1.2 美容及び美容サービス市場の現状調査 目的 アジアの経済は他の地域に比べて成長していると言われており、美容全般についても例外では ない。本調査の目的は、日本を含めて、アジア諸国の美容及び美容サービス市場の成長具合は どのようになっているか、また、今後どのように推移するのかを明らかにし、美容人材育成の方向 性を検討するための基礎資料の作成にある。 対象 アジア諸国のうち、まず日本を中心に、市場の大きさを考慮して、中国、韓国、台湾を対象に加 えることにした。対象の市場は、ヘア、メイク、ネイル、エステ、まつげエクステのそれぞれの領域 に関する美容サービスを中心としたが、サービス市場を直接的にとらえるには困難を伴うので、一 部、各領域に共通する化粧品などを調査対象とした。 方法 可能な限り、Web を活用して、信頼できるデータの入手につとめるが、リサーチ会社が調査・刊 行している著作物なども参照することにした。その際の観点としては、市場がどのような美容人材 を求めているか、また、どのような領域についてどれくらいの規模の「美容技術(施術サービス)」を 求めているかについて、国・地域ごとにとらえることが可能なデータの収集に努めた。 83 1.2.1 美容関連市場の概観 現在の日本における美容関連市場の規模 ここでは、美容関連産業を広くとらえ、美容サロン、エステサロンなどのサービスを専門に行う 「美容産業」に加えて、「化粧品産業」「婚礼産業」までを含めると、2012 年におけるこれらの産業 の総市場規模は、約 9 兆円になると試算される(図 4)。 ©ハリウッド大学院大学 図 4 日本・美容関連市場全体の規模(2012 年)1 以下、各産業の内訳を見ておこう。 美容産業 ここで「美容産業」とカテゴライズしたものは、個人の顧客に対して技術を施すサービスである。 すなわち、美容サロンなどの「美容」産業、理髪店などの「理容」産業、エステサロンなどの「エス テ」産業、ネイルサロンなどの「ネイル」産業に分けられる。これらの産業ごとに、2012 年の市場規 模を求めると、 美容…1 兆 5,782 億円、 理容…6,720 億円 エステ…3,491 億円 ネイル…2,165 億円 となっている(図 5)。 1 各種から新規に作成 84 ©ハリウッド大学院大学 図 5 日本・美容産業の市場規模(2012 年)2 化粧品産業 「化粧品産業」は、化粧品という物品を販売する産業である。主に、「どこで売られているか」に 着目し、各種統計では、「化粧品店」「百貨店」「薬局・薬店」「量販店」「CVS(コンビニエンススト ア)」「訪問販売」「理・美容室」「その他」に区分して、それぞれの市場の規模をとらえている。 2012 年の統計では、 化粧品店…4,792 億円 百貨店…2,165 億円 薬局…9,372 億円 量販店…4,979 億円 CVS…1,681 億円 訪問販売…4,429 億円 理・美容室…583 億円 その他…5,440 億円 2 「美容」「理容」「エステ」は、矢野経済研究所「理美容マーケティング総鑑 2013 年版」を、「ネイル」 については「ネイル白書 2012-2013」を、それぞれ参照して求めた。 85 となっている(図 6)。 ©ハリウッド大学院大学 図 6 日本・化粧品産業の市場規模(2012 年)3 婚礼(ブライダル)産業 「婚礼(ブライダル)産業」は、婚礼に対して直接的に関わる諸産業として位置づけ、これを、「挙 式披露宴披露パーティ市場」「新婚家具市場」「新婚旅行市場」「ブライダルジュエリー市場」「結 納式・結納品市場」「結婚情報サービス・仲介業・情報誌市場」「その他」に区分して、それぞれの 市場の規模をとらえている。2012 年の統計では、 挙式披露宴披露パーティ市場…1 兆 4,300 億円 新婚家具市場…5,200 億円 新婚旅行市場…3,340 億円 ブライダルジュエリー市場…1,787 億円 結納式・結納品市場…820 億円 結婚情報サービス・仲介業・情報誌市場…699 億円 その他…24 億円 となっている(図 7)。 3 週刊粧業各号を参照して求めた。 86 ©ハリウッド大学院大学 図 7 日本・婚礼(ブライダル)産業の市場規模(2012 年)4 以上、直近の統計を参照して、最新の市場状況について概観した。最後に、これらの市場の規 模がこの 30 年あまりの間にどのように推移してきたかについて、できる限り直近の出典をさかのぼ り、マクロ経済指標とも絡めてまとめてみた。その結果が、次の図 8 である。 これを見ると、バブル崩壊やリーマンショックなどによって所得が不安定に推移する中で、美容 関連市場や消費支出は相対的に安定して推移していることがわかる。近年、市場規模は縮小し ているように見えるが、各種統計が、近年急拡大しているネット販売の金額の中から、美容関連の 金額を抽出しきれていないこともあり、このグラフや数字に表れない売上があると推察される。こ のような潜在的売上もあることを考慮すれば、美容関連産業は未だに成長産業として位置付ける ことができる。 4 矢野経済研究所「ブライダル産業年鑑 2014 年版」を参照して求めた。 