排反案からの選択 - Keio University

複数方策(案)からの選択問題(前回の復習)
◆案の相互関係
経済性工学 第7回
独立案 : 複数の案の中から自由に組み合わせて選択できる案の集まり。
例)一定の手持ち資金があって,旧式の生産設備のいくつかを
改造したい場合。
排反案 : 複数の案の中からどれか1つしか案を選択できない案の集まり。
「排反案からの選択」
例)生産ラインの改造において,人手案,半自動案,完全自動案
のいずれか1つを選択すべき場合。
混合案: 独立な関係にある複数のグループのそれぞれの中に,複数個
の排反的な案が含まれる案の集まり。
例)加工工程と組立工程のそれぞれに複数個の合理化案があっ
て,両工程でどの合理化案を採用すべきかを決める場合。
慶應大学 稲田周平 2015年度H
例題1:排反案からの選択問題
ある商店主のKさんは,夏の間だけ店が暇になるので,その間,近くの海
岸で海水浴客を相手に小さな店を出すことにした。店員としては,学生ア
ルバイトを雇う予定である。店員を多くして店の規模を大きくすれば利益の
総額は増える傾向にあるが,必ずしも店員が多いほど良いとは言えそうも
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(問) 店員のアルバイト代が1人ひと夏18万円のとき,Kさんは何人の
店員を雇って店を開くのが有利だろうか。
これに関して,アルバイト1人から得られる人件費差し引き前利益(一般,
1人当たり生産性と呼ばれる)が次のように計算できることから,A案を採
用することが,最も有利だと言ってよいだろうか。
ない。色々な情報をもとにして,営業利益を予測した所,次表になった。但
し,営業利益とは,売上収益から仕入れ原価その他の営業経費を差し引
いた人件費差し引き前の利益である。
店員の数
営業利益
A案
1人
60万円
B案
2人
85万円
C案
3人
100万円
アルバイトの1人当たり生産性:
A案:
60万円÷1=60万円
B案:
85万円÷2=42.5万円
C案: 100万円÷3=33.3万円
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正しい解の見出し方(その1)
正しい解の見出し方(その2)
◆”正味利益“指標を用いて解を求める方法
◆”追加効率“指標を用いて解を求める方法
0(ゼロ)案(何もしない,開店しない案)
正味利益=営業利益-人件費
A案の正味利益=
A案(店員1人,営業利益60万円)
B案の正味利益=
C案の正味利益=
B案(店員2人,営業利益85万円)
よって,
が最も有利
C案(店員3人,営業利益100万円
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1
万円)
営業利益(
解の求め方(まとめ)
C
15万円/人
B
25万円/人
100
85
1. 各案の正味利益を計算する方法
→単純で間違いを起こし難い方法
A
60
2. 追加効率(営業利益の増加分/人員の増加分)を計算する方法
60万円/人
→各案の効率(例,一人当たり生産性)は指標にならないこと
人件費: 18万円/人
に注意。
→混合案の解法に拡張が可能である。
1
2
3
店員の数( 人)
→様々な不確実性下における分析に対応できる。
2つの解法を正しく理解して欲しい。
8
例題2:無資格案の整理
先の例題1と同様な状況下において,次表に示す5つの案から1つの案を
選ぶことが可能だとする。Kさんは,どの案を選ぶのが経済的に有利だろ
うか。店員のアルバイト代は,1人ひと夏18万円とする。
店員の数
営業利益
A案
1人
30万円
B案
2人
85万円
C案
3人
120万円
D案
4人
130万円
E案
5人
150万円
(問)追加効率のグラフを描いて,経済的に最も有利な案を見つけ出しな
さい。
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無資格案(無資格方策)とは
演習問題1
アカバネ不動産会社の投資課では,資金を調達して1年間投資する問題
:資源の入手コストが如何なる値になろうとも,最適になり得ない方策。
について検討していた。課員のZさんの調査によって,A,B,C,Dとういう4
つの排反的な案があり,それぞれの初期投資額と1年後の報収(収益か
営業利益 (
万円 )
C
B”
B
A
人件費
線分BB’は線分B”B’より短い。
ら諸経費を除いた純収入額)は,次ページの表のように推定された。資金
線分B”Bは線分AA’か線分CC’
