神奈川県立保健福祉大学の経済波及効果(概要) 平成 27 年 3 月 保健

神奈川県立保健福祉大学の経済波及効果(概要)
平成 27 年 3 月
保健福祉大学経済効果算定プロジェクトチーム
保健福祉大学の県内への経済波及効果を「神奈川県産業連関表経済波及効果簡易分析ツー
ル」を用いて算出したところ次のとおりであった。
○大学(実践教育センターを含む)の教育研究活動や教職員・学生・来訪者等の消費によ
る経済波及効果は 2,613 百万円(うち実践分 374 百万円)
○雇用効果は 484 人(うち実践分 71 人)
直接効果
経済波及効果
・教育研究に伴う消費
410 (25)百万円 ⇒
・教職員等の消費
752(150)百万円 ⇒ 1.048(209)百万円
・学生等の消費
611 (87)百万円 ⇒
・来訪者の消費
計
41
百万円 ⇒
622 (38)百万円
879(127)百万円
64
百万円
1,814(262)百万円 ⇒ 2,613(374)百万円
・雇用効果:雇用誘発者数 177(26)人+教職員数 307(45)人=484(71)人
○教育活動の効果(卒業生の所得増)に伴う経済波及効果は 8,939 百万円
1
取組の背景
県の「県民利用施設の見える化」の取組の一環として、保健福祉大学についても収支状
況等を公表しているが、大学の効果については、数量的な把握が困難なこともあって十
分な情報提供が行われているとは言えない。
大学の役割である教育、研究、地域貢献は、いずれも長期的視点に立って評価すべきも
のであり、また、その効果を数量的に把握することは容易ではない。一方、大学の効果
の一側面である経済波及効果の算定については、いくつかの先行事例がある。(注 1.1)
そこで、先行事例を参考に保健福祉大学の県内への経済波及効果の算出に取り組むこと
とした。
2
取組の目的・意義
保健福祉大学が神奈川県に与える経済波及効果について神奈川県産業連関表を用いて試
算し、これを公表することにより、県民への情報提供・「見える化」の充実を図る。
このことによって、保健福祉大学の効果について、新たな側面から具体的に示すことが
でき、今後の大学の取組に対する県民理解の促進に寄与する。また、大学のあり方につ
いて議論する際の一つの参考データとして活用することができる。
3
経済波及効果の算出方法
1
消費額の算出は、文部科学省が財団法人日本経済研究所に委託して実施した分析の方法
と基本的に同様の方法で行うが(日本経済研究所 2007、2011)、より分析に適した統計資
料等がある場合は、それを用いて分析する。
また、経済波及効果の算出は、県統計センターが提供している「平成 17 年神奈川県産
業連関表経済波及効果簡易分析ツール」(注 3.1)を用いて行う。なお、分析作業に当たっ
ては、神奈川県統計センター職員のアドバイスを得ている。
4
分析対象項目
分析対象は以下の 5 項目とし、併せて雇用誘発者数等も算出する。
A
大学の教育研究に伴う消費の経済波及効果
B
大学の教職員等の消費の経済波及効果
C
大学の学生等の消費の経済波及効果
D
大学の来訪者の消費の経済波及効果
E
教育活動の効果(卒業生の所得増)に伴う経済波及効果
先行事例では、A、B、Cを基本にDや施設整備に伴う経済波及効果と雇用誘発効果を
計算した事例が多い。本学では施設整備は行っていないため分析対象としない。また、
Eの先行事例は日本経済研究所(日本経済研究所 2011)のみであるが、今回、算出を試み
ることとした。(注 4.1)
5
分析の考え方及び分析方法
A
大学の教育研究に伴う消費の経済波及効果
【考え方】
大学が行う教育研究活動において様々な経費を支出しており、こうした大学運営に係る
支出が地域経済に需要を生み出す。
【分析方法】
大学が支出する経費(県予算及び科学研究費等)のうち人件費を除く経費を消費とし、
産業連関表の産業分類別に整理して経済波及効果を計算する。
分析対象経費
区
(単位:千円)
分
人件費に相当する経費
保健福祉大学
計
1,394,276
320,979
1,715,255
対
自ら執行する経費
593,662
24,320
617,982
象
他課が執行する経費
11,849
20,314
32,163
経
科研費・受託研究費
41,484
-
41,484
費
小 計
646,995
44,634
691,629
523,302
-
523,302
2,564,573
365,613
2,930,186
分析対象外経費
合
B
実践教育センター
計
