。人工的な資材(ロックウール)を用い,コンピュター制御で,必要量
の肥料と水(液肥)を与え栽培する方法が実用化している。ロックウール
は毛管に富み,一ヶ所に水を点滴することによって培地全体に水が行き渡
(14)
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る。また最近は,畑に直接液肥を与える潅水施肥法(養液土耕)も行われ,省資源,環境に優しい栽培法として注目されている。
養液土耕は雨の少ない乾燥地の潅水施肥法として発達したが,日本では施設園芸における潅水施肥法として普及して来てい
る。
水道からの高圧水を直接細かなミストチューブを通して散水することによっても潅水は可能である。この方法は非常に簡
単な方法であるが,風によって散水ムラが出やすいこと,また水のかかるように鉢の置き場所を調整しなければならない。
(2) 下部からの潅水
腰水潅水(エブ・アンド・フロー・システム); 水槽を作りその中に鉢を並べ,定期的に水を満たし排水する。原理的に
は養液栽培と同じで,施肥と潅水の自動化が可能であり理想的な潅水方法であるが,養液栽培と同様な設備が必要となる。鉢
物栽培では今後の普及は期待できるが,ノウハウの蓄積が不十分である。
マット潅水; 平らな台の上にビニールフィルムを敷き,その上に吸水性の厚手のマットを置き,鉢の乾燥を遅らせる。乾燥
を防ぐための補助手段であるが,潅水回数を大幅に減らすことが出来る。 鉢底の穴から吸水紐をたらせば底面給水法として
用いることもできる。排水したい場合はマットをベンチから下に垂らして水を抜く。
ヒモ吸水潅水(底面給水); 鉢底の穴から吸水紐をたらし,その先を水槽につけて吸水させる方法である。毛管が連続し
ていなければ水分は鉢内に供給されないため,空隙が大きな用土の場合は給水し難い。室内で鉢ものを観賞する場合の潅水
方法として便利である。鉢内が加湿にならないようにするには,あるいは潅水量を調整するには,紐の太さ,液面の高さを調
整するか,水槽の水を給排水する。水槽の水を排水すれば鉢内の水はヒモを通じて排水され,ヒモを長く垂らせば鉢の中の水
はより多く排水される。この潅水方法は,最近シクラメンの営利栽培における潅水方法として取り入れられている。株の上
からの潅水を嫌う植物の潅水法としては適した方法である。
6)合理的潅水法と自動化
鉢栽培では潅水は最も重要な栽培管理ではあり,手潅水で鉢物に潅水すれば各株に目が行き届くが,単調であり定期的に
必ず行う必要があるためかなり厄介な作業である。潅水を自動化することは比較的容易であり大幅な労力の軽減となる。鉢
物を大量に生産する場合,潅水の自動化は必須の条件と考えられる。しかし自動潅水では個々の鉢の乾きに合わせた管理ま
では困難であり,一律な潅水を前提に,鉢の乾きが一定になるように,鉢用土の量,鉢ごとの容水量,植物体の大きさなどを揃
えなければ鉢ごとの揃った生育は望めない。またノズルによる上からの潅水では,ノズルからの距離によってある程度の潅
水むらは避けられない。葉にかかった水が鉢の中に流れ込むのか鉢の外に流れ去るのか,草姿によっても潅水の効果に違い
が発生する。
潅水の調整は,鉢の乾きをpFセンサー,電極などで測定して一定の範囲内に管理するか,乾きを人間が判断し電磁弁の電源
をON-OFFする,タイマーにより決まった時に潅水する方法がある。pFセンサーによる方法は原理的には最も合理的な潅水法
であるが,実際は一鉢ごとに乾き具合が違うこと,また一鉢ごとに潅水するわけではないため,鉢内水分状態を一律に管理す
ることは容易ではない。
過度の水ストレス状態に置かれた植物では,アブサイシン酸,エチレン含量の増加,気孔の閉鎖による光合成の低下,最終
的には生育の遅延が認められる。植物を水ストレス状態に置かないようにして生育をはかることが潅水の目的であり,カーネーシ
ョンなどではpF2以下の状態で管理することが,収量の増加と品質の向上につながる。シクラメンの場合も同様であるが,夏季
の高温条件下ではpF2以下に管理しても葉の水分欠乏度が大きいため(水の吸収よりも蒸散が勝る),水ストレスを回避す
るには遮光率(75%)を上げて蒸散を低下させなければならない。
鉢物栽培では水ストレスの回避が必ずしも好ましい結果をもたらすとは限らない。水ストレスにさらされず順調に生育し
た鉢物では,市場に流通した段階でのストレスによって著しく品質が低下する場合がある。シクラメンの場合は,10月以降
開花まではpF2.5前後に管理し適度な水ストレスにさらされた方が高品質の製品となる。(三浦,1995)
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第2章 土壌と培養土
1 土壌(Soil)の特性
作物の根が生育する土は,土壌とよばれ,植物
体の支持,水分,酸素,養分などの供給と保持,根
の保護など植物の生育に重要な役割を果たす。土
粒子の粒径(mm)
2
以上
2
ー0.25
0.25-0.05
0.05-0.01
0.01以下
名称
土壌中の粘土含量%
れき(礫)
12.5%以下
粗砂
12.5-25.0
細砂
25.0-37.5
微砂
37.5-50.0
粘土
50.0 以上
名称
砂 土
砂壌土
壌 土
埴壌土
埴 土
壌は,粘土,砂などの鉱物質のほかに,長年かかつ
て集積した植物の遺体(有機質),細菌(Bacteria),カ
ビ(Fungi) ,昆虫(Insect),ミミズなどの微生物・小動
物の集合体であり,複雑な特性をもつ。土壌は必ずしも
植物の生育に必須のものではないが,その性質をうま
く利用すれば,潅水,施肥などの栽培管理は簡略化する
ことができる。
1)土壌の三相
土壌は三相からなる。ひとつは,粘土,有機物などの
固相であり,そのほかに多くの水溶性成分を含んだ水
相(土壌溶液),そして空気と似た成分の気相からなる。
これらの比率は,深さ,耕起などによつて異なり,畑の
表面近くでは固/気/液相の比率は50/30/20%程度で,
1m程度の深さでは,60/10/30%程度になる。もちろん,
地下水位,天候,土壌の種類の違いによつて異なつてく
る。特に,水相と気相の量は変化しやすく,水相と気相
を出来るだけ多く保持できる土壌(隙間の多いもの)が優れた土壌であり,水相と気相を出来るだけ多く保持できる状態に
管理することが良い土壌管理である。土壌は,固相を形成する粒子の大きさとその構成により,右表のように分類される。
2)土壌の物理性
土壌の三相分布(液相,気相,固相)によつて,土壌の物理的特性は決定されるため,三相分布を土壌の物理性という。これ
は,素材によつても異なるが,土壌粒子の存在様式によつて異なる。よく耕された土壌では,粒子が団粒化するため,気相と液
相の比率が高くなる。固まつた土壌では,粒子は単粒構造となり,固相の比率が高い。植物が生育に必要とし,根から吸収し
なければならないのは,土壌粒子ではなく粒子間に存在する空気と必須元素を溶解した水分,養分である。したがつて,空隙
の多い団粒構造の土(柔らかな土)が作物の生育に適する。土壌が均一な粒子から成ると仮定すれば,空隙率は表のように
なる。
土壌の物理性は,耕起によるほか,有機
物,土壌改良剤の施用によつても改良される。
堆肥などの有機物は粒子の接着剤として団
粒化を促進するほか,化学的性質の改善,微
生物的性質の改善,ミミズなどによる団粒形
成効果があり,積極的な施用が望ましい。土
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壌改良剤は,堆肥などの代用として用いられるが,効果は限定される。
3)土壌の化学性
土壌を構成する粘土粒子(土壌コロイド)と有機物質は正あるいは負に帯電し,イオン的に活性であり,以下に記すような
作用がある。
陽イオン交換;陰性コロイドは土壌中に多量に存在する陽イオンを吸着し,すこしずつ放出する。陽イオンを吸着できる
