文書画像情報 の通信 セキュリティに関する研究 小松 尚 久 早 稲 田大 学 理 工 学 部 電子通信学科 助 教授 . は じめに フ ァク シ ミリに代表 され る文書画像 通信 は、端末 の小型化 と低廉化等 によ り急速 な勢 いで パ ー ソナル 化 が進んで い る。 これ に伴 い、簡単 な手順 で個人 のプライバ シーを保護す るセキ ュ リテ ィ ー ー ー 対策 の 必要性が ます ます 高 くなると考え られ る。 また、画像デ タベ ス検索等 ソフ トコ ピ 通 信 を念頭 に置 いた画像通信 サ ー ビス も検討 されてお り、 こ うした アプ リケ ー シ ョンで は正 当 な受 信者 のみ に情報 を提 供す る対策が必要 とな る。 そ こで 本研究 で は、 このよ うに今後 ます ます多様 化す ると考え られ る文書画像通信 へ の適用を考慮 した セキ ュ リテ ィ対策 について 考察を進 めた。 2.SFCを 用 いた文書画像 の スクラ ンブル手 法 (1)文 書画像 の機密通信 システム 文書画像通信 の代表例 であ る フ ァク シ ミリを例 にとり、セキ ュ リテ ィ機能 を有す る通信 システ ムを図 1に 示す とお り分類す る (1)。ここで 図 1(a)は、本研究で対象 と して いるシステ ム構成 で あ り、暗号 化 された文書が符号化 され る構成 にな って い る。本構成 は、例えば PCと フ ァク シ ミ 機密 リ通信用 ボ ー ドを利用す ることによ り、特別 なハ ー ドウ ェアを必 要 とせず に end to endの 通信 システムが 実現 で きる点 に特徴 が ある。 ただ し、暗号化等 の手段 について は、画素間 の相関 が失われて冗長度抑圧符号化 の 効果を損 なわないよ うに決定す る必要があ り、 この点で制約が加 わ る。 また、図 1(b)はネ ッ トワー ク側 に設置 された通信 アダプ タで暗号化/復 号 を行な う構成で あ り、図 1(C)は冗長度抑圧符号化 された出力を暗号化 して伝送す る構成であ る。 (2)改 良形 SFCを 用 いた ス クラ ンブルアル ゴ リズ ム 図 1(a)の構成 で画 素間 の相関を失 うことな く機密保護対策 を講 じるた めには、 DES,RSA 一 等 の 暗号 アル ゴ リズ ムの 使用 は適 して いない。 方、 ス クラ ンブル走査 は上記の条件 を満足す る 手段 の 一 つ と して挙 げ られ る。 さらに、走査 の条件 と して、走査方向に規則性が な く、か つ 隣接 す る画素が走査対象 とな ることが望 ま しい。 これ らの条件 を満 たす アル ゴ リズ ム と して、Hilbert 走査で代表 され る SFC(Space Fllling Curve)に 着 目 した。 しか しなが ら、 SFCを その まま ス クラ ンブルアル ゴ リズ ム と して使用す ると、十分な ス クラ ンブル効果が得 られず安全性 の 面 で ー (以 問題が 生 じるた め、基本走査 パ タ ンの 種類 を増加す ることを特徴 と した、改良形 SFCを (2)(1)。 提案 した 下 ISFC(Improved SFC))を 一 は画 素 2次 元空間 におけ る Hllbert走査 は 4種 類 のパ ター ンで構成 され る。 方、ISFCで ー 間を斜 め方 向 に走査す ることを許容 して、合計 24種類 の走査 パ タ ンを用 いて い る。 その結果、 ス クラ ンブルを行 な う鍵 の候補 は、 KⅢ =2(11)/3 - 6 - 査 による ス クラ ンブルパ スの 通 り存在す る。図 2 に I S F C 走 一例 を示す。 また、図 3 に は I S F C で ス クラ ンブル走査を行 った後、 デ スクラ ンブル時 に異なるパ スを適用 した結果であ る。 [受信側] 似J] B基1言 (ファクシミリ)(ファクシミリ) (a)システ ム構成 A ミ ヽ タ ン。 ク フ アダ フア [ 送信 側 ] り ) ミリ (子 ,多 多ン ) 文 三ファクシミ り) [受信 側 ] (ファクシミリ) (b)シ ステ ム構成 B [ 受信 側 ] [ 送信側 ] (ファクシミリ) ( ファクシミリ) (c)システム構成 C 図 1 機 密 フ ァク シ ミリ通 信 システム - 7 - 図 2 ISFC走 査例 ヽ ′ 1 や ︼ 隷 選 済監紳 やギド れ の国 際 通 信 上 の諸 、 。 あ る 日本 名 は C C I T T の前 。 