大学の教職員等の消費の経済波及効果
【考え方】
2
大学には多くの教職員等が働いており、教職員等及びその家族が地域で生活することに
より、消費が生まれ地域経済に需要を生み出す。
【分析方法】
大学の教職員等に支払われる人件費、日々雇用職員賃金、講師謝金等の人件費に属する
経費を所得ととらえ、平均消費性向から消費額を推計して集計し、産業連関表の民間消
費支出の割合で産業分類別に整理して経済波及効果を計算する。
教職員等の消費の状況
区
C
分
保健福祉大学
実践教育センター
合
計
教職員数(人)
262
45
307
県内在住者(人)
203
39
242
人件費(千円)
1,394,276
320,979
1,715,255
県内発生所得(千円)
1,189,556
296,037
1,485,595
県内消費額(百万円)
846
211
1,057
大学の学生等の消費の経済波及効果
【考え方】
大学に集まる学生がその地域で生活することにより、消費が生まれ地域経済に需要を生
み出す。
【分析方法】
「学生生活調査結果」のデータから学生一人当たりの年間消費額を設定し、学生数を乗
じた年間消費額を産業分類に整理し経済波及効果を計算する。実践教育センターの受講
日数の短い受講者は、「MICE 経済波及効果測定モデル利用マニュアル」等から 1 日当た
りの消費額を設定し、延受講日数を乗じた消費額を産業分類別に整理し経済波及効果を
計算する。
(大学、実践教育センター教員・教育担当者養成課程看護コース等受講者)
学生等の消費の状況
区
分
保健福祉大学
自宅
人数(人)
下宿
実践教育センター
計
自宅
下宿
計
学生
647
311
958
61
38
99
院生
49
8
57
-
-
-
一人当たり消費
学生
1,171
1,917
-
1,264
2,012
-
額(千円)
院生
1,264
2,012
-
-
-
-
消費総額(千
学生
757,702
596,094
1,353,796
77,128
76,445
153,573
円)
院生
61,956
16,094
78,050
-
-
-
(実践教育センターその他のコース受講者)
受講者等の消費の状況
区
分
県内受講者
県外受講者
3
合
計
D
受講者数(人)
12,717
608
13,325
消費単価(円)
2,460
15,910
-
消費額(千円)
31,284
9,673
40,957
大学の来訪者の消費の経済波及効果
【考え方】
大学の行事や地域貢献活動として行われるイベントに来訪者が集まるが、これらの来訪
者により、消費が生まれ地域経済に需要を生み出す。
【分析方法】
「MICE 経済波及効果測定モデル利用マニュアル」等から来訪者一人当たりの消費額を
設定し、来訪者数を乗じた消費額を産業分類別に整理し経済波及効果を計算する。
来訪者等の消費の状況
区
E
分
県内(日帰り)
県外(宿泊)
合
計
来訪者等数(人)
15,553
1,882
17,435
消費単価(円)
2,749
16,199
-
消費額(千円)
42,755
30,487
73,242
教育活動の効果(卒業生の所得増)に伴う経済波及効果
【考え方】
大学における教育により、人材の質が向上し個人所得が増加する。これに伴って消費が
増加し地域経済に需要を生み出す。
【分析方法】
「賃金構造基本統計調査」のデータから大卒者と高卒者の給与差を計算し、これを 19
歳から 65 歳まで集計して生涯所得の差及び生涯消費額の差を計算する。この差額に卒業
生の数を乗じて消費増となる額の総額を計算し産業分類に整理して経済波及効果を計算
する。
保健福祉大学学部卒業生に係る生涯賃金及び生涯消費額の増加額
区
分
男 性
女 性
合 計
単 位
就職者数
30
193
223
人
うち県内在住者
24
151
175
人
生涯賃金(高卒)
213,955
155,983
-
千円
生涯賃金(大学・大学院卒)
292,763
236,307
-
千円
78,808
80,324
-
千円
就職者の生涯賃金の増加額計
2,364
15,503
17,867
百万円
うち県内在住者
1,891
12,129
14,020
百万円
生涯消費額(高卒)
185,379
138,909
-
千円
生涯消費額(大学・大学院卒)
226,159
196,081
-
千円
生涯賃金の差
4
生涯消費額の差
40,780
57,171
-
1,223
11,034
12,257
百万円
979
8,633
9,612*
百万円
