ヒートポンプ配管用 アルミ複合ポリエチレン管の使い分け --

ヒートポンプ配管用 アルミ複合ポリエチレン管の使い分け
---
Type X 特厚管の適用 ---
2014年10月 1 日
アルミ複合ポリエチレン管協会
Multi Layer Pipe Association
アルミ複合ポリエチレン管協会 技術部会 設計施工委員会
技術部会長
川田 厚
株式会社 三栄水栓製作所
設計施工委員長
松川 浩司
株式会社 テクノフレックス
藤澤 秀樹
株式会社 ハタノ製作所
水野 宏俊
アロン化成株式会社
中倉 光浩
タイフレックス株式会社
アルミ複合ポリエチレン管協会 運営部会 広報委員会
運営部会長
小林 伸成
株式会社 ハタノ製作所
広報委員長
松村 信之
アロン化成株式会社
安納 良治
株式会社 三栄水栓製作所
木下 英之
ジョージフィッシャー株式会社
宮原 友計
株式会社 テクノフレックス
1
はじめに
ヒートポンプ配管に従来のアルミ複合ポリエチレン管(金属強化ポリエチレン管やア
ルミ三層管とも呼ばれている)が採用され7年以上の実績がある。
アルミ複合ポリエチレン管協会 (MLPA)では、アルミ複合ポリエチレン管 Type X
一般管 及び Type R 一般管 に相当する。
この従来管は、銅管のように緑青、マウンドレス腐食や孔食が無く、架橋ポリエチレン
管のように施工時のスプリングバックや温水変化による管の蛇行も無い、長寿命で施
工性が良く、仕上りがきれいな新材料として期待されてきた。
しかしながら、これまで多くの不具合が顕在化している。
① 高温塩素水が原因と思われる内層膨れ(ブリスター)の発生による機器停止
(流量不足)。(Type R 一般管は、内面クラックも発生している。)
② 同内層膨れに起因する外層亀裂からの漏水。
③ 施工時の急激な曲げ配管によって管が折れ機器停止(流量不足)。
④ ワンタッチ式継手からの漏水(東日本大震災時)。
⑤ Oリングの高温塩素水による劣化などである。
本協会では発足当時(2010年)より、①又は②の不具合がエコキュート稼働開始
から5年~6年程度経過後に発生する可能性が高いことを指摘してきた。そして、こ
れらの不具合を解決するため、内面膨れのメカニズムを想定し、エコキュート実機に
よる試験などを繰り返し、“アルミ複合ポリエチレン管 Type X 特厚管”+スライディン
グスリーブ式継手(Oリングレス耐震継手)の完成に至った。
また同時に、上述の④及び⑤が解決されている場合に限り、ワンタッチ式継手も使用
できるようにした。
本書は、ヒートポンプ配管で発生した不具合(①~③)に関して、そのメカニズムの推
測と Type X 特厚管への反映について述べたものである。
2
- 目 次 -
1.アルミ複合ポリエチレン管の構造と種類
4
2.アルミ複合ポリエチレン管の使い分け
5
3.ヒートポンプ配管事故別における、アルミ複合ポリエチレン管タイプの適用
5
4.内層クラックの発生原因
6
5.管内面膨れ(ブリスター)の発生原因
11
6.施工時の急激な曲げ配管による、管の折れ
18
7.まとめ (ヒートポンプ配管に最適な材料)
19
3
1.アルミ複合ポリエチレン管の構造と種類
アルミ複合ポリエチレン管協会(MLPA)分類
種 類
Type R
一般管
Type X
一般管
Type X
特厚管
内層
(母材)
高耐熱ポリエチレン
(PE-RT)
架橋ポリエチレン
(PE-X)
外層
(保護層)
高耐熱ポリエチレン
(PE-RT)
高密度ポリエチレン
(PE-HD)
架橋ポリエチレン
(PE-X)
エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂
(EVOH)
4
2.アルミ複合ポリエチレン管の使い分け
アルミ複合ポリエチレン管協会(MLPA)による分類
ヒートポンプ配管
給水・給湯配管
冷・暖房用配管
消火配管
空調配管
Type R
一般管
×
〇
〇
Type X
一般管
△
〇
〇
〇
〇
種 類
(使用条件に注意)
Type X
特厚管
〇
(推奨)
ヒートポンプ配管における Type R 一般管 (内層=高耐熱ポリエチレン)の使用に
関しては、アルミ複合ポリエチレン管協会での実証試験により通常使用においても
管内面膨れ(ブリスター)及び内層クラックの発生が確認されたため、同協会の見
