『老後破産しないために』

『老後破産しないために』
(要旨)
・老後の資金は、長生きとインフレのリスクを避けて安全に運用しましょう。
・公的年金は、70 歳まで待ってから受け取りましょう。42%増額されます。
・現金の比率を落とし、インフレに強い株やドルなどにも分散投資しましょう。
(老後資金の心構え)
老後資金の心構えとして、儲けようと欲張るのではなく、リスクを避けること
を最重要に考えて下さい。儲けようとすればリスクが増えます。リスクの大き
い投資をして老後資金が減ってしまっては大変ですから、くれぐれも欲張らず
にリスクを避けることが大切です。
(長生きのリスクに備える)
老後の生活を考える時、一番心配なのは、長生きをしている間に蓄えが底を突
いてしまうことです。長生きする事は良い事なのですが、老後資金のことだけ
を考えると、長生きはリスクなのです。そこで、長生きをしても困らないよう
な備えをする必要があります。
これは、理屈ではわかっても、実際には簡単ではありません。長生きのリスク
を考えた時の一番強い味方は、公的年金ですから、これを大事にしましょう。
まず、ねんきん定期便で、自分の年金記録が正しい事を確認しましょう。それ
から、過去に公的年金を納めていない期間がある場合には、後から納めること
が出来ないか、年金事務所に相談してみましょう。さらに大事なことは、年金
を受け取り始める年齢を70歳まで待つことです。年金は65歳からもらえる
のですが、70歳まで受け取らずに待っていると、その後の受取額が42%も
増えるのです。100歳、120歳まで生きても、年金が42%多くもらえる
のであれば、安心ですよね。
(インフレに備える)
長生きのリスクに備えることの次は、インフレに備えることです。老後のため
に頑張って貯金をしても、インフレが来て貯金が目減りしてしまっては困りま
す。長生きをすればするほど、その間にインフレが来る可能性は高くなります
から、下手をすると「長生きをしている間にインフレが来る」というダブルパ
ンチになりかねないわけです。
そこで、資産は現金で持たずに、インフレに強い株式や外貨などで運用するこ
とが重要になってきます。株式投資というと「バクチみたいで嫌だ」と考えて
いる人もいるでしょうが、じつは株式投資には二種類あるのです。
「今日買って明日売って儲けよう」というのは、確かにバクチっぽいですよね。
明日の値段が今日より値上がりするか値下がりするか、予想するのは難しいで
すから。しかし、安定している大企業の株を買って、そのまま持っているので
あれば、それほどバクチっぽくありません。安定した大企業の株価は、それほ
ど動きませんし、安定的に配当を支払ってくれます。しかも、株式はインフレ
に強いので、インフレになっても損をしないという安心感を与えてくれるので
す。
ドルも、株と似ています。「今日買って明日売って儲けよう」という取引は、
バクチっぽいので、お勧めしませんが、ドルを買って長期間持っているのであ
れば、インフレに備えるという意味で立派な投資でしょう。
株やドルに投資しない部分も、インフレに強い国債(物価連動国債、変動金利
型国債)などに投資すると良いでしょう。
(分散投資を心がける)
資産運用の基本は、分散投資ですから、リスクの分散に心がけましょう。リス
ク分散というのは、どれか一つが暴落しても、色々な物を持っていれば、資産
全体としては大きな被害を受けずに済むという考え方です。株式だけを持って
いると、株価が下がった時に大損をしてしまいます。ドルだけを持っていても
同じことです。また、現金だけを持っていると、損をする事はありませんが、
インフレの時に資産が目減りしてヒドい目に遭ってしまします。しかし、株と
ドルと現金をたとえば3分の1ずつ持っていれば、どれかが値下がりしても、
損失は3分の1で済みます。株とドルが値下がりし、しかもインフレになって
預金が目減りする確率は8分の1です。実際にはインフレになると株とドルは
値上がりする可能性が高いので、大損をする確率は8分の1よりも更に低いは
ずです。
そこで、老後資金を、銀行預金など(物価連動国債などを含む)で持つ部分、
株式で持つ部分、外貨で持つ部分に三等分しましょう。具体的には、株式で持
つ部分は投資信託で持ちます。投資信託で持つのは、一つの銘柄の株式で持っ
ているよりも、色々な株式に少しずつ投資できる投資信託の方が、リスク分散
が可能だからです。
細かい事ですが、投資信託の難点は、手数料が高いことです。そこで、ETF
という金融商品をお勧めします。ETF というのは、投資信託なのですが、株式
と同じように売買されているもので、簡単で便利で手数料が安いのです。
外貨は、具体的には米ドルの MMF と外国株のETFで持つ事をお勧めします
