事業の成長ドライバーを目指す 三越伊勢丹HDの人事改革

Vol.16 No. 1
2015
Contents
p.2
シリーズ/経営イノベーション対談 12
事業の成長ドライバーを目指す
三越伊勢丹HDの人事改革、
人材育成の新たな方向性とは
中村氏
「従業員と向き合い、対話し、助
言できる人事部を目指します」
現場から遠い人事部ではなく
“個”
と向き合い、
“個”
の成長を支援する人事部へ 全員が最大限に力を発揮できる人事制度・職場環境づくりが着々と進む。
中村 守孝
p.8
株式会社 三越伊勢丹ホールディングス
執行役員 経営戦略本部 人事部長
高野 研一
(株)ヘイ コンサルティング グループ
代表取締役社長
先端企業ケーススタディ34
10倍速くやり、5倍多く失敗し、2倍成功する
ヤフーの「爆速経営」を支える人材育成
すさまじいスピードで変化するI T業界で、競争力をいっそう高めるためのヤフーの人事改革。
改革推進のキーワードは「課題解決」、
「爆速」、
「フォーカス」、
「ワイルド」
。
ヤフー株式会社
本間 浩輔 執行役員 ピープル・デベロップメント統括本部長
本間氏
「経営とともに、人事も進化し
なければならないと考えてい
ます」
p.12
HAYマネジメントセミナー
リーダーシップ開発のベンチマーキング調査
ベストリーダーシップ企業調査 2014
−世界のベストカンパニーの実践から日本企業の課題を探る−
ヘイグループのニュースレターは、そのとき
どきに求められる変化や進 歩について、さま
ざまな企業とご一緒に学び、
分析し、提案し
てまいります。
小さい媒体ですが、多くの企業の皆様とと
もに、
ビジネスの革新を通じて社会に貢献す
る一 助でありたいと考えております。
リーダーシップ開発は日本企業にとっていまや不可避のテーマです。最新の調査結果をもとに、
現在の日本企業におけるリーダーシップ開発の状況および課題について考察します。
柏倉 大泰 シニアコンサルタント
ヘイグループ p.16
ヘイグループからのお知らせ
2015
12
1
事業の成長ドライバーを目指す
三越伊勢丹HDの人事改革、
人材育成の新たな方向性とは
株式会社 三越伊勢丹ホールディングス
執行役員 経営戦略本部 人事部長
(株)ヘイ コンサルティング グループ
代表取締役社長
中村 守孝 高野 研一
中村 守孝氏(なかむら もりたか)
1984年慶應義塾大学法学部卒業、
株式会社伊勢丹入社。1992年慶應
義塾大学大学院経営管理研究科修
士課程修了。
その後、同社経営企画部、
IT系グループ会社出向、営業政策部等
を経て、2010年経営企画部長として
三越、伊勢丹の事業会社統合を推進。
統合後の組織、経営システムの構築等
に従事。2011年株式会社三越伊勢
丹 取 締 役 執 行役員経 営 企 画 部 長 。
2012年より株式会社三越伊勢丹ホー
ルディングス執行役員経営戦略本部
人事部長
(現職)
として、人事制度改革、
人材育成プログラムの構築等に取り組
んでいる。
さらなる事業成長のために、
「高い魅力のコンテンツ創出」、
「顧客接点の拡大と充実」、
「生産性
向上」などを基幹戦略とし、高レベルの価値提供を目指す百貨店最大手の三越伊勢丹ホール
ディングス。同社は人材の質の向上を重要テーマと位置づけ、人事制度の改革も推進している。
人事部長に就任して3 年、経営トップ(大西 洋社長)のビジョンを受け、改革の指揮をとる執行
役員の中村守孝氏に、新たな人事の方向性や人材育成への思いをうかがった。
“人事”の役割を根本から見直し
価値観を再構築するための改革
連関の中で存在するのですが、業務そのものが分
断されてしまっているため、ケアレスミスが多いのは
当然として、シナジーの中から出てくる新しい発想
高野 経営企画から人事の担当役員に変わられ
がなく、単に従来のやり方を継続している場面が垣
て、最初にどのような課題をお感じになったのか。ま
間見えました。
ずは、そのあたりからお話しいただけますか。
また、ビジョンが存在しないために、自分たちの仕
中村 「人事部」
