西洋演劇史(第 12 回) 現代演劇 (2)―演出と演技について― 1.演出

西 洋 演 劇 史 ( 第 12 回 ) 現 代 演 劇 (2)― 演 出 と 演 技 に つ い て ―
1. 演 出 小 史
演 出 ・ ・ ・( 英 ) direction / ( 仏 ) mise en scène, realisation
(1)ギリシア悲劇(紀元前 5 世紀~)
稽古、演出は作家やコロスの長が行う。
(例)仮面の表情を誇張/重要な人物ほど背を高く(つぎ足)
(2)中世演劇(14~15 世紀頃最盛)
稽古、演出は教会の僧侶らが行う。
(例)衣装の製作指導/俳優との打合せ/ギルドとの協力/小道具の準備
(3)エリザベス演劇(16 世紀・英)
作家が演出も兼ねる。(例)シェイクスピア(「宮内大臣一座」の座付作家)… 役者の年齢を考慮した
人物設定
(4)古典主義演劇(17 世紀・仏)
作家が演出も兼ねる。統一感なし(俳優たちが自前の衣装で贅沢を競うなど)。
(5)近代/現代演劇(19 世紀〜)
(a)照明の発達 (1821〜22)ガスランプの登場 (1898) フットライトの登場(ガス灯→電灯へ)
(b)専門の演出家の登場
裏方作業の専門分化(装置、衣装、小道具)/「リアリズム」の隆盛(=演技の「型」が無い)
2.現 代 の 代 表 的 な 演 出 家
(1)ピーター・ブルック
1925 年、ロンドン生まれ。オックスフォード大学在学中から演劇活動に入り、1946 年、21 歳でシェ
ークスピア記念劇場(現ロイヤル・シェークスピア劇場)の演出家になった。
「子供は常に現実とは別の世
界に入りたがっている。私も想像と現実の世界を統合するために演劇の世界に入ったようなもの」と語る。
1971 年からパリに本拠地を移し、国際演劇研究センター(現・国際演劇創造センター)を設立、世界各
国の俳優を集めてイランの古代遺跡ペルセポリスなどで野外劇『オルガスト』などを上演。
『真夏の夜の夢』
などのシェークスピア作品をはじめ、インドの叙事詩をテーマにした 9 時間の大作『マハーバーラタ』、チ
ェーホフの『桜の園』は世界的な反響を呼んだ。映画監督も手がけ、ローレンス・オリヴィエ主演の『三
文オペラ』(1952)をはじめ、『雨のしのび逢い』(1960)、『蝿の王』(1965)、『リア王』(1971)、『注目
すべき人々との出会い』(1979)、『カルメンの悲劇』(1983)などがある。
(「高松宮記念世界文化賞ホームページ」より)
(2)鈴木忠志
1939 年静岡県清水市生まれ。1966 年、別役実、斉藤郁子、蔦森皓祐らとともに早稲田小劇場(現・SCOT)
を創立。1976 年富山県利賀村に本拠地を移し、1982 年より、世界演劇祭「利賀フェスティバル」
を毎年開催。世界各地での上演活動や共同作業など国際的に活躍するとともに、俳優訓練方法スズキ・メ
ソッドは世界各国で学ばれている。モスクワ芸術座やニューヨークのジュリアード音楽院などの劇団、大
学で鈴木本人も教えている。2000 年に演劇人の全国組織・舞台芸術財団演劇人会議理事長に就任。シアタ
ー・オリンピックス国際委員。
主な演出作品に、
『劇的なるものをめぐって』、
『トロイアの女』、
『ディオニュソス』、
『リア王』、
『シラノ・
ド・ベルジュラック』、
『オイディプス王』、
『エレクトラ』、音楽劇『カチカチ山』、
『ザ・チェーホフ』、
『別
冊谷崎潤一郎』、『幽霊』などがある。2004 年、モスクワ芸術座に招かれ『リア王』を演出。この作品は、
同劇場のレパートリーとして定期的に上演されている。なお、ケンブリッジ大学が刊行している 20 世紀を
主導した演出家・劇作家 21 人のシリーズに、スタニスラフスキー(露)、ブレヒト(独)、ハロルド・プリ
ンス(米)、ピーター・ブルック(英)、ムヌーシュキン(仏)などと共にアジア人としてただ一人選ばれ、す
でに"The Theatre of Suzuki Tadashi"として出版されている。
(「財団法人・舞台芸術財団演劇人会議」ホームページより抜粋、一部改変)
3. 俳 優 と 演 技 に つ い て
(1)スタニスラフスキー・システム(コンスタンタン・スタニスラフスキー)
20 世紀初頭にロシアのスタニスラフスキー(モスクワ芸術座)が唱えた演技法。従来の俳優術がインス
ピレーションなどの神秘主義に閉ざされていたのに対し、意識的手段(注意、筋肉の解放、想像力、行動、
など)を通して、俳優の潜在意識を呼び起こす演技方法をうちたてた。
スタニスラフスキーによれば・・・
・俳優は役を演じるのではなく、
「役を生きる」べきである。
(日常生活の感情を、舞台上でも生き直す)
・型を表面的に再現しただけの演技は、「機械的演技」で、良くない。
(例)泣く代わりに両手で顔を覆う、など
(2)メソッド演技(エリア・カザン、リー・ストラスバーグ)
1930 年代にアメリカのリー・ストラスバーグがスタニスラフスキーの影響を受けて確立した演技法。ス
タニスラフスキーが俳優の想像力を重視したのに対し、ストラスバーグは人生経験から演技の「真実ら
しさ」を導き出す方法をとった。エリア・カザンらが 1948 年に設立した「アクターズ・スタジオ」は翌
年からストラスバーグを指導者に迎え、その理論の普及に貢献した。
・アクターズ・スタジオ出身の俳優 マーロン・ブランド、ジェームズ・ディーン、ポール・ニューマン、マリリン・モンロー、ジェーン・フ
ォンダ、ダスティン・ホフマン、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジーン・ハックマン、アンソ
ニー・ホプキンス、ジャック・ニコルソン、スティーブ・マックイーン、メリル・ストリープ、ミッキー・
ローク、アンジェリーナ・ジョリー、ブラッド・ピットなど。
4. 参 考 文 献
〈書籍〉
・鈴木忠志『演劇とは何か』(岩波新書)
・イースティ(米村晰訳)『メソード演技』(劇書房)
・スタニスラフスキー(山田肇訳)『俳優修行』(未来社)
・ブルック(高橋康也訳)『なにもない空間』(晶文社)
〈DVD〉
・鈴木忠志『トロイアの女』(カズモ)
・『アクターズ・スタジオ DVD-BOX 1, 2』(東宝)