ロボカップ 2015 世界大会(中国合肥)参戦記 2015.7.16-2015.7.24 成瀬記 ロボカップ 2015 は,2015 年 7 月 17 日から 7 月 23 日まで,中国合肥で行われた.当初 は,タイ・バンコックで開催の予定だったが,昨年のタイの政情不安により開催地が変更 された.今大会,RoboDragons は,one of the best 8 teams であった. 1.移動(往路) 7 月 16 日.台風が近づく中での出発となった.台風 11 号は日本の南海上を北上中で,東 海地方は,強い雨が降ったり止んだりしている.家を出る早朝 5 時過ぎの時間帯は,幸い なことに小康状態だった.そんな状況に,多少の運の良さを感じつつセントレアに向かっ た. 7 時セントレア集合で,その時間にはほぼ全員が集まっていた.中国は,言葉の問題があ るが,今回は中国人留学生の聶君が同行してくれるので,大変心強い.実際,聶君大活躍 となるのだ. さて,チェックインカウンタで荷物を預け,チケットをもらい,そのあとで買い物や両 替を行い,出国審査へ.この辺りは,いつもの風景だ.バッテリーの検査がうるさかった が,それ以外は特に問題もなく通過.待合で待つこと半時間で搭乗.定刻通りの離陸とな った.今回は,青島を経由して北京に飛び,北京で乗り継いで合肥に至るコースである. 青島では,入国審査を受け,大急ぎで搭乗便に戻る.そして搭乗便は定刻通り青島を発 ち,定刻通り北京に到着した.荷物を受け取り,チェックインカウンタで再び荷物を預け, 搭乗券を受け取ってひと段落.北京国際空港は人でごった返していたが,聶君の活躍で, 上記手続きもスムーズに進んだ.お昼は空港内のレストランでとったが,さほどうまくも ないチャーハンが 48 元もした. (1 元 20 円で換算してください.)王将のチャーハン 400 円強のほうがよほどうまいと思った.空港価格ということを考慮してもちょっと高い.街 中では半分くらいの値段だろうと聶君は言うが,それでも,一人当たり GDP で比較してみ るとやはり高いなあという印象である. さて,合肥行の飛行機は,定刻に搭乗口を離れたが,離陸待ち飛行機で渋滞のため 1 時 間近くアプローチウエイで待たされた.滑走路が 1 本しかないように見えたが,そうだと すれば,国際空港としてはちと寂しい.離陸後のフライトは順調で午後 7 時半頃に合肥空 港に無事着陸した.空港では,ロボカップボランティアの T シャツを着た人たちがいて, 親切に案内をしてくれた.主催者側提供のバスに乗ってホテルに向かう.この道中で,現 代中国の光と影を見ることになる.まず,高速道路.そこを走っている限り,先進国その ものである.道路はきれいで,照明もオレンジ灯が点いている.まだ日本にいる気分だっ た.高速を降りて一般道に入りしばらくすると,突然ガタガタ道になる.周りの建物も古 い中国が残っている.経済発展途上の歪なのだろうが,この落差を中国の人たちはどう考 えているのだろうかとか,来年もしここに来たらきっとよくなっているのだろうな,など と考えながら合肥の街に入った.空港からは,約 1 時間の道のりであった. 宿泊するホテルは 42 階建てツインタワーの近代的なホテル(合肥豊大国際ホテル,Hefei Fengda International Hotel)である. ホテルにチェックインしたのが夜の 10 時 30 分すぎ. おなかがすいて死にそうなので,11 時過ぎに食事に出る.ホテルのある界隈は,新興地域 であり,国際会議展示場とホテル群をセットにした地域のようだ.飲食店もセットである にはあるが,そんな地域であるがゆえに,この時間に営業しているところはどこもなかっ た.ギブアップしてホテルに戻り,水を飲んで寝た.疲れ切っていたので睡眠欲が食欲に 勝った.あっという間に熟眠に落ちる. 2.セットアップ 明けて 17 日.空腹に勝る調味料はない.朝食の旨かったこと.いつもの倍も食べてしま った. さて,主催者側提供のバスに乗って会場に向かう.距離は 500m くらいだそうで十分歩 ける距離だが,今日は重い荷物が多いのでバスを利用した.今日の帰りからは歩こう. 会場正面入り口 会場正面左側の看板 9 時に会場に到着して,受付入口に来ると,すでに多くのチームが来ている.受付のため の待ち行列が長い.会場に入るのに 30 分,会場内で受付を終えるのに 1 時間.なんでこん なに効率が悪いの?と思いつつ,待っている間に参戦記を書き始めた. ようやく受付が終わって,小型リーグの会場に到着するとここにもすでに多くのチーム が来ている.それぞれがそれぞれの仕方でセッティングを進めている.我々もパドックの 机と,フィールドサイドの机を確保し,さっそくセッティングにかかる.