という組織自体に多少課題がある
事のよりどころ、価値判断をどこに置くのかのミッショ
と感じました。人事部および三越伊勢丹ヒューマン・
ンや、行動規範もなかったのです。
ソリューションズ(IMH)
という分社化された子会社、
そのため組織全体としての活力や、新しいことに
この両方に課題があると感じましたね。機能や職制
チャレンジしようという成長意欲も弱かったですし、
で縦横のつながりが切れてしまっていて、組織内の
結果として、現場や従業員へのサービスを提供す
シナジーが働いていないことが最大の課題でした。
るという本来の役目を遂行できていない。これを一
本来、1 つひとつの人事の機能は、それだけで
番に感じましたね。
完結するものではありません。非常に多岐にわたる
同時に、人事部以外の社内の部長階層以上に
も課題がありました。人事への関心事が人によって
人の従業員が働いていますから、本当に色々な思
偏っていて、
「採用」のことを言う人もいれば、
「評
いの人がいます。それを人事部はどの程度わかっ
価」のことを言う人もいる。「昇格試験」のことを言う
ているのか? 部門長からヒアリングした情報、もし
人もいるし、
「考え方」や「仕組み」のことを言う人も
くは年に1 回、従業員に出してもらう自己申告は本
いるわけです。
当に生の声なのか。もっと人事部門から個人にアプ
すなわち、人事に対する会社としてのとらえ方と、
ローチしていかなければ、
「人事部が現場から遠
それを実行していく人事部、さらに子会社の IMH
い」
という声を払拭できないのではないか。仕掛け
を含め、経営と人事部の両方に課題がありました。
ていく制度をよりよくするには、
「自分たちのことを考
高野 ビジョンや価値観の欠如に対して、問題意
えてくれている人事部」
として、従業員から頼られな
識をお持ちになったわけですね。
ければいけませんから、個の世界に入っていくこと
中村 はい。そこでまず、原点に立ち戻って考える
を強く意識しました。
ことを徹底するようにしました。何かちょっとしたミス
でも、対症療法で終わらせてしまっては、本質的な
改善がなされません。部門間の連携という観点から
も、
「ほかの人が見ているはずだから間違いないだ
ろう」
といった、他者依存的な立ち位置を見直しま
高野 研一
大切なのは、
1人ひとりが考え
協働によりシナジーを生み出すこと
しょうと。そこで「人事のミッションとは何だ?」
というこ
高野 これまでのやり方を変えていくためには、か
とを再定義することを目的に、部長に集まってもらい、
なり大胆な手を打たなければならないと思いますが、
合宿するところから始めました。
具体的にはどのようにされたのですか?
人事部、あるいは子会社のIMHといった枠組み
中村 大卒定期採用応募者の面接がその一例で
から離れて、
「もっと本質的な人事の課題とは何
す。私が人事部長になる前年の採用では、6 割の
か?」、そして「我々はどうすべきか」を考えようじゃな
学生が内定を辞退しました。震災の影響もありまし
いかと。そういう中で、人事のビジョンやミッションを
たが、内定者 50 人のうち、20 人しか入社してくれ
導き出し、会社が負う責任と従業員が目指すべき姿
なかったのです。原因はまさしく個に向き合っていな
の両方をつくっていきました。そこから、施策や具体
いことだと感じましたので、最終面接の責任者として、
的なアイデアにつなげていくことを、人事部とIMH
従来のやり方を大きく変えました。
で共有化するところから始めたわけです。
例えば、学生たちの表面的ではない本質的なも
同時にそれを経営に対しても発信し、オーソライ
のの考え方、人格や精神的なタフさなどを見たいと
ズを取りながら、1 年目はこれ、2 年目はこれというよ
思ったので、ややタブーと思われるような、
“ 強い ”
うに、ロードマップをつくって進めました。
面接をしたわけです。もちろん人格否定などとは別
高野 人事としての目指すべきゴール、課題につい
です。しかし、
「もっとあなたという人間を知りたい」
と
高野 研一
てもお話しいただけますか?