量を陽イオン交換容量(CEC; Cation exchange capacity )と言う。バーミキュライトは100-150 me/100g ,モンモリロナ
イトでは80-150,腐植では150-300の値をとる。イオンの吸着の強さは,H+ >Ca++ >Mg++ >K+ =NH4+ >Na+ の順である。
Ca++(陰性コロイド)+NH4Cl⇔ NH4+(陰性コロイド)+CaCl2
陰イオン交換;陽性コロイドは陰性コロイドとは逆に陰イオン交換を行う。しかし多くの土壌では陰イオン交換容量(AEC;
Anion exchange capacity )はCECに比べて低い。
(陽性コロイド)OH- + KNO3⇔(陽性コロイド)NO3- + KOH
緩衝作用(buffer action);水に酸あるいはアルカリが加わると,水のpH(水素イオン濃度〔H+〕)は著しく変化する。
しかし,土壌溶液ではpH変化はわずかである。このような作用を緩衝作用と言う。土壌中にCa++コロイドが多いとpH変
化は少なく,石灰の施用は土壌改良効果をもつ。
水の場合
HCl→H+ +
Cl+
pH 低下
NaOH→Na +OH
-
pH 上昇
土壌溶液の場合
Ca++コロイド+HCl⇔H+コロイド+CaCl2
Ca++コロイド+NaOH⇔Na+コロイド+Ca(OH)2
pH=―log〔H+〕=14+log〔OH-〕
リン酸固定;土壌溶液中には,カルシュウム,アルミニュウム,テツイオンが存在し,中性条件ではカルシュウムが不溶性の
Ca3(PO4)2 を,酸性条件ではアルミニュウム,テツが不溶性のAlPO4 ,FePO4 を形成し,リン酸は不溶化する。したがって,土壌
中でのリン酸の移動はなく,作物にとつては吸収しにくい要素である。施肥の場合は,吸収量に比べ多量に,元肥として施す
必要がある。また,火山性の土壌では,土壌粒子への不可逆的吸着により,さらに多用する必要がある。
土壌コロイド;土壌を水に懸濁すると,10μ以上の粒径の粒子は簡単に沈降し,乾燥しても固結しない。しかし,1μ以下
の粒子(粘土鉱物)は,いつまでも懸濁し,沈降せず,乾燥すると固結する。このよな微粒子をコロイドと言う。
2 土壌・培養土の種類
1)露地
畑の土壌は,地質的な母材から自然に形成され,水によつて上流から運ばれ,堆積したものである。したがつて,地域によつ
て特徴的である。自然のままで生産力の高いものもあるが,生産力の低いものでは,堆肥,土壌改良剤などの施用,客土などに
より改良する必要がある。
沖積砂土ー砂壌土; 河川,海岸沿いの砂質地帯の土壌。通気性,通水性は高いが,緩衝能が弱く,保水性に乏しい。一時的に
多くの肥料を施した場合,濃度障害を受け易い。また,置換性塩基,腐植含量が少ないため,石灰,苦土,堆肥の施用や,粘土質
土壌の客土が必要である。
沖積壌土; 河川,海岸沿いの土壌で,土壌の条件は良好であり,団粒構造も出来易い。通気性,通水性に優れ,生産力が高い。
第3紀層洪積土(山土・赤土); 粘土が多く含まれるので,通気・通水性に劣る。乾燥すると表土は固結し,水分過剰の時
は湿潤となり,干害,湿害とも受け易く,水管理には特別の注意が必要である。有機物の多用により,理化学性が改良され良い
土壌となる。
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火山灰土; 有機質に富み,緩衝能は高い。柔らかく固まりにくく,保水力にも富み,比較的物理性に恵まれた土壌である。
2)鉢用土(potting mixture)
鉢栽培では,用土量が制限され,根の生育できる範囲は限定される。また,鉢土は温度,湿度などの変化が激しく,植物の生
育にとつては厳しい条件である。したがって,出来る限り作物の生育に良好な条件を備えた鉢用土(鉢用土)を用いて栽培
する必要がある。鉢用土に必要とされる条件は,通気性,排水性,保肥力,保水力などの特性が優れたものでなければならない。
さらに,固まりにくく,病害虫,雑草の種子などが含まれないものでなければならない。このような,いくつかの条件を満たす
単独の土は存在しないため,下記のような幾つかの素材を混合して鉢用土は調整される。最近はこれらの特性の他に業務用
の土では,軽いこと,可燃性であることなど,流通・消費上の利便性も重要な要件となっている。
(1) 鉢用土の素材
粘質土(田土,荒木田土); 田圃の底土あるいは川沿いに堆積した粘質の土(荒木田土)で,肥料分をある程度含み,保水
性と保肥力に富むが排水性が良くない。乾燥したものを,篩を通して粒径を揃えて用いる。
赤土; 東海地方,中国地方の丘陵地に分布する赤色の土で,有機質・肥料分は含まない粘質土である。粘質土と同様に用い
る。
川砂・山砂; 有機質,肥料分は含まず,排水性が良好である。水はけを良くするために用いるが,あまり細かいものはかえ
つて排水は悪くなる。海砂は塩分を含むため,そのままでは利用出来ない。
鹿沼土; 栃木県鹿沼地方に産する黄色多孔質の粘土で,保水性,通気性に優れる。さし木の床土,ツツジ,サツキなどの鉢用
土として用いられる。
腐葉土・堆肥; 森林の表層にある木の葉などが腐
って出来た土,あるいは,稲わらや植物体などを堆積
して腐らせたものである。排水性,通気性,保水性に富
み,混合すると土が固まりにくくなる。十分腐ってい
ないものを用いると,窒素欠乏になることがある。
モミガラクン炭; モミガラを不完全燃焼させ炭化
させたもので,カリ分にとみ,通気性や排水性を良く
する。
ミズゴケ; ミズゴケを乾燥したもので,保水性,通
気性に富む。単独で,ランや観葉植物の良い鉢用土と
土壌,鉢用土の種類と三相分布
容積重(g)
固相(%)
液相(%)
沖積砂土
115
37.0
31.8
沖積壌土
102
35.4
36.8
火山灰土
58
22.0
40.8
赤土
124
40.1
51.5
洪積土
128
56.7
20.1
鹿沼土
33
16.7
63.3
川砂
117
45.5
32.5
バーミキュライト
36
23.1
70.0
パーライト
18
7.6
36.8
ピート
10
4.6
30.6
腐葉土
20
9.3
38.4
気相(%)
31.2
28.0
37.2
8.4
25.2
20.0
22.0
6.9
55.6
64.8
52.3
なるが,山取りのため最近は国産のものは,少なくな
つている。現在は,ニュージランド,中国から輸入して
いる。新鮮なもの,生きたものが良いものであるが,
その理由のひとつは,ミズゴケの保水能力,窒素固定
能力によると考えられる。古いもの,腐ったものでは,
かえって生育が抑制され,1-2 年ごとに古いミズゴケ
は取り去り,植え換える必要がある。
ピート; ミズゴケ,シダ,スゲなどが,寒冷な湿地で
堆積し,腐敗せずに炭化したもので(泥炭),保水性,
洋ラン鉢用土の理化学性
真比重
乾燥重
固相 全孔隙 最大容水量
(g/ml)
(g) (%)
(%)
(g/100 ml)
軽
石
1.86
57.0
30.6
69.4
39.2
日 向 砂
2.81
39.4
14.0
86.0
54.5
ピートモス
2.18
4.8
2.2
97.8
88.5
ミズゴケ
1.50
3.3
2.2
96.7
79.0
バ ー ク
1.77
21.6
12.6
87.4
64.1
ネオソフロン大粒 1.04
21.3
20.5
79.5
52.6
ネオソフロン小粒 1.42
8.1
5.6
94.8
41.7
ココヤシ果皮粒
3.15
6.2
1.7
98.3
54.1
ココヤシ繊維
1.31
5.9
4.5
95.5
30.1
保肥力に富む。そのままでは酸性が強いため,石灰で
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中和する必要があが,市販のものはすで
規格化標準培養土
ジョン・インネス方式 壌土:ピート:砂