就職者の生涯消費額の増加額計
うち県内在住者
千円
*県内消費額=県内需要発生額 9,023 百万円
5
経済波及効果の算出結果
【需要から生産への波及】
(単位:百万円)
県民需要
教育研究に伴う消費
教職員等の消費
学生等の消費
来訪者の消費
県産品需要*
計
卒業生の所得増
生産誘発額
692 (45)
410 (25)
281 (19)
622 (38)
1,057(211)
752(150)
305 (61)
1,048(209)
935(135)
611 (87)
324 (48)
879(127)
73
合
県外品需要
41
32
2,757(391)
1,814(262)
9,023
6,420
64
942(128)
2,613(374)
2,603
8,939
*県民需要=県内需要発生額、県産品需要=直接効果、生産誘発額=経済波及効果
* ( )は実践教育センター分の内数
【経済波及効果】
(単位:百万円、人)
教育研究に伴う消費
生産誘発額
うち粗付加価
第 1 次波及
第 2 次波
効果*
及効果
教職員等の消費
合計
第 1 次波
第 2 次波
及効果*
及効果
合計
522 (33)
101 (6)
622 (38)
917(183)
131(26)
1.048(209)
300 (19)
68 (4)
367 (22)
628(125)
89(18)
717(143)
165 (9)
23 (1)
188 (11)
215 (43)
30 (6)
244 (49)
45 (2)
6 (0)
52 (3)
64 (13)
9 (2)
72 (14)
39 (2)
6 (0)
46 (3)
56 (11)
8 (2)
64 (13)
値誘発額
うち雇用者
所得誘発額
就業誘発者数
うち雇用誘発
者数
学生等の消費
生産誘発額
うち粗付加価
第 1 次波及
第 2 次波
効果*
及効果
来訪者の消費
合計
第 1 次波
第 2 次波
及効果*
及効果
合計
771(111)
109 (16)
879 (127)
54
9
64
472 (66)
74 (11)
546 (77)
30
6
36
25 (4)
203 (30)
15
2
17
値誘発額
うち雇用者
179 (27)
所得誘発額
5
就業誘発者数
うち雇用誘発
62 (10)
7 (1)
69 (11)
6
1
7
54 (9)
7 (1)
61 (10)
6
1
6
者数
合
生産誘発額
うち粗付加価
計
第 1 次波及
第 2 次波
効果*
及効果
教育活動の効果(所得増)
合計
第 1 次波
第 2 次波
及効果*
及効果
合計
2,264(327)
350(48)
2,613(374)
7,822
1,117
8,939
1,430(210)
237(33)
1,666(242)
5,365
757
6,122
574 (79)
80(11)
652 (90)
1,830
254
2,084
177 (25)
23 (3)
200 (28)
543
75
618
155 (22)
22 (3)
177 (26)
482
67
548
値誘発額
うち雇用者
所得誘発額
就業誘発者数
うち雇用誘発
者数
* ( )は実践教育センター分の内数 *第 1 次波及効果には直接効果を含む。
6
経済波及効果分析の課題
今回の分析は、経済波及効果の特定の部分をとらえた分析である。日本経済研究所の分
析(日本経済研究所 2007、2011)では、税収効果や共同研究による民間企業の売上増に
伴う経済波及効果についても分析しているが、これらについては、今回は分析を行って
いない。
また、今回の分析では、大学の専門分野や教育の特色は反映されていない。定性的な分
析を含め、これらの効果の把握は今後の課題である。
(注記)
1.1 先行事例としてはシンクタンクに委託して分析した事例等があるが、文部科学省が財
団法人日本経済研究所に委託して実施した分析(日本経済研究所 2007、2011)は、標
準的な分析方法とされており(円山 2010)、以降の分析では同様の手法をとるものが
ある(秋田経済研究所 2013、円山 2010、山梨中銀経営コンサルティング 2008)。また、
公立大学協会の調査(公大協第 159 号平成 26 年 1 月 17 日「地方自治体の政策ビジョン
実現のための公立大学の積極的活用に関する調査研究」のアンケート調査)によると、
経済波及効果の測定を「有」とした公立大学は 12 大学であるが、「無」とした公立大
学のうち文献で実施が確認できる大学が 3 大学ある。