いうことですから、相手がつらい思いをしたとしても、
中村 ゴールはビジョンで掲げ
きちんと向き合って本当に掘り下げることによって、
た状態を実現することですが、
どういう人材かがわかり、かつ、入社をしてくれる可
そのために「できる限り
“ 個 ”で
能性も高くなるだろうと思い、面接のやり方を大きく
向き合う」ことをテーマに掲げま
変えました。当然、採用チームにも意識改革を求め
した。多少情緒的になりますが、
ました。
1 人ひとり、性格や価値観、人
結果、辞退者は14%まで下がりました。大半の学
格があり、それぞれが違う存在
生は、
「こんな面接は受けたことがない」
ということで
であるということ。これを、きち
した。SNS の時代ですから、あとで何かあるんじゃ
んと認識しなければいけないと
ないかという心配もありましたが、3 年間で600人の
いうことです。「人数分のダイ
面接をして、危惧したような反応はゼロでした。
バーシティ」などという言い方も
逆に、
「ここまで自分に向き合ってくれるのであれ
しています。
ば、他社の内定を辞退して三越伊勢丹に来たい」
三 越 伊 勢 丹だけで 12,000
という学生もいましたし、残念ながら採用には至らな
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かったけれど、
「自分を見つめ直す機会ができて、
します。
その後、別の会社に内定が決まった」
とわざわざ報
中村 「それぞれにいいもの、人にない得意技を
告に来てくれた学生もいました。
持っているだろう」
という前提から入っていく。何か
つまり、できる限り個と向き合いながら、心の内を
いい素養や、表出していない能力があるだろうとい
さらけ出してもらう。そして聴くだけではなく、それ
うポジティブな前提に立つ。しかし、1人では表出し
に対してアドバイスをできる人事部にしたいのです。
にくい。かといって、私が全部 1 対 1でやると言った
これが、掲げたビジョンに対する「行動の変革」の
ら時間は足りず、下も息苦しい。
一例です。
となれば、横や斜めの連携の中で、そういったも
高野 インパクトのあるやり方ですね。
のを引き出し合う。いまは、徐々に1 対 1のものが、1
中村 もう1 つ、部下に対して強く求めたのは、
「考
対 2、2 対 2に広がってきたような感覚です。私は実
える」
ということです。
「何のために、この仕事をやっ
務には口を出しませんが、単純に「ラインが言ってい
ているのか」、
「なぜ自分の部下がその仕事をやっ
るからやる」
というような理由は認めない。「今すぐ
ているのか」、
「仮にこれを変えたら、何がいけない
にこれはできないけれど、次にはこうする。もっとこう
のか」
といったことを、とにかく徹底して考えてもらう。
した方がよい」
とか、ラインに対しても、こちらの考え
私自身も部下に「これを変えたいけれど、どう?」
を論理的に示さなくてはいけないと言いました。
と聞いて、変えてはいけない明確な理由が出てこな
言ったことを果たせない場合もまれにはあります
ければ「じゃあ、変えてみようよ」
と言ってどんどん変
が、やりとりをしている中で、できること、できないこと、
えました。その結果、
「それまでの人事のやり方」
と
「いまやるべきことは、こうじゃないか」
と議論して、
いう画一的な考え方を、メンバーが自発的に変えて
コミットしたからには最大限、対グループ会社も含め
いくようになっていきました。部門長としては非常に
て努力する。そういう姿勢が見えれば、現場からも
うれしいことですよね。1人ひとりの生産性が上がる
そんなに批判は出ません。
わけですから。
「人 事 部と他 部 門」、
「人 事 部 内 部」、
「IMH 内
1人ひとりと向き合い、対話をして、アドバイスを
部」、
「人事部とIMH」、とにかく部門や人間の距離
する。人事部の独りよがりではない、一定の妥当性
感やものの考え方、アクションを、できるだけ近づけ
を持った人事制度を構築できるようになる。そのた
ることに注力しました。
めには、
「考え抜く」ことが不可欠です。それと
「協
働」ですね。
高 野 冒頭でおっしゃった組 織 内のシナジーを、
「協働」によって促そうと。
中村 困っていたら助けなさい、助けられたら助け
“個”を重視すれば
人の評価軸も大きく変わる
返しなさい、よい知恵がなければ、2 人で集まって
高野 お互いのやりとりの中で、ときにプレッシャー
