特別レポート 国際光年オープニングセレモ二ー: パリで盛大に開催 東京大学 岩本 敏 2015 年は国連で宣言された国際光年(International Year グセレモニーの web ページ 2)でストリーミング配信され of Light and Light-based Technologies,IYL2015)1, 2)です。 ています。残念ながら解像度は必ずしも高くありません 本誌でも本年 1 月号で特別企画 3) が組まれたのをご記憶 の方も多いのではないでしょうか。この国際光年のオー が,熱のこもった講演を聞いて,会場の雰囲気を感じて いただけるのではないかと思います。 プニングセレモニーが,去る 2015 年 1 月 19 日と 20 日の 2 日間にわたって,パリのユネスコ(国際連合教育科学文 今 回 の オ ー プ ニ ン グ セ レ モ ニ ー に は, 世 界 中 か ら 化機関)本部で催されました。本稿では,このオープニ 1,000 名を超す 4) 政府関係者や研究者などが集まり,大 ングセレモニーの様子を簡単にご紹介したいと思いま いに盛り上がったイベントとなりました。ユネスコの担 す。なお,当日の講演の様子は,国際光年のオープニン 当者も,クロージングの際にホールが埋まったことに驚 き を 述 べ た ほ ど で し た。 我 が 国 か ら は, 国 際 光 年 の Endorser の 一 つ で あ る 国 際 光 学 委 員 会(International Commission for Optics, ICO)の会長であり,その我が国 における対応機関である日本学術会議 ICO 分科会委員長 でもいらっしゃる東京大学・荒川泰彦先生のほか,ICO 分科会委員の大阪大学・河田聡先生(応用物理学会・会 長) ,法政大学・松尾由賀利先生が参加されました。また, 国際天文学連合の会長としてご講演された海部宣男先生 のほか,SPIE 会長の宇都宮大学・谷田貝豊彦先生,日本 図 1 参加者を歓迎する横断幕 図3 ICO関係者で。初日お昼にICO 各テリトリーからの参加者が集まった。 図 2 オープニングセレモニー 講演会場の様子 OPTRONICS(2015)No.4 (撮影:応用物理学会 事務局 塩田真里さん) 187 特別レポート 光学会会長の黒田和男先生,IEEE フォトニクスソサイ エティ前会長の富士通研究所・桑原秀夫さんらが参加さ れていました。慶應義塾大学・早瀬潤子先生と私は, ICO 分科会での若手枠として参加させて頂き,普段の国 際会議を聴講するのとは違った貴重な体験をさせていた だきました。 さて,国連事務総長およびユネスコ事務局長からのメ ッセージ(残念ながら,代読とビデオレター)で幕を明 けたセレモニーですが,オープニングセッションでは, 国際年制定に貢献した加盟国のうち,ガーナ,メキシコ, ニュージーランド,ロシア,サウジアラビア,そしてチ リからスピーチが述べられました。司会者のスピーカ紹 介も是非聞いてみてください。なぜ,これらの国々が入 っているのか,ギリギリの書類提出や,イブン・アル・ 図 4 1001 Inventions の企画で作製されたイブン・アル・ハイサム像 ハイサムの研究や“dark sky”のキーワードが盛り込ま れた経緯など,国際光年制定に至る物語がわかって大変 では十分に回りきれないほどでした。 興味深いと思います。つづいて,the Mr. IYL と紹介され るほど,国際光年の実現・実施に貢献した国際光年運営 A. Zewail,S. Chu,W. D. Phillips,S. Haroche,Z. 委員長の John Dudley 先生から,国際光年の意義や目指 Alferov の 5 名の先生方による“Nobel Plenary Lecture”は, すところなどを含めて全体の overview がなされました。 全て YouTube で聴講することができます 8)。個人的に特 彼の奮闘ぶりは文献 5 からも知ることができます。 に印象に残っているのは,Phillips 先生の講演です。気体 の冷却,温度の概念に関連して,液体窒素を用いたデモ オープニングセッションのほか,本セレモニーでは 5 ンストレーションを交えた,とてもインパクトのある講 名のノーベル賞受賞者による“Nobel Plenary Lecture” , 演でした。液体窒素の扱い自体は,奨められるものでは Thematic Session(テーマ別セッション)が 2 日間にわた ないのですが。Alferov 先生の講演も是非,最後まで聞い り企画され,総勢 40 名近い講演者が登壇しました。加 てみてください。 えて,初日の夕刻には参加者間の交流を図るためのカク テーマ別セッションとしては,8 つのセッションが企 テルパーティが催されたほか,その直前には“Einstein s 画されました。初日午後の“The international community Light”と題されたリサイタルも企画され,長時間にわた of light and light based technology”では,産業界,学協会, る講演で疲れた脳を癒してくれました。また,オープニ 公的機関などのそれぞれの立場から,光と光技術および ングセレモニー開催を記念して,オーロラを再現したユ 関連内容についての展望が述べられました。イノベーシ ネスコビルの特別ライトアップも実施されました。エッ ョン・実応用を生み出すためには基礎研究が重要である フェル塔を左に眺めながらの幻想的な光景を堪能できま と訴えた NSF 理事長の講演が個人的には印象に残ってい した。残念ながら,本誌の掲載写真はモノクロというこ ます。国際照明委員会の会長が司会を務めた“Lighting 4) とです。是非,国際光年ホームページ ,ユネスコの 6) the future”では,建造物の照明,太陽電池を活用した Photo Gallely で美しい映像・写真をお楽しみください。 