に調整してあるものもある。北海道,北欧,
UC 方式
ピート:砂
カナダ産などがある。
コーネル方式
ピート:バ-ミキュライト
奈良農試標準培養土*
オガクズ堆肥:モミガラ燻炭
バーミキュライト・パーライト・フヨ
VBS培養土
バーミキュライト:樹皮堆肥:砂
ーライト; ヒル石・真珠岩・黒曜石を高
*オガクズ堆肥が増すと液相が,モミガラクンタンが増すと気相率が増加する。
温処理した人造の鉢用土で,比重が軽く,
保水性,通気性に富む。ピートなどと混合
して用いる。
バーク堆肥; 樹皮を細かく粉砕し発酵
させたたもので,通気性,保水性に富む。
ランの鉢用土として最近よく利用され,
広葉樹,針葉樹のものがある。発酵が不十
分なものは,炭水化物を含むため肥料欠
乏になり安い。また,輸入材は海水に漬け
て保存されるため,そのバークには塩分
を含むため,塩抜きが必要である。
バーク; 樹皮を細かく粉砕したもので,
各種の粒径のものがある。通気性,保水性
に富む。ランの鉢用土として利用される。
荒木田
4
5
6
5
5
4
5
3
鉢物花きの用土配合例
腐葉土
赤土
3
3
2
3
3
4
3
3
3
5(バーク)
シクラメン
グロキシニア
ポインセチア
プリムラ
ハイドランジャ
ポットマム
ベゴニア
クンシラン
シンビジューム
デシドロビューム
ファレノプシス(胡蝶ラン)
露地草花
6
球
根
5
花
木
6
キ
ク
3
アサガオ
4
サ ツ キ
鹿沼土
サボテン
4
3
4
5
4
6
2
=7:3:2
=1:1
=1:1
=100-0:0-100
=20:20:10
川砂
1
1
1
1
堆肥
2
1
1
3
2
2
軽石 5
ミズゴケ
ミズゴケ
10
10
2
2
2
山苔
4
7
クンタン
1
スギ皮を繊維化したものは(クリプトモ
ス)単独であるいはミズゴケと混合して
ファレノプシスなどの植えこみに使われる。
ヤシ殻チップ;ヤシの殻を細かく切断したもので,通気性,保水性に富む。ランの鉢用土として最近よく利用される。水に
浸けて十分あく抜きしたものを用いる。
軽石・日向砂(ボラ); 発泡性多孔質のため,軽く,排水性,通気性に富む。バークと混合してランの鉢用土として利用さ
れる。
ロックウール;珪酸質岩石,玄武岩,石灰岩,スラグなどを溶融し繊維化したもので,径3-10μの非結晶ガラス質繊維である。
天然鉱物繊維であるアスベストの使用制限(発癌性;径0.25μ,長さ8 μ以上のものに認められている)に伴って,その代わ
りに使われるほか,単一あるいは混合して培土として利用される。ロックウールは皮膚に直接接触すると刺激を受けるが,石
綿にくらべて危険性ははるかに少なく,慢性の障
害は生ずることはないと言われている。ロックウ
ールは繊維自体は吸水性はなく,繊維間の毛管に
水を含むが,ほとんどが低pFの易移動水であり,
水切れは鉢上部から急激に起こる。化学的には非
結晶ガラス質のため不活性で,CECはほとんどなく
燐酸吸収もほとんど起こらない。自然に分解する
こともなく,焼却処分が出来ないため,廃棄物の処
理が厄介である。
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(2) 通気性と保水性
植物の生育に必要なものは,養液栽培で良好に生育することからわかるように,鉢用土自体ではなく鉢用土に含まれる,水,
空気,必須元素である。培養土は,これらを保持する媒体として機能し,それらを保持するスペースの多い鉢用土が,優れた鉢
用土と考えることができる。
潅水によって鉢用土にしみ込んだ水は,大きな空隙では,重力によつてただちに流れ去り,空気と置き替わる。一方,細かな
空隙に存在する水は有効水(毛管水)として安定的に存在する。したがって,大きな空隙を持つ鉢用土の素材では,通気性に,
小さな空隙を持つ素材では,保水性に富むことになる。素材の理化学性は,素材の持つ空隙の割合(比重)と空隙の種類(大
小)によって決まる。空隙を持たない土壌・鉢用土には,植物の生育に必要な空気と水が保持されないため,植物は生育でき
ない。
3)鉢用土(鉢用土)の配合
鉢用土は,配合する素材によってその理化学性は変えることができる。田土など粘土粒子は保水性に富むが,篩いでこして
一定以上の粒径にそろえれば通気性も良くなる。しかし,種々の大きさの粒子が混じり合った場合には,大きな空隙に小さな
粒子が入り込み通気性が悪くなる。川砂は砂粒子自体は保水性に劣るが,細かな砂は粒子間隙に水が保持され保水性に富む。
荒い砂では粒子間隙が大きいので水は保持されず通気性に富む。ピートは毛管が多いため保水性に富む。ピートと荒い川砂
との混合では,砂の割合が増加すれば保水性が劣り乾燥しやすくなり,ピートの割合が増加すれば保水性がよくなる。
栽培する作物の要求する通気性と保水性によつて鉢用土の素材の種類・配合は変化させる。作物の種類、鉢の種類,潅水
量と回数,通風や日射など日常管理などによつても,要求される鉢用土の特性は異なったものとなる。すなわち,乾燥しやす
い条件では水持ちの良い鉢用土が,湿りぎみのときは乾燥しやすいものが適する。
鉢用土は入手しやすい素材を配合して,植物あるいは栽培管理に合ったものとすればよく,固定的なものではない。また栽
培管理を鉢用度に合わせることも可能である。ただ,どんな場合も潅水した時に速やかに排水し,水の溜まらないものでなけ
ればならない。そのためには,ミジンが含まれないこと,固まりにくい素材を用いること,過湿の状態で鉢用土は扱わないな
どの注意が必要である。また,経験を生かすためには鉢用土の種類はできる限り変更しないほうが良い。規格化標準培養土
は,何処でも入手出来る素材でつくられた標準的な培養土である。実験などを行なう場合には,同じ条件に設定しやすいので,
結果の比較が可能となる。
家庭用園芸培養土; 家庭用培養土では,技術レベルの異なる不特定の消費者が,不特定の植物を,異なった栽培環境で使わ
れることが予想される。また購入者には,土の状態あるいは植物の様子を見ながら的確に対応することなどは期待できない。
最高の生育は期待できなくとも,致命的な失敗が無く,可も無く不可も無く,そこそこに育ってくれる培養土が望まれる。適
度に肥料を含み,適度に排水性でかつ保水性も良く,特別な管理をしなくてもそこそこに育つものでなければならない。
植物を育てるのに利用可能な素材は多いが,家庭用園芸培養土では購入時のイメージが購買意欲に大きく影響するため,
利用できる素材は限られる。現在,廃棄物の利用としては,街路樹の剪定物あるいは草刈で出る植物体,またコヒーカスなど
が腐葉土として使われている。実験的には,汚泥の加熱処理したものなども利用出来ることは分かつている。またシンビジ
ュウムは,生の大鋸屑,砂利,古タイヤチップなどでも栽培可能なこともわかっている。しかし,安全性(特に野菜栽培の場合),
土から発生するにおい,虫の発生,家庭での使用済みの残土の処理方法など,種々の観点からの検討が必要である。
したがつて家庭園芸用培養土には,汚泥,産業廃棄物などはよほどのメリットがない限り使えない。伝統的に評価の定まっ
た,黒土,赤土,砂,鹿沼土,堆肥,腐葉土,ピートモスなどの混合用土が主に使われている。ただし家庭園芸では屋外での栽培
もあるため,雨水による過湿の危険性があるため,水持ちの良いピート主体の培養土は根腐れの危険性があるため,家庭用に
はあまり利用されていない。
業務用培養土;生産者の場合は栽培のプロであり,培養土の特性を最高に発揮するような,また欠点を補うような栽培管理
が可能である。実際には必ずしも培養土として最高のものが使われているわけではなく,別の観点から培養土は選択されて
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いる。軽いもの,供給が安定しているもの,安全で廃棄物としての処理の容易なもの,仕入れ価格など総合的な観点から,現在
