今、 活躍中の同窓生 「組織とステークホルダーを 動かし, 思い描いたことを 実現するリーダー」 −中間領域の専攻を活かして− 横浜市都市整備局 防災まちづくり推進室長 額田(高橋)樹子 氏 (S57社) 鹿島建設株式会社 安全環境部 担当部長 米谷(鍋谷)秀子 氏 (S59経61修) インタビュー,写真撮影 2015.4.10 鹿島建設株式会社 鹿島赤坂別館にて ぬかた(たかはし)みきこ 1959年 東京都生まれ 1982年 横浜市役所入庁 現在に至る。 大型コンピュータにかけ,今なら 5 分で済むかもし 前から興味を持っていた分野を専攻 れないようなものを,1 日かけてやっていました。 ――― 専攻を選ばれた理由,研究室での学生生 かなり関連が強い内容だったのですか。 活について,教えてください。 額田 専攻を選んだきっかけですが,小学 4 年の 時,自宅新築にあたって色々と部屋のレイアウトを 書いたことです。 初めはただの真四角の部屋を描 いていましたが,家らしいものを描けるようになる経 験を通じ,家を造るって楽しい,建築家になりたい と思いました。 そこで,第 6 類に入ったのですが, 1 年時の製図で自分が不器用なことに気づき,精 ――― 研究室で学ばれたことは,今のお仕事と 額田 私は横浜市役所に土木職で入りました。色々 なセクションを回ってきたので,専門が全ての仕事 にダイレクトに関係したわけではないのですが,どこ のセクションでもベースになる都市計画の仕組みや 国・地方・住民の関係などは,大学で学べたと思っ ています。 ――― 米谷さんはいかがでしたか。 米谷 私は高校のときから,環境問題に興味があ 緻さに欠けても許されそうな社会工学に進みまし り,関 係する書 物を読んだりしていました。また, 年生では卒論のために,秋ごろから研究室にどっぷ で海に飛び込んでいく映像や患者さんのお姿など た。こんなことを言うと先生方に怒られますね。 4 りと染まり,週の半分ぐらいは学校に泊まる生活で した。アンケートの単純集計をしていただけですが, 当時は一通一通のデータをパンチカードに入れて, 4 ●プロフィール 1050 高校で水俣病の映画を見て,猫が狂ったような姿 に,ものすごくショックを受け,こういう不幸なことは もう絶対に起こしてはいけない,環境分野にぜひ行 きたいという思いを持ちました。ただ,当時は環境 ●プロフィール よねたに(なべや)ひでこ 1962年 東京都生まれ 1986年 日本銀行入行。 1991年 鹿島建設株式会社入社 現在に至る。 分野というと,研究所か役所というイメージがありま したが,逆に問題を起こす側である企業の中に入っ て,環境への影響を極力減らしていくという立場の 仕事をしたいと考えました。その結果,経営工学科 が私の中での一つの解になり,4 類に入ったという 経緯です。 4 類は機械工学系がメインですから,と にかく女子学生が少なかったです(180 人中,女 を読 んでそのよう な分野に非常に関 心 を 持 った の で, いきなり東 大 の 中 西研に電話をかけ て,「 先 生 のご 本 を読んで,先 生に 性は私 1 人)。 黙っていたらなかなか話し掛けても もご 指 導 いただき けて,名前を覚えました(笑)。 も 」 とお 願 いし, ちらは誰だっけという感じが多いと思いますが,素 生ご了解の元,中 らえないので,一生懸命 4 類の男性たちに話し掛 ――― 女性 1 人だと,みんなは覚えるけれど,こ 晴らしいですね。 米谷 卒論は 「江戸川左岸流域下水道の在り方」 たいのですけれど 指導教官の早川先 西 研にも行ったり, データをもらいに役所にも行ったりの研究生活をし ということで流域下水道と公共下水道を比較して, ていました。 フィットをシミュレーションするというテーマを取り上 げました。当時,東大助手の中西準子さん * の本 行動的ですね。 幾つかの下 水 処 理のパターンごとにコスト / ベネ 学生時代は弓道と共に(米谷氏) ――― 自ら外部の先生にお願いするとは,すごく 米谷 そうですね。 当たって砕けろというような。 1050 5 活躍中の同窓生 今、 怖いもの知らずだったのかもしれません。 他には, 弓道部に入り,部活にかなり入れ込んでいました。 額田 かっこいい。 ――― 額田さんは何かなさっていたのですか。 とで,いろいろ経緯がおありでしょうから,鹿島建設 にたどり着くまでのことも含めてお願いします。 米谷 先ほど言いましたように,私はやりたい仕事 のイメージを具体的に持っていたにもかかわらず, 額田 私は卓球部でした。女子はテニス部が多かっ 日銀に入りました。