「さまざまな医療領域における映像の活用術」 取材記事

第11回
EIZOメディカルセミナー2015
さまざまな
医療領域における
映像の活用術
座長
市田隆雄 先生
大阪市立大学医学部附属病院
中央放射線部技師長
谷口喜行 先生
和歌山県立医科大学附属病院
中央放射線部主任
演者
米田貴博 氏
EIZO株式会社
技術開発戦略室開発マネージャー
荒川芳輝 先生
京都大学大学院
医学研究科脳神経外科学助教
安部勝人 先生
大阪府立急性期・総合医療センター
医療技術部放射線部門技師長
前田一哉 氏
EIZO株式会社
理事 営業技術担当部長
櫻井康介 先生
りんくう総合医療センター放射線科部長
北村未央 先生
済生会中和病院放射線科
辻本武志 先生
京都第二赤十字病院放射線科課長補佐
第11回 EIZOメディカルセミナー2015
会期:2015年9月27日 場所:ブリーゼプラザ 共催:EIZO株式会社
さまざまな医療領域における映像の活用術
セッション Ⅰ
手術室における映像技術〜ランチョンセミナー〜
手術室の映像ソリューションを革新する
〜CuratORのご紹介〜
手術室の映像を集約・表示するシステム
「CuratOR」
EIZO株式会社
技術開発戦略室
開発マネージャー
米田貴博 氏
に詳しいとは限らない医療スタッフが直感的に全ての機器を操
作できるよう設計されている
(図2)。
CuratORの導入効果
手術室内には、手術部位をリアルタイムで光学撮影する内視
鏡、術野カメラ、手術用顕微鏡、患部を透視撮影するCアームや
CuratORの利用で、10種類以上の映像が集約され手術時間が
超音波など、先進医療を支えるさまざまな医療機器の映像が共
短縮され低侵襲治療につながった例、7台分の映像を集約する
存している。安全かつ低侵襲な手術を行うためには、刻々と変
ことでワークスペースが広がり、1セットのマウスとキーボー
わる手術の状況に応じて必要な画像・映像を提示し、それらを
ドで操作可能となり、患者及び家族への処置説明がしやすくな
手術チーム内で迅速に情報共有する必要がある。しかし、
一方で、
った例などがある。
各医療機器の映像が手術室内で分散しているケースが多く、全
集約映像を録画することで患者の状態と医療スタッフの動き、
スタッフから見やすい位置にあるとは限らない。この問題を解
施術が一覧でき、そのまま学会発表への活用もできる。大型モ
決するのが、 CuratOR(キュレーター)ソリューションである
ニタを表示させたカンファレンス室から、適切なタイミングで
(図1)。
の支援や指導もできるなど、
さまざまな応用が可能である。
英単語curatorは、学芸員という意味で、美術館において設定
されたテーマに応じて、最適な作品を選
び展示する役割を担う。手術室における
CuratORも同様に、手術の状況に応じて
最適な映像を集約・表示する役割を担う
もので、各スタッフへの最適な表示を実
現する。
CuratORの特長
CuratORの強みは、①各種映像信号の
変換・集約、②映像を集約するための信
号配信マネージャーの存在、③大型モニ
タの存在、である。
信 号 配 信 マ ネ ー ジ ャ LMM(Large
図1 CuratORイメージ図
手術室内に分散する各映像を集約・表示するというアプローチで手術スタッフを支援する。
Monitor Manager)はCuratORの中心にあり、各種映像の集約・
切り換えや、キーボード・マウスを共有するKVM機能、マウス
やタッチパネルによる直感的なレイアウト切り換えを実現する。
ビデオコンバータは、手術室に存在する各種映像信号をLMM
に入力できる形式に変換するもので、古くからある独特な信号
を出力する医療機器にも対応する。
LMMの後段で複数の映像情報や生体情報を集約して表示す
る
「Surgical Panel」は、壁に埋め込めるデザインで抗菌キーボー
ド・マウスも付属。これまでカートで床置きしていた術中モニ
タや、PACSなどの医療機器の映像を集約することで、手術室内
でのスタッフの移動・動線がすっきりする。KVM機能の活用で、
患者の看護記録入力やPACS画像閲覧などの操作も集約可能。
これら機器を集中操作するソフトウェアは、必ずしもIT機器
2
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図2 CuratORにおける集中操作
