独自の技術の強みを活かす 株式会社イセオリ 企業概要 三重の

独自の技術の強みを活かす
株式会社イセオリ
取材:2015/1/22
取材先:株式会社イセオリ(松阪市)
レポーター名:丹羽、宮崎、太田、高岡
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1000 分の 9 ミリのガラス繊維を使って、独自の技術を駆使し、お客様に喜ばれる製品
を作る株式会社イセオリ(以下イセオリ)
。“信頼でおもてなしの物つくり”を支える
イセオリのおもてなし経営への取り組みを伺った。
企業概要
イセオリは、主にガラス繊維織物製造並びに付帯加工品の販売をしている。例えば、
コンクリート補強のための素材、車のスムーズな走りのために共振を吸収する素材など
を作っている。防刃チョッキの素材を作ったこともあるそうだ。普段目に見えないとこ
ろで、
「私たちの生活を支えてくれているもの」と言えるだろう。中小企業でありなが
ら、ガラス繊維を使用する高機能材織物製造業界の中では珍しい、一貫生産システムを
取り入れている。このシステムと他では真似できない技術を武器に、顧客からのあらゆ
るニーズにいち早く対応し、お客様が求める製品をピンポイントで提供できる強みを持
っている。
三重のおもてなし経営企業選受賞について
三重のおもてなし経営企業選に応募した動機を伺うと、普段から「売り手よし 買い
手よし 世間よし」という近江商人の心得に、どうしたら近づけるかと日々考えながら
経営をしており、三重のおもてなし経営企業選の募集内容が、『三方よし』の経営を目
指す自社にぴったり当てはまると感じたからだそうだ。取引のある金融機関なども含め、
賞賛の声を多くもらい、この受賞は知名度上昇につながったと話してくださった。
イセオリはここ 15 年ほど右肩上がりに業績を伸ばしており、リーマンショックや、
大震災の時も失業者を出すことなく、順調に経営を進めてきた。なぜイセオリは、多く
の中小企業が逆風に苦しむ中でも、利益を落とさず、成長し続けられたのだろうか。そ
の経営の秘訣を探ってみた。
《おもてなし経営への取り組み》
社員の意欲・能力の向上
◆全部わかるからこそ閃く
イセオリは、ひとつの製品の川上から川下
まで全ての工程を賄うことのできる一貫生産
システムを持っている。生産の全工程にかか
わり、把握することによって、新しいアイデ
アが生まれたり、自分で工夫したりする力が
育つ。そのために多能工化を進めており、そのスキルを上げるためならば、人材育成の
コストがかかることは問題ないと言う。目の前のひとつの仕事のみをこなすのではなく、
ラインを流しながら全体を見て、どこを工夫したら新しいものを作ることができるだろ
うか、と自分で探究することのできる人にとっては特に楽しい現場だ、と熱く語ってく
ださった。また、女性の従業員は、全従業員の 3 分の 1 を占めており、取材当日の工
場見学の際も現場で活躍する女性の姿が多く見られた。育児休暇などは、大企業のよう
にきっちりとはいかないが、育児がひと段落した女性たちが働きに帰ってきてくれるの
だそうだ。一度仕事を覚えてくれている人材なので、積極的に採用をしているという。
また、社員の意欲向上の一環として、毎年慰安旅行を行っており、
平成元年から 26 年
間、毎年の恒例行事になっている。家庭の事情などもあるため、参加率 100%とはいか
ないが、若い層の人達も積極的に参加しており、有意義なインフォーマル組織(職場に
おける個人的な接触や相互作用を通じて自然に生成する小集団のこと(1)の形成の一助
を担っているように感じ取ることができた。
地域・社会との関わり
◆地元松阪への思い
おもてなし経営企業選の選考項目にある、地域・社会との関わりについて伺った。イ
セオリは松阪を中心とする地元からの正社員採用を重視している。これはイセオリが経
済的貢献を軸に地域貢献に取り組んでいるからだ。日本の中小企業はその経営状態から
納税ができていないことが多いが、イセオリはきちんと納税をしており、さらに地元か
ら社員を採用することで社員の生活にかかる税金も地元に納められ...といった経済循
環を意識しているという。また、社員同士の出身地が近ければ地元の話で盛り上がるこ
