2015 年度 問題 44 〔総 公開模擬試験 中間模試 記述式問題採点講評 行政法「保育園廃止条例の制定阻止方法」 評〕 本問は、条例を制定・施行する計画に対して、ある抗告訴訟が提起された場合に、当該条例が制 定されないようにするために、いかなる要件の下で仮の差止めが認められるかについての理解を問 うものです。平成 20 年度及び 24 年度に訴訟選択の問題が出題されて以降、しばらく訴訟選択の問 題が出題されていないことから、差止訴訟の提起という訴訟選択がなされた場合に、併せて仮の差 止めを申し立てるべき事情があることを理解し、その要件を検討していただきたく、出題したもの です。 問題 44 の内、3つの要件を正確に記述できていた方は、あまり多くありませんでした。記述式 の問題に限らず、択一式の問題においても、判例や裁判例がベースとなっているものについては、 いかなる訴訟を提起したかをその要件とともに確認し、結論だけでなくその結論に至った理由付け も併せてじっくり読んでおくことが求められているといえるでしょう。 〔各配点のポイントについて〕 ① 「仮の差止めの申立て」(8点) ・ 誤りの記述として多かったものは、「差止めの訴えを提起する」というものでした。本問の場 合、設問においてすでに「ある抗告訴訟」が提起されているため、その抗告訴訟が何かを考えて いただき、それに併せた申立てを検討することになります。「ある抗告訴訟」とは、差止訴訟で すので、これに併せて行う申立ては、「仮の差止め」となります。 ・ また、「仮の差止めの訴え」を提起するという間違いも多かったです。仮の差止めは、訴えそ のものではなく、差止訴訟が提起されていることを前提にして、当事者である原告が裁判所に申 し立てるものです(行政事件訴訟法 37 条の5第2項)。したがって、「仮の差止めの訴え」とい う表現は誤りということになります。この点は、義務付け訴訟が提起されている場合にする、 「仮 の義務付け」 (同条1項)についても同様ですので、気を付けてください。 ・ その他にあった誤りとしては、本問の「ある抗告訴訟」を義務付け訴訟であると考え、 「仮の 義務付けの申立て」をするというものでした。本問では、条例を制定・施行する計画を阻止した いというのが、X らの目的ですので、差止訴訟を提起したと考えることになります。仮に義務付 け訴訟を提起することにすると、何らかの処分を Y 市に求めることになりますが、すでに Y 市立 保育所に通っている X1には、求めるべき処分がありません。したがって、この観点からも X ら が求めるべきは、「差止訴訟」ということになるでしょう。 ・ 取消訴訟を提起し、執行停止を申し立てるとの解答もいくつかありました。この点、横浜地判 平 18.5.22 は、本問と同様、保育園を廃止する条例に関する事案でしたので、この判決をご存 知の方は、「ある抗告訴訟」が取消訴訟であると考え、執行停止の申立てをするとしたかもしれ ません。もっとも、この事案は、条例が施行された後に当該条例の取消訴訟が提起されたという -1- ものでした。しかし、本問は条例を制定・施行する計画を立てている段階であり、まだ条例は制 定・施行されておらず、具体的な処分がされているわけではありませんので、取り消すべき処分 がありません。したがって、この解答は誤りとなります。設問を注意深く読んで、可能な限り間 違いを少なくしましょう。 ② 「償うことのできない損害」 (6点) ・ この点で最も多かった誤りは、 「重大な損害」というものでした。この要件が出てくるのは、 申立てでは、執行停止の場面(行政事件訴訟法 25 条2項)であり、訴えでは、義務付けの訴え (同法 37 条の2第1項)や差止めの訴え(同法 37 条の4第1項)の場面です。 ・ また、 「回復することができない損害」というものも多かったです。 「回復することができない 損害」という要件は、会社法 360 条3項などにありますが、行政事件訴訟法上、この要件はあり ません。 ・ 他にも、 「償うことのできない重大な損害」 、「償うことのできない著しい損害」など、他の要 件と混同していると見受けられるものや、「償いきれない損害」、「償えない損害」など、要件は 分かっているものの、正確な表現が出来ていないものなどもありました。