より短いか等しい。
は,年利率i=12%で十分な額(どの案も採用することができる)を調達で
C’
B’
A’
無資格案
案Bは無資格案である。
店員の数( 人)
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きそうである。
よって,線分BB’は線分AA’か
線分CC’より短い。
投資額
1年後の報収
A案
810万円
1,050万円
B案
2,000万円
2,300万円
C案
2,500万円
3,100万円
D案
3,200万円
3,850万円
12
2
この検討課題に対して,Zさんは各案の利益率を次のように計算した上で,
(問2) 効率指標を正しく使って,経済的に最も有利な案を見つけ出しなさい。
利益率が最も高くて,資本の利率12%を上回るA案を採用すべきと結論
を出した。
A案の利益率=
(1,050-810)÷
810 =29.6%
B案の利益率=(2,300-2,000)÷2,000 =15.0%
C案の利益率=(3,100-2,500)÷2,500 =24.0%
D案の利益率=(3,850-3,200)÷3,200 =20.3%
(問1) Zさんの判断は正しいだろうか。各案の正味利益を計算して,経済
的に最も有利を案を見つけなさい。
(問2) 効率指標を正しく使って,経済的に最も有利な案を見つけ出しなさ
い。
演習問題2
(問1) 学生アルバイトの人件費が,月当たり1人45万円のとき,どの案が
経済的に最も有利か。
Aさんは,冬の間だけ近くのスキー場で,スキー客を相手に小さな店を出
(問2) B案が最有利(正味利益最大)になる従業員の人件費の範囲は,
いくらから,いくらまでか。
すことにした。従業員としては,学生アルバイトを雇う予定である。月額の
営業利益(売上収益から仕入れ原価その他の営業経費を引いたもので,
人件費差し引き前の利益)は,次表のように予想されている。
従業員数
(問4) E案が最有利(正味利益最大)になる従業員の人件費の範囲を求
めよ。 。
営業利益(月額)
A案
1人
60万円
B案
2人
160万円
220万円
C案
3人
D案
4人
250万円
E案
5人
300万円
(問3) D案が最有利(正味利益最大)になる従業員の人件費の範囲を求
めよ。
(問5) Aさんは,このスキー場への店の経営を,今後の経営の中心にした
いと考えており,今回の出店を必ず行うというポリシーを持っているとしよう。
このもとで,上記の問2~4に答えよ。
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(問) 学生アルバイトの人件費が,月当たり1人45万円のとき,どの案が経
済的に最も有利か。
排反案と独立案の関係付け(次回講義に向けて)
営業利益(万円)
◆排反案の形式での案の提示
投資額
1年後の報収
A案
800万円
1,040万円
B案
2,000万円
2,480万円
C案
2,600万円
3,110万円
条件付の独立案
◆独立案の形式での(差の案による)案の提示
投資額
1年後の報収
A-0案
800万円
1,040万円
B-A案
1,200万円
1,440万円
C-B案
600万円
630万円
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◆排反案
A案
◆独立案
投資額
1年後の報収
800万円
投資額
1,040万円
A-0案
B案 2,000万円
2,480万円
B-A案 1,200万円
800万円
C案 2,600万円
3,110万円
C-B案
600万円
1年後の報収
1,040万円
1,440万円
630万円
本日のまとめ:
◆排反案からの選択問題
 複数個の案の中から,1つの案しかとれない問題
 問題を解く為の2つの方法
1)各案の正味利益を求める方法
 どちらも同じ問題を表している。
2)差の案に注目して,追加効率を指標にする方法
案A=(差の案A-0)
 無資格案とは,無資格案の整理方法
案B=(差の案A-0)+(差の案B-A)
 追加効率について
案C=(差の案A-0)+(差の案B-A) +(差の案C-B)
 差の効率を利用した解法は,右側(独立案)の案の整理概念
を利用した解法である。
→排反案の問題を解く際には,各案の効率を指標にして,解を
求めてはいけない。必ず,追加効率を指標にして解を求める。
 不可避方策を含んだ問題の取り扱い
 排反案と独立案の関係
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