太陽光発電の環境破壊を見る(上)-山梨県北杜市を例に

太陽光発電の環境破壊を見る(上)-山梨県北杜市を例に
石井 孝明 経済・環境ジャーナリスト
太陽光発電が国の支援策によって急増した。しかし、山梨県北部の北杜(ほくと)市で
は、太陽光の乱開発によって住環境の破壊が起きている。現地の凄惨な状況を伝え
る。同様の問題が全国で起こっており、深刻な環境破壊が広がりかねない。
(写真 1)
北杜市内のある場所の光景。突如森が切り開かれ、ソーラー発電用地になり住民説
明会もなかった。反対運動が発生した。
危険な手抜き工事だらけ
山梨県北杜市は同県北部に位置し、八ヶ岳山系の南麓に広がる高原地帯で森が広
がっている。ペンション(欧風民宿)や別荘が建ち並び、観光地の「清里」もある。「国蝶」
と日本昆虫学会が決め、準絶滅危惧種に指定されている保護が必要な「オオムラサキ」
の繁殖地でもある。
筆者は、現地の団体「太陽光発電を考える市民ネットワーク」の案内で 6 月下旬に訪
問した。状況はひどいもので、日照のいいところは太陽光パネルだらけになっていた。
そして森林が切り開かれていた。
(図 1)
中の赤い部分(Wikipediaより)
北杜市の場所。山梨県の地図
(写真 2)
国蝶オオムラサキ。同市は観光と自然保護のために「北杜市オオムラサキセンター」を
運営しているのだが…。
「写真 3」は、中央自動車道の小渕沢高速バス停留所の近くの太陽光発電の光景だ。
道脇にあった雑木林がつぶさ れ、突如、「虫食い」のように太陽光パネルの置かれた
場所が広がっていた。放置されているようで草は雑然と生えており、手入れされている
気配はない。低木 が茂って、パネルの上に影ができていた。当然、発電効率は低下
している。しきいがなく、事業者の立て看板もない。そのために、誰がやっているのか
分からな い。整地で出たと思われる石が脇に積まれ、生い茂った草むらと合わさると、
とても景観が悪い。
(写真 3)
手抜き工事の例。草だらけ、石の放置、事業者は不明だ。
インフラ事業である電力事業が、かなり「手抜き」で行われている。既存の電力会社の
整然とした事業と比べると、 とても違和感を感じる。日本は治安がよいから盗難の心
配が少ない。しかし他の国なら、1kW(キロワット)分当たり 50 万円前後の太陽光発電
システムは、 壁などで覆わない限り盗まれるだろう。表示がないのは、発電事業者は
発電容量 50kW以下なら電気事業法の対象にならないためだ。また建築基準法の工
作物 でもないため、その法律によっても事業者は示す必要がない。
「写真 4」に示したように、北杜市に設置された太陽光パネルの足場はたいてい金属パ
イプで脆弱だ。この上に、数 百キロのパネルが乗る。建築関連諸法規の規制を受け
ないためだ。簡易工事キットが売られているため、みな同じような足場をしている。FIT
での売電は 20 年だ。しかしその長期間、この足場が持つとは思えない。ちなみに今
年春先に北関東で突風が相次ぎ、太陽光パネルが破壊された。同じような脆弱な足
場だった ためだろう。(写真 5)
(写真 4)
太陽光の大半はみな同じようなパイプで作られた足場をしていた。
(写真 5)
今年 5 月の群馬県伊勢崎市での突風。テレビ朝日ニュースより。
今流行している太陽光ビジネスの形は、メガソーラーを、50kW以下に小分けにしてば
ら売りし、投資家を募るこ とだ。先ほど述べたように、電気事業法の規制がかからない
ためだ。国が 2012 年 7 月から実施した再エネ支援策 FIT(フィット:固定価格買い取り)
で は、当初 2 年に認定を受ければ1kW 当たり 42 円の強制購入を電力会社にしても
らえる。それで考えると、年利回りは 8%以上、日照がよい場所なら同 10% 以上にな
る。それゆえに太陽光投資が爆発的に増えた。小分けも、投資家を募る知恵だろう。
しかし小分けにすることで変換器を大量に置くことになり、非常に発電の効率が悪い。
