平成25年度テーマ研修 鹿児島市立喜入小学校 1 研究主題 考える力を育み,表現する力を伸ばす授業の創造 ~説明する力を身につける算数科学習指導~(3/3年次) 2 研究主題設定の理由 ◆ 時代の要請から ◆ 学習指導要領から ◆ 学校教育目標から ○ これから,新しい知識・情報・技術 ○ 新しい学習指導要領が全面実施さ ○ 学校教育目標は,「夢をもち,心も が飛躍的に重要性を増す「知識基盤社 会」において,知識や技能を正確に習 ○ れている。 ○ 体も健康で自ら学ぶ人間性豊かな喜 学習指導要領では,「生きる力」を 入の子どもの育成」である。 得し,それらを有効に活用できる言語 育むという理念のもと,知識や技能の ○ 目指す子どもの姿として,「自ら課 力の育成が求められている。 習得,思考力・判断力・表現力の育成 題を見つけ,追求し,よさや可能性を を重視している。 発揮する子ども」,「目標をもち,何 21世紀を生きぬくための力を育 成するため,基礎的基本的な知識・技 ○ 課題解決のための思考力・判断力・ 事にもくじけず最後までやりとげる 能の習得に加え,これらを活用して課 表現力の育成とともに,主体的に学習 子ども」があげられている。 題を解決するために必要な思考力・判 に取り組む態度を養うために,言語活 ○ 本校では,「確かな学力」の定着と 断力・表現力等の育成や学習意欲の向 動の充実が求められ,算数科において 実生活での効果的な活用を重点教育 上,様々な人間関係を結んでいく力を も,言語力を活用した授業改善が求め 課題としてあげている。 身につけさせることが重要になって られている。 きている。 〔研究主題〕 考える力を育み,表現する力を伸ばす授業の創造 ~説明する力を身につける算数科学習指導~(3/3年次) ◆ これまでの取り組みから ◆ 子どもの実態から ○ 本校では,これまでに「考える力を育み,表現する力を伸ばす授業の ○ 自分の思いや考えを簡潔に相手にわかりやす 創造~説明する力を身につける算数科学習指導~(2/3年次)」をテ ーマに,言語活動を生かして基礎・基本を身につけるための研究を行っ てきている。 ○ これまでに,教科書研究による言語活動の系統立てた指導,ワークシ ○ 意味がつかめない,難しい,分からない言葉 が多いという理由から文章の内容を明確に理解 できず,考える意欲が低下する児童が多い。 ートを用いた書く活動の支援,児童一人ひとりが生き生きと表現するた ○ 様々な活動から知識・技能等は尐しずつ身に めの学習形態の工夫,効果的な ICT 機器の活用等,基礎学力の定着を図 つきつつあるものの活用する力が十分でない。 る様々な取組を行ってきている。 ○ く表現する力が弱い。 昨年度から,算数科に焦点を当て,思考力・表現力の育成を図る授業 改善に取り組んできた。そこで,昨年度の取り組みを生かし,算数科に おいて言語活動を通して説明する力を身につけさせる指導について研究 を進めていく。 3 本校がとらえる「考える力」 「表現する力」「説明する力」 「考える力」とは, これまで培われた知識・技能をもとに,情報を取り出し,比較・分類・検討・ 判断する力 「表現する力」とは, 考える力から思いや考えを文章に表す力,書く力 「説明する力」とは, 相手・方法・表現を選択し,自分の考えをわかりやすく伝える力 ・相手…ペア,全体 ・方法…記述,口述 ・表現…言語,数,式,図,数直線,表,グラフ 4 研究の経緯 本校では,平成22年度から「考える力を育み,表現する力を伸ばす授業の創造」のテーマのもと,児 童に思考力・表現力を身につけさせる研究を行ってきた。 研究1年目では,社会・算数・理科の学習において,どのような言語活動が有効かを研究し,自分の考 えをノートにまとめる活動や,グループ活動をする際の意見交換会マニュアルの活用など授業の中で行っ た。また,学習指導案の中に言語活動と関連する場面を挿入することで,言語活動を明確に示し,教師自 身が意識して言語活動を行うようにした。 研究2年目では,発達段階に応じた表現方法の工夫について研究を行った。まず,説明する力の系統性 を知るため,教科書研究を行い,それに基づいて, 「まず」「次に」 「だから」などの接続詞を含むワーク シートを授業の中で活用した。