解として使用不可としている。
Type X 一般管 (内層=架橋ポリエチレン)に関しても、条件の特定が困難な場合
が多いので、ヒートポンプ配管での使用は避けた方が安全である。
3.ヒートポンプ配管不具合別、アルミ複合ポリエチレン管タイプの適用
Type R
Type X
Type X
一般管
一般管
特厚管
高温塩素水が原因と思われる
内面クラックの発生
×
〇
〇
高温塩素水が原因と思われる
内層膨れ(ブリスター)の発生
×
×
〇
内層膨れに起因する外層亀裂
からの漏水
×
×
〇
施工時の急激な曲げ配管によ
って管が折れ
×
×
〇
不具合の種類
ヒートポンプ配管には、Type X 特厚管 が最適であると言える。
5
4.内層クラックの発生原因
樹脂管の寿命は、延性破壊までとされ脆性破壊(ぜいせいはかい)が発生する段階
では使用しないようにしている。
このことは、熱間内圧クリープ試験で判定する。
また、破壊形態の推移は下図による。
一般に寿命の推定は、StageⅠ(延性領域)まで、つまり下図の使用限界点(両対数
グラフの最初の屈曲点)までとし、StageⅡ(脆性領域)は延性破壊と脆性破壊が混
在する領域であり、個別試験で延性破壊が確認されれば使用可能となる。
StageⅢ(酸化領域)は完全にクラックが発生し、樹脂寿命の終わりの領域となる。
6
熱間内圧クリープ試験方法はISOで決められており、JISもそれに踏襲している。
試験は無塩素水で実施される。
架橋ポリエチレン管の試験結果(ISO 15875)を参考に示す。
円
周
方
向
応
力
年
時間
しかし、日本では水道に塩素が殺菌のため投入されるため、高温塩素水で同試験を
実施し、安全性を確認する必要がある。
7
内層のクラックは酸化による脆性破壊であり、管材料のグレードに関係する。
アルミ複合ポリエチレン管協会での実証試験により、内層が高耐熱ポリエチレンの場
合は発生するが、樹脂としてグレードの高い架橋ポリエチレンの場合は発生しない。
アルミ複合ポリエチレン管協会によるエコキュート実機を使用した試験
本試験は家庭での実使用を想定し、90℃での連続運転を続けたものである。
試験を実施したのは、架橋ポリエチレン管の塩素水(0.5ppm)での熱間内圧クリープ
試験結果(下図、ASTM 2023 により Bodycote が実施)が、95℃で10年の寿命とヒー
トポンプ配管に当初要求されていた条件ギリギリであったため、クレードの低い高耐
熱ポリエチレン管ではヒートポンプ配管の要求を満たさないと言う判断に起因する。
8
(1) 試験条件
①
②
③
④
⑤
塩素濃度 : 0.5~0.7PPM
温度 : 90℃
機器 : パナソニック製エコキュート
運転 : 90℃沸き揚げモード連続運転
排水 : 常時約 2 リットル排水
(2) 試験状況
エコキュート実機接続状況
本体ユニット接続部
排水状況
9
(3) 試験結果
種類
Type X
特厚管
経過時間
サンプリング顕微鏡写真
内面状態
×10倍
(有害な劣化)
×180倍
41,328 時間
(14.2 年)
なし
StageⅠ
18,700 時間
Type R
一般管
(6.4 年)
クラック
発生
StageⅢ
※ 時間の( )内は、1 日のエコキュート稼働時間を8時間とした場合の、使用年数
相当を表す。
上表データーは、2013年6月24日時点のもので、Type X 特厚管 は試験継
続中で、すでに必要耐用年数である “90℃で15年” を突破している。
この試験結果より、ヒートポンプ配管に使用する材質として高耐熱ポリエチレン
(Type R 一般管)は6年余で StageⅢとなり使用不可である。
一方、架橋ポリエチレン(Type X 一般管 及び 特厚管)は StageⅠの状態をキー
プし、内層膨れもなく使用可能であることが分かる。
10
5.管内面膨れ(ブリスター)の発生原因
管内面膨れによる不具合は、次に 2 種類がある。
発生状況
不具合の種類
高温塩素水が原因と思われる内層膨れ
(ブリスター)の発生
(2ヶ所膨れる場合も確認されている。)
当協会 会員製品
内層膨れに起因する外層亀裂からの漏水
当協会 会員製品
(1) 高温塩素水が原因と思われる内層膨れ(ブリスター)の発生要因
① 発生状況及び考察
1) アルミニウム層はリング構造を保持している。
2) 内層の変色は酸化防止剤が機能しているものであり、強度には関係ない。