そして景観も悪くなる。「写真 6」で示したが、別荘地の清里地区の入口の道路では、
電柱と変換器が建ち並び、異様な光景だった。
(写真 6)
立ち並ぶ電柱と変換器。
また危険な工事も多い。「写真 7」で示す。市内の住宅地の南向きの斜面に、ドラム缶
にコンクリを流し込んで足場 にし、その上に太陽光パネルを並べた場所があった。下
は住宅地だ。日中は反射光で、かなりまぶしい。そして土砂崩れが起きたら、下の住
居を直撃するだろ う。しかしこの下の家の住人は、波風をたてまいと苦情の声を上げ
ていないという。
(写真 7)
住宅地に隣接した斜面に建設された太陽光発電。足場はドラム缶。
涸れ沢を埋め立ててパネルを置こうとした場所もあった。「写真 8」で示す。森を伐採す
る必要がなかったためらしい。しかし沢があったということは、大雨の時に、水が流れる
可能性があるということだ。危険であるために、隣接した家の住民の抗議は続いている
という。
(写真 8)
涸れ沢を埋め立てた太陽光発電所。
景観が無秩序に破壊された
北杜市は森の美しさで別荘地として開発され、高原観光も盛んだ。水もきれいで、サン
トリーも工場を置き、高原野菜でも知られる。(写真 9)
(写真 9)
八ヶ岳と森林。北杜市は緑が大変美しいところだ。
ところが太陽光発電による森林伐採が進む。八ヶ岳と富士山の見える絶景の場所があ
った。ここを切り開いて、メガ ソーラー発電所ができていた。この場所は、ある不動産
業者が「日本のドイツ」といって、別荘を売り出していた。景観はぶちこわしだ。この発
電所のオーナー はオランダの投資会社という。彼らは儲けだけを考え、日本のことな
ど何も考えないだろう。そしてこの土地を貸し出した地主は、北杜市の職員だったそう
だ。
(写真 10)
右上は富士山、左が八ヶ岳、手前が高原野菜の畑。森のあったところがオランダ系資
本の所有する太陽光発電所に変わった。
別荘地で隣接する森が突如切り開かれ、太陽光ができる例が多発している。そして住
民説明会をせずに突如建設を行 う事業者も多いという。「写真 11」は別荘地の隣の森
が突如切り開かれ、メガソーラー発電所ができた例だ。現地の不動産業者は「資産価
値が暴落した」と評 価し、住民ともめているそうだ。「写真 12」は道の両脇にあった森
の木が切り倒され、太陽光パネルが並ぶ異様な光景だ。森の中の道が、パネルからの
反射光 がギラギラと照りつける道になった。
(写真 11)
別荘地に隣接して突如建設されたメガソーラー。別荘の資産価格は急落したという。
(写真 12)
道に沿って太陽光パネルが並ぶ異様な光景。元は森だった。
森の破壊は無計画に行われている。「写真 13」、「写真 14」は造成中の太陽光発電所
の予定地だ。こうした場所 にも、工事と事業責任者の表示、発電計画の掲示はない。
そして木が切り倒され続けている。太陽光発電所に除草剤をまく事業者、コンクリート
を敷く事業者も 観察されており、住民は水の汚染、また森の伐採による地下水の動き
の変化も懸念している。
市内では、切り倒した木をゴミ捨て場に運び出すトラックと何度もすれ違った。そして市
内のあちこちに、潰された 森林、空き地、大量の太陽光パネルがあった。再エネ拡大
は「環境を守るため」「安全なエネルギーを確保するため」と、導入策拡大の時に、推
進派と当時の政 権与党の民主党は主張した。それを思い出し、醜い光景を見ながら、
筆者は怒り、むなしさ、悲しさを同時に抱いた。日本の原風景ともいえる「里山」と森林
が 太陽光発電の政策の失敗によって、そして事業者の欲望と、無責任な政治・行政
で破壊されているのだ。「オオムラサキ」などの昆虫も住めなくなるだろう。
なぜこんな環境破壊が放置されたのか。
(写真 13)
「写真 1」の現場の全景。森が荒れ地になっている。
(写真 14)
北杜市では、木の伐採と、それを捨てる車だらけだった。
以下「(下)無策の自治体」に続く。
(2015 年 7 月 6 日掲載)