はピートが使用される場合が多い。業務用は,施設での栽培が主体のため,過湿の問題は少ない。又肥料分を含まない用土で
あっても,生産者の場合は施肥による調整が可能であり問題にはならない。
従来は自前で調達し準備した用土(田土,堆肥,モミガラ燻炭,大鋸屑堆肥,川砂など)が使われていたが,現在は購入素材に
よる培養土の使用が主体となっている。pHを調整しパーライトなどが混入された培養土(調整ピート)を購入しそのまま,あ
るいは調整ピートあるいはピートに砂,軽石,パーライト,バーミキュライトなどを適宜(自分の栽培管理に合わせて)混入し
使う場合が多い。
3章 環境と植物
植物の生育は環境による
制限を強くうける。乾燥地
帯には乾燥に強い植物が,
熱帯には高温に適応したも
のが原生する。したがつて,
地域が異なつても似た環境
の場所には似た植物が原生
している。栽培する場合に
も,原生地と同様な環境条
件を必要とし,栽培地の環
境が原生地の環境に似ていれば,管理も容易である。一方,原生地の環境が,栽培環境と大きく異なつた場合には栽培は困難
である。現在では施設栽培の普及によつて,高温条件(暖房)や乾燥条件(ビニールハウス,除湿器)を人為的に作り出すこ
とは容易になつてきた。しかし,経済的生産においては,冷房,人工照明などは困難な場合が多い。
作物,野菜などでは長年にわたる品種改良の結果,異なった気候・環境の場所でも比較的栽培し易くなつているが,原生地
の気候条件に制約され栽培時期に制約がある。地中海地帯原生のものは,原則的には秋に播種し冬から春にかけて収穫し,熱
帯原生のものは春,夏から秋にかけて栽培収穫する。花き園芸作物の場合,食用作物などに比較して改良の程度が低く,原生
地の気候・環境に適応した特性を強く持っているため,原生地の気候・環境特性に合わせた栽培管理がより必要とされる。
1 気候型と作物
1)地中海気候型植物
夏は雨が少なく冬に雨が多く比較的温暖なため,植物は秋に発芽し冬から春にかけて生育し,夏までに開花結実し休眠す
る。このような気候の地域には,地中海沿岸,南アフリカ西部,北米カリフォルニア,オ―ストラリア西南部,チリ―中部があ
る。
地中海沿岸原生植物
一年草;キンギョソウ,キンセンカ,ヤグルマソウ,カスミソウ,スイトピ-,スタ-チス,ルピナス,ストック。球根;アネモネ,クロッカス,シクラメン,ヒヤシン
ス,アイリス,スイセン,シラ-、チュ-リップ 。多年草・花木;アカンサス,ノコギリソウ,ダイアンサス,エニシダ。
南アフリカ原生植物
一年草;ディモルホセカ,ロベリア,ネメシア。球根;アマリリス,バビアナ,フリ-ジア,グラジオラス,イキシア,トリトニア,カラ-,サンダーソニア。
多年草・花木;クリビア,ゼラニ-ム,ストレチア,アガパンサス,ガ-ベラ,エリカ。
2)大陸西岸気候型植物
偏西風が吹き海洋性気候のため夏は冷涼であり冬季もあまり寒冷ではない。ヨ―ロッパ,北米西北部,南米西南部,ニ―ジ
―ランド南島がこのような気候である。
ヨ―ロッパ原生植物
一年草;ワスレナグサ,パンジ-
球根;ラッパズイセン。多年草;セイヨウノコギリソウ,セイヨウオダマキ,デルフィニュ-ム,スズラン,
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ニュ―ジ―ランド
花木;クレマチス
温室植物;フクシア
3)大陸東岸(温暖湿潤)気候型植物
夏は高温で雨が多く,冬は温度が低い。春から夏にかけて生育開花し,冬は休眠する植物が多い。日本,中国東部,朝鮮半島,
北米東部,南アフリカ東部が該当し,これらの地域原生の植物は日本でよく生育する。
日本原生植物
多年草;フクジュソウ,アスチルベ,ミヤコワスレ,カンゾウ,ハナショウブ,カキツバタ,アヤメ,キキョウ,サクラソウ,オモト。花木;モミジ,マンリョウ,センリョウ,
ツバキ,サザンカ,アジサイ,ナンテン,サクラ,ツツジ,フジ,クチナシ。球根;ユリ,ヒガンバナ。中国原生植物
多年草;シオン,ヒオウギ,キク,テッセン,ケマンソウ,シャクヤク。
花木;アベリア,ブットレア,ノウゼンカズラ,ハナズオウ,ボケ,サンシュウ,ジンチョウゲ,レンギョウ,フヨウ,ムクゲ,モクレン,カイドウ,ボタン,ウメ,モモ,ピラカンサ,コデマリ,オオデ
マリ。球根;ユリ,ヒガンバナ,スイセン。
米国原生植物
一年草;ヒマワリ,ルドベキア
多年草;アスクレピアス,クサフヨウ,フロックス,トラディスカンティア,サラセニア。花木;カルミア,アメリカヤマボウシ,ユリ
ノキ,タイサンボク。
アフリカ原生植物
多年草;ガ-ベラ,トリトニア,カラ-。
ブラジル原生植物
一年草;マツバボタン,サルビア,バ-ベナ 。
4)熱帯高地気候型植物
熱帯,亜熱帯の高地は年間を通
じて温度較差がすくなく温暖で降
雨も平均的である。このような地
域の植物は,日本の夏は高温のた
めまた冬は低温のため,冷暖房し
ないと栽培が困難である。アンデ
SanDiego
35
30
25
20
気 15
温
10
5
0
-5
温度(℃)
雨量(mm)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112
アンデス原生植物
温室植物;
球根ベゴニア,フクシア,ナスタ-チュ-ム,ペチュニ
ア,オドントグロッサム,ミルトニア,マステバリア 。
中国原生植物
多年草・花木;
デンドロン。
メキシコ原生植物
球根;ダリア,
チュ-ベロ-ズ。花木;ブバルディア,ポイン
セチア 。
5)熱帯気候型植物
35
30
25
20
気 15
温
10
5
0
-5
雨量(mm)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112
差がほとんどなく年間を通じて高
温で雨も多い。一年生植物は日本
でも戸外で栽培できるが,多年生
のものは温室植物となる。
インド 一年草;ハゲイトウ,セロシア,ホ
ウセンカ
350
300
250
200 雨
150 量
100
50
0
35
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気 15
温
10
5
0
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温度(℃)
雨量(mm)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112
月
昆明
Bogota
雨量(mm)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112
350
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200 雨
150 量
100
50
0
35
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気 15
温 10
5
0
-5
温度(℃)
雨量(mm)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112
月
350
300
250
200 雨
150 量
100
50
0
350
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250
200 雨
150 量
100
50
0
月
LasVegas
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気 15
温 10
5
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112
月
温度(℃)
赤道地帯が該当し,温度の年較
雨量(mm)
350
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200 雨