行政書士試験において は、法律の要件などは正確に記述しないと減点される可能性がありますので、条文を読む際は、 正確な表現を日頃から意識すると良いかと思います。 ③ 「緊急の必要」(6点) ・ この点は、比較的多くの方が正解されていました。もっとも、「緊急の必要」という要件は、 執行停止の場合にも使われていることから(行政事件訴訟法 25 条2項)、執行停止の問題である と考えて解答をされてしまった方は、注意してください。 ・ その他にあった解答としては、 「緊急性」や「緊急で差し迫った必要」、「緊急な対応の必要」、 「緊急で止むを得ない必要」など、条文上の要件にさらに文言を付け加えてしまっているものが 多数散見されました。これらはやはり、条文上の文言の正確な表現を欠くことから、今回の模試 では減点の対象となったり、得点がつかなかったりしています。 ・ 本問は、①②③と、それぞれ設問において指示があるので、それにしたがって記述することが 求められています。したがって、仮の差止めの要件のうち、「本案について理由があるとみえる とき」 (行政事件訴訟法 37 条の5第2項)については、記述することが求められていません。ま た、本問を差止訴訟を提起するものと考え、差止訴訟の消極的要件である、「その損害を避ける ため他に適当な方法がないとき」 (同法 37 条の4第1項ただし書参照)との要件を記述している 方もおられましたが、上記のように、本問は「差止訴訟」が提起されたことを前提に、「仮の差 止めの申立て」を行う場面です。したがって、「差止訴訟」の要件を記述することは誤りとなり ます。 ・ 記述式問題全般にいえることですが、設問の指示に従って検討し、下書きをした上で、一度ご 自分で読まれて、日本語としておかしくないかをチェックしてから解答欄に記述するようにしま しょう。欄外記載については、一切採点の対象にはなりませんので、もし今回、欄外記載をして しまった方がおられましたら、十分に気を付けましょう。 以 -2- 上 2015 年度 公開模擬試験 問題 45 〔総 民 中間模試 記述式問題採点講評 法「父子関係に関する訴え」 評〕 本問は、具体的事情を示した上で、当該事案のもとにおいてどのような訴えが成り立ち得るかを 問うものであり、時間的な先後関係を含めた、問題文を読み解く力が求められています。また、本 試験の民法の記述式問題では、平成 24 年度に相続法分野からの出題がありましたが、それ以降は 出題されていませんので、今回は、まだ出題されたことのない親族法分野から出題することとしま した。 本問の解答では、人物と訴えとの結びつきが不明確な解答が多く見られました。設問中に複数の 人が登場する場合、しっかりと人物関係の相関図を書いて、丁寧に検討するようにしましょう。必 要があれば、日付を記載することも有効かと思います。 今回は、Cについての訴えとDについての訴え、いずれも同じ解答をしていた場合、減点としま した。また、Cについての訴えなのか、Dについての訴えなのかを特定することができないものに ついては、得点をつけませんでした。厳しいようですが、本試験においても、人物関係を間違って しまうと正しく理解していないと判断され、減点されるおそれがあります。したがって、この点に ついては細心の注意を払っていただきたく思います。 設問の解答が分からない場合、キーワードを記述するようにと言われている方も多くおられると 思いますが、 「誰に対して、何を」請求することができるかは、正しい理解を示す前提となるもの です。したがって、「請求人ごと」に条文上の「要件と効果」を意識した学習を心がけることが、 記述式の対策としても有益であるといえます。 〔各配点のポイントについて〕 ① 「Cについて、嫡出否認の訴えを提起」 (10 点) ・ 「嫡出否認の訴え」の内容を理解出来ていた方は比較的多かったと思います。もっとも、「嫡 出子を否認する訴え」、 「嫡出子の否認の訴え」 、 「嫡出」を「摘出」とするなど、条文上の文言の 正確な表現を欠く解答が目立ちました。 「嫡出否認の訴え」は、民法上の表現ですので(民法 775 条)、正確に記述するよう心がけてください。 ・ その他には、「嫡出推定否認の訴え」、「嫡出であるか否かの訴え」 、「嫡子否認の訴え」など、 正確な表現を欠くものの内容的な理解があると判断されるものについては、部分点としました。 ・ しかし、「認知を否定」、「認知をしない訴え」、「非嫡出子の訴え」、「嫡出子認知拒否」など、 「嫡出否認の訴え」から離れすぎているものについては、得点をつけませんでした。 「認知」は、 嫡出でない子に対してするものであるのに対して(民法 779 条)、 「嫡出否認の訴え」は、嫡出推 定(同法 772 条1項、2項)が及ぶことを前提に、親子関係を否定するための手段です。両者の 区別をしっかりとできるようにしておきましょう。 -3- ② 「Dについて、親子関係不存在確認の訴え」(10 点) ・ この点につき、最も多かった誤りは、「親子関係不存在の訴え」というものでした。ご存知の ように、訴えには、給付の訴え、確認の訴え、形成の訴えがありますが、本問の訴えは、「確認 の訴え」に該当します。したがって、 「親子関係不存在の訴え」では足りず、 「確認」の語を入れ なければなりません。 ・ 同様に、 「親子不存在の訴え」といった解答もありました。これでは、確認訴訟であること及 び確認の対象が明らかではありません。また、「親子関係確認の訴え」では、親子関係の存在・ 不存在、いずれの確認を求めているのかが明らかではありません。したがって、これらの解答に ついては、今回は減点の対象とさせていただきました。 ・ また、 「親子関係の存在の無効」 、 「親子関係の成立の不可能」という解答もありましたが、 「親 子関係不存在確認の訴え」から離れすぎてしまっているため、これらの解答には得点をつけませ んでした。 ・ 今回の模試では、Cについての訴えとDについての訴えを逆に記述されている方が多く見受け られました。本問では、AとBが婚姻したのが平成 23 年1月であり、それから 200 日以上経過 した平成 25 年1月にCが産まれていますので、嫡出推定が及ぶことになります(民法 772 条2 項)。したがって、Bがこの親子関係を否定するための手段は、 「嫡出否認の訴え」になります(同 法 774、775 条)。また、Dが産まれたときも、AとBは婚姻関係にあったのですから、これもや はり嫡出推定の期間が及ぶことになりそうです。もっとも、Bは、平成 25 年2月以降、平成 27 年7月まで一度も刑務所から出ることはなかったというのですから、DがBの子であるというの は、物理的に不可能です。Dのように嫡出推定の及ぶ期間内ではあるが、物理的に不可能な状況 〔夫婦の同棲の欠如という外観的に明白な事実〕があった場合に、Bが親子関係を否定するため の手段が、「親子関係不存在確認の訴え」です。 ・ 本問を解答するにあたっては、まず、C及びDに嫡出推定が及んでいるか否かが出発点となり ます。その上で、Dについては、Bが収監されていたという事実を付け加えて判断することが必 要となります。一見難しく見えるかもしれませんが、本問のような問題が出題された場合には、 時系列などにして、事実関係を明瞭にするのが良いかと思います。 以 -4- 上 2015 年度 公開模擬試験 問題 46 〔総 中間模試 民 法「請 記述式問題採点講評 負」 評〕 問題 44 及び 45 の講評でも述べたところですが、条文上の文言の正確な表現を欠く解答が多く見 受けられました。本問のように、条文が規定する請求を問うような問題では、具体的な請求を間違 ってしまうと、まったく得点とならない可能性がありますので、日頃から条文の要件・効果を意識 して勉強することが必要であるといえるでしょう。 本問は、問題文こそ長いですが、問われている知識は、基本的な条文や判例に関するものばかり です。このような長文の問題が出題されたときは、焦らずに問題文をよく読み、必要があれば図を 書くなどして、事実関係を整理するようにしましょう。 また、問題 46 は、0点の答案は少なかったように思います。特に、 「損害賠償請求」については、 みなさん部分点を得ていましたので、「瑕疵修補請求」や「建替費用相当額」に関する部分で得点 をされた方が、本問では高得点を得る結果となりました。 