ものづくりに影響を及ぼすよう 何とはなしに。 弓道部という選択肢に気が付けば またま初めて日銀から求 人が来たという話が入っ たですが,卓球部に女子の先輩が 2 人いたので, 行っていたかもしれません。 本来やりたかった仕事に就く な世界で環境をやりたいと思っていたのですが,た て,ちょっと面白いかもしれないと思ってしまいまし た(笑)。日銀には 5 年 3 カ月在籍したのですが, その間,札幌支店や調査統計局で仕事をしました。 その間に,卸売物価指数の並びで企業向けサー ――― 次に,就職先を選んだ理由と現在に至る ビ ス 価 格 指 数(CSPI:Corporate Services します。 がり,そこに入ったのですが,私に割り当てられた 域なので,就職先としてはゼネコン,銀行もあるの それを見た瞬間に,ああ,やっぱり神様は私をこう でした。 当時,女性の就職先として公務員以外は に真面目にそう思ったのです。 はじめとする六大事業で注目を浴びていた横浜市を 米谷 そうなのです。 それで,物価指数のレポー までの大まかな経緯について,額田さんからお願い 額田 社会工学科は土木,建築,経済の中間領 ですが,都市計画をやるのであればメインは公務員 少ない状況もあり,ちょうど 「みなとみらい21」を 受けました。 ――― 米谷さんは,就職先を選んだ理由というこ Price Index)をつくるプロジェクトチームが立ち上 幾つかの業種の中に産業廃棄物処理がありました。 いう方向で働かせたいと思っているのだなと,本当 ――― 仕事の方から来たというか・・・ ター開拓があって,価格報告の協力をお願いする ために廃棄物処理業者を何社か回っていったので す。 そのときに,建 廃は扱っ ていない化学系廃棄物の処理 業者の方から,「廃棄物処理 の価格を調べるなら,廃棄物 の 中で一 番 多い建 設 廃 棄 物 の 価 格を取らなくては駄目だ よ」とアドバイスいただき,鹿 島で環境をやっている人を紹 介されたのです。 そのつなが りで大成建設や竹中工務店な どの 方にもお話を聞いていく 中で,もともと私はこういう人 たちがやっている仕事をやりた かったのだと思うようになりま した。 その時 期にたまたま職 場結婚することになったのです が,当時は行内結婚したら女 性は大体辞めるという時代で した。これは逆に良いタイミン グで,銀行に対しては 「私は 行内結婚だから,すみません けれども,辞めざるを得ないの 6 1050 で辞めます」という顔ができ, 実際は本来やりたかった仕事 に就くというそんな不思議な縁 でした。 ――― 鹿島には最初は一般 職でお入りになったと聞いて, すごく驚いたのですが。 米谷 そうですよね。 ――― 普通だったら, 「えっ, 一般職?」となると思うのです が,そうではない判断をされた のが,結局チャンスをつかまれ たことになったのですね。 米谷 そうですね。 別にさほ どお金が必 要でというわけで もないし,そういう仕事がやり たいから入るだけですから,何 でもいいですと。 気 楽ですよ ね。 東 京 支 店 の 総 務 部 の中 で廃棄物の仕事をしていたの で,人 事がすぐそばにいたの ですが,入って 4 ~ 5 年がたっ たころでしょうか,当時の人事課長が 「あいつは総 合職にした方がいいんじゃないの」という感じのノリ が,臨海部の旧市街地は,道路も狭く家が密集し た地域です。そこで, 危険性の高いエリア 1,140ha で,総合職にしていただきました。ですから,転職 を指定し,そこで建築物を新たに建てる際は準耐 ラッキーだったのです。 度 1 年間かけてつくりました。 今はちょうどその広 いですよね。 せて,費用の補助も進めています。 の経緯から総合職になるまでも含めて,あまりにも ――― 頑張りを見てもらえるというのは,ありがた 仕事は時代の要請を反映 ――― では,本論に入っていきますが,現在の 火建築物にしなければいけないという制度を,昨年 報中で,7 月 1 日から実際に規制をかけます。 併 ――― 米谷さんはいかがでしょうか。 米 谷 私 の 場 合 は,この 23 年 間 は 環 境 一 筋 で来ています。 最 初は廃 棄 物 の 適 正 処 理や 3R (Reduce,Reuse,Recycle) の 促 進 が 発 端で 仕事内容を,学生さんにも分かりやすくお願いしま したが,その後解体工事で出てくるアスベストに対 額田 今の職場は都市整備局防災まちづくり推進 対応,さらには放射線管理など,様々な分野の現 あの地震を契機に,国や全国の市町村が震災対策 社に移り,支店の指導をしています。