解決策を出しなさいと言いました。部長同士はもち
をかけ合ったりしながら、個人の素質、能力を引き
ろん、縦横斜めにこれをやる。すると、私が来た当
出していくことが「個を重視する人事」のビジョン、
初、縦割りであまり会話もなかった状態だったのが、
価値観ということでしょうね。
いつも何か議論、相談している雰囲気が出てくるよ
中村 そうですね、それと
「評価」です。例えば育
うになりました。
児勤務の人は、短時間勤務ゆえに、良い評価が付
また、担当間の競争意識も生まれました。目立つ
かないというのはナンセンスです。育児勤務の人で
のは、どうしても人事企画担当などになるわけです。
も生産性が高ければ“A 評価 ”であって、逆にフル
しかし、縁の下の力持ちである労務担当からも
「ぜ
タイム勤務者でも生産性が低ければ評価は下がる。
ひ自分たちの提案を経営戦略会議に上程させてほ
むしろ、少子高齢化の中で子どもを育てながら働い
しい」
といったウィルが出てくるようになり、改革に取
ているわけですから、会社にも社会にも貢献してい
り組む意識が部内に満ちていくのを感じましたね。
る。ここにも人事制度改革のヒントがありました。
高野 お互いに切磋琢磨して知恵を出したり、技
私の部下のある女性は、育児勤務で時間が足り
を磨いたりするような印象ですね。個と個のぶつかり
ず、任されている仕事が残ってしまう。そして、後ろ
合い、対峙というのは、武道にも通じるような感じが
髪を引かれながら子どもを迎えに行くことが辛いとい
ピーディに進められるのは、経営トップの理解があっ
てこそだと心から感謝しています。
その中で、
トップが従来から課題感を抱いていた
「選抜的な制度の不在」
というところにもつながって
いくわけです。「個を見る」
ということは、平等に提
供することではなくて、潜在能力や将来性を感じた
ら、当然、別立てのメニューを与えて、将来のエグ
ゼクティブに育て上げていくということをしなければ
いけません。
そのため、ヘイさんと組ませていただき
「ビジネス
リーダープログラム」を立ち上げることになりました。
執行役員たる力をつけさせる訓練と、執行役員た
る力があるのかというアセスメントの2 軸でやる。上
司によって評価は変わるため、社内だけでやってい
ても不十分だと考えました。
「リーダーの育成については、上
司によって部下の評価が変わ
るため、社内だけでやっていても
限界があると思いますね」
うわけです。真面目なんですよ。
短時間勤務ゆえのこうした問題が少なくないこと
が判って、何をしたかというと、例えば、月に最大 10
個々をきちんと評価しつつ
モチベーションを引き出す
日間、誰か子どもの面倒を見てくれる人がいる日は
高野 そういった思いが、弊社のプログラムを採用
フルタイムで働ける仕組みを設け、制度化しました。
していただいた理由だったわけですね。
これも1 人ひとりと向き合い、
「何を悩んでいるのか」
中村 高野社長のお話に感銘を受けたということも
を知ることが出発点だったわけです。
大きな理由です。そこからすぐに役員が輩出される
ただ、従来のやり方を根本的に見直すことに対し
かどうかは別としても、何かをつかんで、気づいて、
て、部内には私に対する反発もあったと思います。
よりよいリーダーになってくれれば、非常にいい投資
何せ忙しいですし、しかも考えろと言われる。しかし
だと思います。無形の本人資産として残りますし、こ
あえて部長職には非常に厳しく指導しました。リー
れが広がって、経営に対するリテラシーの底上げが
ダーシップスタイルでいけば、
“ 強いリーダー ”になっ
できればいいと思いますね。
てしまったかもしれません。強引にでも引っ張らなけ
その人たちがいろいろな部署に配置されている
ればいけないと思いましたから。もちろん率先型で、
ほど、面が広がります。そのとき、自分たちがやった
何でもやってしまったわけではありませんが。
ことをベースに議論ができて、
「この事業の成長ドラ
高野 従来のやり方を大きく変えるとなれば、当然、
イバーは何か?」、
「市場のスイートスポットを探し出そ
経営陣との間でコンセンサスを得る必要もあります。
う」
というような会話が広がっていくと信じています。
中村 人事部長の立場として、体を張ってやってい
高野 選抜者以外では、どのような施策を打ち出
かなければいけない場面はありますね。1 人対上席
していらっしゃるのですか?