問委 員会 ︶ であ る 諮問 委 員会﹂ が設 ﹁ 国際 電話諮問委 (b)ス クラ ンブル画像 (a)原 画像 図3 - 1 多値画像 (a)原 画像 ( b l スクラ ンブル 画像 図 3-2 多 図 3 1SFCス - 8 - 値画像 クラ ンブル例 (3)ス クラ ンブルの評価 (al スクラ ンブル効果 SN比 とともに主観評価を求 めた。主観評価 についは、 木下等 (東工 大)の 提案 した 5段 階 の判定基準 であ るMSS(Mean security Score)を 参考 と して、表 1に 示す判定基準 を作 査で文書画像 に対 して ス クラ ンブルを行 な っ 成 した。表 1の 判定基準 に基づ き、ISFC走 た評価結果を図 4に 示す。 表 1 主 観評価 の判定基準 判 定 基 準 画像 の内容 が分 かる 一部分 からないが、ある程度の内容 は分 かる ほとんど分 か らないが、部分的 には内容 をつかめる 画像 の内容 は分 か らないが 、その種類 は分 かる 何 が書 いてあるのか その種類す ら分 か らない (木下 、塩入 、酒井 (束 工 大)が 提案 して い る 5段 階評価 を参考 ) 主観評価 SN士ヒ(dB) □ ■ 6 ︲ 4 ︲ 2 ︲ 0 ︲ 8 6 和文書 回 路図 グ ラフ acttal couple 多値画像 2 値 画像 ス クラ ンブル効果 図 4 1SFCの 図 4 よ り、I S F C に giri よ リス クラ ンブル を施 した結果の主観評価値 は、対象 と した文書画 像 の種類 に係 わ らず 2 以 下 とな ってお り、情報 の 内容 は分か らな い とい う結果が得 られた。 さ らに本研究で は、画像を複数 の 階層 に分割 し、各階層 ( もしくは一 部) に 対 して S F C 走 査 を施す ス クラ ンブル手法 も提案 してお り ( 5 ) 、 IsFCと 組合 せ ることによ リス クラ ンブ ル効果が 一 層高 まる もの と考え られ る。 - 9 - ( b ) ス クラ ンブル文書画像 の符号 量 ISFCが H l l b e r t 走査 と比較 して エ ン トロピーが増加 して い る理 由は、I S F C で は画 素間を斜 め方 向 に走査 して い ることを許容 して いる点 が原因にな ってい ると考え られ る。特 に、 2 値 画像 について は増加 の割合が約 1 2 % で あ り、多値画像 の場合 と比 べ て大 き くな って エ ン トロピーが ラスター いる。 また、文字図形情報 ( 2 値 ) の 走査 について は、I S F C の 走査 と比較 して1 6 % 程 度増加 して いる。 この原因 と して は、文字 ・図形 の境界線部分 を走査 す ることによ り白画素/ 黒 画素 の孤立点 が増加す る ことが挙 げ られ る。 なお、 この対策 につ いて は フ ィル タ処理等 の検討 を進 めてい る。多値画像を ス クラ ンブル した場合 は、H l l b e r t 走査 と比較 して 2 % 程 度 の増加で あ り、 2 値 の 文書画像 の場合 と比 べ て増加 の程度 は少 ない。 本研究では、①使用可能な鍵の数、解読 の手間等 に関す る安全性評価、②符号化標準 への 適用、③ n(≧ 3)次 元 SFCを 用 いたスクランブルアル ゴ リズム、④映像情報への適用等 が今後 の課題 として残 されて い る。 3.文 書画像通信における認証方式 (1)デ ィジタル透か しを用 いた認証手段 一 透か しJが ある。認証子を文書画像 画像 の特徴 を利用 して文書等の信憑性 を確保す る 例 に 「 Icヵ ― ドにデ デ ィジタル透か しJと 名付け (6)、 の 中に丁度透か しのように埋 め込む手法を 「 (7)。 ィジタル透か しを適用 した通信への適用に関す る基本的な手法 について提案 を行な った デ ィジタル透か しには、 ① 透 か し情報 を取 り除 く等 の不正を行 なった場合、画像の品質が劣化す る。 ② 透 か し情報 は、許容で きる画質が保 たれる範囲内で画像 に付加 され る。 ③ 透 か し情報 の付加 による符号量 の増加は少 ない。 の条件が必要 とされて いる。透か しを実現す る具体例 として、 これまで予測符号化 を用 いた手法 6)。 を提案 した く さらに本研究では、以上 の研究成果を基 に、 2.で 述べ た SFCを 用 いてデ ィジタル透か しを 査を用 いて認証子を表す 1次 を埋 め込む対象 しては、多値 ・カ 実現す る手法 について考察を進めて い る。図 5は 、 3次 元 SFC走 元 の符号系列 (太線)を 埋 め込む概念図を示 している。