28 CyclinA2 と DNA 含量の 同時測定による細胞周期解析 はじめに 細胞周期は細胞が分裂するためにDNAの複製から始まり、細胞構成成分の倍加、細胞の成長を行なう倍加を 経て、倍加された細胞を 2 つに分ける分配から成り立っています。倍加では遺伝物質であるDNAの複製が最も 重要になります。複製により 2 倍にされたDNAを 2 つに分けるためには、分配しやすい染色体にしたうえで、紡 錘体を利用して分配されます。しかしながら、DNAの複製と紡錘体は直接作用することがなく、細胞周期エンジ ンを介して伝達されます。 この細胞周期エンジンを構成しているのが、Cyclin と CDK(Cyclin Dependent Kinase)複合体で、Cyclin は CDK と複合体を形成することで、CDK の活性を調節して、特定のタンパクをリン酸化し、下流へのシグナル伝達を誘 導します。 Cyclin は細胞周期に同期して合成・分解するタンパク 質であり、サイクリンボックスという共通の配列を持つ 類縁のタンパク質は現在では 10 種類以上が知られて います。その中でも、高等動物の細胞周期における役 割が明らかになっているものは、A,B,D,E,H の 5 タイプで す。 細胞周期の運行に重要な A,B,D,E タイプの Cyclin は生 体内では普遍的に発現します。しかし各サブタイプは、 発現場所の組織、部位特異性があり、サブタイプの使 い分けがされています。 CyclinA には 2 種類のサブタイプがあり、ヒトでは、胚細胞特異的な CyclinA1 と体細胞の CyclinA2 の 2 種類の A 型 Cyclin が存在します。CyclinA1 は減数分裂及び初期胚のみに発現しますが、CyclinA2 は増殖する体細胞 に存在します。CyclinA2 と CDK2 の複合体は、DNA の複製を誘導し、S 期の進行に必要です。G2 期から M 期 では、CyclinA2 は CDK1 と複合体を形成します。また M 期の初期にユビキチン依存タンパク分解経路を介して 分解されます。 これらを利用して、蛍光標識した CyclinA2 と DNA 含量の同時染色を行うと、G0 期(休止期)および、M 期(有糸 分裂期)では CyclinA2 の発現はないか非常に低くなり、G1 期ではその発現レベルがわずかに高くなり、S 期で増 加し、G2 期で最も高い発現が見られます。 CyclinA2 の発現を用いて、発現のないまたは非常に低い M 期と最も発現の高い G2 期を判別することができま す。 サンプル調製 Ⅰ.サンプル 細胞:(細胞濃度 1×106 個) 浮遊細胞の場合は、遠心・回収します。 付着細胞の場合は、トリプシン・EDTA で細胞を単離後、PBS で遠心洗浄し、回収します。 Ⅱ.試薬 固定: 100%メタノール(-20℃で冷やしておきます。) 抗体: Anti Cyclin A2-FITC IgG1(Mouse)-FITC Isotype Control 7-AAD Beckman Coulter 社 Beckman Coulter 社 Beckman Coulter 社 製品番号 A22327 製品番号 A07795 製品番号 A07704 Ⅲ.溶液 0.5%BSA 加 PBS PBS Ⅳ.その他 40μm ナイロンメッシュ Ⅴ.サンプル調製 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 1.5ml マイクロチューブを 2 本準備します。(コントロールサンプル用、CyclinA2 染色サンプル用) 細胞を 1×106 個に濃度調製し、1.5ml マイクロチューブに 1mL ずつ分注します。 チューブを遠心し、上清を除去します。(300×g、5 分、室温(18~25℃)) 1mL の PBS を加え、遠心し、上清を除去します。(300×g、5 分、室温(18~25℃)) ペレットをタッピングでよくほぐします。 各チューブに冷 100%メタノール(-20℃)1mL をボルテックスしながら、徐々に加えます。 4℃(氷中)で 10 分間固定します。 チューブを遠心し、上清をできるだけきれいに除去します。(300×g、5 分、室温(18~25℃)) ペレットをタッピングでよくほぐし、各チューブに 1mL 0.5%BSA 加 PBS を加え遠心洗浄します。 (300×g、5 分、室温(18~25℃)) 10. 上清を除去後、ペレットをタッピングでよくほぐします。 11. 各チューブに 0.5%BSA 加 PBS を 100μL ずつ加えます。 12. コントロールサンプル用チューブに IgG1(Mouse)-FITC を 20μL、7-AAD を 20μL 加えます。 13. CyclinA2 染色用チューブに Anti CyclinA2-FITC を 20μL、7-AAD を 20μL 加えます。 14. 各チューブを混和後、室温(18~25℃)・暗所で 20 分間反応させます。 15. ペレットをタッピングでほぐし、各チューブに 0.5%BSA 加 PBS を 1mL 加えます。 16. 遠心洗浄後、上清を除去します。(300×g、5 分、室温(18~25℃)) 17. ペレットをタッピングでほぐし、各チューブに 0.5%BSA 加 PBS を 1mL 加えます。 18. 遠心洗浄後、上清を除去します。(300×g、5 分、室温(18~25℃)) 19. ペレットをタッピングでほぐし、各チューブに 0.5%BSA 加 PBS を 0.5mL 加えます。 20. 各サンプル溶液を 40μm ナイロンメッシュに通し、FCM 用チューブに移します。 21. FCM にて測定します。 サンプル測定 1. それぞれの機器のフィルタ設定に応じた検出器を選択します。 FITC 7-AAD FL1(Gallios / Navios / FC500 / XL など) FL4(Gallios / Navios / FC500 / XL など) 2. 各パラメータを選択し、プロット図を作成します。 Gallios / Navios FC500/ XL -パラメータ選択例Gallios / Navios FC500 / XL FS Integral Lin, SS Integral Lin, FL1 Integral Log, FL4 Integral Lin, FL4 Peak Lin, Time FS Lin, SS Lin, FL1 Log, FL4 Lin, AUX(FL4) Peak, Time -プロット図作成例- ① ② ④ ⑤ ③ ⑥ ①SS LIN / FS LIN ②FL4 INT LIN / FL4 PEAK LIN 細胞集団のカットオフの位置を確認します。 