3.1 平成 17 年神奈川県産業連関表経済波及効果簡易分析ツール Ver1.0 の中分類を使用し
た。http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f6782/p20918.html
4.1 先行研究における分析対象項目
先行研究
対象
6
その他の分析項目
日本経済研究所 2011(富山大ほか)
ABCDE
施設整備、雇用効果と税収効果、
Eに伴う税収増、共同研究による
民間企業の売上増
(その他定性的効果を参考指標と
する。)
日本経済研究所 2007(弘前大ほか)
ABCD
施設整備、雇用効果と税収効果
秋田経済研究所 2013(国際教養大)
ABCD
施設整備、雇用効果
(その他定性的効果を参考指標と
する。)
青森市産業連関表共同研究グループ
ABC
雇用効果
円山 2010(熊本大)
ABCD
施設整備、雇用効果、税収効果
山梨中銀経営コンサルティング 2008
ABCD
施設整備、雇用効果、税収効果
2012(青森公立大)
(山梨大)
平岡ほか 2007(高知工大)
ABC
宮本 2007(関西大)
ABC
施設整備、マスコミ経済効果、ア
イスアリーナ経済効果
中国地方総合研究センターほか 2007
ABC
(広島市大)
深道ほか 2000(大分大)
ABC
(参考文献)
・日本経済研究所 2011:「大学の教育研究が地域に与える経済効果等に関する調査研究」
報告書 平成 23 年 3 月
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/1311183.htm
・日本経済研究所 2007:「地方大学が地域に及ぼす経済効果分析」報告書 平成 19 年 3 月
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/07110809.htm
・秋田経済研究所 2013:「国際教養大学が地域に及ぼす経済波及効果」平成 25 年 8 月
http://web.aiu.ac.jp/wp-content/uploads/2013/11/Akita-International-University%E2%80%99sEconomic-Ripple-Effect-on-the-Community_2.pdf
・山梨中銀経営コンサルティング 2008:「山梨大学が地域社会に及ぼす経済効果の算出につ
いて」平成 20 年 12 月
http://www.yamanashi.ac.jp/modules/information/index.php?page=article&storyid=176
・円山 2010:円山琢也「熊本大学が地域に及ぼす経済効果:産業連関分析による試算例」
2010 年 3 月 26 日熊本大学政策研究p53
http://reposit.lib.kumamoto-u.ac.jp/handle/2298/14834
・青森市産業連関表共同研究グループ 2012:「青森公立大学の青森市に及ぼす経済効果につ
7
いて」2014 年 4 月 11 日
http://www.nebuta.ac.jp/topics/2012/20120411_aoorishinioyobosu_keizaikokanitsuite.pdf
・平岡ほか 2007:平岡龍馬、那須清吾「産業連関分析による高知工科大学の経済効果に関す
る研究」http://management.kochi-tech.ac.jp/PDF/COEReport_2007/2.2-2/2.2-2-3.pdf
・宮本 2007:宮本勝浩「大学の経済効果-関西大学のケース-」2007 年 3 月現代社会と会計
創刊号 http://ci.nii.ac.jp/naid/110006555864
・中国地方総合研究センターほか 2007:広島市立大学国際学部、中国地方総合研究センター
「広島市立大学の経済効果分析-平成 17 年広島市経済への産業連関効果による計測-」リサ
ーチちゅうごく調査研究報告 07-05-008
http://www.crrc.or.jp/research/log/pdf/0705daigakukeizaikouka_pdf.pdf
・深道ほか 2000:深道春男、下田憲雄「大分大学の地域経済波及効果-地域産業連関分析モ
デルによる経済効果推計-」大分大学経済学会研究所報
http://ir.lib.oita-u.ac.jp/jspui/bitstream/10559/2717/1/34-8.pdf
8