また,建設業 どういう被害が起こるかシミュレーションをやり直し 師や,国の委員会の委員を務めています。 とが改めて浮き彫りになりました。 今は全市の関連 るのですか。 例えば田園都市線沿線はゆったりとした住宅街です ンを規制する法律の見直しの委員会などです。 省 す。 する適正な措置や ISO14001 の取得,土壌汚染 室です。 東日本 大 震 災から丸 4 年 経ちましたが, 場への直接指導がメインです。 2003 年からは本 の見直しをしています。 横浜市も大地震が起きたら 界の立場での活動もあり,業界で行う講習会の講 たところ,火災による被害が非常に大きいというこ ――― 国の委員はどういうことをやっていらっしゃ 部署とその対策をやっているところです。 横浜は, 米谷 建設リサイクル法の見直しの委員会や,フロ 1050 7 活躍中の同窓生 今、 庁で言うと環境省や国交省です。 社会資本整備審 議会や中央環境審議会の下にある小委員会などで ちは要りません。それは役所に頼めばいい話です。 ――― 規制というとお役所がつくっているイメー こういうことで困っているということも知っています。 つくり上げているのですね。 されるのだろうか,会社として在るべき姿や,法律 のは,やりがいを感じますね。 うしておかないとまずいよねといったことまでを含め す。 ジがありますが,実はそれだけではなく,実績から 米谷 そういうことにまで関わらせてもらえるという やりがいは,やっぱり人々が喜ぶこと ――― 次に, お仕事の中で, 経験して良かったこと, 私たちは現場の状況をよく分かっています。 現場が そういう中で法律も守りながら,どういう判断なら許 の縛りはないけれども実際の環境影響を考えるとこ て,会社としての路線を決めるのがメインの仕事で す。そういうスタンスでやっていると,現場の人たち もそのスタンスを理解してくれて,相談に来てくれま す。そこで解決策を見いだしていったり,「施主から 印象に残ったことなど,若い方に伝えたいエピソード こんなことを言われている」「住民がこういうことを 額田 横浜市役所のような地方公共団体は,住民 も,とにかく管理部門は,現場が働いて仕事をしてく があればお願いします。 と直接接する機会が非常に多いところです。私は住 心配している」といった現場の困り事に対応する時 れるおかげでお給料をもらえているという立場,気持 民の皆さんと協働で事業を進めるセクションに 2 回 ちを忘れずに,決して上から目線ではなく,常に現 す。民間のバスも市営バスも,採算性が重視され, ことを現場の人たちが感じ取って感謝してくれるとき くは高齢化しており,自動車の運転も困難になるな 事は付き合う相手が幅広いです。 国や自治体の役 ほどいました。 一つは,バスなどの地域交通関連で 赤字では存続が難しくなります。 一方で,住民の多 ど,バスの必要性が高まっています。ですので,ど のような路線にすれば採算性の成り立つルートが引 場の支援というスタンスを心がけています。そういう に,一番喜びとやりがいを感じます。また,この仕 人はもちろん,工事の発注者や現場の社員・作業 員,外では経団連の活動もしているので他産業の方 けるかを住民と話し合って運行計画をつくり,事業 とお話をすることもあります。また,私は入ってすぐ 者に乗合免許を取ってもらうなど,住民と行政,事 のように幅広く人と接触できるのは,ある意味ゼネコ 者にも声を掛けて,バスが駄目だったらタクシー事業 業者をつなぐ仕事をしました。 数年で幾つか路線が でき,地元の方にすごく喜んでいただけました。自 分たちでつくったバスは大事にしなければいけない から産廃処理会社の方たちと一番話をしました。こ ンの特性かもしれませんが,私の仕事では特に多い かも知れません。そういう中でそれなりの役割を与 えられて仕事ができているというのは,本当にうれし と積極的に乗ってくださいますし,便利になったとい くてありがたいことだと思います。 す。もう一つは,防災関係で,危険性の高い地域 ですね。 け,住民発意で防災まちづくり計画をつくっていただ 断する人も多いですよね。 時間がかかるものですが,住民との交流の中で地域 なりますよね。 き,これもやりがいのある仕事です。 す。 米谷 環境関係は法令がたくさんあって,ものすご たいですね。 例もありますから,とても現場の人たちが全てを理解 組織を動かす醍醐味と, 人とのつながりの大切さ 分に身に付けた上で臨まなければいけないのですが, ――― お二人は,女性としては非常に上のポジ う声も頂けるので,非常にやりがいのあった仕事で の方たちに「勉強会でもやりませんか」とお声を掛 き,事業に協力してもらう取組をしています。