物性理論研究室 - 名古屋大学 物理学教室

S
物性理論研究室
研究室
小林晃人准教授(左),土射津昌久助教(右)
上羽牧夫教授
紺谷浩教授(左),河野浩教授(右)
ぎの理論や繰り込み群などの理論手法の開発を精力的に
行い,新しい超伝導メカニズムの提唱などを行っている.
(2)スピントロニクスの理論:電子のスピンと電荷の双
方を巧みに利用して新たな技術革新を図るスピントロニ
クスは,基礎物理学的にはスピン流の物理と位置づける
ことができ,興味深い現象の宝庫となっている.ノーベ
ル賞の対象になった巨大磁気抵抗効果に続いて,電流に
よる磁化操作(磁化反転や磁壁移動),スピンホール効果,
スピンゼーベック効果などが実現・発見され活発に研究
されている.これらは,微細加工技術の発達により,今
物性物理学とは?
までなかった現象を人間の創意工夫でデザインできるよ
性物理学の目的は,我々の世界を構成する「物質」 うになったことに負うところが大きく,更なる新現象の
に関する基本性質や法則を明らかにすることであ
提案・発掘も期待される.当研究室では,量子多体論(場
る.構成要素間(原子や電子)の力学法則がわかったと
の理論)の方法により,これらの現象の微視的理論など
しても,物質が織りなす豊かな物理現象を理解すること
に取り組んでいる.
はできない.多数の粒子が集まったときに,単に個々の (3)結晶成長と非平衡パターン形成:物理系が混沌とし
粒子の足しあわせとしては理解できないような,
「集団と
た状態から秩序状態を実現していく自己組織化の過程は,
しての」新たな性質が現れるからである.私たちの研究
平衡状態の統計力学では記述できない魅力ある研究対象
室では,統計力学や量子力学を駆使して,物質の世界に
である.その典型例である結晶成長では,多様な結晶形
発現する興味深い物理現象を理論的に研究している.
態を通じて目に見える形でそれが発現する.結晶表面の
(1)金属電子系の理論:固体電子論の基礎はバンド理論
原子ステップの不思議な構造形成や緩和現象,非平衡条
である.しかし近年,電子間相互作用の効果が強いために, 件下で実現される結晶のカイラル対称性の破れなどを具
通常のバンド理論では説明できない多彩な性質を示す物
体的問題として,パターン形成のダイナミクス,とくに
質が数多く見いだされている.それらの物質は強相関電
秩序形成とゆらぎの協力/競合の関係を研究している.
子系と呼ばれ,銅酸化物高温超伝導体や鉄系超伝導体に
当研究室ではひとりの教員が複数のテーマにまたがる
おける高温超伝導現象や,重い電子系や有機導体におけ
ことが多く,研究室のコロキウム, 4 年生,修士の教育な
る新規な相転移現象などが,世界中で精力的に研究され
どは研究室全体として行っている.また,どのテーマに
ている.これらの現象を理解するためには,バンド理論
も共通することだが,研究に用いる手法は,解析的・数
を超えた理論の開発が不可欠である.当研究室では揺ら
値的を問わず,多岐にわたる.
上羽 牧夫 教授 Makio UWAHA, Prof.
河野 浩 教授 Hiroshi KOHNO, Prof.
* 紺谷 浩 教授 Hiroshi KONTANI, Prof.
小林 晃人 准教授 Akito KOBAYASHI, Assoc. Prof.
土射津昌久 助教 Masahisa TSUCHIIZU, Assist. Prof.
山川 洋一 特任助教 Youichi YAMAKAWA, Desig. Assist. Prof.
John Wojdylo G30特任准教授 John Wojdylo, G30 Desig. Assoc. Prof.
物
http://www.s.phys.nagoya-u.ac.jp/
大学院生(修士課程)の活動
大学院生は,研究室(S研)に入学を認められるので,
通常,入学段階では各自の実際の指導教員は決まってい
ない.入学後半年から 1 年くらいまでに,各自の希望で研
*連絡先 [email protected] FAX 052-789-2928
教授:3/准教授:1/G30特任准教授:1/助教:1/特任助教:1/DC:2/MC:8
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山川洋一特任助教(左),John Wojdylo G30特任准教授(右)
分子内電荷秩序における多軌道効果」,「グラフェン上の
究テーマを決める,つまり,実際に修士論文の指導を受
空孔が引き起こす磁性とスピン偏極電流」,「擬二次元有
ける教員を決める.