が,小さなトラ ブルがいくつか発生した.電気が来てない.床にある給電盤のトラブルらしい.技術の人 が来て,直してくれた.その際,我々が持ってきたテーブルタップは,100V 対応のもので 220V の中国では使ってはいけないと指摘を受ける.そうなった以上,引っ込めるしかない. その代わりに 220V 対応のテーブルタップを主催者から借りて凌ぐ.幸いなことに,そのテ ーブルタップは A タイプのプラグ(日本のプラグ)を直接差し込めるタイプだったので幸 いだった.フィールドの問題.2008 年蘇州大会の時は,フィールドのつくりが雑でえらく 苦労した. A から D まで 4 つのフィールドがあるのだが,A フィールドのつくりが特に悪 くて,決勝を C フィールドに変更したら,Prof. Manuela Velosso から何で変更するのか と強硬なクレームを受けたことが懐かしく思い出される.その時は,小型リーグの実行委 員をやっていたので事情を説明して了解を得た.わかってもらえたとは思うが,納得して もらえたかどうかは自信がない.さて,今回のフィールドは,結構分厚いカーペット敷き である.上を歩いてみると,フカフカ感がある.がすぐに分かったのは,土台の床が板敷 で作ってはあるのだが,フラットになっていないようだ.その上にカーペットが張ってあ るわけで,これはロボットの動作に影響を与えそうだ.そう思っていたら,KIKS チーム(豊 田高専)からロボットがまっすぐに動かないという話を聞かされた.今年はどんな試合展 開になるのだろうか? 夕食から戻って,ビジョンシステムのテストを行う.色が正しく識別されない.おかし い,おかしいと言っていると,隣のイランチームの人が,公式カラーが変わったよ,と教 えてくれた.えつ!アナウンスがないじゃないか,とぶつぶつ言いつつ,コミッティから 新しい公式カラーの色紙をもらい.急遽マーカーを作り直す.それに時間を取られて,テ ストする時間が無くなってしまった.午後 10 時に会場を追い出される. 7 月 18 日.朝日新聞の web site を見たら,世間では今日から 3 連休らしい.すっかり忘 れていた.我々は,これから胃の痛む 6 日間を過ごす.世間様がうらやましい. 今日も調整日である.今朝 8 時に会場に来て,早々にフィールドサイズの計測を行った. 特に問題はなかった. (2008 年蘇州の時は,不具合があったので,念のために調べた. ) フィールドのでこぼこについては,直してもらうことになった.明日にはよくなってい ることだろう. 調整まっただ中で,イランチーム(チーム名 MRL)と練習試合を行った.床のでこぼこ のおかげでなかなか思ったようには動いてくれない.まっすぐに進むべきところが,曲が ってしまったり,ボールの受け取りミスが起きたり,この先どうなるのかちょっと不安に なる. MRL のスピード,特にボールにアプローチするスピードに焦燥を覚えた.このスピード さは,圧倒的に不利になる.何とかせねばならない. 昼飯も忘れて調整に打ち込む.夕方,空腹で何も食べてないことを思い出した.しかし, 余裕がないので,近くのスーパーで買い出しを行い,それで済ました. 10 時に会場の照明が落ち,やむなく引き上げとなった. 3.大会初日(予選リーグ) 7 月 19 日.今日から予選.8 時会場着.さっそくフィールドを調べると,でこぼこは改 善されていた.完全な平坦とは言い難いが,これなら何とかなるだろう.まずは一安心で ある. 車軸にワッシャがつまりベアリングが外れなくなったというトラブル発生.かなり固く てなかなか外せない.潤滑油を入れ,慣性力を利用した1結果,ベアリングの枠が多少浮き 出してきた.あとはラジオペンチを使って引き出した.結構苦労したが,やればできるも のだ. 開会式は盛大だった.ロボカップ役員と 地元政府関係者がそろって登壇.写真はそ の様子であるが,狭いところに人が多く, おまけに,前のほうは VIP 席で入れず,後 ろのほうからの撮影となった. さて,予選は 4 グループに分かれて行わ れる.昨年の 4 強はシードで,別グルーブ に割り当てられる.RoboDragons は C グル ープにシードされた.ちなみに,A グルー プは,昨年優勝の ZJUNlict(中国,浙江大 学) ,B グループは CMDragons(米,カーネギーメロン大学) ,D グループは ER-Force(独, Erlangen にある大学)である. 予選第 1 試合.いきなりシードチームの 対戦である.おいしいものはあとに残して おくものなのに,惜しげもなくオープニン グゲームに当てられた.RoboDragons(日 本,第 1 シード)対 MRL(イラン,第 2 シード) .