住民投票について (1)住民投票の種類について 住民投票は,以下の3つに大別されます。 ①憲法に基づく住民投票 ・一の地方公共団体のみに適用される特別法の制定に関する住民投票 (日本国憲法第95条) ・憲法の改正に係る承認としての国民投票(日本国憲法第96条第1項) ・最高裁判所の裁判官の審査として行う投票(日本国憲法第79条第2項) ②法律に基づく住民投票 ・議会の解散請求に関する選挙人の投票(地方自治法第76条第3項) ・議員の解職請求に関する選挙人の投票(地方自治法第80条第3項) ・長の解職請求に関する選挙人の投票(地方自治法第81条第2項) ・合併協議会設置協議に関する住民投票(市町村の合併の特例等に関する法律第 4条第14項、第5条第21項) ③条例に基づく住民投票 ・地方自治体が定める条例に基づく住民投票 (地方自治法第12条,74条) 自治基本条例等に規定される住民投票は,議会と市長による二元代表制(*)を補 うものとして,将来にわたって市に重大な影響を及ぼすと考えられる事項(全国 での住民投票の実施事例は,合併問題,原子力発電所施設建設問題,米軍基地問 題など。 )について,住民の意思を直接確認する住民参画の手法の1つとされて います。 (2)条例に基づく住民投票の区分について 条例に基づく住民投票は,個別設置型と常設型の2つの区分にわかれます。 ① 個別設置型住民投票 現行の制度(地方自治法)に基づき,個別の事案ごとに,長や議員の提案また は住民の請求によって,その都度議会の議決を経て制定される条例に基づいて行 われる住民投票です。 例:「○○市における××の賛否を問う住民投票条例」等 ② 常設型住民投票 住民投票の対象事案や投票資格者,住民投票の実施に必要な請求要件や手続等 を定めた条例を,あらかじめ議会の議決を得て制定しておくことで,個別の事案 ごとに条例を制定することなく,当該条例に基づいて行われる住民投票です。 例:「○○市住民投票条例」等 自治基本条例等中に直接,常設型住民投票に ついて盛り込んでいる自治体もある(下記「豊中市自治基本条例」 (3)個別設置型と常設型の特徴(メリット・デメリット) Ⅰ 個別設置型 メリット ・個別案件ごとに投票の必要性を議会で審議することから,制度の濫用を防 止できる。 ・投票の対象事案に適した制度設計が可能である。 デメリット ・個別案件ごとに請求を行い,請求者が条例案を作成し,議会の議決を経て 条例を制定し実施するため,実施まで時間と労力を要する。 ・住民による直接請求が成立しても,条例案を議会で否決した場合は,住民 投票が実施できない。 Ⅱ 常設型 メリット ・あらかじめ定められた発議要件を満たせば,議会の議決を要せずに投票を 実施できるので,迅速に対応できる。 ・議会の議決を要しないので,請求が成立すれば住民投票が実施できる。 デメリット ・請求要件を満たせば議会の議決を要せず実施できるため,制度の濫用を招 く恐れがあり,濫用された場合,多大な実施コストがかかる。 ・投票資格者等の要件が固定されているので,事案ごとに柔軟に対応できな い。 ●自治基本条例に「住民投票」に関する条項を盛り込んでいる自治体の例 ①現行制度(地方自治法)の確認をする程度の規定を盛り込む 例: 【安城市】 (住民投票) 第22条 市長は,市政の特に重要な事項について,直接市民の意志を確認する必要があると認めるときは,住民 投票を実施することができます。 2 住民投票に付すべき事項,投票の手続,投票の資格要件その他住民投票の実施に必要な事項については,その 都度,別に条例で定めます。 3 議会及び市長その他の執行機関は,住民投票の結果を尊重します。 ②発議・請求に関する規定を盛り込む 例: 【東海村自治基本条例】 ・・・現行制度に準じた規定を定めている (住民投票) 第 29 条 村長は,村政の特に重要な事項について,直接住民の意思を確認する必要 があるときは,村議会の議決を経て住民投票を実施することができます。 2 村は,住民投票の結果を尊重します。 3 住民投票を行うときは,その都度投票できる人,投票結果の取り扱いなどを規定した条例を別に定めます。 (住民投票の発議・請求) 第 30 条 住民のうち選挙権がある人は,地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号。以下「法」という。)第 74 条の 規定により,住民投票を規定した条例の制定を村長に請求することができます。 2 村議会議員は,法第 112 条の規定により,住民投票を規定した条例を発議することができます。 例: 【三鷹市自治基本条例】 ・・・請求権者を拡大する規定を定めている (住民投票) 第 35 条 市内に住所を有する年齢満 18 歳以上の者で別に定めるものは、市の権限に属する市政の重要事項につい て、その総数の 50 分の1以上の者の連署をもって、条例案を添え、その代表者から市長に対して住民投票の実施 を請求することができる。 2 前項の条例案において、投票に付すべき事項、投票の手続、投票資格要件その他住民投票の実施に関し必要な事 項を定めるものとする。 3 市長は、第1項の請求を受理した日から 20 日以内に市議会を招集し、意見を付けてこれを市議会に付議し、そ の結果を同項の代表者に通知するとともに、これを公表しなければならない。 4 前3項に掲げるもののほか、第1項による住民投票の請求の処置等に関しては、地方自治法第 74 条第2項、第 4項及び第6項から第8項まで、第 74 条の2第1項から第6項まで並びに第 74 条の3第1項から第3項まで の規定の例による。 例: 【豊中市自治基本条例】 ・・・請求権者の拡大・請求要件の強化のほか,議会の議決を要しない常設型である事 を表す規定を定めている (市民投票) 第30条 市内に住所を有する満18歳以上の者(外国人を含む。第3項において同じ。 )は,将来にわたって市に 重大な影響を及ぼすと考えられる事項に関し,その総数の6分の1以上の者の連署をもって,市長に対し市民投票 の実施を請求することができる。 2 市長は,前項の規定による請求があったときは,市民投票を実施しなけれ ばならない。 参考資料 日本国憲法 ~特別法の制定に関する住民投票~ 第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところ により、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、 国会は、これを制定することができない。 ~憲法改正に係る国民投票~ 第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会 が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認に は、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半 数の賛成を必要とする。 ~最高裁判所の裁判官の審査として行う投票~ 第七十九条 2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙 の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選 挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。 