Adobe が目指すデジタルデバイス戦略とは

IGAS2015 FFGS セミナーレポート
Adobe が目指すデジタルデバイス戦略とは
2015 年 11 月 13 日
富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ株式会社
9 月 11 日から 16 日にかけて開催された『IGAS2015』
の会期中、富士フイルムグローバルグラフィックシステ
ムズ(代表取締役社長:真茅 久則、以下 FFGS)は、5
つのテーマで最新の市場動向やソリューションの活用
事例などを紹介する FFGS セミナーを開講した。本稿で
は、9 月 14 日、アドビシステムズ社の Mark Lewiecki
氏を講師に迎えて開催した「Adobe が目指すデジタルデ
バイス戦略とは」の概要を紹介する。
アドビシステムズ社
シニアプロダクトマネージャー Mark Lewiecki 氏
■Adobe が提供するクラウドサービス
Adobe は、すでにリリースしている『Adobe Creative Cloud』
『Adobe Marketing Cloud』
に加えて、2015 年 3 月、新たに『Adobe Document Cloud』という3本目のクラウドサー
ビスの提供を開始した。まず、Adobe Creative Cloud(CC)についてご紹介する。
CC は、紙媒体、Web、モバイル、ビデオ・オーディオなどの分野に向けて提供する、最
もパワフルなデザインアプリケーションである。ユーザーは、個々のアプリケーションを
選んで利用することも、月額 5,000 円ですべてのアプリケーションを使うことも可能であ
る。
CC を使うことで、ユーザーは、あるデバイスで開始した作業を、異なるデバイスでもそ
のまま続けることができる。その際、ファイルやフォント、写真、デザインのアセット、
設定、メタデータなどがすべて同期し、つねに最新の状態で使えるようになっている。現
在、毎月 350 万人に CC をご利用いただいている。
最近では、Adobe Brush、Adobe Shape など、モバイル用のタッチアプリケーションを
新たに導入している。これらのアプリケーションを通じて、デザイナーは実世界からさま
ざまなアイデアをタブレットやスマートフォンで取得し、活用することができるようにな
った。また、こうした情報を CC のアプリケーション、たとえば Illustrator や Photoshop
などで使える形式に変換することも可能である。
新しく提供を始めた Adobe Document Cloud は、クラウドベースのドキュメントサービ
スで、これにより、Acrobat がタブレットやモバイル端末でも使えるようになった(料金は
月額 1,380 円から)
。Acrobat のインターフェースなどはすべて一からつくり直したことか
ら、ツールなどはより見つけやすく、また使いやすいものとなっている。
■ワークフローの信頼性を高める Adobe PDF Print Engine (APPE)
APPE は PDF プリントワークフローの中で最も広く使われ、また急速に成長している
RIP テクノロジーである。実際、世界中で現在 12 万台のシステムが稼働している。また、
当社で行なった研究結果では、APPE が最速の RIP であること、とくに透明効果、スポッ
トカラー、スムーズなシェードなど、複雑なグラフィックの処理において最速の RIP であ
ることが実証されている。
また、APPE は、最も信頼性の高いレンダリングテクノロジーでもある。グラフィック
がどれだけ複雑であっても、最終的な印刷物が Acrobat Reader などのデジタルソフトプル
ーフと一致することが保証されている。
ワークフロー全体で一貫して当社のテクノロジーを活用することで、さまざまなジョブ
をトラブルなく安定して進められることはもちろん、システムのより柔軟な運用も可能に
なる。たとえば、下版直前の修正対応や、複数の印刷機で同時にジョブを走らせるといっ
たことも可能だ。APPE を使うことで、Adobe 以外のアプリケーションで作られた PDF フ
ァイルもアウトプットできるようになる。