CuratORで使われる様々な機器の、シンプルかつ直感的な操作を可能にする。
座長:大阪市立大学医学部附属病院
中央放射線部技師長
市田隆雄 先生
セッション Ⅱ
手術室における映像の活用
脳神経外科手術に求められる
手術室映像ソリューション
手術室における画像情報問題点と
ハイブリッド手術室の導入
京都大学大学院
医学研究科
脳神経外科学助教
荒川芳輝 先生
全性の向上である。手術手技の正確性、安全性の向上や、覚醒下
手術における手術顕微鏡、脳波計、患者モニタカメラ、ナビゲーシ
ョン、生体情報、術中MRI画像などの多くの情報を手術用大型モ
ニタに統合して術者に提示することで、神経障害を来さずに腫瘍
小さくて柔らかな脳や細くて弱い神経を扱う脳神経外科は、
を摘出できる。麻酔科医やコメディカルが同じモニタで情報を
顕微鏡手術、内視鏡手術、血管内手術が3本柱となる。神経の機
共有し手術に参加することで、スタッフ全体の意識が変わる。
能の温存のために、多くのテクノロジーを駆使している。
教育的な意義も高い。大型モニタは、医学生・若手医師の教
脳神経外科手術を支える最新技術には、電気生理学的モニタ
育で手術の内容だけでなく魅力を伝えることができる。さらに、
リング、ナビゲーション、Functional MRI、Tractography、3次
通常の診断画像では経験しない画像サイズとタッチパネルなら
元構築画像解析、術中MRI、術中CT、覚醒下手術、血管内治療、ハ
ではの操作性で疾患の理解を得ることができる。ナビゲーショ
イブリット手術などがあり、多数の画像情報が生まれる。
ン情報から手術操作部位の理解、3D画像による立体的認識に
画像に依存する手術であるにもかかわらず、2012年まで当
より、
単なる手術見学ではなく、
手術参加型の教育システムが構
院手術部では適切な大型モニタが設置されておらず、複数モニ
築できる。
タを並べて見る、画像情報があちこちに散らばっている状態で
今後の展開としては、さらに大型化、高精度化し、付随するカ
あった。多数の画像情報の保存もできておらず、有効利用でき
メラも高精度化すると考えられる。4K(3840×2160ピクセ
ていない状況であった。
ル)
、8K(7680×4320ピクセル)
で画面が構成され、飛躍的に
問題解決のため、2010年、最先端画像支援導入プロジェクト
レゾリューションが上昇し、より一層さらにレベルの高い画像
に着手し、47インチワイドモニタRadiForce LX470Wとワーク
支援ができるのではないだろうか。
ステーション機能を備えた42
インチタッチディスプレイ
BuzzTMシステム(Brainlab)を連
結し、術者、麻酔科、コメディカ
ルが、情報画像を共有できるシ
ステムとした(図1)。このシス
テムによって画像をタッチパネ
ル式で操作できる点が活用性を
改善した。
手術用大型モニタの特徴は、
基本的には画像の高精度化・大
型化である。情報信号配信マネ
ージャーは、マルチレイアウト
で手術中に手技に応じて必要と
図1 手術室内での画像の共有例
47インチワイドモニタRadiForceLX470WとBuzzTMシステムを連結した。
なる各種画像を自由なフレーム
サイズで術者に提示できる(図
2)
。さらに、大型モニタを介し
て各種の情報をスタッフが共有
できる。
大型モニタの
臨床的意義
臨床的意義は、手術の精度、安
図2 情報信号配信マネージャーLMM0801による、大型モニタへの画像情報の提示
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第11回 EIZOメディカルセミナー2015
セッション Ⅱ
手術室における映像の活用
TAVR手術における
大型モニタの利便性
大型モニタの有用性と当院における
大型モニタの比較
大阪府立急性期・
総合医療センター
医療技術部放射線部門技師長
安部勝人 先生
場合は、非線形の階調特性をもったモニタで見るのが適してい
るだろう。また、ライブ画像だけであれば直線の階調特性をも
ったモニタがよいといえる。適切な階調を選択することが必要
になってくる。
大型モニタの有用性というと、画像が大きいことと、画面が大
オーディオ装置でも、どんなにピックアップがよくてもスピ
きいことが挙げられる。
ーカーがだめであれば、
よい音は出ない。それと同じで、医療現
