秦野伸二

TOKAI UNIVERSITY
THE
INSTITUTE OF MEDICAL SCIENCES
「神経変性疾患の発症機序及び治療法・治療薬開発に関する研究」
2)患者由来 iPS 細胞を用いた ALS 再生医療の基盤研究
ALS2 患者から樹立した iPS 細胞を用いて運動ニューロンへの分化誘導実験を継続している。さらに、患者由来の iPS 細胞及び分化誘導し
た運動ニューロンにおける各種遺伝子発現に関しての解析を継続している。
吉井文均
Yoshii Fumihito
神経内科学 教授
亀谷美恵
Kametani Yoshie
分子生命科学 准教授
大友麻子
Otomo Asako
分子生命科学 助教
3)新規 ALS 治療薬スクリーニング系の開発
本研究項目では、新たな治療標的としてオートファジー・リソソーム系に焦点を当て、
「膜小胞移送と連携した異常タンパク質の分解と細
胞内小器官の恒常性維持作用」の定量的計測に基づく薬剤スクリーニング系を確立することを目的とする。前年度に、pH 感受性蛍光タン
プロジェクトリーダー:秦野伸二
Hadano Shinji
基礎医学系 分子生命科学 教授
脳・神経疾患研究センター長
パク質(mKeima-Red)融合型 LC3B を全身で発現する LC3B-TG マウスの作出に成功したことを報告した。本年度は、LC3B-TG マウスの
導入遺伝子発現レベルの検討を行った。その結果、LC3B-TG マウスの F1 において、mKeima-Red-LC3B は、中枢神経系、心筋、及び骨
格筋において高く発現していることを確認した。
4)東アジア地域における ALS 関連遺伝子変異の大規模スクリーニング研究
【研究目的】
近年、遺伝子配列解析技術の進歩に伴って神経変性疾患の原因遺伝子が次々と同定され、疾患発症の分子機構解明に向けての研究が
筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic Lateral Sclerosis; ALS) は、上位及び下位運動ニューロンの選択的変性を特徴とする進行性の神経変
飛躍的に進展している。その一方で、様々な国々における多様な遺伝的背景の違いによって、疾患患者における原因遺伝子変異の頻度が
性疾患である。ALS 患者の 5 ~ 10%は家族性であり、大多数は孤発性である。現在、ALS の発症機序は不明であり、有効な治療法・治
著しく異なることも明らかにされてきた。本研究項目では、中国の複数の研究機関との連携により、東アジア地域、特に中国にある膨大な
療薬はない。疾患に対する効果的な治療法・治療薬を開発するためにも、ALS の発症及び進行の分子機構を解明することは喫緊の課題で
患者資源を用いて、ALS 患者の包括的遺伝子変異解析を遂行するとともに、既存の欧米人遺伝的解析結果との比較により、日本人を含め
ある。ALS マウスモデル等を用いた分子病態解析により、これまでに酸化ストレス、興奮性毒性、アポトーシス、ミトコンドリア機能異常、
た東アジア人に特有な ALS 発症の分子的要因の特定を目的とする。昨年度、四川大学との共同研究により、孤発性 ALS 患者特異的な
ER ストレス、RNA 分子動態の異常、グリア細胞活性化、脳血管系異常、凝集タンパク質の集積、細胞内物質移送異常等、様々な発症並
SQSTM1 遺伝子変異(I99L、D337E、L341V)の同定に成功したことを報告した。本年度も引き続き、SQSTM1 遺伝子に着目し、35 家
びに疾患進行要因が提唱されてきた。
しかし、
個別機構のみでALSの発症を説明しようとする試みは全く成功していない。
そのため、
現在では、
系の家族性 ALS、及び孤発性 ALS 患者 436 人の SQSTM1 遺伝子配列について健常者 384 名の配列と比較した。その結果、E81K、
ALS は多数の機能的異常が複雑に絡み合って発症するものと想像されているが、実際にはそのような多因子間の相互連関及び各種要因の
N239K、G297S、E372D、P388S 及び P392L の新規疾患特異的変異の同定に成功した。
発症への寄与率等の実態については全く不明である。本研究では、多因子の変調と疾患発症について未だ体系的な解析が全くなされてい
ない現状を打破するため、重要な発症要因の中から、酸化ストレス、タンパク質分解異常、及び細胞内物質移送異常に焦点を絞り、生体
レベルでの複数の疾患発症要因の相互連関を明らかにし、最終的に ALS 発症の包括的分子機構の解明ならびに治療法の開発を目指す。
【今後の展望】
本研究で注目する “p62/SQSTM1” は、大多数の孤発性 ALS 患者脊髄に蓄積凝集体として観察されるとともに、p62 をコードする
SQSTM1 遺伝子には、ALS 患者特異的な遺伝子変異が多数発見されており、ALS 発症との関連に興味が持たれる。しかし、神経系におけ
【研究成果】
る p62 分子シグナル系に関する知見は未だ限定的であり、p62 凝集体蓄積と疾患発症との関連については全く不明である。今後、これら