認証子 ラー画像 とともに映像情報等が考え られ る。 (2)PKCS(Personal Key Cryptosystem) 通信 システムの安全性 を確保す るた めには、文書 の信憑性 とともに本人を正 しく確認す ること も重要 な課題 の 一 つで あ る。本研究で は、指紋、音声、筆跡 とい った身体的特徴 を用 いて 本人 を 確認す る手段 について 提案す る ( 8 ) ( 1 0 ) とともに、通信 に応用す る手段 に関す る研究 ( 1 1 ) を 進め た。 さ らに本研究で は、文書画像 の符号化手段 と個人 の特徴を輸 出す る手段 に共通点 があれば、抽 ・ ー 出 され た個人 の特徴 パ ラメ タをその まま秘密鍵 ( 個人鍵) と して、文書画像 の機密保護 認証 通信 に用 い る システム ( P K C S ( P e r s o n a l K e y C r y p t o s y s t e m ) ) を 検討 して い る。 ここで 、符 -10- 図 5 3次 元 SFCを 用 いたデ ィ ジタル透か しの実現手法 号化手段 と個人 の特徴 の抽 出手段 の一 つ と して、 ベ ク トル量子 化を用 いるこ とが考え られ、筆跡 (8)c 情報を用 いて 基礎的な考察を行 な った PKCSは デ ィジタル透か しJの 発展形 と考え ることがで き 個人 の特徴を透 か し情報 と した 「 る。 さ らに指紋、 音声等種 々の個人 の特徴を用 いた研究課題が残 されて い る。 5.お わ りに はか高柳記念電子科学技術振興財団の研究助成 によ り進 めた 1文書画像情報 の通信 セ キ ュ リテ ィ に関す る研究」の概要を述 べ た。文 書画像通信 に対す るセ キ ュ リテ ィの エ ー ズは今後 さ らに高 ま る もの と考え られ、本研究成 果を もとに今後 さ らに研究を進 めてい きた い。 本研究成果 は、佃か高柳記念電子科学技術振興財団 の多大 なるご支援 による もので あ り、関係各 位 に深 くお礼 申 し上げます。 参考文献 ",画 〔1 〕 小松 : “フ ァ クシ ミ りにおけるセキ ュ リテ ィ技術 像電子学会誌, V o l . 1 9 , N o . 4 , pp.229235(1990). ",信 〔2〕 佐藤 、 小松 : “S F Cを 用 い た文書画像 のス クラ ンブル ア ル ゴ リズム 学春季全大, D-442 (1992). - 1 1 - 〔3 〕 小松、小宮山 : “S F C を 用 いた文書画像 の ス クラ ンブル手法 ",SCIS92論 文集, S C I S 9 2 - 17D(199204). 〔4 〕 小松、小宮山 : “S F C を 用 いた文書画像 のス クラ ンブル手法 ",画 像電子学会研究会議 演 奇, 9 2 - 0 2 - 0 5 ( 1 9 9 2 - 0 9 ) . 珂P 和 階層形 S F C を 〔5 〕 小宮山、小松 : “ 用 いた文書画像 のス クラ ンブル手法 の提案 ",信 学春季 全 大, D 4 4 3 ( 1 9 9 2 ) . 文書画像 通信 におけるデ ィ ジタル透か しの提案 と署名 へ の応用 〔6 〕 小松、富永 : “ ",信 学論 ( B ― I ) , J 7 2 - B I―, 3 , p p . 2 0 8 - 2 1 8 ( 1 9 8 9 - 0 3 ) . 〔7〕 M.Yamada, N.Komatsu and H.Tominaga : “Secure Document一image Management Facililies in Telematics ", Proc. IWT (1989-09). 〔8〕 小川、石 渡、小松 : “筆跡情報 を用 いた個人鍵 の生成 と個人識別手段 ",信 学春季全大, SA-8-3 (1991). 放射状走査 を用 いた指紋照合 アル ゴ リズ ム 〔9 〕 武 田、小松、木下、清水 : “ ",信 学春季 全大, D-537(1992)。 放射状走査 を用 いた指紋照合 アル ゴ リズ ムの提案 1 0 〕武 田、小松、木下、清水 : “ 〔 文集, S C I S 9 2 8 D ( 1 9 9 2 0 4 ) . ",SCIS92論 ",SCiS92 一 1 1 〕木下、清水 、小松 : “ 個人認証 の適 用領域 とセキ ュ リテ ィ レベル に関す る 考察 〔 論文集, S C I S 9 2 8 C ( 1 9 9 2 0 4 ) . -12-
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