画像が大きいということは、細かいワイヤや細いデバイスが
場でもモニタがよくなければよい画像は出ない。これからはモ
見やすく、より多くの医師が見ることができ、より安全に早く手
ニタのメーカーと医師や診療放射線技師が話し合って、よい画
技が行えることにつながる。画面が大きいということは、マル
像を生み出していくことが必要だと考えられる。
チモニタとしての有用性があることで、画像から視線をそらす
ことなく、多くの情報を得ることができる。また、手術室ではイ
ンジェクター、支柱台、電気メスなどがあって
モニタを引き寄せられないことがあるが、あ
る程度距離があっても画像を十分観察するこ
とができる。
今回、当院にある3台の4×2K大型モニタで
あ るEIZO LX600WP(60イ ン チ )、EIZO
LS560W(56インチ)、FIMI CML5682W4(56
インチ)、およびSYNAPSE Viewer2Mの濃度、
輝度、特性を比較してみた(図1)。各モニタ
により特性曲線が異なっており、EIZOのモ
ニタでは直線階調が用いられており、FIMI
ではX線フィルムに近い非線形の階調が用い
ら れ て い た。 最 高 黒 レ ベ ル に も 差 が あ り
LS560WとLX600WPは そ れ ぞ れDensity:2.4
と Density:2.6、FIMI CML5682W4 と
SYNAPSE Viewer2MではDensity:3.0であった
(図2)。
図1 当院が所有する3台の大型モニタ
手術室9番にEIZO LX600WP、IVR-CTにEIZO LS560W、血管造影検
査室にFIMICML5682W4が設置されている。
特性を生かした大型モニタの活用を
TAVIや血管造影検査においては、侵襲度を低くするためデバ
イスはより細くなってきており、X線の透視画像では見えにく
くなってきている。また弁置換では、リリースする位置やタイ
SYNAPSE Viewer2M
ミングは、非常にシビアなもので、それがより見やすいようにと
EIZO LS560W
高い精度が求められる時代になっている。ライブ画像、参照画像、
EIZO LX600WP
生体情報、3D画像を瞬時に見て判断をしなければならない場
FIMI CML5682W4
面も多くなってくる。このような理由から、これからは、
画像を
大きく見ることができ、数種類の異なった情報を一画面に表示
できる大型モニタが主流になると考えられる。
医師側にとっては、大型モニタの特性を知った上で、どのよう
な画像を表示するかにより、適切な階調選択が必要になってく
図2 大型モニタの性能比較
る。例えばDSA(デジタル・サブトラクション血管造影法)の
画像なら、骨を消して血管だけ見たいという場面もある。その
4
Vol.13 No.15(2015)
各大型モニタにSMPTEパターンを表示し、輝度100~0%の明るさをX線フ
ィルムの濃度を測定するDensitometerで計測した。
輝度100%をDensity0とし、輝度10段階の各明るさをDensityで表示した。
セッション Ⅲ
モニタに関する技術
LCDの最新開発動向と
表示品質管理の話題
Retina化からみるEIZOのモニタ開発
EIZO株式会社
理事 営業技術担当部長
前田一哉 氏
えるという意味である。
自宅にあるテレビも実は簡単にRetina化することができる。
例えば20インチのテレビは約70cm離れればRetina化し、40イ
液晶モニタはさまざまな機能が付き、コントラスト比、輝度、
ンチでは1.5m離れればRetina化する。つまり、身の回りにある
消費電力などスペックも進化してきている。ここでは、Retina
モニタがRetinaかどうかは、網膜の識別限界と画素ピッチと距
化と4×2Kモニタに注目し、高解像度がどこまで進むかを考え
離で決まる。
たい。
Retinaを語る際、スマートフォンなら30cm、タブレットなら
ピクセル(画素)は色や画面を構成する最小要素で、液晶パネ
40cm、モニタは60cm、70cmというように、機器によって見る
ルではRGBの3つを合わせて1ピクセルと呼ぶ。ピクセルと隣
距離を想定しており、むやみな解像度競争は必要ないという考
のピクセルとの間に不要な光の漏れを防ぐブラック・マトリッ
えもある。読影用モニタ開発では、Retina解像度をひとまずの