富士フイルムのワークフローシステム『XMF Ver.6』には、Adobe Mercury RIP アーキ
テクチャが搭載されている。Mercury RIP アーキテクチャを使うことで、APPE の機能を
拡張させ、バリアブルデータ印刷(VDP)のジョブをデジタル印刷機で高速印刷すること
が可能になる。これは、最新のマルチプロセッサコア環境を最大限に活用することで、リ
アルタイムに高速なバリアブルデータ組版が行なえるためである。
Mercury RIP アーキテクチャは、PDF VT 形式のサポートや、ページの並列処理など、
高速・大量のデジタル印刷に対応した機能を持つ。また、ダイナミックな負荷分散のサポ
ートや、APPE に対するダイナミックなインスタンスの割り当ても可能であることから、
同一ネットワーク上の複数の印刷機から同時に出力したり、ネットワークの通信量を最小
限に抑えたりといったことが可能になる。
なお、Mercury RIP アーキテクチャの詳細については、調査会社 IDC のホワイトペーパ
ー(白書)にパフォーマンステストの結果なども含めて紹介されているので、ぜひご参照
いただきたい。英語版および日本語版のホワイトペーパーは、Adobe の Web サイトから入
手可能となっている。
■富士フイルムと Adobe の連携
富士フイルムと当社の関係は、すでに 20 年以上続いている。厳しい状況にある印刷市場
において、私たちは今後も積極的に連携をとりながらイノベーションを進めていくことを
お約束する。
APPE については、当社が 2006 年にリリースした後、2007 年に富士フイルムが我々の
初の OEM パートナーとして RIP に採用。PostScript から PDF への切り換えを促進した。
こうした流れを通じて、APPE が最新の XMF ワークフローに組み込まれることとなった。
現在、XMF は、Mercury RIP アーキテクチャを採用し、それによってオフセット印刷・
デジタル印刷双方の市場において、最も進んだワークフローソリューションとなっている。
■バリアブルデータ印刷(VDP)の活用による市場開拓
デジタル印刷機による印刷量は、現在、年率およそ 9%という非常にハイペースな成長を
遂げている。その一方で、オフセット印刷量は減少している。このペースが続けば、デジ
タル印刷量は、約 23 年後にはオフセット印刷量を上回ると予測される。
アプリケーション(印刷物の種類)別では、パッケージ分野が大きな注目を集めている。
業界アナリストによれば、デジタル印刷機によるパッケージ印刷の売上が年間 20%以上の
成長を遂げると予測されている。
デジタル印刷によるパッケージは、従来型のフレキソ印刷やグラビア印刷と比較すると
コストは高めではあるが、実はさまざまな重要な価値を提供することが可能である。たと
えば、シーズンごと・地域ごとに異なるパッケージの提供、および販促キャンペーンの容
易な実施、といった価値を提供することができる。
ダイレクトメール(DM)も、デジタル印刷により急成長を遂げている。DM は、2024
年にグローバルの印刷業界で 700 億ドルの売上が見込まれる分野である。デジタル印刷機
を用いればパーソナライズが可能であるが、現時点で実際にパーソナライズされているの
はほんの 2 割である。これは、バリアブルデータ印刷(VDP)によって DM のマーケティ
ング効果を高める非常に大きなチャンスであることを示している。
ところで、VDP は、商業印刷の領域で PDF 以外のフォーマットが広く使われている唯
一の分野である。PDF VT は VDP 向けに最適化された PDF の変形バージョン(亜種)で、
ISO で規格化されており、その仕様は 2010 年に発行、その翌年(2011 年)に PIA(米国
の印刷業界団体)によって認められた。
PDF VT により、印刷会社は VDP の生産環境において PDF のメリットを享受できるよ
うになった。つまり、カラーマネージメントを含む PDF ワークフローを、そのまま VDP
のジョブにも当てはめることができる。つまり、PDF VT の活用によって、異なるワーク
フローを用意することなく、パーソナライズを通じてクライアント企業の販促効果向上に
貢献することができる。この機会をぜひ活かしていただきたい。