機導体におけるスピン・電荷揺らぎによる超伝導の理論」
大学院入学後 1 年目は,専攻全体の授業のほかに,研
修士論文(2013年以降):「スピンカイラリティーによ
究 室 の ゼ ミ が あ り, 教 科 書 の 輪 講 を 行 う. 最 近 読 ん
る異常Hall伝導度と永久電流:拡散領域」,「固体中のディ
だ教科書は,
「Methods of Quantum Field Theory in
ラック電子系における長距離クーロン相互作用の効果」,
Statistical Physics」
(A. A. Abrikosov, L. P. Gorkov, I. E.
Dzyaloshinski)
,
「Many-Particle Physics」
(G. D. Mahan) 「繰り込み群法による一次元電荷秩序の研究」,「Ru酸化物
のトリプレット超伝導発現機構の理論研究:バーテック
である.さらに,これと平行して,修士 1 年の夏-秋ご
ろから個々の修士論文にむけた研究を本格的にはじめる. ス補正の効果」,「鉄系超伝導における磁気・超伝導共存
相の理論」,「固体中における質量ゼロのディラック電子
研究室の活動として,夏(または秋)に, 3 - 4 日間泊り
系に対する円偏光照射の効果」,「鉄系超伝導体における
込みで勉強会を行う.毎年テーマを決めて(
「量子多体物
不純物誘起軌道秩序の理論的研究」,「分子性導体のディ
理学」
,
「スピントロニクス理論の基礎」
,
「ボーズ・アイン
ラック電子系におけるバレーホール効果と軌道磁化」,
「粒
シュタイン凝縮」など)
,教科書や論文を読む.修士 1 年
子源に導かれる櫛歯状パターンへの異方性およびノイズ
の学生にも積極的に参加してもらう.このほかに,この
勉強会では,修士 2 年の学生の修士論文の中間発表も行う. の効果」,「 2 次元ヘリウム 3 における動的応答関数の研
究」,「傾斜ディラックコーンを持つ二次元電子系におけ
修士課程の学生にも,学会に積極的に参加するように
るクライン・トンネリング」,「3d遷移金属強磁性体にお
勧めている.また,大学院生も国際会議に積極的に出席
ける電子相関効果の研究」,「多重連結した4He薄膜におけ
するように指導しており,多くの大学院生が国際会議に
る超流動の研究」
も参加し,研究成果を発表してきた.
最近の大学院修了者の進路
これまで,大学院入学者全員が修士号を取得し,博士
課程進学者のうち 7 - 8 割が学位を取得している.
博士課程修了者:ポストドクトラルフェロー(東大,名
城大,大阪大,名古屋大,京大基研),株式会社ネオレッ
クス,昭和電工,ニコン,松下電器など.
博士課程中退者:富士テック株式会社,産業技術総合研
究所,日立超LSIシステムズ,名古屋高校など.
修士課程修了者(博士課程進学者以外):大学職員,日立
システムズ,四国電力,みずほ情報総研,総務省,スズキ,
パロマ,JR東海,アサヒガラス,大東精機,富士通FIP,
NTTデータ,トヨタ自動車など.
最近の修士論文・博士論文
博士論文(2009年以降):「鉄系超伝導体における超伝
導ギャップ構造及びペアリング機構の理論研究」,「強い
斥力ポテンシャルが作用する多粒子系の固体-気体相転
移に対する量子効果」,「傾斜ディラックコーンをもった 2
次元導体における動的誘電応答の理論」,
「TTM-TTP塩の
教員からひとこと
研究室のメンバーと,また,実験研究室など他の研究
室のメンバーとも自由闊達に議論できる雰囲気,新しい分
野に挑戦する気概を大切にしたいと思っています.積極
的に,のびのびと研究に打ち込みたい人を大歓迎します.
S研の学生
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