150 量
100
50
0
Singapore
温度(℃)
花木;ロ-ド
温度(℃)
月
名古屋
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気 15
温 10
5
0
-5
セキチク,プリムラ,コウシンバラ,トウツバキ。
ヒマラヤ原生植物
London
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気 15
温 10
5
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-5
月
ス山系,メキシコ高原,中国西南部,
ヒマラヤ山麓が該当する。
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150 量
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0
温度(℃)
雨量(mm)
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月
札幌
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気 15
温 10
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温度(℃)
雨量(mm)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112
月
温室植物;レックスベゴニア。
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ジャワ 一年草;コリウス。
ネパ―ル一年草;アサガオ 。
ニュ―カレドニア
マレ―シア
温室植物;アカリファ。
温室植物;アグラオネマ,クロトン。
ボルネオ
温室植物;ネペンデス,パフィオペデイラム,デンドロビュ-ム,ファレノプシス 。
アフリカ
温室植物;セントポ-リア。
メキシコ
一年草;コスモス,マリ-ゴ-ルド,ジニア
球根;カンナ,グロキシニア,アマリリス。
ブラジル
温室植物;カラジュ-ム。
南米各国
温室植物;アンスリュウム,コルムネア,アナナス,モンステラ,フィロデンドロン,カトレア,ミルトニア,オンシジュ-ム 。
6)砂漠気候型植物
大陸の内陸部の気候で,昼夜の温度較差が大きく年間を通じて雨量は少ない。耐乾性に富んだ植物(CAM 型光合成植物;
サボテン,多肉植物)が原生する。
南アフリカ
温室植物;アロエ・イシャイラズ,カランコエ,リトプス (多肉植物)
北米,メキシコ
多年草;マツバギク。
温室植物;サボテン,リュウゼツラン。
7)北地気候型植物(アルペン植物・高山植物)
高山の頂部,寒帯,亜寒帯原生の植物で,温度の比較的高温になる夏季の短期間に生育を完了する。氷河期時代の残存植物
で美しいものが多いが,関東以南の地域では夏の高温のため栽培困難である。
日本 高山植物;コマクサ,クロユリ,ウスユキソウ・エ-デルワイス,ウサギギク,タカネバラ,チングルマ,ニッコウキスゲ。
2 栽培環境と作物の生育
自然の植物は自らの生育に適した環境での
み生育し繁殖することが出来る。不適当な環境
に置かれた植物は短期間の生存は可能かもし
れないが,永年に渡って生育・繁殖することは
出来ずに,やがて消滅する。低温,高温,温度変
化,水分,光など多くの要因がその生存に関わ
っている。熱帯高地気候型は,周年を通じて温
暖な常春の地であり,低温要求性あるいは光周
律など特別の要求性を持たない多くの作物の
周年生産が可能である。熱帯気候型も周年を通
じて植物の生育に適する環境条件を備えてい
るが,多くの温帯生作物の生育には温度が高す
ぎる。
栽培条件においては,その植物に適した環境
条件を作り出すことによって,種々の気候型に
属する植物の栽培が可能となる。植物の自然環
境での生息は,日射量,温度,雨量,土壌環境な
どによって規定され,当然原生地の環境条件がその植物の生育に適している。しかし,本来の生息地が必ずしも唯一の適地で
あるわけではなく,帰化植物に見られるように,似た環境の場所で原生地以上に繁茂生育する場合もある。また栽培環境では
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これら自然条件の制約は軽減される。特に施設園芸では,加温による温度管理,潅水管理,培土の調整などにより,多様な植物
の栽培が可能となる。熱帯においては生産可能な植物の種類は熱帯生のものに限定され,温帯生植物あるいは北地気候型植
物の栽培は困難である。しかし日本など温帯では,加温によって熱帯生植物の栽培も可能であるが,夏季に冷房を必要とする
ような北地気候型植物の栽培は困難である。
施設園芸における生産では,冷房による温度制御とともに人工光照射による日射量の制御も実用的な技術にはなっていな
い。現在のエネルギー事情あるいは技術的水準においては,曇天時の日射量確保と高温時の冷房はまだ実用的ではない。し
たがって,加温だけを前提にするなら,施設園芸の適地は日射量が豊富で夏あまり高温にならない場所である。従来の施設園
芸地帯は,加温による生産費上昇が少ない温暖な地が主体であつたが,暖房を前提にするならあるいは夏季の生育を主体に
考えるなら,夏に温度がそれほど上昇せず,また積算日射量の多い高冷地なども施設園芸の適地と考えることも出来る。
レポート
気象庁のHP http://www.jma.go.jp/jma/menu/report.html
から各種データ・資料,過去の気象データ検索に
アクセスし,2000年と2014年の豊橋と稲武の気象データを調べ,月平均最低気温・最高気温、月別降水量、月別日照時間な
どを見やすくグラフ化し、その気候の経年変化、地域の特徴の違いを明らかにし,施設園芸を行う場合の適否を考察し提出
せよ。提出はワードファイル、ファイル名、メールの件名は「学籍番号+氏名」としメールに添付して提出すること。
提出期限
次々週月曜日24:00
提出先
[email protected]
評価の観点 指示がまもられているかどうか。提出期限は守られているか。
メールが送れたか否かの確認をしたい場合は、メールのツールで開封確認メッセージの要求にチエックをつける。
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3 環境を構成する要因
1)温度
植物は,変温性であり,基本的には周囲の状況,温度により体温は決定される。すなわち,太陽光として吸収される輻射エネ
ルギー,赤外線として葉から輻射されるエネルギー,蒸散による放熱,伝導・対流により交換されるエネルギー,代謝過程の吸
熱・発熱反応の収支により体温は決定される。体温が周りの空気より低い場合は,対流や伝導により空気から熱を受取り,ま
た太陽の輻射エネルギーの選択的な吸収,マメ科植物の就眠運動に見られるように葉からの輻射エネルギーの制御など消極
的ではあるが体温を高く一定に保とうとする仕組も存在する。さらに,発熱代謝過程を通じて化学エネルギーを熱エネルギ
ーに変換する植物も知られている。サトイモ科の植物(ザゼンソウ,フィロデンドロン)には肉花穂の温度を積極的な発熱
反応により周囲の温度よりも10℃以上も高く保つ。
体温が周りの空気より高い場合は,対流,伝導,赤外線の放射により熱を失う。また,高温,低湿度,体内水分が充分な場合に
は蒸散により葉温は気温より低く保たれる。CAM 植物や水分欠乏状態に置かれた植物では,蒸散による体温の低下はなく, 太
陽光が当たると葉温は高まり、主に熱輻射により体温は低下し気温より高い一定の値に保たれる。
植物の生育期の生存可能温度は,-5℃~55℃の範囲であり,個々の植物の生育はこの範囲内で最大値を示すが最適値はそ