が、とりあえずドル預金でも何でも外貨で持つと考えていただければ結構です。
このように、様々なものを少しずつ持つ、というのが資産運用の常識なのです
が、もう一つ重要なことは、時間分散ということです。一度に大量に買わずに、
何年かかけて、少しずつ買う、という事です。少しずつ買えば、高い時も安い
時も買う事になるので、運の要素が減り、堅実な資産運用が出来る事になるの
です。
株価が上がっている時には、初心者ほど「急いで買わないといけない」と思い
込んでしまい、結局高値掴みをしてしまう傾向があります。昔、バブルの時に
退職金を受け取って、一度に大量の株を買った人が、バブル崩壊で大損をした、
という事もありました。そんな目に遭わずにすむためには、株やドルを買う金
額を決めておいて、10 年かけて 10 分の1ずつ買って行けば良いのです。
(退職金の運用方法)
退職金は、今まで手にした事のない金額なので、どう運用しようか戸惑ってし
まう人も多いようですが、以下を出発点として、落ち着いて計画を立てて下さ
い。
退職金が出たら、最初にする事は、借金の返済です。借金の金利は預金の金利
よりも遥かに高いですから、借金を抱えたまま、退職金を銀行に預けておくの
は勿体ないです。
なお、退職金が出る前でも、老後のために貯金をしている人は、貯金を下ろし
て借金を返すようにしましょう。もっとも、貯金を全部おろしてしまうと、い
ざという時に困りますから、手元に数百万円は持っておきましょう。また、最
近は非常に金利の低い住宅ローンもありますから、たとえば金利が 1.5%より低
いならば、退職金が出るまで借りている、という選択肢もあります。その場合、
貯金で少しずつ株と外貨を買って行きましょう。
退職金の次の使い道は、生活費です。年金を受け取るのを出来るだけ我慢して、
退職金を使って生活するのです。
年金は、基本的には65歳から支給されますが、年金を受け取り始める年齢は、
60歳と70歳の間で選ぶ事ができます。当然ながら、早くから受け取れば、
毎月の受け取り金額は減ってしまいます。少しでも受け取り始めるのを待てば、
待っただけ支給金額が多くなり、それが一生続きます。
年金は、死ぬまでもらえますし、インフレになれば受取額も増えて行きます。
老後で一番心配なのは、長生きをしている間にインフレになって蓄えが底を突
いてしまう事ですが、年金はそうしたリスクに対する備えとして、大変心強い
存在です。少しでも毎月の受取額が増えるように、頑張りたいものです。
ただし、本当に手元の資金がゼロになってから年金を受け取るというのは危険
すぎます。手元資金が数百万円になったら、年金を受取りはじめましょう。そ
れ以上手元資金が減ってしまうと、何かあった時に困りますし、何もなければ
葬式代として、それくらいは残しておきたいからです。
(年金の将来が不安なら)
読者の中には、「日本政府は財政赤字が大きいから自分は年金がもらえない」
と心配している人もいるでしょう。筆者はそうは思いませんが、人それぞれで
すから、そう考える人には別のアドバイスをしましょう。
年金が受け取れなくなると思うのならば、年金は60歳から受け取りましょう。
受け取れる間に、少しでも受け取っておいた方が得ですから。それからもう一
つ。ドルを買いましょう。政府が破産したり年金が払えなくなったりするよう
な国では、銀行に貯金しても危ないですし、日本企業の株を買っても危ないで
す。一方で、外国人が日本にある財産を売ってドルに換えて本国に持ち帰るよ
うになるでしょう。そうなれば、ドルが高くなるはずです。つまり、財政赤字
のせいで年金が受け取れないと考えている人は、出来るだけ早く年金を受け取
って、それをドルに換えておくべきなのです。繰り返しますが、筆者は死ぬま
で年金に頼ろうと思っていますので、年金の受け取りを70歳まで待ちますが、
人それぞれ色々な考え方がありますから。
(老後も働く)
最後に、老後資金というと、資産運用の話がどうしても多くなりますが、本当
に一番大切なのは、老後も働いて収入を得る、ということです。少ない元手を
頑張って運用するよりも、働いて増やす方がずっと確実だからです。
御主人が定年後も再雇用してもらえるなら、是非頼みましょう。昔の部下に仕
える事があるかもしれませんが、仕事があるだけマシだと思って我慢しましょ
う。再雇用でなくても労働力不足ですから雇ってくれる会社を探せば見つかる
でしょう。とにかく元気な間は働きましょう。
奥様が専業主婦の場合も、御主人の定年後は遠慮なく働きましょう。御主人の
扶養家族になるために働き方を工夫する必要はありませんし、家事や育児の手
間もかからないでしょうから、思い切り稼ぎましょう。場合によっては、厚生
年金を支払うくらい働いて、将来厚生年金がもらえるようにしておく事も、検
討してみましょう。
今回は、以上です。