3) 内層に高温水は浸透するが、それがアルミニウム部に到達し、その圧力で
内面に押し出す現象は、内層の内外面の圧力バランスを考慮すると考え
にくい。
(外面の圧力が高ければ内面に向かって逆浸透し、圧力がバランスする。)
4) 接着層から剥離している。
5) 内面剥離の形状が、圧縮座屈した場合と酷似している。
11
よって内面膨れは、内層が高温塩素水の化学的影響で強度(弾性係数)が弱
くなり、熱膨張するがアルミニウム部の強固なリング構造で拘束され、変形す
る行き場がなくなり内面に圧縮座屈したものと推測した。
② 解決方法
圧縮座屈を防ぐには、内層の材質を高強度のものに変えるか、管厚を増すし
かない。
材質を変えることは、他市場への適用も考慮し現実的ではないので、次の事
項を考慮し、Type X 特厚管の製品設計条件とした。
1) 内層の厚み大きくする。
限界座屈力を Type R 一般管の2倍以上になるよう、内層厚を決定。
実証試験をクリアするまで増厚していくこととした。
限界座屈圧力の構造計算結果(次頁)から、
厚みは、ISO 4065 (熱可塑性樹脂管規格)を基準とし、SDR=7.4 か
らスタートした。 (結果は、これでクリアした。)
SDR
(=外径16mm/管厚)
管厚 (mm)
13.6
11
9
7.4
6
5
1.2
1.5
1.8
2.2
2.7
3.3
2) アルミニウム層の厚みを製造可能な最小厚みとする。
アルミニウム層の弾性を大きくするため、0.2mm とした。
3) 外層の厚みを製造可能な最小厚みとする。
ドイツ ガス・水道協会 DVGW W542に準拠し、0.2mm とした。
これらを考慮し、内層厚を含めた管構成を再構築した Type X 特厚管寸法を下
表のように決定し、95℃×10 年 の耐久性があるかどうかを、アルミ複合ポリ
エチレン管協会の実証試験で確認した。
15 頁に Type X 特厚管 の耐用年数確認試験結果を示す。
Type X 特厚管寸法表
外径
管厚
内径範囲
参考重量
(mm)
(mm)
(mm)
(kgf/m)
17.0
2.70
11.3 ~ 11.9
0.15
12
アルミ複合ポリエチレン管内層の限界座屈圧力計算
a) 計算条件
弾性係数
降伏応力
(80℃)
(80℃)
(mm)
(MPa)
(MPa)
16.0
2.2
140.0
16.0
0.47
Type R 一般管
16.0
1.2
110.0
13.5
0.47
Type X 一般管
16.0
1.2
140.0
16.0
0.47
内層外径
内層管厚
(mm)
Type X 特厚管
管の種類
ポアソン比
b) 計算式
完全拘束状態での限界座屈圧力は、Amstutz の式(水門鉄管技術基準)による。
座屈変形時の円周方向圧縮応力(σN )算定条件式
1.5
2
k 0 σN
rm
σN
( + ∗ ) (1 + 12 2 ∗ )
rm ES
t ES
=3.36
rm σ∗F − σN
1 rm 𝜎𝐹∗ − 𝜎𝑁
(1
−
)
t
ES∗
2 𝑡
𝐸S∗
力学特性
ES∗ =
ES
1−ν2
σ∗F =μ
σF
√1−νS +ν2S
μ=1.5 − 0.5
2
E
(1+0.002・ S )
σF
限界座屈圧力(Pk)算定式
Pk =
1
σN
rm
rm σ∗F − σN
(1
+
0.35
)
t
t
ES∗
13
ここで、
Pk :
D :
t :
ES :
ES∗ :
限界座屈圧力(MPa)
内層外径 (mm)
内層管厚 (mm)
内層の弾性係数 (MPa)
ポアソン効果を考慮した、内層の弾性係数 (MPa)
σN : 座屈変形時の円周方向圧縮応力(MPa)
σF : 内層の降伏応力(MPa)
σ∗F : ポアソン効果を考慮した、内層の降伏応力(MPa)
rm : 管厚中心半径=(D + t)/2 (mm)
ko : 内層と接着層の隙間=0.0 (mm)
ν: ポアソン比
μ : 支持効果を示す係数
c) 計算結果
座屈変形時の
円周方向圧縮応力
σN
限界座屈圧力
(MPa)
(MPa)
Type X 特厚管
9.27
2.63
1.00
Type R 一般管
5.35
0.96
0.37
Type X 一般管
6.87
1.22
0.46
管の種類
比率
Pk
Type X 特厚管は、Type R 一般管 及び Type X 一般管 に比べ、2倍強の座屈強