れぞれの種類により異なる。その理由は,生長に必要な種々の酵素反応は温度の上昇と伴に活発になるが,高温では活性は低
下すること,光合成の最適温度は生育期の日中の温度に対応しその温度は種により異なること,呼吸の温度特性も種により
異なるなどの理由による。
低温に耐える性質(耐寒性・耐凍性)は,基本的には遺伝的なも
のであるが,耐乾性の場合と同様に低温ストレスに対しても適応が
見られる。秋から冬にかけて細胞内では多くの物質や構造の変化が
起こり,適温の異なるアイソザイムの発現,生体膜の脂質の変化な
どによって耐凍性は高まる。また耐凍性の増大に対応し細胞内の浸
透圧が高まるが,これは水の減少と糖,アミノ酸などの増加による。
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膜脂質の組成や構成脂肪酸の変動は耐凍性の変化に重要
で,低温下での膜の流動性を保持し膜機能が保たれる。生育
0℃以下
0℃
期の熱帯性の植物で は (サ ツ マ イ モ , キュウリ ,ト ウ モ ロ コ シ , トマト , バナ
ナ) ,10-12 ℃の温度により低温障害を受けるが,これは膜構
造が破壊されることによる。また,本来低温に強い植物でも
耐凍性の程度は,生育段階,種類によって異なる。
生育の速さ・適温は,植物により異なる。自然の温度での
栽培では,作物の生育適温と気温が一致するような時期が
0-5℃
5
5-10
10
観葉植物の限界温度
オカメヅタ,ヘデラ,フェニックス(カナリーヤシ)
シマオオタニワタリ,オリゾルラン,カポック,ミドリノスズ,
ゴムノキ,ノボタン,タマシダ,テーブルヤシ
トックリラン,トラデスカンチア,ブライダルベール
シンノウヤシ,ヒトデカズラ,プテリス(イノモトソウ),ユッカ
アジャンタム,ゴクラクチョウカ,ハートカズラ,ベンジャミン
コーヒー,ゼブリナ,パキラ,ミドリサンゴ
アレカヤシ,ポトス,グズマニア,コルムネア,スパティフイラム
限界温度が5 ℃以下のものは室内なら越冬可能,5-10℃のものは保
温性の良い部屋で乾燥気味で管理すれば越冬可能。
栽培の適期であり,夏には高温性の作物が,冬には低温性の
作物が作られる。冬に高温性の作物を作ろうとすれば,加温あるいは保温のための施設・設備(温室,ビニールハウス,ビニ
ールトンネルなど)が必要である。低温性の作物を自然の高温条件下で作るには,冷房するかあるいは涼しい場所に移動し
て栽培しなければならない。
生育の適温は通常昼間と夜間では異なる。その理由は,光合成により得られる化学エネルギーと呼吸により消費されるエ
ネルギーの収支が最大となる温度が昼間の生育適温であるが夜間は光合成は行われないため,呼吸による消耗が少ないより
低温条件が生育のためには好ましい。また,生育適温は同じ種類の作物であっても,生育段階,光強度,湿度,風速などによっ
ても異なる。
2)光
作物の生育・生存に光は欠くことの出来ない要因であり,暗条件下,日射量が足りない場合,あるいは低光強度下では光合
成が十分に行われないため,植物は十分な生育は出来ない。また,光合成のためだけではなく,各種の光形態形成反応のため
にも光が必要であり,光の無いあるいは足りない状態では生育は異常(徒長,黄化,モヤシ)になる。さらに,日長に反応して
栄養生長から生殖生長に転換する光周性のある植物も多い。
(1)光合成
①光合成の測定
光合成測定の最終目的は,効率的な光エネルギー固定すなわち生産性向上の条件を知ることにある。光合成は二酸化炭素
と水を原料に光エネルギーを使って炭水化物と酸素を生成する反応である。光合成量の多寡は作物の生育に直接影響するた
め,光合成量に影響を及ぼす要因を知ることは栽培管理の上で有益な指針を与えてくれる。原理的には,二酸化炭素あるいは
水の消費か,炭水化物あるいは酸素の生成を測定すれば,光合成量が測定できる。
二酸化炭素の吸収で光合成量を測定する方法は,測定感度が高いこと,非破壊でオンタイムの測定が可能なことなどすぐ
れた測定法である。しかし,呼吸によって体内で発生する二酸化炭素との収支が測定されること,CAM植物など明反応と無関
係に二酸化炭素吸収が起きる場合には必ずしも光エネルギーの固定量が測定できないことなど,万能の方法ではない。
植物体の乾物量のおおよそ92%は炭水化物であり,そのすべては光合成によって固定されたものである。乾物の増加量を測
定すれば,光合成によって固定された光エネルギーのうち呼吸によって消費されずに蓄積された全エネルギー量を知ること
ができる。二酸化炭素の吸収による測定は,乾物量の増加量を推定するための間接的な手段とも考えられる。この方法は,オ
ンタイムの測定は不可能なこと,非破壊では測定できないため1個の個体を対象にした連続測定は不可能であるなどの制約
がある。
酸素の放出を測定することによっても光合成の測定は可能である。この場合は,明反応系の測定であること,呼吸による酸
素の吸収の影響を受けること,測定感度が劣ることなどの制約があるが,CAM植物において明条件下でも光合成に関する情報
が得られる。
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②光合成様式とその特徴
植物の光合成は,光エネルギーを化学エネルギーに変換する反応である。光エネルギーは貯蔵不可能なものであり,生育
に利用するためには貯蔵可能でいつでも利用できる形態の化学エネルギーにしなければならない。葉緑体では,光エネルギ
ーを利用してH20 が水素と酸素に分解される(光がないと起こらないので明反応と呼ばれる)と同時に,NADPHが作られ光エ
ネルギーが化学エネルギー(ATP) に固定される。このエネルギーとNADPHを利用し,二酸化炭素は3-ホスホグリセリン 酸(PGA) から
グリセルアルデヒド-3-リン 酸(GAP) に還元され,炭水化物となる(ケルビン・ベンソン 回路)。この経路は総ての植物に共通であるが,二
酸化炭素の濃縮経路の有無により,3種の異なった様式が知られている。作物の多くはC3型に属している,C4型は南方系イネ
科植物の一部が属し,光合成
能力は高い。CAM 型に属するものは,食用作物ではパイナップルがあり,光合成能率は3種の光合成様式のなかでは最も劣る
が,耐乾性は著しくすぐれる。C3型は基本的なものであり,C4型とCAM 型は進化した型と考えられる。主要な穀物はC3型に属
し,C4型光合成能力を付与することが出来れば,生産は飛躍的に向上すると思われる。
C3植物;二酸化炭素がケルビン・ベンソン回路だけで固定される植物。光合成により,二酸化炭素は最初に,C3化合物であ
る 3-ホスホグリセリン酸(PGA) に固定されるため,C3植物と呼ばれる。二酸化炭素濃度が高い条件では能率良く光合成が行われる
が,低濃度では能率は低く,二酸化炭素の吸収と放出が等しくなる点(CO2 補償点)は高い。強光にした時に光合成速度が増
加しなくなる点(光飽和点)は低い。また,光合成の進行に伴い,著しいCO2 の放出(光呼吸)を示す。古い時代の大気組成
に適応した植物であり,現在の大気組成(低二酸化炭素,高酸素濃度)下では能率は劣る。
C4植物;ケルビン・ベンソン回路(第2回路)の前に二酸化炭素の濃縮回路(第1回路,C4ジカルボン 酸回路)を持ち,二酸
化炭素は明反応により作られたATP を利用し,最初に,C4 化合物であるアスパラギン酸に固定されるため,C4植物と呼ばれる。C4
化合物は再び二酸化炭素に変換され,C3植物と同じ経路で固定される。低二酸化炭素濃度,高温,高強度光条件下でも能率よ
く光合成を行い,進化した植物である。維管束のまわりに維管束鞘が発達し,そこに葉緑体が存在し第2回路がある。第1回
路は葉肉細胞の葉緑体にある。
CAM(Crassulacean acid metabolism)植物;維管束鞘は発達せず,第1,第2回路は同じ場所に存在する。C4植物と同様に