これは が徐々に良くなっていくのを目の当たりにすることがで ――― それでは米谷さん,お願いします。 く分かりにくい上に,頻繁に改正されます。さらに条 はできません。ですから,私たちは法律の知識を十 8 だからといって杓子定規な指導をするだけなら,私た 1050 ――― すごく貴重なお話というか,管理部門の鑑 米谷 法律がこうだからといって,すごく厳しめに判 ――― でも,「駄目」 で済ませたら,聞きに来なく 米谷 そうです。それでは管理部門は要らないので ――― 今のお話は,管理部門にいる人に聞かせ ションに上り詰めていらして,これから先ももっと上 がっていかれるかと思いますが,仕事で成功する上 で大事なことは何でしょうか。とかく理系の女性に ――― 今後はどんな仕事をしていきたいですか。 額田 公務員というのは公僕ですから,市民の皆 様のためにならなければいけません。自分が関わっ は, 「現場の仕事が楽しいから,管理職は結構です」 た仕事によって,少しでも人が暮らしやすくなればい いいと思えるようなお話を頂ければありがたいので ていきたいと思っています。 という人が少なくないように思われます。 管理職も すが。 額田 仕事をうまくやっていく上で大事なことは,や いなと思います。そのような仕事を積極的に手掛け 米谷 自分の後継者の育成が,最大かつ最難関の 課題です。この仕事だけで二十数年やってきていま はりコミュニケーション能力だと思います。 市民との すが,私ももう 50 代ですから。ただ候補者がいな とのコミュニケーションも大事です。 ある一時期お にもお願いしたいです(笑)。 異動してしまうと仕事上は関係が無くなることも多い 楽しみがありましたら教えてください。 コミュニケーション,役所内の別のセクション,同僚 付き合いがあって,それなりに知った仲になっても, ですが,過去の関係を維持していくことも大切です。 損得でつながりを維持しているわけではありません が,そういったものをずっと大事にしていくことは, 仕事をしていく上でも,プライベート面でも,大きな 意味を持つのではないかと思います。 ――― 今,部下の方は何人ぐらいいらっしゃいま すか。 額田 今のセクションは,私を入れて 20 人です。 いので困っています。この場を借りて同窓の新社長 ――― 最後に,仕事から少し離れて,ご趣味や 額田 フルマラソンに 4 回 チャレンジして,4 回目にし てやっと横浜マラソンを完 走しました。ところが,横 浜マラソンは距離が 180 mぐらい足りなかったのです (笑)。 ――― 健康にもいいで 地震火災対策というのは色々なセクションを網羅す すし,楽しいので,一石二 人が防災まちづくり推進課の担当課長を兼務してい 趣味は何ですか。 るところでもあるので,別の局や区役所の課長 15 ます。 鳥ですね。 米谷さんのご 米谷 私はひたすら乗馬 ――― 米谷さんはいかがでしょうか。 です。 私の部下は 3 人です。おこがましくてリーダーとし 次は乗馬。 米谷 肩書きだけは大層ですが(笑),実質的に て何か言えるような立場ではないのですが,心がけ 額田 いいですね。 弓の 全国下水道職員健康駅伝に 出場(額田氏) 米谷 両方が熟練すると流鏑馬(やぶさめ)になる てきたのは,誰に対しても誠実であることです。 相 のですけれどもね。 しています。 先ほど言いましたように,幅広い方々 ――― 長時間,本当にありがとうございました。 手によって言うことを変えるということはしないように と付き合っていますが,国の役人と話をするときで も,処理会社さんと話をするときでも,違うことは 言わないし,言えないたちです。また,コミュニケー ション能力とバランス感覚も大切だと思います。 部 額田 そうですね。素晴らしい。 *中西準子(なかにし じゅんこ) 独立行政法人産業技術総合研究所フェロー,横浜国立大学名誉教 授,紫綬褒章を受章,文化功労者 下が少ないとはいえ,役職をそれなりに与えられる と発言力が増すので,そこはスペシャリストだから 一担当でいいと言って同じことをやり続けているより も,実際に自分がやりたいことができるように,組 織全体をそういう形に持っていく。 偉そうなことは あまり言えないのですが,少しずつでも自分の理想 に一歩ずつ近づけるという意味では,やはり役職と いうのは大きいです。 イ ン タ ビ ュア ー : 関根(川上)千津 (H1 修電子化 14 博有・高) 文 : 平山(村松)南見子(S45 修化学) 写 真 撮 影 : 魚住 貴弘 1050 9
© Copyright 2024 ExpyDoc