クスという黒い部分がある。Retina化というのは、このブラッ
ゴールとしている。
ク・マトリックスが見えなくなることで、人間の識別限界を超
EIZOは早くから4×2K(ピクセルが横4000、縦2000級)モニ
タに注目しており、RSNA2008で56インチのモ
デルを発表。現在、手術室の様々な場面で利用さ
れている。Retina化については、大型モニタを
1.5m離れて見るとしてFHDと比べた場合、40イ
ンチモニタで4×2Kのメリットが生きてくる。で
は8×4Kでみると、Retina化は85インチとなる。
手術室の中で使えるモニタサイズは大体60イン
チが最大なので、4×2Kと8×4Kの区別はつかな
いということになる
(図1)
。8×4Kについては、ポ
テンシャルとしては高いので、いつでも製品化で
きるような技術的な開発準備は進めつつも、まず
は4×2K領域に腰を据えて製品化していくスタン
スである。
高解像度化が今後どこまで進むのかについては、
500ppi(pixel per inch)で十分とみる向きもある
図1 4×2KとRetina
モニタのRetina化を踏まえ、EIZOでは4×2K領域を中心に製品開発を行っている。
が、若い人がスマートフォンを見る距離は15cm
や10cmであったりもする。10cmでRetina化する
には、ppiは800を超える。実際に今、液晶メーカーは800ppi超
を目指している。
LEDを用いたモニタの経時劣化
品質管理については、バックライトに使われている青のLED
チップそのものは寿命が非常に長いが、
これに樹脂を被せ、その
中に黄色の蛍光体をまぶして光を合成し、白を得ている。した
がって、チップ寿命が長くても、樹脂が劣化したり、亀裂が入っ
たり、あるいは蛍光体そのものが劣化することで輝度変化が出
てくる
(図2)
。LEDは、消費電力を非常に小さく抑えることがで
きるというメリットが大きい。消費電力が少ないということは
図2 経時劣化(輝度・色度変化)の実例
LEDチップそのものが長持ちしても、樹脂や蛍光体の劣化により輝度や色度
の変化が生じる。
効率が高く、無駄な熱を発生させず、経時変化にも強いが、LED
といえども輝度変化、
輝度劣化していくものだということは、し
っかりと認識し、
品質管理することが必要である。
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第11回 EIZOメディカルセミナー2015
セッション Ⅳ
マルチモダリティモニタの運用
マルチモダリティモニタを用いた
読影方法
読影環境の整備と
マルチモダリティモニタの必要性
りんくう総合
医療センター
放射線科部長
櫻井康介 先生
示することは可能だ。この状態で画像を左右に動かすことで、
ほぼ全体をピクセル等倍で観察することができる
(図2)
。
ピクセル等倍で足りない場合、虫眼鏡モードで拡大する。今
後Retinaディスプレイが普及してくると、ソフトの充実も必要
PACSの読影端末は、どこまで高解像度が必要なのか、どこま
で、ワンタッチで200%、あるいは400%拡大といったモードが
で大きなモニタが必要なのか、カラーかモノクロかなど、
さまざ
必要になってくるだろう。
まな問題がある。
結論としては、4Kモニタによるマンモグラフィの診断は、4
当院の場合、マンモグラフィは年間約1,000件程度で1日当た
分割モード、
比較モード、
等倍モードのような読影フローを工夫
り数件にすぎず、そのために専用の端末を用意し、マンモグラフ
することで、十分実用に耐えるといえる。モニタサイズについ
ィ担当の放射線医を充てることはできない。CTやMRをメイン
ては、机に置く大きさとしては37インチが限界だと考える。ま
とした医師が、他の業務が終了した後にマンモグラフィ専用端
た診断上、
視野の中に占める画像サイズが極めて重要になり、モ
末に移動して読影することになる。しかしこの状態では、数人
ニタは大きすぎても小さすぎてもだめなので、観察距離や画像
の放射線科医がいるにもかかわらず、マンモグラフィの読影を
サイズで調整すればよいといえる。
するのは、専用端末に移動する1人だけということになる。こ
の問題を解決するには、1台ですべて表示できる端末、マルチ
モダリティモニタが必要となる。
2013年、PACSシステムを更新することになり、37インチ、
