Vol.002 見えざる敵、熱中症と徹底抗戦

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Vol.002 見えざる敵、熱中症と徹底抗戦
本格的な夏が来る前に、いま知っておきたい水分補給
まずは敵を知ろう
強い日射しの中 めまいがする 手足がつる
吐き気がする そんな症状になったことはあり
ませんか?それは熱中症のサインかもしれませ
ん。
熱中症は脳血流低下による熱失神、塩分不足に
よる熱けいれん、脱水による熱疲労、異常な体
温の上昇による熱射病の総称です。
重症な病型である熱射病では生死に関わるた
め、迅速な対処が必要です。熱射病の特徴は高
体温と意識障害です。熱射病が疑われれば、体
を冷やしながら救急車を要請します。高体温や
意識障害がなければ、涼しい場所で水分・塩分
を摂取させます。これらの処置で症状が改善し
ない、あるいは嘔吐などで水が飲めない場合に
は医療機関へ搬送します。
暑い中で無理をしてもトレーニングの質が低下
して、効果も得られません。暑さ対策で熱中症
を予防することは、トレーニング効果を上げる
ことに通じます。
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Vol.002 見えざる敵、熱中症と徹底抗戦
根性や意地、無理な頑張りが熱中症の引き金に
近年、熱中症による搬送者数は増加傾向にあり
ます。
かつては炭鉱、製鉄所などの労働現場での事故
が問題になっていました。しかし最近では、ス
ポーツ活動中や日常生活における熱中症も問題
になっています。
学校管理下の熱中症はスポーツ活動で多く発生
しています。熱中症の発生は男女であまり差は
ありませんが、亡くなった生徒の多くは男性で
す。これは、男性が暑さに弱いというよりも、
激しい運動をしている または 苦しくても無
理して限界まで頑張る といった傾向があるか
らと考えられます。熱中症の事故が多い野球、
ラグビー、柔道、剣道には、男性の競技者が多
いということも影響しているのかもしれませ
ん。
熱中症死亡の7割は肥満者であり、個人の要因
として体型が重要です。肥満気味の人は、おも
りを背負って競技しているのと同じですから、
同じ運動をしても身体への負荷が大きく、体温
も上昇しやすくなるからです。
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喉の渇きは身体の自然なシグナルです
運動中の水分補給については、以前は具体的な
水分補給のしかたの目安を日本体育協会が「ス
ポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」のな
かで指針として提示していました。
しかし最近では、1時間の適正量など具体的な
数値の提示は控えています。それは、体重、運
動方法、天候が違えば、水分を補給する量も異
なるからです。運動前後の体重減少2%以内が
目安となります。
かつてはスポーツ選手に「練習中は水を飲むな」
といった指導をする時代もありましたが、言うまで
もなく、これは間違った認識です。
これとは反対に、長時間にわたり水だけを大量
に飲みすぎると、水中毒を起こすことがありま
す。したがって、時間を決めて水分補給をする
よりも、喉の渇きに応じて自由に水分補給がで
きる環境をつくり、水だけでなくナトリウムも
一緒に摂取することが重要です。
コンディショニングワンポイント
水分補給は熱中症の予防だけでなく、トレーニング効果にも影響します。
喉の渇きに応じてこまめな水分補給が大切です。
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熱中症との戦いは先手必勝!
飲んでいても安心しない
運動をすると強度に応じて体内で大量の熱が発
生します。したがって、熱中症を防ぐためにも
っとも注意すべきことは、運動のしかたです。
水分補給はもちろん重要です。しかし、水分さ
え補給していれば防げる、と安心してしまうの
は良くありません。身体に過度の負荷がかかっ
ていたら、熱中症のリスクは当然高まります。
中高生の死亡事故例を見ると、最も多い学年は
高校1年生です。この年代は成長の個人差が大
きく、体力差のある上級生と同じ練習メニュー
を行うことで、身体に限界以上の負荷が掛かっ
てしまっていると考えられます。それぞれの体
力に配慮して運動の強度を考え、トレーニング
や試合中の事故を避けるようにしなければいけ
ません。
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Vol.002 見えざる敵、熱中症と徹底抗戦
その根性は果たして正しいのか?
