当研究パンフレット - 慶應義塾大学 コ・モビリティ社会の創成

助かる被災者を救うための
大災害急性期救命情報共用システム
研究開発プロジェクト
平成26年度に総務省先進的通信アプリケーション開発推進事業(SCOPE)で
実施した「災害対応モードを有する次世代移動体通信機能の開発」に関する
紹介資料です。
けい
災害発生後の被災者を救うため
にはできるだけ短時間で救命活
動を開始しなければなりません。
慶應義塾大学 株式会社IIC
© 2015 KEIO UNIVERSITY
大災害急性期救命情報共用システムの研究開発
事業概要
大規模災害による犠牲者の数を最小限にするために、救命・救助活動チームに対して要救助
者に関する正確な情報を早期に収集・提供できるシステムについて研究開発しました。
背景・目的
大規模災害による死亡者数を最小に抑えるには、災害発生直後から急性期(72時間以内)の
期間が重要であると知られています。これまでの救命実績から、72時間以内のサーチ・アンド・レ
スキューを実現するには、災害発生から「24時間」程度でレスキューが開始できるかどうかが肝
要です。東日本大震災でDMATなどの支援部隊が行うことのできたレスキュー活動のピークは、
被災者の生存率が20~30%に落ちてからになっていました(図1.)。
本研究開発は、平常時に一
般の目的向けに利用されてい
る無線LANや自動車の運転支
援用の通信手段と機器を用い
て、大規模災害発生時に救命
に必要な情報を早期に収集し、
救命・救助活動チームに提供
するシステムの実現を目的と
して実施したものです。
図1. 東日本大震災のレスキュー活動システム導入による期待効果
システムの機能
開発したシステムは、大規模災害発生直後72時間のサーチ・アンド・レスキュー(捜
索救難)を確実に実行するために、災害発生から24時間前後までに被災現場の情報をで
きるだけ収集し、救命処置担当者に提供できる機能を提供します。以下に、システムの機
能を時系列的に説明します(図2.)。
1. 平常時には、住民の方々はスマートホンやタブレットなどの携帯端末を利用したり、
歩行安全のための歩行者~自動車間の通信手段(歩車間通信)などの情報伝達手段を
利用しています。
2. 大規模災害の直後には、公衆ネットワークなどの通信手段が利用できないことを想定
し、代替無線手段を有する公用車両などが、被災現場の被災者の保持する携帯端末か
ら、無線LANや歩車間通信などの手段で救助要求信号を収集し、本部に送信します。
3. 収集された被災地の情報は、METHANE情報サーバと呼ぶ被災情報集計サーバに集
約され、あらかじめ指定した情報体系に従い情報区分ごとに蓄積されます。
4. サーチ結果の情報は、要求する端末画面の地図上に一定地域ごとに表示するとともに、
データ内容を一覧表として入手できます。
5. METHANE情報サーバは、サーチ結果を救命・救助支援チームの専門家の持つ端末
に対して、災害発生直後からできるだけ早期に配信できるようにします。
6. 救命・救助支援チームは端末上に入手情報を表示し、もっとも効果的となる行動計画
を立て、救命救助活動のために直ちに被災地に移動します。
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救命・救助依頼
被災者ID・位置
災害対策
本部
業務用無線等
METHANE
情報サーバ
インターネット等
インターネット等
救命・救助隊
(D-MAT等)
自治体等
被災地
METHANEレポート
図2. 大災害急性期情報共用システムの機能説明
情報体系
代替無線手段としては、自治体の有する消防無線や移動系防災無線などを利用しますの
で、伝達できる情報量は非常に制限されるため、いかに少ない情報量で必要な内容を伝達
するかが開発上の重要な課題となりました。検討の結果、METHANEレポートと称され
て国際的な情報体系を採用しました。METHANEレポートは、集団防衛と危機管理と協
調的安全保障を任務とするNATO(北大西洋条約機構)が、最小の情報量で精度高く
“サーチ”結果を“レスキュー”に活かすことを目的に開発したもので
す。”METHANE”とは、表1に示すような各情報の各頭文をまとめた総称です。この情報
体系は、国内でも防災一般に利用しようとする動きが始まっていますし、国際的な相互支援の
面からも採用の妥当性が高いものと考えています。
表1. METHANEレポートの内容
M
Major incident
国や公の機関が発令する大規模災害発令
E
Exact location
要救命者の存在場所
T
Type of incident
救出方法や医療処置の必要性.怪我、疾病、溺
れなど要救命者の症状
H
Hazard
現在/今後発生する危険、低温化やガス漏れや
水位上昇など
A
Access to scene
災害や事故の発生場所への到達経路に関する
情報
N
Number of
casualties
その場所に何人くらいの要救命者がいるか
E
Emergency
services
要救命者の救出や救命に必要な装備,また受入
可能医療施設や移送可能な医師情報
災害現場の通信手段
被災者の情報を収集する手段としては、災害専用の特別なものではなく、普段から利用されて
いるものを用いないと、いざというときに使用することがとても難しくなります。平常時利用可能な
システムの災害時利用を条件とした無線方式として、以下の方式を選択しました。
• 無線LAN(WiFi)
• 自動車の運転支援のための車載用路車間通信及び車車間通信(DSRC:専用狭域通信)
• 歩行者の安全を守るための歩行者~車両間の通信(将来)
• スマートホンの端末間直接通信(将来)
将来は、歩行者~車両間の通信手段によって、がれきに埋まった被災者の位置とIDを検知す
るための小さな装置(ペンダントなど)を開発し、保持してもらうことも想定しています。
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開発成果
システムの機能を確認するために実験用の装置を開発しましたので、その一部をご紹介します。
図3は被災者の持つスマートホンの画面です。公共車両が発信する災害対応識別IDを受信す
ることで、被災者端末内アプリが起動し「救助要請ボタン」を表示されます。
図3. 被災者端末(スマートホン)の救助要請操作画面
図4は、救命・救助隊(DMAT等)にMETHANE
サーバから提供される災害現場の情報の画面表
示例です。地図上に集計結果が表示されると共に、
表形式でデータの内容を見ることができます。使用
している地図は国際的にも一般に用いられている
MGRS(Military Grid Reference System)の
10kmゾーンを用いています。開発したシステムで
は、更に細かく2kmのメッシュに分解して示すよう
な機能も加えてあります。
まとめと今後の展開
この研究開発プロジェクトで、大規模災害直後の
人命救助を支援する被災情報収集・提供のシステ
ムの構想から機能実証実験までを行うことができ
ました。実施した機能実証実験は技術面を主体と
したものですので、実用化のためには実際に活動
した経験を持つ皆様方に評価していただけるような
活動に展開することが必要です。
最近の大規模災害時では、国際的な救助支援活
動も活発に行われるようになってきました。そうした
支援活動を有効にするために、本研究開発は大き
な意味を持っております。我が国の災害対応の取
り組みは、日本と同じような形態の災害が多い東
南アジアの諸国でも注目されています。そうした
国々の災害に対する取り組みに十分貢献できるよ
うな国際展開も重要と考えています。
図4. METHANEサーバの提供画面
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