二酸化炭素は最初にC4化合物であるリンゴ酸に固定されるが,夜の間に気孔を開き二酸化炭素は固定されるため,細胞内に貯
蔵のための液胞がよく発達しそのpHは夜間に低下する。蛇足ではあるが,サボテン,イシャイラズなどのは夕方には酸味は感
じないが朝に食すると酸味を感ずる。
二酸化炭素の固定は明反応によるATPが直接用いられるのではなく,一度合成された糖の分解により作られたATPが用いら
れるため,その光合成能率は劣る。しかし夜間に気孔を開くため(通常夜間の空中湿度は高い),気孔からの水分のロスが少
なく,多肉質であり貯水能力に富むと言う一般的特性と相まって,耐乾性には極めて優れ乾燥条件に適応した植物である。
(27)
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4488542
by S.Ichihashi、 2014
CAM植物は必ずしも乾燥地帯に原生す
るものばかりではない。ラン科やアナ
ナス科の植物などは,雨量の多い熱
帯・亜熱帯の森林などに着生する。着
生環境は水の得にくい条件ではあるが
乾燥条件ではない。このような植物は
生育は遅く光合成能率は劣るが,他の
植物との競合もない夜間に二酸化炭素
を吸収することにおいて,より進化し
た光合様式を持っていると考えられる。
③光合成に影響する要因
光合成速度は,光強度の増加ととも
に有る程度までは増大するが,
ある強度になるとそれ以上光
が強くなっても光合成量は増
大しなくなる(光飽和点)。この
光
作
物
作物・野菜
現象はC3植物で顕著である。物
合
成
C3
イネ,ムギ,エンバク,ソバ,サツマイモ
ジャガイモ,エンドウ,ダイズ,ラッカセイ
トマト,ナス,キュウリ,ダイコン,ハクサイ,ネギ
様
C4
トウモモロコシ,キビ,アワ
サトウキビ,シコクビエ
理的反応である明反応は受光
エネルギーの増加に比例し進
草花
むが,酵素反応である暗反応が
律速条件となり,光ー光合成曲
線で示されるように光合成は
キク,ユリ,チューリップ,パンジー等
シンビジューム,デンドロビューム,ミルトニア
温室植物,サボテン,多肉植物
ラン科などCAM植物を除く
すべての植物
式
CAM
パイナップル
食用サボテン
リュウゼツラン(アガベ)
アロエ(イシャイラズ)
アナナス科植物
サボテン 科
ベンケイソウ 科
ラン科の一部
光強度の増加に比例しない。光
光合成様式とその特徴
合成能率ね光飽和点は植物の
種類によって異なり,光合成能
形態的特性
力は植物種により異なる。
光飽和点以上の過度の光は
光合成にとっては意味がない
だけではなく,過剰な光エネル
ギーは葉温の上昇,光合成装置
(クロロプラスト)の破壊につながり
(強光線下ではクロロプラスト
生理的特性
C3
維管束鞘は未発達で
葉緑体は存在しない
C4
維管束鞘は発達し
葉緑体が存在する
光飽和点は低い
光合成速度は小さい
最適温度15-25 ℃
酸素により光合成は
阻害される
CO2 補償点30-50ppm
光呼吸を示す
耐乾性は低い
光飽和点は高い
光合成速度は大きい
最適温度30-40 ℃
酸素により光合成は
阻害されない
CO2 補償点5ppm以下
光呼吸は示さない
耐乾性は低い
CAM
維管束鞘は未発達で
葉緑体は存在しない
液胞がよく発達する
原 理 的 に
測 定 出 来
な い
”
”
”
光呼吸を示す
耐乾性は高い
が破壊され緑が薄くなる),は
なはだしい場合は回復不可能なダメージ(葉焼け)をもたらす。強光度下では呼吸(光が当たった時に特徴的に見られる呼
吸を特に光呼吸と言う)が顕著になるが,これは光合成装置を保護するための解毒的光エネルギー消費の過程であり,過剰な
光エネルギーは光合成収支の上からはかえってマイナスになる。
光強度と二酸化炭素濃度が一定の場合,二酸化炭素吸収は温度の上昇とともに増加しさらに高温になると再び低下する
(温度ー光合成曲線)。この曲線は二酸化炭素吸収が最大になる温度(生育適温)が存在することを示し,生育適温では光合
成能率も高い。
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二酸化炭素吸収速度は温度,光の他に二酸化炭素濃度によっても影響され,二酸化炭素濃度が上昇するにつれて吸収速度
は増加する(二酸化炭素光合成曲線)。二酸化炭素濃度上昇に伴う二酸化炭素吸収の増加率はC4植物よりもC3植物で大き
く,C3植物が高二酸化炭素濃度に適応しているとする根拠になっている。
大気中の二酸化炭素濃度はマクロには0.032%(320ppm)でほぼ一定であるが,植物の周辺では昼と夜,風の有無などによっ
て変動する。二酸化炭素が光合成で固定されるには気孔から吸収されなければならないが,気孔からの吸収は幾つかの要因
によって影響される。葉の周辺には葉との摩擦によって葉面境界層と呼ばれる空気層が形成され,二酸化炭素が葉面境界層
を通過して気孔から吸収されるには分子拡散によらなければならない。葉面境界層は二酸化炭素の吸収に対しては一種の壁
のように働く。風速が遅いほど葉面境界層は厚く,二酸化炭素は供給されにくい。空気を撹拌すると葉面境界層は薄くなり
二酸化炭素の供給は良くなる。したがって風速が大きくなるほど葉面境界層は薄くなり二酸化炭素は吸収しやすくなるが,
空中湿度が低い場合には葉中の水分の蒸散を抑えるため気孔が閉鎖し,二酸化炭素の吸収の増加は起こらない。したがって,
二酸化炭素の吸収の増加をはかるためには湿度を維持しながら(75%以上)空気を撹拌しなければならない。湿度は温度ー
光合成曲線にも影響し,湿度が低い時は低温側での二酸化炭素吸収が高まるが,湿度が高いとより高温での二酸化炭素吸収
が高まる。これは高温では飽差(飽和水蒸気圧とその時の水上気圧との差)が大きく低温の場合よりも気孔から蒸散しやす
くその影響が表れやすいことによる。同様な現象は光強度についても見られ,強光度の下ではある風速以上になると水スト
レスを生じ,光合成速度は減少する。
④気孔の開閉
二酸化炭素は気孔を通って吸収されるため,その開閉の影響は光合成速度に極めて大きい。気孔の開閉は,C3植物では明条
件で開き暗条件で閉じる。乾燥条件では水分を保持するために閉じるが,湿度が85%までの高湿度条件では気孔の開度は増加
し二酸化炭素吸収が高まる。二酸化炭素濃度によっても気孔の開閉は影響を受け,二酸化炭素濃度の上昇とともに気孔の開
度は大きくなる。C3植物では通常の二酸化炭素濃度下での気孔は全開しておらず,25,000ー30,000ppmではじめて全開する。
これはC3光合成が,二酸化炭素高濃度に適応していると考えられるひとつの理由でもある。このように光,水ストレス,二酸
化炭素濃度などいろいろな要因によって気孔の開閉は影響を受け,間接的に二酸化炭素吸収と固定に影響している。
(2)光形態形成
光合成以外にも種々の生育反応に光は必要であり,これらの反応を光形態形成と言う。
種子発芽;光感受性種子(好光性種子)の発芽は,赤色光(660nm) により発芽は促進され,遠赤色光(730nm)により発芽は
抑制される。植物の緑葉の透過光には緑色光(500-600nm)と遠赤色光(700nm 以上)が多く,青色光と赤色光は受けていない。
光不感応性種子でも,発芽に不適当な条件では,赤色光(660nm) により発芽は促進され,長時間の遠赤色光(730nm) 照射によ
り発芽は抑制される。また,非常に感度が高く数秒間の照射で効果はある,乾燥種子でも光感応性はある,効果は長期間持続
する,などの例があり,光不感応性種子のほとんどは光感応性種子と考えられる。
嫌光性種子では,光受容体に強光阻害が起こっていると考えられる。種子の光発芽現象は,弱光に対するものと強光に対す
る反応がある。光感受性種子の,赤色光(660nm)による発芽促進と,遠赤色光(730nm)による発芽抑制は,弱光反応である。嫌
光性種子の反応は強光反応であり,太陽光の下ではすべての種子で,常に強光反応が起こっていると考えられている。