役員全員のような構図を経験することにもなります。
中村 基本的な問題として、すでにある仕組みを、
ただ、一番の課題は、人事部をよくすること以上
従業員に周知できていないということもありました。
に、会社全体をよくすることです。
マネジャー職への登用試験においても、
「私がマネ
経営トップは「人材はコストではなく、最大かつ唯
ジャー試験に挑戦していいんですか?」、
「あれは大
一の資産だ」
と言っており、そのトップの思いと現場
卒の人が受ける試験だと聞いています」
と言うわけ
のやる気をつなぐことが、人事部の役割ととらえ、契
です。そうじゃないでしょと。そこで個別面接の際に
約社員に対する対応、販売に特化した能力の高い
試験を受けるように促していくようにしたところ、短
人たちへの対応など、様々な改革を進めています。
大・高校卒の社員も多く手を挙げるようになり、当
まだまだ課題は山積みですが、これらの改革がス
初 2、3 人だったものが、いまは平均して毎年 10 人
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受かるようになりました。
ですから個にフォーカスして、適性がある人を適所
「自分がマネジャーになってチームを率いてみよ
に配置して、縁の下の力持ちもきちんと評価すると
う」
と目覚めて、チャレンジして、受かる人がたくさん
いうことが大切なのです。将来のリーダー候補にプ
出てきました。これが私の仕掛けたことの中では、
レッシャーをかけるのも、経営陣の一員になるという
一番うれしいことかもしれません。
ことを仮想的にでも感じ、とことんその立場になりきっ
受かればさらによい仕事をしてくれるんですよ。
て考えてもらいたいからです。
「大変ですけど、やりがいがあります」
と。20年くら
い就業しているんですから、仕事はできますし、お
客さまも持っている。そこで、
「入口は違えど、ゴー
ルは公平」
という標語をつくったわけです。頑張る
気のある人はチャレンジしてください。力があるのに
経営戦略のコアとしての機能を
伴わない人事では意味がない
手を挙げる勇気が持てない人は、所属や人事で背
高野 個に光を当てて個人の力を引き出すという
中を押してくださいと。多くの人がエントリーすれば、
のは、非常にシンプルなやり方ですが、一方で、各
それだけいい人材が上がっていきますから。
人にプレッシャーをかけながらやろうとすると、こちら
また、女性の管理職比率は現状約 20%ですが、
の人間性も試されます。そうした状況に自身を追い
これまでの延長では2020年の 30%という目標に届
込んでいる面もあると思いますが、その結果、多彩
かないと思います。大卒で言うと、これまで男性を
な打ち手につながり、人事部の風土も大きく改善さ
女性より若干多く採用してきましたが、将来のことを
れたと考えられますね。
考えると逆でもよいと思っています。優秀な女性が
中村 風土に関して言えば、先般、義務化に先
ポストに就いたときに、それを認める風土はあるので、
立って『ストレスチェック』を実施しました。人事部と
あとは実力がある人材をきちんと登用していけば、
してはうれしい結果が数字として表れたのですが、
目標に近づくと考えています。
会社全体としては全国平均に比べて突出してよい
これは理想ですが、最終的に人事部が目指すべ
わけではないので、これも人事部の責任と見れば、
きは、キャリアのアドバイザーやカウンセラーでしょう
決して満足できるものではありません。
ね。もちろん資格的な意味だけではなく、従業員の
結論から言えば、部門の風土は、リーダーによっ
会社人生が少しでもよくなるように、人事部としてど
て、よくもなれば悪くもなります。ただ、私が優れてい
のようにアプローチしたり、キャリアアドバイスができ
るというようなことではなく、よくみんなが頑張ってくれ
るか。悩みだけ聴いていればよいという時代は終
ていると思っています。人事部のメンバーが「人や
わったと思います。
という気持ちがあったところを、
会社に貢献したい」
そういう形の中で、年間 1,000人以上、各階層の
ちょっと刺激して引き出し、軌道に乗せて、あとは勝
社員や月給制契約社員を対象に面接をしています。
手に自走してくれたらいいわけです。
私自身も国内外の部長職 420人と全員面接し、でき
私自身、欠点も数多くありますし、偏っているとこ
るだけ相手を知るように努めています。人事をやる
ろもあるわけで、人事をやる中で、自分自身が痛み
以上これは不可欠だと考えています。一見大変で
を伴って認識させられた部分もあります。自分自身
すが、実はのちに大きな財産となって返ってきます。
の修養という意味において、経営企画などでは得ら
高野 「ビジネスリーダープログラム」の選抜者の
れなかったものがあると思いますね。
方々に対しては、中村部長自ら強烈なプレッシャー
また、人事というのは、経営の中枢機能だと考え
をかけていますけれど、リーダーが先頭に立って、
ていますから、いくら美しく人事ビジョンを描いても、
個人同士が切磋琢磨するような状況をつくっていく
経営戦略部門としての実体的な機能を伴わなけれ
ような感じですね。
ばだめだと思っているんです。この面白さを、人事
中村 人というのは、昇給とか昇格も大事ですが、
部長になってより実感させていただいています。
その前に、組織における自分の存在感を、自分で
高野 私たちヘイグループには、
「パワー動機」
とい
明確に意識できる、あるいは何かの仕事において
う言葉がありますけれど、中村部長の「パワー動機」
人の役に立った、それに対して感謝されたというこ
が、相手のパワーを引き出すことにつながっている
とが、モチベーションの根幹ではないかと思います。
んでしょうね。
中村 単純な話をすれば、10の力をできるだけ10
任があって、その中で「リーダーって何だ?」
という
に近く出しきってほしいわけです。10あるのに6しか
学びですね。結局、会社というのはプロジェクトの集
出していない状態はもったいない。だったら6のうち
まりですから。
5.5 出している人のほうが、私は尊いと思うんですね。
だから、
「やっぱり、10ある力は7 や 8は出そうよ、3
しか出してないよ、もったいないね」
と、こういう言い
方はしましたね。
高野 人の力を引き出すために、自分が積極的に
伝統に裏打ちされたよき風土を
さらに磨いていくのが人事の役割
影響力を発揮するというリーダーシップのスタイルは、
高野 そういった人を育てる風土、あるいは伝統の
いつごろ、どんなふうに獲得されたのでしょうか?