off-grid lightning という“光を当てる”視点だけでなく, さらに,各国の学協会による展示や,ライトペインティ dark sky を破壊する light pollution の低減という視点から ング作品のディスプレイ,イブン・アル・ハイサムに関 も Proper use of lightning が議論されました。 “Light for する紹介ブース 188 7) なども併設されており,休憩時間だけ Humanity and Culture”では,その名のとおり,文明や文 OPTRONICS(2015)No.4 特別レポート 各国での積極的な活動に対する強い期待が述べられまし た。なお,国際光年のクロージングセレモニーはメキシ コで開催される予定とのことです。 さて,このオープニングセレモニーを皮切りに,世界 各国で IYL2015 活動が本格的にスタートしました。我が 国においても,日本学術会議第三部の主催により,来る 4 月 21 日火曜日に東京大学・安田講堂に於いて記念式典 が開催されます 2, 9)。式典では,天野浩先生による特別 講演も予定されています。是非多くの皆さんにお越しい ただきたいと思います。本式典は事前登録制となってい ます。まだという方は,早速,国際光年 JAPAN サイト登 図 5 ロンドン・マオリクラブによるパフォーマンス 録フォームから,ご登録ください。 化と光の関係をテーマに,闇から光の創成などをモチー 施を予定しています。一方,様々な学協会,団体でも多く フにしたマオリ族のパフォーマンスのほか,宗教におけ の国際光年関連イベントが企画されています。是非,国 る光の抽象的利用,芸術(絵画)と光などの話題が取り 際光年 JAPAN サイトでご確認ください。また,関連イベ 上げられました。色の認識に関する話題とハンス・ホル ントを企画の際にはご登録をよろしくお願い致します 2, 10)。 バインの「大使たち」に登場する頭蓋骨の光学的検証を 国際光年のオープニングセレモニーに参加した一人と 扱った後半 2 つの講演が私のお薦めです。 して,我が国の国際光年活動の更なる盛り上がりに期待 ICO 分科会では年間を通じて様々な活動・イベントの実 するとともに,微力ながらそれに貢献できれば幸いです。 2 日目午前中に企画された“Light on development”では, アフリカにおける経済的インパクト,ベトナムでのレー ザ治療の導入の話題に加えて,環境保全の観点から turn off the light の活動を進める WWF の Earth Hour の取り組 みなどが紹介されました。また, “Light at the limit”では, 極高強度レーザの応用の可能性やシンクロトロン放射の 展望の他,海部先生が IAU 会長の立場で講演されました。 講演では,中国の書籍における“Universe”の記述を引 用され, 「宇宙」の漢字の意味を説明されました。また, 太陽系外惑星の話題も取り上げられました。午後はじめ に行われた“The future of light”は,全ての講演が You tube の高品質画像で楽しめる唯一のセッションです。量 子性と量子情報への応用の他,google X や bio photonics 参考文献 1)http://www.light2015.org/Home.html 2)http://iyl2015-japan.org/ 3)新年特別企画「国際光年に寄せて」 ,OPTRONICS No. 1 (2015). 4)http://www.light2015.org/Home/Event-Programme/2015/Other/ Opening-Ceremony/Opening-Ceremony-of-the-International-Year-ofLight-2015.html 5)P. Daukantas,“2015: The International Year of Light,”Optics & Photonics, 26, January (2015). http://www.osa-opn.org/home/articles/volume_26/january_2015/ features/2015_the_international_year_of_light/#.VOquVPmsV6A 6)http://www.unesco.org/new/en/media-services/multimedia/photos/ photo-gallery-2015-international-year-of-light 7)http://www.1001inventions.com/unesco 8)4)の URL からアクセスできる。比較的解像度も高くスライド 内容も読み取れる。 9)http://iyl2015-japan.org/archives/news/iyl2015-symp 10)http://iyl2015-japan.org/event/internal の話題の他,ノーベル賞と光の深い関係が紹介されまし た。3 つの NGO からそれぞれの取り組みが紹介された “Light Solutions”につづいて, “Science Policy”と題して, ■ Opening Ceremony of International Year of Light and Light-based Technologies 2015 in Paris パネルセッションが催されました。 ■ Satoshi Iwamoto 2 日間にわたるセレモニーもあっという間に過ぎ去っ ■ Institute of Industrial Science,the University of Tokyo てしまいました。クロージングでは,本セレモニーはあ イワモト サトシ くまで始まりであることが改めて確認されるとともに, 所属:東京大学 生産技術研究所 准教授 OPTRONICS(2015)No.4 189
© Copyright 2024 ExpyDoc