4K、8メガカラーのRX840マルチモダリティモニタを導入した。
この際、懸念したのは37インチというモニタのサイズだった。
当時は23インチを使っており、37インチを机上に設置するの
は難しいと思われたが、150cm幅の机に読影レポート用の19
インチモニタと37インチを並べて設置することができた(図1)。
4Kモニタによるマンモグラフィ診断
読影では、まず4分割モードで、MLO(内外斜位方向)とCC(頭
尾方向)の感じをざっとつかむ。次に、前回比較モードを選ぶと、
前回と今回のMLO、前回と今回のCCという具合に対比ができる。
この状態からピクセル等倍モー
図1 RX840マルチモダリティモニタ
37インチ、4K、8メガカラー。150cm幅の机上にも十分収まった。
ドに移行して見る。なぜなら、
全体画像表示や4分割の全体画
像表示ではほとんどの石灰化が
検出可能であるが、ごく一部の
微細石灰化は検出困難だからで
ある。ピクセル等倍モードにし
て初めて認識できる。したがっ
て、全体表示だけでスクリーニ
ングを終わらせることは残念な
がらできない。ピクセル等倍で
は、乳腺全体を完全にカバーす
ることはできないが、3分の1
から2分の1ぐらいを一度に表
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Vol.13 No.15(2015)
図2 ピクセル等倍モードでのマンモグラフィ画像
乳腺全体のほぼ3分の1~2分の1まで表示可能だ。
座長:和歌山県立医科大学附属病院
中央放射線部主任
谷口喜行 先生
セッション Ⅴ
モニタ品質管理の実際
輝度変化がマンモグラフィのカテゴリー
分類に与える影響とモニタ管理の必要性
済生会中和病院
放射線科
北村未央 先生
デラずつ低下させ、それをランダムに表示させて合格基準の判
マンモグラフィのソフトコピー診断における
注意点と、
モニタの経時的変化
定と見え方の評価を行った。
その結果、輝度の低下によるファントム画像の点数の変化は
大きくなかったが、一部の石灰化や腫瘤がぼけて正しく認識で
乳癌の発見には石灰化がヒントになることがしばしばある。
きない恐れがあった。また、高輝度領域では白い部分の粒状性
石灰化の大きさは約50 〜 200マイクロメートルで、そのよう
が悪くなり、高濃度乳腺で視認性が低下する可能性が考えられ
な微小な石灰化を描出するには、高い空間分解能・高い濃度分
た。一部の症例においてはカテゴリー判定を見誤る可能性があ
解能が必要である。しかし、モニタの表現能はフィルムよりコ
るため、
モニタ管理の重要性が示唆された。
ントラスト比や解像度の点で劣る。そのため、原画像の持つ性
輝度の低下は、実際の臨床画像や日常点検で気が付くことは
能を十分に発揮・利用できる機能を有するモニタを最適な表示
難しいが、定量的評価で不変性試験を行うことにより早期発見
環境で用いることが重要となる。
に繋がるといえる。現状ではモニタの品質管理を行っていない
現在は5メガのモニタが推奨されており、そのスペックは画
施設も多いが、
画像表示モニタの特性を理解し、
知識と意識を持
素ピッチ165マイクロメートル、画素数2560×2048ピクセル、
つこと、またモニタの品質を管理する技術を身に付けておくこ
輝度500 〜 600カンデラ、階調特性はGSDFである。モニタの空
とが重要であると考える。
間分解能は、画素ピッチと画素数によって規定され、濃度分解能
は輝度と階調によって規定される。
モニタにも経時的変化があり、主にバックラ
イトの劣化とモニタ表面の劣化がある。バック
ライトの劣化は、直接輝度の低下につながり、輝
度は濃度分解能に影響するため、不変性試験を
実施し表示精度を維持していかなければならな
い。デジタルマンモグラフィ品質管理マニュア
ルでも、モニタの品質管理が挙げられている。
モニタの品質管理の重要性
モニタの日常管理では、まずモニタ画面の清
掃・周囲光の確認を行う。続いて全体評価試験
で、TG18-QCテストパターンでモニタ全体の
図1 TG18-QCテストパターンを用いたモニタ全体の画質評価
画質評価を行う(図1)。次に、各施設で準備し
た判定用臨床画像で、判定箇所の見え方を確認
する。当院では石灰化、スピキュラ、腫瘤の3種
類の画像で行っている(図2)。さらに、ファン
トム撮影で、エックス線発生から画像観察まで