〔各配点のポイントについて〕 ① 「(Aが、請負人の)担保責任に基づく瑕疵修補請求、損害賠償請求をする」 (12 点) 内 訳 (1) 担保責任に基づく(4点) ・ この点で、最も多かった誤りは、 「瑕疵担保責任」というものでした。問題 46 の解説にもある ように、請負契約は有償契約ですので、売買における瑕疵担保責任の規定(民法 570 条)が準用 される(同法 559 条)はずですが、民法は、請負契約の特殊性に着目して請負人の担保責任を定 めています。したがって、請負人の担保責任の規定は、瑕疵担保責任の特則となるため、「瑕疵 担保責任」との表現については、減点の対象としました。 ・ その他には、「債務不履行責任」 、「請負責任」、「瑕疵修補責任」などの解答がありました。民 法 634 条が定めているのは、担保責任ですので、これらの解答については得点をつけませんでし た。 (2) ・ 瑕疵修補請求(4点) 今回、設問に「どのような請求をすることができるか」という記載がありますので、「請求」 という文言が抜けている場合でも正解としました。もっとも、本試験では、「瑕疵修補を請求す る」や「損害賠償を請求する」など、請求の内容だけでなく、 「請求する。」まで書くことが必要 とされる場合もありますので、注意しましょう。 ・ 「修補請求」、 「建物修補」、 「瑕疵修繕」、 「修繕請求」など、条文上の文言の正確な表現を欠く ものについては、減点の対象としました。日常的に使用する言葉としては、「補修」などが挙げ られるかと思いますが、民法 634 条においては、「瑕疵修補」ですので、気を付けましょう。 -5- (3) 損害賠償請求(4点) ・ 「請求」の文言が抜けていた場合については、上記(2)と同様です。 ・ この点については、おおむね良く書けていたと思います。もっとも、「賠償請求」のように、 「損害」の文言が抜けている記述もありました。 「損害賠償請求」は、 「損害」への賠償を請求す るものですので、省略せずに書くようにしましょう。 ② 「(建て替えざるを得ない場合、Aは、)建替費用相当額につき損害賠償請求」 (8点) 内 訳 (1) 建替費用相当額(4点) ・ 問題 46 の解説に記載の判例が用いたのは、 「建替費用相当額」という文言でしたが、この点に ついては、 「建替費用相当額」と同義の内容であれば、得点をつけました。具体的には、 「再建築 費用相当額」 、 「建替費用と同額」、 「新建築相当額」 、 「新たに建築する費用」などです。他にも様々 な記述がありましたが、上記のように、内容的に「建替費用相当額」と同じ内容であるといえる ものについては、正解ないし部分点としました。 ・ これに対して、「建替費用相当額」から離れすぎているものについては、得点をつけませんで した。具体的には、「建物収去費用」 、「取り壊すのに要する額」、「約定上相当額」、「請負代金相 当額」などです。建物を建て替えるには、当然、既存の建物を取り壊すことが必要となりますが、 その費用だけでは足りませんし、注文者が請負人に報酬を支払っていたとしても、「請負代金相 当額」は、「建替費用相当額」と同じであるとはいえません。したがって、これらの解答では、 「建替費用相当額」と同じ内容であるとはいえないので、誤りとなります。 (2) 損害賠償請求(4点) ・ 「請求」の文言が抜けていた場合については、上記①(2)(3)と同様です。 ・ また、「損害」の文言が抜けていた場合についても、上記①(3)と同様です。 ・ この点についても、おおむね良く書けていたと思います。もっとも、 「価額賠償」、 「償還請求」、 「代償請求」 、「弁償請求」などの解答については、得点をつけませんでした。「価額賠償」は、 例えば、共有者が他の共有者の持分を取得する代わりに、それらの者に金銭を支払う場合が典型 例で(民法 258 条に関する最判平8.10.31 参照)、本問は価額賠償をする事案ではありませんし、 「償還請求」は、自己が支出した費用を返還するよう請求するものですから(民法 196 条2項参 照)、やはり本問の事案における請求ではありません。 「代償請求」、 「弁償請求」についても、同 様に本問の事案に用いるものではありません。 以 -6- 上
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