ミレニアム開発目標(MDGs)提言書 2011 年 1 月 17 日 (特活)国際協力 NGO センター 2010 年 9 月 20 日から 22 日までニューヨークで MDGs 国連首脳会合が開催されました。この会合に出 席した菅直人総理大臣は「菅コミットメント」を発表し、日本の MDGs への取り組みについて今後 5 年間に保健医療と教育分野でそれぞれ約 50 億ドル、約 35 億ドル(総額 85 億ドル、約 7200 億円)の 支援を表明しました。JANIC は、厳しい経済状況の中、日本政府が具体的な支出額を表明したことを評 価するとともに、今後のさらなる取り組みの強化について以下の通り期待します。 ODA の配分 日本政府は、保健と教育以外の分野における取り組みを明確にし、MDGs 全体の達成に向けたより明 確な戦略を立てる必要がある。 日本政府は 2010 年に「ODA のあり方に関する検討」を発表し、「貧困削減 (ミレニアム開発目標 (MDGs)達成への貢献)」を日本の開発協力の 3 本柱の 1 つとした。しかしながら、「菅コミット メント」において表明されたコミットメントは教育と保健に関する支援であり、それら以外の分野に おけるコミットメントは示されなかった。日本政府には今後、MDGs 全体の達成に向けた計画と資金 量について具体的な案を策定することが期待される。 なお、MDGs の達成に向けて現地の人々の貧困状況を把握し的確な支援を行なうために、在外公館に ある政治班と経済班(あるいは経済協力班)に加えて社会班(あるいは社会協力班)を創設すること、 また国際協力局でもこれに対応した適切な組織的対応がとられることを求める。 ODA の量 全体的な援助資金が不足している中、有数の経済大国である日本はその責任に応じたより多くの資 金を拠出する必要がある。また、MDGs の達成には途上国の最貧困層へのアプローチの強化が不可 欠であり、日本政府はこれらの層の貧困削減を中心に ODA を増加させる必要がある。 2009 年の日本の ODA の総額は減少傾向にあり、約 94 億ドルで、対 GNI 比の 0.18%に過ぎず、GNI の 0.7%を ODA に振り向けるという国際公約の実現は難しい状況である。厳しい経済状況にある中で 援助額を増やす国があることを踏まえ、日本政府はまずは ODA を対 GNI 比 0.7%まで増額させる計 画を具現化し、増加に向けた今後の道筋を明確にする必要がある。 さらに、MDGs の達成が最も危ぶまれている国々である後開発途上国(LDC)への日本の ODA 支援 は非常に限られており、GNI のわずか 0.05%しか支援されていない。MDGs の達成には LDC 諸国に おける MDGs 達成が不可欠であることから、日本政府はこれらの国々への支援額を増加させる必要が 1 ある。MDGs 国連首脳会合の演説の中で前原外務大臣は「最脆弱層のニーズに配慮した支援の必要性」 を強調した。このことからも、日本政府は LDC 諸国、その中でも最貧困層へのアプローチの強化を進 める必要がある。 ODA の質 限られた資金量で MDGs の達成を行うためには、援助効果にかかるパリ宣言およびアクラ行動計画 に基づき、日本の ODA の援助効果向上について一層の努力をする必要がある。 公的な援助資金の大幅な増加が見込めない中で、援助の質を向上することが今後一層求められる。特 に、被援助国のオーナーシップの尊重など援助効果向上に関するパリ宣言の原則を重視した援助のあ り方が必要とされる。日本政府が発表した「国際保健政策 2011-2015」においてはパリ宣言に言及さ れているが、「日本の教育協力政策 2011-2015」では触れられていない。他方で、後者に関しては、 セクターワイドアプローチ(SWAPs)やプールファンドへの支援などにも言及されており、援助効果 向上への取り組みが具体的に提案されている。日本の ODA 全体として、援助効果の向上を図るよう な方向性が共有されることが期待される。 NGO との連携の強化 MDGs の達成を早期に実現するために、NGO を主要な開発アクターとして位置づけ、現場でのプ ロジェクト実施から政策立案を含むすべての面において連携の強化を進める必要がある。 菅総理大臣は、MDGs 国連首脳会合での演説において「NGO などの市民社会の役割は非常に大きい」 と述べ、MDGs 達成に果たす NGO の役割の重要性を指摘した。 NGO はこれまでの活動を通して MDGs の達成に貢献してきており、今後より早期に MDGs を達成するために、NGO の知見を活かす形でプ ロジェクト実施から政策立案までのあらゆる面において NGO との連携強化を推進することが求めら れる。 リーダーシップの発揮 日本政府は、MDGs のフォローアップに関する国際会議開催を主導するなど、 国際社会の中で MDGs 達成に向けたリーダーシップを発揮すべきである。 2010 年 6 月に発表された「ODA のあり方に関する検討 最終とりまとめ」において、日本政府は日 本の開発協力の 3 本柱の第 1 番目に「貧困削減 (ミレニアム開発目標(MDGs)達成への貢献)」を 掲げた。そのような中、菅総理が MDGs 国連首脳会合での演説において、会合のフォローアップとし て国際機関や NGO など幅広い関係者の連携強化のための国際会議の開催を提案したことは評価でき る。ODA の最重要分野である MDGs に関して、定期的な達成状況のモニタリングとフォローアップ のための国際会議の開催や関連する国際的な議論において、今後日本政府が積極的にリーダーシップ を発揮することが期待される。 2
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