とができ、親密度が上がりやすい。結果として社員の士気が上がり、生産効率の上昇に
もつながっているといえる。イセオリのガラス繊維そのものは工業用製品のためあまり
地元には需要はないが、
イセオリ自身の設備投資や維持管理などは地元の企業に依頼す
るなど、地域への細やかな気配りがなされている。
顧客への高付加価値提供
◆1つ1つのニーズにピンポイントで応える
イセオリの自社一貫生産方式は、顧客の要望に応えやすいという最大の強みを持って
いる。顧客側からご要望を受けて生産するというスタイルであるため、困っている顧客
の相談を受け付け、それを解決する役目も担っているという。 自社一貫生産方式であ
ることから、商品が完成するまでの各工程で、加工賃が稼げる。職員の多能工化とも相
まって、職員一人当たりの付加価値額や営業利益率は業界平均を大きく上回っている。
では、製品の価格は一体どう決めるのだろうか。新しいモノを生産することが多いため、
価格は単純に要求された価格ではなく顧客と相談しながら決定するという。また、この
ことによって顧客側から無理難題なコストダウンを要求されることはなく、むしろ高価
格を付ける顧客が多いそうだ。これは、長年のイセオリが築いてきた「信頼」と製品の
「高品質」に対する評価の表れである。顧客だけでなく会社側(イセオリ)も含め、双
方に高付加価値がもたらされているのだ。 社長である水谷信博さんは、多種少量生産
を行い、要望に応えるためならば「何でもやる」ことを目標に掲げ、顧客の要望は断ら
ないことを絶対としている。そして、 「ここをこうして欲しい」といった要望には素
早く対応し、依頼された仕事は原則として断らない。このような顧客対応の良さが“口
コミ”で広がっていき、今では「イセオリに行けばどうにかなるよ」と言われるように
なったという。こうした
「織物のよろずや」としての存在がイセオリの特徴だといえる。
今後の抱負
今後の抱負として、これからも常に利益を出し続けることが 1 番大切だとおっしゃ
られた。現在、新しい工場の建設を進めており、さらに一貫生産システムの裾を広げて
いくということだ。それにより、イセオリの最大の強みである顧客のニーズに対応する
幅がより広がるだろう。そして「口コミが顧客を連れてくる」ことが増え、利益の増加
が見込まれる。これからも持続的な発展を目指していきたいと熱く話してくださった。
編集後記
今回の取材で初めて営利会社を訪問したメンバーが多かったため、インタビュー前は
これまでにない緊張感を持っていました。しかし、社長がとても気さくな方で、インタ
ビュー中も笑いが起き、とても楽しい雰囲気の中、お話を伺うことができました。また
新たな工程を加えるために工場を拡大されるということもあり、自社の強みを生かして、
さらに成長できるように新しいことにチャレンジしていきたいという熱意が伝わって
きました。技術面だけではなく、従業員満足も高い企業であると感じました。一番印象
的だったのが、
育児がひと段落した女性がまた働きに帰ってきてくれるというお話でし
た。働きやすい職場でなければ絶対にないことだと思います。
また、工場の方も見学させていただくことができ、
「ガラス繊維」を間近で拝見しま
した。ガラス繊維が幅広く身近な分野で活躍していることも教えてくださり、とても貴
重な時間でした。製造業の中小企業は下請け的存在で、大きな利益を得ることは難しい
のではないかと思っていましたが、ガラス繊維の特性を生かしながら、様々な工程を自
社で一貫することでニッチに適応し、景気が悪くとも安定した収益をあげているのだと
わかりました。
今後の中小企業の在り方のモデルのひとつになるのではないかと思いま
す。また、イセオリは、顧客満足のためにお客様の要望に必ず応えるという姿勢がある
からこそ、成長し続けることができているのだと思いました。
発信するだけではなく、
お客様の声を形にして、
それをしっかりと丁寧に返していく……このようなタイプの企
業は初めて知ったので、驚いたのと同時に、お客からのニーズがある限り、イセオリは
成長し続けていけるのだろうなと思いました。これからも顧客のニーズに高いレベルで
応えられる企業として、持続的成長を目指してほしいと思います。
(1 jigyou-saisei119.com より引用