(1)マウスモデルを用いた ALS 発症機序に関する研究
の発症因子・システム異常と病態との関連、及びその制御系の分子基盤が明らかにされれば、運動ニューロン恒常性維持機構の解明及び
本研究項目の遂行を通じて、昨年までに p62/Sqstm1 (p62) の機能喪失によって変異 SOD1 発現型の ALS マウスモデルにおける疾患症
その治療的調節に向けての大きな前進となり、新たな疾患治療薬・治療法の開発への波及効果が期待される。
状が顕著に悪化することを見出し、それが脊髄における運動ニューロンの早期変性・細胞死に起因した運動機能の低下によるものであるこ
とを報告した。本年度は、p62 の欠損が ALS 疾患の疾患症状を悪化させる分子背景を探るために、p62 欠損 ALS マウスモデルの大脳皮
Selected Papers.
質及び脊髄における疾患関連遺伝子群の発現を ALS マウスモデルと比較した。リアルタイム PCR による遺伝子発現定量解析の結果、ALS
1. Yang Y, Tang L, Zhang N, Pan L, Hadano S, Shang HF (2015) Six
SQSTM1 mutations in a Chinese amyotrophic lateral sclerosis cohort.
Amyotroph. Lateral Scler. Frontotemporal Degener. (2015) Feb 24:1-7.
2. Pan L, Otomo A, Koike M, Uchiyama Y Aoki M, Abe K, Ishii T,
Yanagisawa T, Shang HF, Yoshii F, Hadano S (2014) p62/SQSTM1
deficiency accelerates motor neuron degeneration in SOD1H46R transgenic
mice. Amyotroph. Lateral Scler. Frontotemporal Degener. 15 (Suppl. 1): 11
3. Chen YP, Zheng ZZ, Chen XP, Huang R, Yang Y, Yuan LX, Pan L,
Hadano S, Shang HF (2014) SQSTM1 mutations in Han Chinese
populations with sporadic amyotrophic lateral sclerosis. Neurobiol. Aging
35, 726.e7-726.e9.
マウスモデル及び p62 欠損 ALS マウスモデルの脊髄では Gfap、Nestin、及び Aif1/Iba1 の疾患進行に伴う発現上昇が認められた。しかし、
p62 の欠損は、ALS マウスモデルのアストログリオーシスの進行を示唆する Gfap の発現には影響を与えなかった。さらに、ウエスタンブロッ
ト法によって大脳皮質及び脊髄における変異 SOD1 および疾患関連タンパク質の発現解析を行った。脊髄の不溶分画を解析した結果、ALS
マウスモデル及び p62 欠損 ALS マウスモデルにおいて、疾患の進行に伴い高分子体・単量体 SOD1 及びユビキチン化タンパク質の蓄積
が認められた。また、疾患発症後期における高分子体 SOD1 の蓄積量を定量解析した結果、p62 の欠損によってその量が増大することが
4. Suyama K, Watanabe M, Sakabe K, Otomo A, Okada Y, Terayama H,
Imai T, Mochida J. (2014) GRP78 suppresses lipid peroxidation and
promotes cellular antioxidant levels in glial cells following hydrogen
peroxide exposure. PLoS One. e86951.
5. Pan L, Otomo A, Abe K, Ogawa H, Chiba T, Koike M, Uchiyama Y,
Aoki M, Yoshii F, Ishii T, Yanagawa T, Hadano S (2013) Loss of
p62/SQSTM1 exacerbates motor dysfunction in a mutant
SOD1-expressing mouse ALS model. Amyotroph. Lateral Scler.
Frontotempo. Degen. 14, 180-181 (P217).
判明した。よって、p62 欠損による変異 SOD1 凝集体の蓄積量の増大が疾患の発症早期化に寄与していることがと示唆された。
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脳・神経疾患部門
Neurological Medicine
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