昨日の練習試合では,我々は 0-1 で敗れている. 開始早々.観戦体制も整う前にもうゴール を決められた.わが方,ゴール前がガラガ ラで全く動いてない状態だった,何が起き たのかさっぱりわからない.兎にも角にも決められてしまった.暗雲が垂れ込めてきた. 私の胃は,ヒリヒリし始めた.こんな状況で進んだら手の出しようがない.試合再開.相 手のスピードは明らかに速いので,すぐにボールが相手にわたってしまう.ボール保持率 はかなりの差だろう.しかし,相手にも弱点があった.正確性に欠けるのだ.スピードが 速いだけに,正確な制御が難しい.パス回しもよく失敗する.ボールを外に出してしまう. そういうところから,我々にもボール保持のチャンスが来る.少ないチャンスを活かして すかさずお返しのゴール.この時は,敵ゴールが大きく空いていた.同点だ.わが方が盛 り上がってきた.これなら勝負はわからない.この試合,どうやら両チームに不具合があ り,時々ゴールが空く.そこを狙われてゴールが決まる.前半の終わりころにも MRL に 1 点を決められた.1-2 で前半を終了.後半は,白熱するゲーム展開である.両チーム,ゴー 1 要は,叩いたということ. ルをなかなか破れない.そんな中,相手ゴールの空きができた瞬間を狙って,わが方が得 点.同点に追いついた.残り時間 3 分.何とか守り切ってくれと外野は願う.3 分は長かっ たが,守り切ってくれた.引き分けに持ち込めた.よかった. この日の午後,2017 年大会が名古屋に決まったことが知らされた.また盛り上がります ね.直後に,Prof. Velosso がお祝いに来てくれた.過去の日本で開かれた大会(第 1 回名 古屋 1997,第 6 回福岡 2002,第 9 回大阪 2005)で福岡はコンパクトでパーフェクトだっ た.大阪は分散していて今ひとつだった.今度の名古屋は,福岡のようにやってね,と言 われた.任せてください,日本のスタッフは優秀です,と答えておいた.実際そうなのだ から,うそを言っているわけではない. 4.大会二日目(予選リーグ) 7 月 20 日.朝パソコンを立ち上げたら,windows の更新を始めた.えらく時間がかかっ て,更新に失敗というメッセージが出,元に戻し始めた.それがなかなか終わらない.結 局 2 時間近くかかってしまった.嫌な予感. 午前中に CMU と練習試合を行った. CMU の素早いパス回しについていけない. ゴールが空き,簡単にシュートを決められ てします.対するわが方といえば,ボール を持ってもパスコースを探して躊躇してい る.ちっともボールを蹴らない.見ている とイライラする.これでは大人と子供の差 である.担当者に聞くと,ボールにアプロ ーチするのに時間がかかっているのだとい う.PID 制御と上位の経路生成アルゴリズ ムの間で連携がうまく取れていないということらしい.この点は,大学に戻ったらじっく り検討しよう.兎にも角にも素早く蹴ることが重要だ.試合終了後,prof. Velosso から Intelligence の違いよとはっきり言われた.全くその通りで,返す言葉のない私の悔しさを 読者のみなさんわかってください. 「来年こそ見ていてくれ」と決意を新たにして,帰った らまた頑張ります. 午後から 2 試合を行った.まず,RoboFEI 戦.RoboFEI はブラジルのチーム.毎年実力 をつけてきている.昨日 RoboFEI は MRL と戦って 0-4 という結果を残した.これは RoboFEI が成長したことを物語っている.そして,わが方としては,予選 1 位になるためには, 5 点差以上をつけて勝たねばならない.人間が緊張するとロボットも緊張するようで,この 試合,開始から思うような動きができない.相手陣内に攻め入るのだが,RoboFEI の守備 が固くてゴールが割れない.前半 5 分経過して 2 点しか入れられなかった.おまけに 5 分 過ぎに相手に得点を許してしまった.苦しい戦いだ.この分では C グループ 1 位通過は難 しくなる.後半に入って,RoboDragons にツキが回ってきたように感じた.徐々に得点を 重ね,終了間際に 6 点目を決め,得失点差 5 となった.きわどく MRL の得失点差 4 を上 回った.本当にハラハラドキドキで胃が痛んだ.これで,残された SSH 戦にコールド勝ち すれば予選 C グループ 1 位通過である. 対 SSH 戦は午後 4 時から行われた.SSH はオランダから来たチーム.今年初出場である. 新参加のチームのため,仕上がりはやや不十分である.この試合は,後半開始後数分で RoboDragons が 10 得点して,コールドゲームとなった. 