87 ©ハリウッド大 学 院 大 学 図 8 美 容 関 連 市 場 規 模 と マク ロ経 済 指 標 の推 移 88 1.2.2 美容市場・美容サービスの現状調査 前項では現在の市場について概観したが、この数年と今後の動向について、シンクタンク等が データをまとめており、以下の項では、その調査結果にも触れておく。 日本における美容市場の動向 美容サービス全体 日本の美容市場は、2012 年度現在で約 1 兆 5 千 6 百億円の規模となっている。4 年前の 2008 年度には 1 兆 6 千億円を超えていたのが微減となっており、また、5 年後の 2017 年度には 1 兆 5 千百億円を予想しており、中長期的に微減が続く傾向にあると予想されている(図 9)。 日本・美容市場全体の市場規模 (十億円) 1,800 1,600 1,604 1,595 1,585 1,565 1,558 1,549 1,539 1,531 1,521 1,512 2010 2011 2012 2013 (予想) 2014 (予想) 2015 (予想) 2016 (予想) 2017 (予想) 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 2008 2009 年度 図 9 日本・美容市場全体の市場規模の推移5 美容室数は 2007 年度時点で 219,046 件だったのが、2011 年時点で 228,429 件に増えており、 また、美容師数は 2007 年時点で 433,723 名だったのが、2011 年時点で 471,161 名に増えてい る6。以上のことから、日本国内の美容市場では非常に激しい競争となっている実態がわかる。 この激しい競争の実態は、「客単価」の下落をもたらしている。1 世帯あたりの支出金額の推移 を観察すると、図 10 に示したとおり、美容室の主要サービスである「パーマネント代」が下落して いることがわかる。「カット代」も上下を繰り返しながら、全体としてはやや下落してきたが、2011 年 度から 2012 年度にかけては上昇している。一方で、「その他の理美容代」は上昇傾向にある。こ れは、美容サロンが行う他のサービス、すなわち、ネイルやエステについての客単価は上昇傾向 にあることを示している(これが具体的に、ネイルなのか、エステなのか、さらにそれ以外なのか、 これらのどれが上昇しているのか、などは、この資料だけでは不明である)。 5 6 矢野経済研究所、「理美容マーケティング総鑑 2013 年版」から作成 矢野経済研究所調査から 89 1世帯当たりの品目別支出金額(総世帯) (円) 30,000 他の理美容代 カット代 パーマネント代 25,000 6,911 5,732 6,431 6,221 5,158 5,420 13,907 13,659 2006 2007 5,663 5,357 5,275 5,293 15,124 14,212 14,182 2008 2009 2010 5,072 4,848 20,000 5,113 5,276 5,554 15,051 15,417 2011 2012 年 5,333 15,000 10,000 12,641 5,000 0 2005 7 図 10 1 世帯あたりの品目別支出金額 美容サービス全体(施術別) 美容サービス全体の市場規模の推移を施術別に見たグラフが、図 11 である。これを見ると、 「カット」、「セット」、「パーマネント」、「その他」、いずれの施術においても、この数年微減傾向が続 き、今後もその傾向が継続することが予想されている。中では、「その他」の相対的な減少傾向が 小さく、ほとんど横ばいに等しい状況にある。 日本・美容市場全体の規模(施術別) (百万円) 1,800,000 その他 カット セット パーマネント 1,600,000 1,400,000 1,200,000 1,000,000 409,600 405,000 399,500 392,000 387,000 382,000 377,000 372,000 367,000 362,000 62,000 61,400 60,700 60,000 59,500 59,200 58,900 58,600 58,300 38,000 311,700 309,000 305,700 301,000 300,000 298,500 297,000 295,000 293,000 291,000 820,600 820,000 819,200 812,000 811,000 809,000 807,000 805,000 803,000 801,000 2008 2009 2010 2011 2012 2013 (予想) 2014 (予想) 2015 (予想) 2016 (予想) 2017 (予想) 800,000 600,000 400,000 200,000 0 年度 図 11 日本・美容市場全体(施術別)の市場規模の推移8 エステティックサロン市場 エステティックサロンの市場規模は 2009 年度から 2010 年度にかけて減少傾向が見られたが、 その後、微増に転じ、今後も微増傾向が続くと予想されている。 