研究開発・質管理向上統合センター

医学フォーラム
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<部 門 紹 介>
研究開発・質管理向上統合センター
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CQARDのミッション
研究開発・質管理向上統合センター(CQARD)
は平成 26年 11月 1日に開設され,学内に於い
ては独立した組織として位置づけられています
(図 1
)
.そのミッションは名称が物語るとおり
2つあります.ミッション 1は研究シーズの発
見段階から,その前臨床,臨床研究,実用化に
至るまでシームレスな研究支援を行うことによ
り本学発の研究の推進に貢献すること,ミッ
ション 2は,本学において実施される研究の質
管理・保証を行うことです.このミッション 2
には四つのポイントがあります.一つ目は臨床
研究の科学性・倫理性を担保するために,生物
統計学,利益相反(Co
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ネージメント,倫理審査,知財の観点から支援
いたします.二つ目は研究データの保管であ
り,将来的には本学における全ての研究データ
を一定期間保管できるシステムを作ります.三
つ目は研究倫理教育であり,e
‐ラーニング教材
の履修義務化に加えて,研究倫理研修会の定期
的開催等により,大学院生を含む本学研究者の
倫理意識の向上を図ります.四つ目は論文作成
に関してであり,英文校閲を支援するとともに
オーサーシップや COI
開示などが適正に実施さ
れるように指導いたします.
CQARDの部門構成
センター長は伏木信次(特任教授)
,副センター
長は中川正法(医療フロンティア展開学教授)
,
手良向聡(生物統計学教授)
,瀬戸山晃一(医学
生命倫理学教授)です.CQARDは 5部門で構成
され, 1)研究開発部門は,研究開発の推進及
び研究活動の統合的なサポート並びに研究開発・
図 1 CQARDの学内での位置づけ(2015年 4月 1日現在)
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医学フォーラム
質管理向上統合センターの運営, 2)生物統計・
データマネージメント部門は,生物統計,データ
マネージメント及び臨床疫学に関する助言・相談・
支援, 3)研究倫理教育・管理部門は,倫理教
育・研修,倫理審査及び利益相反管理, 4)臨
床研究部門は,臨床治験センターを中心に承認
された臨床研究計画実施の支援, 5)研究・論
文指導部門は,研究・論文の指導,助言及び適
切性の判断を行います
(図 2
)
.これまでに,DM
システム(DEMAND)
,SAS(10ライセンス+
AF)を稼働させ,さらに顔認証システムを導
入 し ま し た.また,CQARDのホームページ
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ンフレットを作成しました(図 3
)
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現時点ではセンターの人員体制も不十分です
ので,今後 1年で表 1に示す陣容を目指し,さ
らに数年かけて体制をより充実していきたいと
考えています(表 1
)
.このような体制が整うこ
とによって,将来的に臨床研究拠点となること
を目指しています.
1.研究開発部門
本部門の役割の第1は,研究開発の推進及び研
究活動の統合的なサポートを行うことです.本
学の研究アイディアを科学的及び倫理的に適切
な研究へと練り上げるための支援をさせて頂き
ます.また,他部門と連携協調して,研究計画の
実施を後押しします.第 2の役割は,CQARDの
運営です.CQARDが今後,充実した支援機構に
発展するよう,いろいろな企画立案とその実行
にあたります.第 3に,他の部門と協力して,基
礎研究→臨床研究・治験→薬事承認・保険収載
→製造販売後臨床研究の支援を致します
(図 4
)
.
2.生物統計・データマネージメント部門
この部門では,生物統計,データマネージメ
ント及び臨床疫学に関する専門家が,相談を受
け,助言・支援を行い,研究計画の作成及び実
施並びに研究成果の開示の各段階で,適正に研
究をデザイン・データ管理・統計解析して,科
学的に妥当な解釈を与えます.この部門は生物
統計学教室が主導します.本教室では,医学
部・大学院における臨床研究方法論及び生物統
計学の教育,並びに上記の専門家の育成に関与
し,学内で教育と研究の現場をつなぐ役割を果
たします.すでに統計相談も行っており,約 40
件/
年の実績があります.
3.研究倫理教育・管理部門
本年 4月に着任した医学生命倫理学(人文・
社会科学教室)教授の瀬戸山が部門長として運
図 2 研究開発・質管理向上統合センターの目的と部門構成 (2015年 4月 1日現在)
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図3
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表 1 CQARDの各職種の目標とする人員数
営にあたります.他部門に遅れてスタートし,
これから体制を整備し,他部門や倫理審査委員
会等と連携をとりながら,研究者や研究補助
者,そして倫理審査委員会の医学分野以外の委
員も含め,またこれから研究者を目指す学生等
に対して,医療倫理や研究倫理教育及び定期的
な研修の企画と実施を行っていきます.本部門
は,研究倫理規範意識の啓発と向上を図り,研
究不正や逸脱が起きない環境づくりとシステム
の構築を主なミッションとしています.そのた
め,研究計画の倫理審査が迅速で効率かつ公正
で適切に遂行されるための事務局的任務を担う
とともに不正防止と研究の中立性確保に欠かせ
ない COI
の管理のために利益相反委員会が適切
なマネージメントを行うことの補佐的な助言・
指導も担います.
