表面・界面系の理論と計測 Theory and Measurement of Surfaces and

表面・界面系の理論と計測
塚田捷、赤木和人
東北大学原子分子材料科学高等研究機構
Theory and Measurement of Surfaces and Interfaces
M.Tsukada and K.Akagi
Advanced Institute for Materials Research, Tohoku University
超低速ミュオンはプローブとして極めてユニークな働きをするために、これを尖鋭な
ビームに用いる超低速ミュオン顕微鏡は、表面界面、特に固液界面やナノ構造物質の新し
い計測法して大きな可能性を孕んでいる。本講演では、超低速ミュオン顕微鏡への強い期
待を、種々の可能性への提言とともに、理論研究の立場から述べたい。
具体的な問題として最初に取り上げるのは、最近の理論シミュレーションで解明され
つつある水(または水溶液)のミクロ構造、およびその固液界面における構造化について
である。古典(および第一原理)分子動力学シミュレーションの結果を水素結合ネットワ
ークの構造に注目して解析してみると、環状の水素結合のうち循環的にプロトンリレーが
可能な構造を持つもの(regular ring)は相対的に寿命が長く、液体水の構造に不均一性
をもたらしたり、水素イオンや水酸化物イオンと反撥的な相互作用を示したりすることが
示唆された。この regular ring の割合は少数員環ほど大きくなり、固液界面近傍では系の
性質を反映して環構造のサイズ分布が幅広く変化するため、それに応じた水の動的挙動、
局所的な水素イオン濃度、溶質イオンの吸脱着などの物理的・化学的性質への影響が現れ
ているものと思われる。例えば界面のごく近傍(〜1nm)で regular ring の密度や寿命が
バルク水中と比べて著しく増加していた場合、その領域では局所水素イオン濃度の減少が
見られるであろう。このような水(水溶液)の界面に特有な水素結合ネットワークの静的
および動的振舞いが、超低速ミュオン顕微鏡でいかに計測できるかは極めて興味深い問題
である。
次に取り上げるトピックスは、SPM の一種であるケルビンプローブ力顕微鏡(KPFM)によ
る表面ポテンシャルプロファイル、あるいは埋め込まれた荷電不純物中心の計測に関する
理論である。理論とシミュレーションによる予測について述べ、超低速ミュオン顕微鏡で
の相補的実験の可能性などに触れる。最後の話題は、かご型のグラファイトナノ構造、例
えば三角形状グラフェンや、ある種のドーナツ状カーボンナノチューブなどに電流を流す
ときに予測される大きな分子内ループ電流である。このような分子内電流がミュオンのス
ピンとの相互作用で観察される可能性があれば興味深いが、問題提起をしてみたい。
スピントロニクス
–電界制御と界面効果を中心に 大野英男 1,2,3,4
1
東北大学電気通信研究所ナノ・スピン実験施設
2
東北大学原子分子材料科学高等研究機構
3
東北大学省エネルギースピントロニクス集積化システムセンター
4
東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター
Spintronics
– Electric-Field Control and Interface –
Hideo Ohno1,2,3,4
1
Laboratory for Nanoelectronics and Spintronics, RIEC, Tohoku University, Sendai, Japan
2
WPI Advanced Institute for Materials Research, Tohoku University, Sendai, Japan
3
Center for Spintronics Integrated Systems, Tohoku University, Sendai, Japan
4
Center for Innovative Integrated Electronics, Tohoku University, Japan
キャリア誘起の強磁性を発現する強磁性半導体[1]では、電界効果素子を用いて外部
電界を印加し、キャリア濃度を変化させることにより、強磁性相転移を始めとした種々の磁気
的性質を制御することができる[2, 3]。また、金属においても界面に発現する磁気異方性を
大きく電界で変調することができる。本講演では、強磁性半導体における強磁性発現機構
に触れた後、強磁性転移および磁気異方性の電界変調について述べ、さらに現在未解明
である異常ホール効果の特異な温度依存性と電界効果の関係について述べる[4]。続いて
応用上重要な金属磁性体と酸化物の界面で発現する磁気異方性について解説し[5]、その
界面磁気異方性の電界変調とそれを用いた電界誘起磁化反転について説明する[6]。最後
にこの分野の今後の課題や方向性についても議論したい。
[1] H. Ohno, Science 281, 951 (1998); [2] H. Ohno et al., Nature 408, 944 (2000); [3] D.
Chiba et al., Nature 455, 515 (2008); [4] D. Chiba, et al., Phys. Rev. Lett. 104, 106601
(2010); [5] S. Ikeda, et al. Nature Materials 9, 721 (2010); [6] S. Kanai, et al. Appl. Phys. Lett.
101, 122403 (2012); 103, 072408 (2013); 104, 212406 (2014).