他にも,互いの考えを伝え練り上げるためのペア学習や,相手によりわか りやすく説明するための ICT 機器の活用なども授業に取り入れてきた。 そこで本年度は,これまで研究してきた具体的な言語活動例をより授業の中で生かしていくために,児童 が主体的に取り組めるような算数的活動を研究するとともに,児童が進んで考え,表現する授業を行うた めの学習過程の工夫を研究していく。 5 目指す子ども像 算数的活動を通して思考,判断,表現を繰り返し,自分が納得する答えを 導き出すとともに,互いの考えを伝え合うことができる子ども 6 研究の仮説 【仮説1】算数的活動の研究 多様な算数的活動を取り入れることで,考える力・表現する力が高まり,自 分の考えを表出する力が育成されるであろう。 【仮説2】表現方法の研究 思考・表現する活動を問題解決的な学習過程に意図的に・計画的に位置づけ ることで,互いの考えを伝え合う力が育成されるであろう。 7 研究の内容 (1)仮説1における共通実践 ・ どのような数学的な見方・考え方をつけさせるか明確にして授業を行う。 ・ 多様な考え方から共通点を発見させるという学習の流れを意識して授業を行う。 (2)仮説2における共通実践 ・ 自分の考えと友達の考えとを比較し,同じところや違うところを見つけさせることを意識させる。 (3)ICT機器の活用 ・ 課題をとらえやすくするために,わかったことを整理して提示する。(提示) ・ 自分の考えを言葉だけでなく絵・図・グラフ・動画等を取り入れて説明する。(表現) 8 研究組織 研究組織 校 長 教 頭 研 究 推 進 委 員 会 上学年部 全 体 研 修 会 下学年部 9 研究の実際(授業実践) (1)仮説1における共通実践 どのような数学的な見方・考え方をつけさせるか明確にして授業を行う。 ○ 2年生「かけ算(1) 」の授業から(H25年10月7日 月曜日 4校時実施) 本授業では, 「全体の数量を『1つ分の大きさ』と『い くつ分』でとらえる」という数学的な見方・考え方を育 てるために,以下の手立てを行った。 ・ 百玉そろばんを使った「2とび」 「5とび」の練習 ・ 多様な算数的活動を行えるようなワークシートの 工夫(言葉・図・式) また,個に応じた指導を行うために,1対1の指導の時 間を設けた。児童の考えは教師が一人ずつチェックをし た後,ペア学習で説明の練習をさせるという段階を踏む ことで,必然的に児童は自分の考えをもつことができた。 【児童の考えを一人ずつチェックする様子】 ○ 1年生「大きなかず」の授業から(H26年1月27日 月曜日 2校時実施) 多様な考え方を引き出し,話し合いの中で児童自ら考え を練り上げていく学習活動を研究する中で,基礎基本とし て確実に定着させなければならない学習内容もあり,その 指導計画(表) 時間も大切であるという意見が挙がった。そこで,「しっ 着 」なのか, かりと考えさせ,基礎を身に付けさせる時間○ 「じっくり考えさせ,多様な考えを引き出し,練り上げを 多 」を指導計画の はかりながら考えを深める時間なのか□ 「指導上の留意点」の中に明記することとした。これらを 指導計画の中に示すことで,教師自身が多様な考えを引き 出す授業の場面を意識するとともに,説明する活動に系統 性をもたせることができた。 指導上の留意点に記載されるもの は,児童に身に付けさせたい数学的 な見方・考え方につながる。 多様な考え方から共通点を発見させるという学習の流れを意識して授業を行う。 ○ 5年生「図形の面積」の授業から(H25年10月7日 月曜日 5校時実施) 本授業を行うに当たり,単元を通して,自分の考えをしっかりまとめ,発表できるように指導を重 ねてきた。具体的な指導内容は,発表する内容をそのまま文章に書くのではなく,大切なポイントを 短くまとめて書くこと,発表するときは,ただ読むだけでなくまとめて発表することの二点である。 その結果,図,式,言葉をセットにして簡潔にまとめられるようになってきた。 本授業では, 「じっくりコース」と「どんどんコース」に分けて尐人数指導を行った。共通点を発 見させる授業の流れは,それぞれ次のとおりである。 〔じっくりコース〕 タブレットPCを用いて自分の考えをまとめさせる。 全員に発表させたら,児童が記入したものすべてをテ レビ画面に映し,どの考えも既習の公式に置き換えて 面積を求めていることに気づかせる。