ダブレットの除去を行います。(シングルセルを囲うように リージョン A を作成します。) ③Time / FL4 PEAK LIN 流れの安定性を確認します。(不安定な場合、各期の CV 値 が大きくなります。) ④FL4 INT LIN / FL1 INT LOG(A ゲート) データ解析を行います。 ⑤FL4 INT LIN / FL1 INT LOG(Ungated) A ゲートの位置の確認を行います。 ⑥FL4 INT LIN 細胞周期の確認を行います。 3.コントロールサンプルを測定します。 4.SS LIN / FS LIN のプロット図で、サンプル集団が確認できるよう に FS と SS の感度を調整します。 ディスクリミネーターによりサンプルがカットされていないか確認しま す。ディスクリミネーターは FS で 50 チャンネル位に設定します。 (固定処理することで細胞は小さくなりますので、FS の集団の位置が 低くなります。) 5.FL4 INT LIN / FL4 PEAK LIN のプロット図を確認しながら、FL4 の感度を調整し、ダブレットセルが分かれるようにします。 この時、G0/G1 期の集団が FL4 INT LIN において適切な位置(通常 200~300 チャンネル前後)になるように感度を調整します。 6.ダブレットセルを除くようにシングレットセルにリージョン A を作成 します。 ダブレットセル 7.FL4 INT LIN / FL1 INT Log のプロット図を確認しながら、FL1 の 感度を調整します。 この時、G0/G1 期の集団が FL1 INT Log で適切な位置(100~101 位) に調整します。 8.CyclinA2 染色サンプルを測定します。 この時、流速は Low で行います。 Low でサンプルを流すことで、測定分解能が上がります。 9. Time / FL4 PEAK LIN のプロット図で、サンプルの流れの安定 性を確認します。 流れが不安定になると細胞集団が途切れたり、幅が広がったりしま す。 10.シングルセルゲート(A)が設定された FL4 INT LIN / FL1 INT Log のプロット図で、10000 個以上カウントします。 11.必要であれば、G2 期と M 期にゲートを作成し、各期の%を表 示します。 G2 期 M期 G0/G1 期 解析例 参考文献 1. 江島 洋介:これだけは知っておきたい 図解 細胞周期、オーム社 (2007) 2. 山本 雅,仙波 憲太郎:キーワードで理解するシグナル伝達イラストマップ、羊土社 (2004) 3. Morgan, D.O., "Principles of CDKregulation", 1995, Nature, 374, 131-134. 4. Henglein, B., Chenivesse, X., Wang, J.,Eick, D., Bréchot, C., "Structure and cellcycle-regulated transcription of thehuman cyclin A gene", 1994, CellBiology, 91, 5490-5494. 5. Ubersax, J.A., Woodbury, E.L., Quang,P.N., Paraz, M., Blethrow, J.D., Shah,K., Shokat, K.M., Morgan, D.O.,"Targets of the cyclin-dependent kinaseCdk1", 2003, Nature, 425, 859-864. 6. Furuno, N., den Elzen, N., Pines, J.,"Human cyclin A is required for mitosisuntil mid prophase", 1999, J. Cell Biol.,147, 295-306. 7. Yam, C.H., Fung, T.K., Poon, R.Y.C.,"Cyclin A in cell cycle control andcancer", 2002, CMLS, 59, 1317-1326. 8. Romanowski, P., Marr, J., Madine, M.A.,Rowles, A., Blow, J.J., Gautier, J.,Laskey, R.A., "Interaction of XenopusCdc2-Cyclin A1 with the originrecognition complex", 2000, J. Biol.Chem., 275, 4239-4243. 9. Coverley, D., Laman, H., Laskey, R.A.,"Distinct roles for cyclins E and A duringDNA replication complex assembly andactivation", 2002, Nat. Cell Biology, 4,523-528. 10. Jackman, M., Kubota, Y., den Elzen, N.,Hagting, A., Pines, J., "Cyclin A- andCyclin E-CdK complexes shuttlebetween the nucleus and thecytoplasm", 2002, Mol. Cell. Biol., 13,1030-1045. 11. Huang, X., King, M.A., Halicka, H.D.,Traganos, F., Okafuji, M.,Darzynkiewicz, Z., “Histone H2AXphosphorylation induced by selectivephotolysis of BrdU-labeled DNA with UVlight: Relation to cell cycle phase”, 2004,Cytometry, 62A, 1-7. 2013 年 3 月 2013/03 ver1.0 CE1028 1303
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