7 8 総務省統計局、「家計調査年報(総世帯・二人以上の世帯・単身世帯)」から作成 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/Xlsdl.do?sinfid=000021171426 矢野経済研究所、「理美容マーケティング総鑑 2013 年版」から作成 90 日本・エステティックサロン市場全体の市場規模 (百万円) 400,000 358,820 350,000 348,600 349,400 349,100 355,400 358,150 356,700 357,300 357,900 358,500 2010 2011 2012 2013 2014 (予想) 2015 (予想) 2016 (予想) 2017 (予想) 2018 (予想) 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 2009 年度 図 12 日本・エステティックサロンの市場規模の推移9 エステティックサロン市場(分野別) エステティックサロンが行う施術ごとに見ると、2011 年度を底に(ただし、「脱毛」はこの数年一貫して 増加)、これまでも、また、今後も各分野において微増が予想されている。 日本・エステティックサロン市場全体の規模(分野別) (百万円) 300,000 メンズエステ 脱毛 痩身/ボディ 美顔 250,000 200,000 106,050 103,400 100,300 97,300 97,400 97,500 97,600 97,700 97,800 97,900 70,700 70,800 70,900 71,000 71,100 71,200 150,000 70,600 100,000 79,050 76,500 73,500 50,000 26,010 31,000 41,900 47,600 47,800 47,900 48,000 48,100 48,200 24,500 35,400 35,000 34,000 33,000 33,400 33,500 33,600 33,700 33,800 33,900 2009 2010 2011 2012 2013 2014 (予想) 2015 (予想) 2016 (予想) 2017 (予想) 2018 (予想) 0 年度 図 13 日本・エステティックサロンの市場規模の推移10 ネイル市場 図 14 は、サロン等で行われるネイルサービスと、消費者向けに販売されるネイル製品の市場動 向(2005 年~2012 年)である。2005 年に 1,000 億円強であった規模は右肩上がりで伸び続け、 7 年後の 2012 年現在で 2,100 億円強と 2 倍に成長してきた。成長の程度は 2009 年以降鈍化し ているが、この先、順調に伸びていくというのが大方の見方である。 ネイルサービスと消費者向けネイル製品の推移を比較すると、前者が一貫して増加しているの 9 10 矢野経済研究所、「エステティックマーケティング総鑑 2014 年版」から作成 矢野経済研究所、「エステティックマーケティング総鑑 2014 年版」から作成 91 に対し、後者は一貫して減少していることがわかる。この間、ネイルサロンの数は、1 万軒に満たな かったのが、2012 年現在では 21,000 軒と、2 倍以上増加した。これらを合わせて考えると、ネイ ルサロンによるネイルサービスが安定的に定着し、消費者もネイルサロンで施術を受ける機会が 増えていることが推察される。 日本・ネイル市場全体の規模 (百万円) 250,000 ネイルサービス 消費者向けネイル製品 200,000 48,650 150,000 58,100 54,400 126,650 132,450 49,200 51,500 59,000 100,000 59,350 61,350 50,000 141,900 149,600 2010 2011 158,500 91,400 60,250 42,750 0 2005 2006 2007 2008 2009 2012 年度 図 14 日本・ネイルの市場規模の推移11 化粧品市場 日本の化粧品市場は、2012 年度現在で約 2 兆 2 千 9 百億円の規模となっている。4 年前の 2008 年度には 2 兆 3 千億円を少し超えていたのが若干の増減を繰り返し、現在は回復基調にあ るといってよい。今後の予想も、非常に小さい幅ではあるが増加傾向が続き、5 年後の 2017 年度 には 2 兆 3 千億円を回復するであろうと予想されている。 日本・化粧品市場全体の市場規模 (十億円) 2,500 2,314 2,284 2,286 2,271 2,290 2,299 2,305 2,309 2,310 2,310 2008 2009 2010 2011 2012 2013 (予想) 2014 (予想) 2015 (予想) 2016 (予想) 2017 (予想) 2,000 1,500 1,000 500 0 年度 図 15 日本・化粧品の市場規模の推移12 11 12 日本ネイリスト協会、「ネイル白書 2013 年版」から作成 矢野経済研究所、「化粧品マーケティング総鑑 2013 年版」から作成 92
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