陽葉,陰葉;光のよく当たる場所の葉(陽葉)とそうでない所の葉(陰葉)では,葉の形態は異なる。陽葉では,葉は厚く,小
形の場合が多いが,陰葉では薄く大形である。これは,光の強さに反応した結果と考えられ,形態の違いだけでなく,生理的に
も異なった特性を持ち,陽葉では光飽和点,光補償点とも高く,強光下での光合成能率がすぐれ,陰葉では両点とも低く,低照
度での光合成能率がすぐれ,弱光下に適応している。
節間伸長;黄化苗の節間伸長は,赤色光と遠赤色光による制御と,青色光により制御されている。緑化苗でも,赤色光,遠赤
色光,青色光により節間伸長は制御されているが,植物により光の効果は異なる。オシロイバナでは青色光による伸長抑制効
果が大きく,キュウリ,マリーゴールド,ペチュニアなどでは赤色光による伸長抑制効果が大きい。
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根の発達:ラン科植物の無菌発芽の場合暗条件では根は分化・発達がみられない。栽培条件でも,光強度が低い場合には
根の発達は貧弱で,十に光りをあてて栽培すると根は良好になる。
(3)光周性(Photoperiodism)
キク,アサガオなどは毎年
同じ時期に開花する。これは,
弱い
シネラリア,アザレア,レックスベゴニア
する仕組みを持つためである。 セントポーリア, パフィオペデイラム
これらの植物では,日長に反 オンシジューム,ファレノプシス
ミルトニア
応し,一定の日長(限界日長) アオキ,ヤツデ,ユズリハ,カクレミノ
以下の日長になると花芽分化 センリョウ,マンリョウ,カラタチバナ
ヤブコウジ,トベラ,ヒイラギ,ムベ
とその発達が促されるように ヒサカキ,ツバキ,サザンカ,サカキ
なる。限界日長以下の日長で クスノキ,ヤマモモ,ゲッケイジュ,モッコク
タラヨウ,ミツマタ,クチナシ,チャ,ヤマブキ
開花が促進される植物を短日
季節の移り変りを正確に感知
作物の生育に適した光強度
中程度
シクラメン,ゼラニューム,ストレプトカーパス
ドラセナ
デンドロビューム,シンビジューム
強い
プリムラポリアンサ,ペラルゴニューム
ポットマム,グロキシニア
ニレ,シデ,ゴヨウマツ,カエデ,サクラ
ツツジ,モクレン,アジサイ,ボケ,
カイドウ,フジ,マユミ,ニシキギ,ザクロ
モクセイ,キソケイ,オウバイ,レンギョウ
エニシダ,ハクチョウゲ,マサキ
スギ,マツ,ヤナギ,イチョウ,ユリノキ
バラ,ライラック,ムクゲ,ウメ,モモ
ハギ,キョウチクトウ,サルスベリ
マンサク,ネムノキ,ソテツ,タケ,ササ
植物といい,限界日長以下の
日長にならないと永久に花をつけないものを絶対短日植物という。限界日長以上の日長で開花が促進されるものを長日植物
という。植物の日長にたいするこのような反応を光周性と呼ぶ。光周性に要する光エネルギーは光合成に比べはるかに小さ
く電灯の光で十分である。
①光周性
日長と開花反応は,昼間の長さ(明期)との関連で説明されるが,実際は暗期の長さが関係している。短日植物の花芽分化
には,連続した暗期が必要である。例えば限界日長9時間の絶対短日植物は,9時間以上の連続した暗期があれば明期間が1
5時間以上でも開花するが,9時間以下の暗期では,明期が15時間以下でも開花しない。
②光中断
暗期の効果は,その期間中に十分な強さの光によって中断されると,その効果は打ち消される。単波長の光を一定時間照射
し,その効果を調べれば,波長と効果の関係が明らかとなり( 作用スペクトル,action spectrum),関連する物質が推定出来る。
光周性に関係ある物質は,660nm 付近の光をよく吸収する物質(色素)である。
効果=強さx時間(光化学当量則)
また,連続暗期における光中断の効果には,一定のリズムが認められる(マメ科植物の葉の就眠運動など,生物時計)。本
来の暗期での効果は大きいが,本来の暗期での効果は小さい。このリズムをCircadian (概日性リズム)という。
キクでは短日条件下でも,夜間に短時間光を当てるだけで,短日条件は打破され開花は抑制される(電照栽培)。
③フィトクローム(Phytochrome)
レタスの種子(好光性種子)は,暗条件では発芽が抑制され,明条件では促進される。作用スペクトルは,660nm に促進効
果の最大が,730nm に抑制効果の最大があり,2つの形を持つ色素で,開花に関係する色素と同じものである。
④フィトクロームの関係する生理現象
短日植物,長日植物の生殖生長。温帯植物の休眠現象。好光性種子の発芽。マメ科植物の就眠運動。黄化エンドウの胚軸
の生長。
(4)葉焼けと遮光
緑色植物にとって光は必要不可欠のものではあるが,過剰の光は害はあってもなんの益もない。露地栽培される多くの作
物は遮光による光強度の調整を行わなくても致命的な障害を受けることはない。しかし,低光強度に適応した多くの観賞用
植物は,直射日光下で栽培すれば生育は抑制され,甚だしい場合には回復不可能な障害(葉焼け)を受ける。
(30)
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クロロフィルによって吸収された光エネルギーによる水の分解が光合成反応の第一段階(明反応)であり,葉緑体の電子
伝達系によって還元力が生じNADPの還元に用いられNADPHがつくられるとともに,明反応に共役する反応によってATPも合成
される(光リン酸化反応)。このNADPHとATPを用いてCO2 の固定が行われる(暗反応)。明反応は物理的な反応であり,光強
度の増加に伴って増大する。一方,暗反応は化学的な反応であり,光強度の増加によって明反応が進んでも光合成は暗反応に
よつて律速されため,光強度に比例しては光合成速度は増加しない。
強い光による過剰な還元力は活性酸素(O2-;スーパーオキシドラジカル)の形成に使われるが,通常は速やかに酵素(スーパーオキシドディスム
ターゼ)の働きによってH2O2とO2 になり,さらにH2O2はカタラーゼで分解されて葉緑体に障害を与えることはない。しかし低CO2
濃度下では還元力はわずかにしか必要とされないため,過剰な活性酸素の発生とそれによる光合成装置の破壊の危険性は高
まる。C3,CAM型植物では,光照射下において酸素吸収とCO2発生が(光呼吸)の現象が見られるが,これは低CO2条件でも積極
的にCO2を供給しO2-あるいはH2O2の形成を抑え,光障害を防ぐ機構と考えられる。このように過剰な光照射に対しては,2重の
安全回路が用意されている。
光呼吸の意義の一つは,エネルギー(ATP,NADPH)を使って活性酸素を消去し,光合成装置の破壊を防ぐことにある。この
能力の違いが,光強度に対する耐性の違いの理由の一つと考えられるが,光呼吸はエネルギーを消費する過程であり,光強度
の低下によりこのエネルギー消費は節約される。遮光は過剰な光エネルギーをカットすることによって,過剰な活性酸素の
発生の危険性を減少し,過剰な光呼吸による無駄なエネルギーの消費を抑える。遮光によつて葉焼けによる致命的な障害の
回避は可能ではあるが,遮光は曇天など低照度条件では光合成の低下を引き起こす。遮光ネットのこまめな開閉によって光
強度を光合成の最適値により近く保つことは不可能ではないが,晴れたり曇ったり急激に変化する光強度の変化に合わせて
遮光ネットを操作することは実際的な栽培条件では困難である。
C3植物におけるもう一つの葉焼け対策は,低CO2状態を回避することである。CO2の富加,通風による葉周辺の空気の撹拌,気
孔を閉鎖させないような管理などが重要である。気孔を閉鎖させないためには水欠乏に陥らせないことが重要で,水欠差を
生じないような潅水管理とともに,葉からの水の蒸散を抑制するという意味でも遮光は重要である。
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