(共通点の発見) 【タブレット PC にまとめた考えの発表】 〔どんどんコース〕 自分の考えをワークシートにまとめさせる。まとめる 際は,説明する相手を意識させ,色鉛筆などを使って わかりやすくまとめさせる。 ワークシートにまとめたら,教材提示装置を使って 発表させる。友達の考えを聞いて,似ているところや 違うところを考えさせ,考えが違う場合には自分の考 えを発表させる。(共通点の発見) さまざまな考えが出そろった後,面積を求めるため に必要な情報は何かを考えさせる。 (共通点の発見) 【必要な条件を考えさせている様子】 (2)仮説2における共通実践 自分の考えと友達の考えとを比較し,同じところや違うところを見つけさせることを意識させる。 ○ 6年生「いろいろな形の面積」 (H25年6月24日 月曜日 5校時実施) 自他の考えを比較するためには,まず自分の考えを しっかり持たなければならない。そのために,本授業 では,多様な考えを引き出すための教具の準備,ヒン トカードの準備,TTと特別指導支援員による丁寧な 個別指導を行い,全員が自分の考えをもったうえでグ ループ活動に入れるよう配慮した。 グループ活動では,解決した方法や答えを比較・検 討させ,グループで最善の方法を考えてまとめさせた。 また,より活発な話し合いができるように,グループ 【3人グループで話し合う様子】 の構成を工夫した。1グループは3人とし,中央に座 る児童のところに意見が集まるよう,男―女―男また は女―男―女の一列の形態とした。 (3)ICT機器の活用 課題をとらえやすくするために,わかったことを整理して提示する。 (提示) ○ 3年生「わり算」 (H25年6月24日 月曜日 3校時実施) 本授業の学習課題は,3年生の実態から考えるとイ メージすることが難しい課題だと考えられることか ら,視覚的に問題を考えられるようICT機器を活用 した。パワーポイントを使って課題を提示することで, 教師の言葉での説明がシンプルなものとなり,児童も 問題をしっかりと捉えることができた。 【パワーポイントを使った課題の提示】 自分の考えを言葉だけでなく絵・図・グラフ・動画等を取り入れて説明する。(表現) ○ 4年生「分数」 (H26年1月27日 月曜日 5校時実施) 4年生の「分数」の単元では,面積図を用いて繰り上がり,繰り下がりのある計算方法を考えさせ る。本授業では,繰り下がりのあるひき算の仕方を考えさせるが,整数部分から分数部分に繰り下が る1を, どのように変換すればよいか視覚的に捉えさせるため,タブレットPCを使って説明をした。 「1を何分の何と捉えるか」については,本来子どもたちの話合いによる練り上げで確認されるべき であるが,下位の子どもたちの理解を深めるために,「まとめる」過程で教師の説明とともに提示す る。 10 成果と課題 仮説1より ○ 学習課題に対して,子どもたちがどのような考え方を表出するか,教師自身が把握しようと努めるよ うになってきた。 ○ 多様な算数的活動を取り入れるために,問題解決的な授業実践を意識するようになった。 ● 多様な考え方から共通点を発見する子どもたちの目は育ちつつあるが,活発な話合いによって練り上 げる場面は教師主導になっている。 仮説2より ○ 子どもたちが,学習課題に対して自分の考えをしっかりもつようになった。 ○ 算数科の授業以外でも,自分の考えを表出する力が随所にみられるようになっている。 ●「話し合う場」が「説明する場」になってしまったので,伝え合う力を育成するための指導を改めて研 究し,子ども主体の授業づくりを考えていかなければならない。 ● 伝え合う力を育成していくためには,日常の授業の中で実践を重ねていかなければならない。 ICT機器の活用 ○ パワーポイントの活用は,課題提示の際やまとめの際に有効に働いた。 ○ 教材提示装置を用いた児童の発表が,日常的に行われるようになっている。 ● 児童がそれぞれ考えを出し合う場面でタブレットPCを使えば,一面に全員の考えを表示することが でき,比較検討する際に有効に働く。授業の中での活用を図るためには,まず職員自身がタブレットP Cに触れる機会を多くもたなければならない。よって,利用のための研修と環境づくりを同時並行で行 う必要がある。
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