多様な災害に備える 消防研究センターのあり方一考

多様な災害に備える
消防研究センターのあり方一考
消防研究センター
所長 山
田
常
圭
平成18年4月に消防研究センターが(独)消防研究所から国の研究機関として再出発し、今年で
10年目となる。十年一昔と言われるが、この間、研究資源の縮減が進む一方で火災や漏えい事故調
査業務が加わる等、組織のありようも大きく変化した。また組織を取り巻く自然、社会環境の変化
も大きく、多種多様な事案への対応を余儀なくされてきた十年であった。東日本大震災は言うに及
ばず、昨年には広島での集中豪雨による土石流災害、御嶽山の噴火後の対応等、類稀なる自然災害
が頻発し、広域にわたる消防の機動的な対策がますます必要となってきている。自然災害のみなら
ず石油コンビナート等の我が国の基幹産業施設において多くの死傷者を伴なう事故も発生し、その
数も漸増傾向にある。消防研究センターでは、これら多種多様な事案の調査や消防活動支援に係わ
る研究開発等、その活動範囲が拡がってきているのが現状である。
管理職に身を置くようになってから、なぜか20年も前の人事院研修で聴いた言葉がしばしば思い
浮かぶようになった。
『国の研究機関、特に安全に係る研究機関においては、投網のように幅広い範
囲で研究の目配りをし、網から逃げる魚(発生する被害)を少しでも減らす事が重要な使命である。
』
昨今の社会状況を鑑みると、含蓄の深い先見性のある指摘であったと感じている。また私なりの勝
手な解釈であるが、国研としての消防研究センターに期待されているのは、消防防災研究のハブ機
能の充実強化であり、十年前の“研究所”から“研究センター”への改称には、そうした意図が織
り込まれていたのではないかと推察している。
もっとも限られた数の研究者で幅広い範囲をカバーするのには限界があるし、広く浅くでは国民
の安心安全を担うことはかなわない。特に最近の化学工場での爆発火災のような特殊な事案では、
原因調査や再発防止に高い専門知識が必要とされている。広範囲な領域への目配りと、深い専門性
は一見矛盾するようにみえるが、松本紘氏(現理化学研究所理事長)の言葉を借りれば『高い山を
築くならば、裾野を大きく広げておく必要がある』のも一面真理である。個々の専門知識を高める
と共に、幅広い領域へ目配りできる豊富な知識・見識を併せ持つことが防災研究者に必要な資質で
あり、そうした研究者を核に組織の活性化が進むというのが理想的である。こうした観点からの人
材育成・組織整備については、先人に引き続き、努力していきたいと思っている。
一方で南海トラフ・首都直下地震等と差し迫った危機があり、また我が国の産業基盤を担う危険
物施設での老朽化、専門家の大量退職等、安全上の懸念がある中で明日の安全確保にどう備えるか、
消防研究センターにとって焦眉の課題である。国の科学技術に係る施策の中で位置づけられた研究
課題について効率的に成果をあげ、着実に社会還元を行っていく上では、大学や民間企業等の研究
機関および消防機関との連携をこれまで以上に推進することが不可欠であると考えている。今後、
多くの方々が集える開かれた研究機関を目指して体制整備を図っていきたい。皆様のご協力よろし
くお願いいたします。
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Safety & Tomorrow No.162 (2015.7)