ようなものがもともとあったのですか?
中村 経営企画や営業本部の企画スタッフ、出向
中村 三 越も伊 勢 丹ももともと呉 服 商ですから、
先の改革スタッフなどを合計20年経験しましたが、
先輩が後輩に対して手とり足とり教えていくという風
その中で、非常に難しいテーマを、孤独な環境の
土は、ものすごくありました。ただ、昨今は人対人の
中で考えさせられ、実現まで持っていく訓練を数多
伝承、心のつながりが保ちにくい環境になってきて
くさせられたということですね。単にプランを策定す
いますので、人事部門が入り込んでいくことが必要
るだけでなく、実行する上で何がボトルネックかを考
になります。面接だけではなく、どのようにそれを具
え、それをクリアして着地させる。
体的な制度面、プログラム的な面で補っていくのか。
そこから、考えることの苦しさや、プランが通った
例えば「ビジネスリーダープログラム」のメンバー
あとの苦しさを学んできました。一歩間違うと、プラ
に対しても、5年、10年先に、彼らが経営を支え、さ
ンが通ったところで自分の仕事は終わりと勘違いす
らによい風土の会社にしていってもらうことを強く望
るスタッフが多いのですが、そうではありません。提
みますね。
案した自らが案件の事務局のリーダーとして全社を
長い歴史を持った会社ですから、新興企業のよ
横串で束ねてプロジェクト化し、関係者の協力体制
うな風土をいきなりつくるといっても、そうそう簡単に
「人事に求められるのは、美しく
を築くことから始めていくことになります。
描かれたビジョンだけではなく、
「自分で考えて、課題を見つけて、やってみて、
経営戦略部門としての実体的
失敗して、ほめられて」
ということを若いうちに繰り
な機能だと考えています」
はできないと思います。三越伊勢丹のよさを生かし
つつ、新しいものの見方、スピーディな意思決定と
アクション、さらには「いままでにない異質な見方」を
返していないと、評 論 家
吸い上げる仕組みをつくっていくことができるとよい
で 終 わってしまう。また、
と思います。そのためにも、人事は本当に重要だと
若いうちからプロジェクト
つくづく感じています。
の中でもまれて組織の動
当社は、経営トップ自身が誰よりも従業員と向き
かし方の勘所を身につけ
合っています。人事における様々な改革をスピー
ないと、スペシャリストを束
ディに進めるためには、
「百貨店は人こそすべて」
と
ねるジェネラルなリーダー
いうトップの強い志と、任せてくれる関係性があって
にはなれない、というのが
こそ実現するものと思っています。
私の持論です。
自分自身もやりがいと良い意味でのプレッシャーを
そういった機会をどんど
感じながら、従業員1人ひとりの力を引き出せるよう
ん増やすためには、プロ
な人事制度・働く環境をこれからもつくっていきた
ジェクトを多く組 成して、
いと思います。
若い人を早いうちから投
高野 徹底して個に向き合い、声を聴き、違いを把
入し、そこで苦労させて
握した上で、全員が最大限に力を発揮できるような
みるというのが、実は一番
人事制度・職場環境をつくり上げることが、中村
いい育成方法じゃないか
部長の推進する人事改革の本質ということですね。
なとも思います。そこには
今日は、そのための具体的施策も含めてお話しい
人 間 関 係、戦 略、施 策、
ただき、ありがとうございました。
進捗管理、結果、説明責
H