地方自治法 ~議会の解散請求に関する住民投票について~ 第七十六条 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分 の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える 数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して 得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分 の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を 乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、 普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の議会の解散 の請求をすることができる。 ○3 第一項の請求があつたとき、委員会は、これを選挙人の投票に付さなけれ ばならない。 ~議員の解職請求に関する住民投票について~ 第八十条 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、所属の選挙区にお けるその総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつては その四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて 得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十 万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と 四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、 その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該選挙区に属す る普通地方公共団体の議会の議員の解職の請求をすることができる。 ○3 第一項の請求があつたときは、委員会は、これを当該選挙区の選挙人の投 票に付さなければならない。 ~長の解職請求に関する住民投票について~ 第八十一条 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分 の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える 数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して 得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分 の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を 乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、 普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の 請求をすることができる。 ○2 第七十四条第五項の規定は前項の選挙権を有する者及びその総数の三分の 一の数(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超え る数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算し て得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八 分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一 を乗じて得た数とを合算して得た数)について、同条第六項の規定は前項の代表 者について、同条第七項から第九項まで及び第七十四条の二から第七十四条の四 までの規定は前項の規定による請求者の署名について、第七十六条第二項及び第 三項の規定は前項の請求について準用する。 ~合併協議会設置協議に関する住民投票について~ 第四条 選挙権を有する者(市町村の議会の議員及び長の選挙権を有する者(公 職選挙法 (昭和二十五年法律第百号)第二十二条 の規定による選挙人名簿の登 録が行われた日において選挙人名簿に登録されている者をいう。)をいう。以下 同じ。 )は、政令で定めるところにより、その総数の五十分の一以上の者の連署 をもって、その代表者から、市町村の長に対し、当該市町村が行うべき市町村の 合併の相手方となる市町村(以下この条及び第五条の二第一項において「合併対 象市町村」という。 )の名称を示し、合併協議会を置くよう請求することができ る。 5 前項のすべての回答が合併協議会設置協議について議会に付議する旨のもの であった場合には、合併請求市町村の長にあっては同項の規定による合併対象市 町村の長への通知を発した日から六十日以内に、合併対象市町村の長にあっては 同項の規定による通知を受けた日から六十日以内に、それぞれ議会を招集し、合 併協議会設置協議について議会に付議しなければならない。この場合において、 合併請求市町村の長は、その意見を付けなければならない。 ~条例の制定・改廃に関する請求について~ 第七十四条 普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者(以下本 編において「選挙権を有する者」という。)は、政令の定めるところにより、そ の総数の五十分の一以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団 体の長に対し、条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収 に関するものを除く。 )の制定又は改廃の請求をすることができる。 ○3 普通地方公共団体の長は、第一項の請求を受理した日から二十日以内に議 会を招集し、意見を附けてこれを議会に付議し、その結果を同項の代表者に通知 するとともに、これを公表しなければならない。 (3)住民投票実施までの流れ 個別設置型 常設型(例:富士見市の場合) (各自治体があらかじめ定めている住民投票条例等に基づくもの) 市長 議員 住民 議員定数の 1/3 以上の賛成による 議案提出 自ら実施する ことが可能 (議決不要) 議会による審議 投票資格者の 1/10 以上の 連署による投 票実施の請求 (地方自治法に基づくもの(現行制度) ) 市長 議員 条例案の提出(地 方自治法第14 9条1号,第96 条第1項第1号) 議員定数の 1/12 以上の賛成による 条例案提出(地方 自治法第112条 第1項,第96条 第1項第1号) 住民 有権者の 1/50 以上の 連署に よる条 例制 定の 直接請求(地方自治法第 12条,第74条) 市長 意見を 付して 議会へ 付議 可決 議会による審議 否決 可決 条例制定 住民投票を実施 ※住民の請求要件や,議員の発議要件は,各自治体によって異なる 条例は制定され ず,住民投票も 実施されない 住民投票を実施
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