のシステム全体における画質および線量に関す
る経時的変化の確認をする。
今回、輝度の変化によって模擬石灰化や模擬
腫瘤などの見え方がどのように変化し、それが
マンモグラフィのカテゴリー判定にどのような
影響を与えるか品質管理用ツールを用いて検証
した。検証方法は日常点検と同じ方法で行い、
モニタの最高輝度を800カンデラから100カン
図2 判定用臨床画像を用いた見え方の確認
各施設で判定用臨床画像を準備、判定箇所の見え方と、問題なく見えるかどうかを確認する。
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第11回 EIZOメディカルセミナー2015
セッション Ⅴ
モニタ品質管理の実際
ユーザーによる医用画像モニタ
品質管理の実践と課題
モニタ診断の抱える品質管理の問題
京都第二赤十字病院
放射線科課長補佐
辻本武志 先生
時間を目処に行い、1年かけて院内全台に実施する体制を構築
した。
品質管理で不合格となったモニタについては、JESRA(工業
診療報酬の改訂を契機にモニタ診断が一気に普及してきたが、
会規格)
のガイドラインでは
「しかるべき処置を」
とあるが、不合
その一方で、品質管理が思うように進んでいないという側面も
格になったからとすぐモニタを買い替えてもらうことは容易で
ある。
はない。機器更新を上申できる体制作りと、設定値を下げ運用
フィルム運用時代、フィルムは記録媒体かつ表示媒体であり、
状況と合わせて、参照用かつ使用頻度の低い部署のものと交換
保存媒体でもあるという三位一体の完成された媒体で、院内い
するなどの対処が必要となる。
つどこで見ても基本的には同じような見え方をするものだった。
当院では現状に見合った、無理なく継続できる品質管理体制
ところがモニタ診断では、観察用モニタに個体差があり、
調整の
を構築することができた。しかし、
いくら品質管理をしても、使
具合によって見え方が変わり出力側から管理できなくなる。こ
うユーザーがその意義を理解していなければスムーズな運用は
こがモニタの品質管理の本質的に抱えている問題である。
難しい。例えば、高精細モニタを看護師が他の業務に使うかた
日本診療放射線技師会と日本画像医療システム工業会が診療
わら、医師が民生用モニタで読影をするという光景も生じるこ
放射線技師を対象に合同で行ったアンケートによると、約半数
ともある。こうした事態を防ぐためにも、院内スタッフへの教
がモニタ診断での見え方の違いや、「ヒヤリ・ハット」を経験し
育啓蒙活動も重要となってくる。
たと回答している。また、モニタ品質管理ガイドラインの認知
度は85%あり、ほぼ100%の診療放射線技師が品質管理の必要
性を感じているという結果が出ている。しかし、実際に品質管
理を実践しているのは18%にすぎない。さらにアンケートでは、
院内の理解不足が品質管理の妨げになっていることが浮き彫り
になった。
では、品質管理は誰が、どのように進めれば良いのだろうか。
診療放射線技師や医療情報部門が実施する方法のほか、PACSベ
ンダーの保守契約に入ったり、モニタベンダーの不変性試験代
行サービスを利用する方法もある。各施設の実情に合わせ、継
続して活動を実施できる体制を構築することが重要と思われる。
京都第二赤十字病院での
モニタ品質管理の取り組み
図1 モニタ品質管理に使用するツール
当院では、2009年、フィルムレスへのワーキングが開始され、
モニタ品質管理の必要性も議題に上るようになった。フィルム
レス運用の必須要件として品質管理活動の必要性に言及し、業
務として病院上層部の理解を取り付け、さらにユーザー自身に
よる活動を前提とし講師を招き、院内勉強会を開催。省スペー
スで短時間に実施できるよう、モニタ品質管理ソフトウェア
RadiCSと密着型輝度計UX1を採択した(図1)。体制としては、
放射線科内にPACSモニタQC班を置き、医療情報室およびシス
テム管理会社と連携をしている。
実施には部門全体で取り組み、過度な負担のない参加型とし
ている(図2)。QC班は6名で、1、2カ月に一度、業務終了後2
8
Vol.13 No.15(2015)
図2 部門全体で取り組む、過度な負担のない参加型でのモニタ品質管理
の実施
石川県白山市下柏野町153番地
PrintedinJapan,11,2015,1K(151105)