夜の調整時間に,フィードバック制御のゲインが話題になった.ゲインを調整して乗り 切ろうとして色々試していた.ひょんなことから I 制御のゲインを 0 にしたらどうなるだろ うということになって,やってみると,それまでビュンと動いていたロボットがノロノロ としか動かない.P ゲインが全く不足している.今までは I ゲインのみで動いていたに等し い.だから,ボールへのアプローチがのろかったのだ.原因がはっきりしてきたので,明 日朝早くにちゃんとゲイン調整をしよう. 5.大会三日目(決勝トーナメント) 7 月 21 日.昨夜のゲインの話から,制御の基本に立ち返って考え直さなければならない ことを痛感した.伊藤先生が加わってくれたので,この辺りはこれから力を入れてやるこ とができる.と同時に,私自身制御の再勉強の機会でもある.実機をちゃんと動かすこと の大変さを痛感し,理論の重要性と,その物理的イメージや幾何学的イメージの把握,な ど再認識することが多かった.そして,今できることを再確認し,現在(現地午前 8 時 30 分)調整を進めている. 本日午前中は,敗者復活戦.我々は予選 1 位通過なので,午後からの試合となる.対戦 相手は,STOX と松江高専の勝者である. 午前中は RoboDragons のロボット側ソフトウェアの OS である Toppers の構築を行って いたので,試合を見ていないが,STOX と松江高専は STOX が勝ったと聞いた. 午後 2 時.RoboDragons と STOX の試合が始まった.RoboDragons は連携が全くでき ない.ボールを蹴れば,相手を外れて飛んでいく.ボールに近づいてもキックすらしない. どうでもよいところでキックするが,ボールはフィールドを割る.どうしてこんなことに なってしまったのか?STOX も連携はほとんどできない.だが,蹴ることは蹴れる.そし て,STOX の蹴ったボールにわが方のロボットが触って,フィールド外に出してしまう. 相手のボール占有率が高くなる.本当に信じられなかった.本戦で決着つかず,延長戦へ. 試合は,本戦と同様の展開をする.延長後半.これは PK 戦になるなと思った矢先,相手の 直接シュートが決まってしまった.時間がない.もうあきらめるしかない.こうして,準々 決勝は終わった.0-1 で負けた.敗因は,きっと私が口出ししたことだろう.老兵は出しゃ ばってはいけないと痛感した.消え去るのみである.あとは若い人に託そう. 成瀬記 追記 この後,準決勝が行われた.ZJUNlict(中国)vs MRL は MRL が勝ったそうだ.今年の Japan open で我々は ZJUNlict に勝てなかった. 今回の初戦で我々は MRL と引き分けた. MRL の躍進が光る.3 連覇の王者 ZJUNlict はどうしてしまったのか?しかも地元での戦 いで.もう一つの準決勝は,CMDragons vs STOX.こちらは CMDragons が 2-0 で勝った そうだ.我々は CMDragons との練習試合で 0-9 で敗れた.そんな CMDragons にこの結 果だから STOX の善戦が光る.この世界も状況はめまぐるしく変化している. 最終日の 3 位決定戦.ZJUNlict vs STOX.結果は 1 – 0 で ZJUNlict の勝だったが,STOX の善戦がここでも光った.ZJUNlict に一歩も引かない試合運びは感心した.特に防御がよ かった.速い動きでシュートコースを確実にふさぎに来る.これでは ZJUNlict といえども そう簡単には得点できない. 決勝戦.CMDragons vs MRL.この試合は CMDragons が明らかに勝っていた.素早いパ ス回しに,フィールド全体を使って相手を攪乱し,相手のデフェンスロボットに隙を作ら せる.そしてコーナーからのゴールマウスすれすれを狙うシュート.これが決まるのだか ら立派である. (以前の RoboDragons のロボットもそれができた.今はやや困難である. ロボットの世代が代わってキックメカニズムの精度が落ちたのかもしれない. )それに対し て MRL は CMU に比べると荒削りという感は否めない.華麗なパス回しやきわどいコーナ ーからのシュートといった技は見られなかった. 結果は 5-0 で CMDragons の勝であった. おめでとう,CMDragons. ベスト 8 チームの戦力(私見) CMDragons >> MRL = ZJUNlict > STOX > RoboDragons = ER-Force > Persian = Tigers こんな感じでしょうか.ご意見は,[email protected] まで.
© Copyright 2024 ExpyDoc