『ヘロヘロになるまで頑張ることが良い練習で
ある』という感覚は改めましょう。
猛暑に無理をしてヘロヘロになるとコンディシ
ョンが悪くなり、トレーニングの質は下がりま
す。コンディションを最高潮にして臨む実戦と
は程遠い状態で練習をしても、それが実戦で生
かされるとは思えません。実戦のためにトレー
ニングをするのですから、ベストに近いコンデ
ィションでするべきです。
そして何よりも身体が消耗すれば、当然ケガを
する確率も高まります。休憩をしっかり取り入
れながら水分も補給して、質の高い練習をした
方が効果的なはずです。
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Vol.002 見えざる敵、熱中症と徹底抗戦
追い込む練習は涼しいときに
様々なコンディションでの試合を想定して『疲
れた状態でどれだけパフォーマンスを発揮でき
るか』という練習を否定するわけではありませ
ん。試合は季節や時間帯などに左右され、常に
快適な環境で行われる訳ではないので、過酷な
環境を想定した練習に取り組む必要もあるでし
ょう。
しかし、猛暑や日差しが照りつけるような過酷
な環境で過度な練習を行うと、死亡事故といっ
た最悪の事態につながる可能性もあるので、お
すすめすることはできません。そういった練習
に取り組む場合は、涼しい時期や空調が整備さ
れた環境で行うべきです。
コンディショニングワンポイント
熱中症は、正しい対策を知っていれば防ぐことができます。
練習方法や練習環境を見極め、選手の体調をよく観察して、
ブカツでの事故を未然に防ぎましょう。
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必読!熱中症から子どもを守る術
熱中症予防の手がかりとは?
熱中症予防の原則は日本体育協会が「熱中症予
防5ヵ条」としてまとめています。①環境条件
に応じた運動のやり方、②暑さに慣らすこと、
③適切な水分・塩分の補給、④服装、⑤個人差
と体調に注意すること、です。練習時間はなる
べく暑くない時間帯に設定すること、練習の合
間に積極的に体を冷やすことも重要です。
この中で最も重要なのは、環境条件に応じた運
動のやり方です。どういう環境条件でどのよう
に運動するかは、日本体育協会が「熱中症予防
運動指針」を示しています。環境条件は気温だ
けでなく、湿度、輻射熱も関係するため、これ
らを総合したWBGT(湿球・黒球温度)という
指標で評価します。WBGT25℃以上では少なく
とも30分に1回は休憩をとります。WBGT28℃
以上ではさらに頻繁に休憩を取り、WBGT31℃
以上では運動は中止します。
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選手それぞれのレベル、条件の見極めが大事
暑さへの耐性は個人差が大きく、年齢、肥満度、
持久的体力、暑さへの慣れなどが関係します。
また、体調によっても変わってきます。環境条件
に応じた運動のやり方にも個人差がありますが、
「熱中症予防運動指針」は平均的な人を想定し
ています。
大事なのは、暑い中でも具合悪くなることがなく、
また、トレーニングの質が保てているのか、
です。
個人差や体調に配慮し、選手の状態を観察する
ことが重要です。練習で具合が悪くなる人がでた
り、トレーニングの質が保てていないのであれば、
休憩を増やす、運動強度を下げる、など練習のや
り方を変える必要があります。
夜間照明、冷房の活用も必要
地球温暖化で夏の気温が高くなっています。日中の最高気温が40度を越えるような事態になれ
ば、昼間の屋外ではスポーツはできなくなります。
そうなれば、気温が下がる夜間に夜間照明をつけてやるか、室内なら冷房をつけてやるしかなく
なるでしょう。
今でも、室内での練習が多い柔道や剣道などは、冷房をつければ熱中症による事故は防げると思
います。
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コンディショニングワンポイント
重要なのは指導者の方が、練習環境を見極めて判断すること。
選手を強く育てることと、選手の身体を守ることは同義です。