度を保有する。
14
(2) 内層膨れに起因する外層亀裂からの漏水要因
内層膨れの発生により、エコキュートは流量不足で停止する場合と停止しない場
合があるが、この場合は後者となる。
① 発生状況及び考察
1) 外面亀裂部は、内層膨れ部周辺で発生する。
2) 内層膨れ部に高温塩素水が内面からの浸透で溜まっている。
3) 局部的に溜まった高温塩水の影響で、アルミニウム部は局部的に熱膨張
及び腐食し亀裂が発生する。
(均等に浸透してくる高温塩素水では、局部電池が構築されないため突合
せ溶接のアルミニム部の腐食は発生しない。)
4) 外層の薄厚ポリエチレン部も、高温塩素水により局部的に熱膨張し亀裂が
発生、アルミニウム部を通過した高温塩素水が外部に漏れた。
よって、外層亀裂からの漏水も内層膨れに起因していると思われ、Type X 特
厚管 にすることで解決される。
しかし、漏水を伴わず外層にのみ膨れが生じる場合もある。
これは高温によりアルミニウム部と外層ポリエチレン部との膨張係数の違いに
よるもので、全管厚が強度メンバーである Type R 一般管 及び Type X 一般
管 は好ましくない。
一方、Type X 特厚管 は強度メンバーが内層のみであり、アルミニウム部と外
層ポリエチレン部が必要なのは施工完了までである。
よって、外層に膨れが生じたとしても強度面(耐用年数)では全く問題がない。
仮に、”アルミニウム部+外層”が膨れても同様である。
15
Type X 特厚管 の耐用年数確認試験
(1) 試験条件
① 塩素濃度 : 2.0PPM
② 温度 : 95℃
③ 試験方法 : 加速試験機による耐久評価試験
ヒーター付きステンレス水槽で水道水を 95℃に沸き上げ
ポンプで供試管に循環
④ 塩素濃度管理 : 一度冷却水槽を通してから次亜塩素酸を点滴方式で常時
濃度管理
(2) 試験状況
16
(3) 試験結果
3 万 800 時間(1 日のエコキュート稼働時間を8時間とした場合 10.5 年相当)後、
劣化・減肉などの故障モードは発生していない。(継続試験中)
よって Type X 特厚管は、95℃で10年耐用の要求性能を十分満たしている。
サンプリング顕微鏡写真
種類
未使用品
(試験前)
加速試験品
(3 万 800 時間経過後)
酸化防止剤による変色のみで、
StageⅠをキープしている。
内面層表面写真
×180倍
厚
み
方
向
断面カット写真
×50倍
17
厚
み
方
向
6.施工時の急激な曲げ配管による、管の折れ
ヒートポンプ配管は給水・給湯配管などと異なり、小さな曲げ半径での曲げ配管が存
在する。
銅管、架橋ポリエチレン管、Type X 一般管 及び Type R 一般管は急激に曲げる
と折れてしまい、10mm 以上の保温材で被覆されているため現場では発見しにくく、そ
のまま使用すると圧力損失が大きくなり、流量不足で機器が停止してしまう不具合が
発生している。
一方、Type X 特厚管は現場施工の曲げ配管では折れることはなく、スプリングベン
ダーなどの使用も必要ない。
急激に曲げた状況の、Type X 特厚管 と Type X 一般管 を比較した写真を以下に
示す。
Type X 特厚管
Type X 一般管
写1.直線状態
写2.曲げ開始
Type X
特厚管
折れ
折れ
Type X
Type X
Type X
特厚管
一般管
一般管
写3.Type X 一般管が折れる
写4.最終状況
(Type X 特厚管は折れない)
18
7.まとめ (ヒートポンプ配管に最適な材料)
ヒートポンプ配管に使用されてきた管材料には、銅管、架橋ポリエチレン管(特定メー
カーの製品のみ)、アルミ複合ポリエチレン管 (Type X 一般管 及び Type R 一般
管)が使用されてきたが、様々な問題点が顕在化している。
・銅管は、緑青・マウンドレス腐食・孔食が発生している。
・架橋ポリエチレン管は密度を上げていると思われ、施工性(スプリングバックなど)
が悪く、設置後も温水変化による管の蛇行が発生する可能性が高い。
・アルミ複合ポリエチレン管 (Type X 一般管 及び Type R 一般管)は、本書で
の説明の通り。
アルミ複合ポリエチレン管 Type X 特厚管は本書での技術的根拠を元に、これらの欠
点を克服した製品として、ヒートポンプ配管に最適な材料と考える。
以上
19