4.臨床研究部門
臨床治験センターを中心に承認された臨床研
究及び臨床試験の計画実施を支援し,臨床研
究・治験が適正に実施できるように支援致しま
す.特に,研究参加者や患者保護を図るように
致します.
5.研究・論文指導部門
本部門は,種々の研究成果が国際学術誌に発
表されるにあたり,オーサーシップや COI開示
などについて助言・指導を行うとともに,英文
校閲を支援することにより,科学的・倫理的に
質の保証された論文が作成されるよう指導いた
します.
医学フォーラム
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図 4 研究相談・支援の概要
本学の臨床研究の現状
本学の臨床研究は,実施中は 745件,先進医
療 Bは当院主導で実施中 1件(先進医療 B:厚
生労働省が定める施設基準に適合した施設で実
施可能となる医療)
です.先進医療 Bの 1件は,
自己口腔粘膜及び羊膜を用いた培養上皮細胞
シートの移植術です.この研究は,患者の口腔
粘膜から取った細胞を培養し,培養口腔粘膜上
皮シートとして,患者の角膜表面に移植するこ
とで難治性角結膜疾患に対して眼表面再建を行
うものです(平成 25年 7月 5日承認)
.
当院の治験件数は平成 27年 1月現在で 65件
で,そ の 内 訳 は 外 部 CRC(Cl
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)による支援を受けている医師主導治
験 1件(当院主導)
,当院 CRCによる支援を受け
ている医師主導治験 2件(いずれも分担)
,企業
主導治験 62件です.2014年に I
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された治験の内,企業主導治験は当院 CRC13
件,外部 CRC13件,医師主導治験では当院主導
1件,分担 1件となっています.
CQARDの今後の展望
研究開発においては,シーズ育成・パイプラ
イン(研究開発パイプライン:研究開始から承
認・発売にいたるまでの開発品を意味します.
)
管理のために,学内のシーズを集約し,パイプ
ラインの把握を行い,研究相談・コンサルテー
ションの仕組みを早急に構築させたいと思いま
す.データセンター構築・運営では,臨床デー
タマネージメントシステムを導入し,データマ
ネージメント,中央モニタリング,統計解析体
制を構築します,当センターの運営資金は不安
定ですので,外部資金獲得による自立化を目指
したいと考えています.そのためには,支援費
用算定表の作成と収受・会計システムの確立が
必要となっています.また,他大学を含めた
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:開発業務受託
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医学フォーラム
機関)との連携,地域主要病院との連携による
臨床研究ネットワークの構築も必須の課題と考
えております.
質管理向上の面では,臨床試験質管理システ
ムの構築のために,質管理ポリシーの策定,医
師主導治験を中心とする質管理システム(SOP:
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s 標準業務手順
書等)の構築,支援業務マニュアルの整備を行
います.研究の質管理向上の点では,基礎研究
を含めた研究データのアーカイブ,CONSORT
声明や各種ガイドライン等に基づく,英語原著
論文作成時の品質向上教育を行います.
生物/
医療統計学の教育に関して,医学科・看
護学科の学生,大学院生に対する臨床研究方法
論の講義を行います.生命倫理/
研究倫理に関
して,倫理学,医学生命倫理学概論,大学院特
別講義,医学生命倫理研修会・臨床研究セミ
ナーなどを外部からの講師を招聘し実施する予
定です.
2015年 5月 18日には,図書館ホールにて,
「CQARDキックオフ講演会~医学研究の質保
証の向上に向けて~」を開催いたしました.吉
川学長の開会のご挨拶の後,CQARDの紹介を
させて頂き,菅原岳史先生(千葉大学医学部附
属病院臨床試験部准教授,元 PMDA審査官)か
ら「行政における展望」
,福島雅典先生(先端医
療振興財団臨床研究情報センター長,京都大学
名誉教授)から「これからの研究開発」と題し
てのご講演を頂きました.閉会のご挨拶を研究
担当副学長渡邊先生よりして頂きました.約
250名の参加者があり,用意した資料が足らなく
なるほどの盛況でした.講演会終了後の情報交
換会でも活発な論議が交わされました.
CQARDは京都府立医科大学における研究が
学界において正しく評価され,しかも社会に一
層貢献できるものとなるように,その基盤づく
りに邁進致します.
(文責 伏木,中川,手良向,瀬戸山)