インタビュー 青木淳氏「シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリーと MISHUKU シリーズを語る」 今年 9 月に世田谷三宿にオープンしたシュウゴアーツ ウィークエンドギャラリーは建築家・青木淳さんが空間と照明器具、家具の設計 を手がけました。このユニークかつ大胆なギャラリー空間について青木淳さんにお話を伺いました。 Q1・シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリーとは? ウィークエンドギャラリーを作るにあたって、空間を美術のために完全にしつらえきったというふうにはしないように、と思ったんです ね。というのは、空間がアーティストのやりたいことを先取りしてしまいすぎると、お膳立てしすぎで、それは逆に作家にとって、楽し いことではないんじゃないかと思うからです。自分を作家の立場に置けば、その空間に自分で発見するものがあったり、そこから刺激を うけたりして、作品をつくれたらいいと思うんです。そういうタイプの空間のことを、ぼくは「原っぱ」と呼んでいるんですが、そんな 空間をつくれればいいなと思いました。 ウィークエンドギャラリーの空間には、お店が入っていました。それが今回、 デザインのために見た時には、もう解体が終わっていて、床はコンクリートの 地肌、壁も一部躯体が見えていました。すでにある意味で、もう原っぱ的な感 じでした。もっとも、そのままだと単なる内装撤去状態です。だから、まだ 「空間」になりきっていない、その途中状態の空間未満の空間、つまり本当の 原っぱに持っていくために、全体を仕上げるというのではなく、そのいい感じ を残しながら、最低限の手を加えて、チューニングしようとしました。 青木淳 シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリーのためのプラン 2015 © Jun Aoki Q2.この空間がどのように使われることを望まれますか? いわゆるホワイトキューブと呼ばれるギャラリーがありますね。たしかに、ホワイトキューブが持っている抽象性は、展示室として一つ の完成形です。でも、ウィークエンドギャラリーは、ホワイトキューブを目指した空間ではありません。ある意味、完成していない空間 をつくろうとしました。ホワイトキューブが非日常的な性格を持ち、作品が展示されるのを待っている空間であるとすれば、ここは日常 的な性格を持ち、人を放っておいてくれる空間です。 だから、ここの部分をこうしたらどうだろう、というアイデアも出てくるような隙もあります。それで、展示のたびに、少しずつアップ デートされていって、いつまで経っても発展途上の、流動体としてのギャラリーになったらすばらしいな、と思います。 シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリー内景 Q3.MISHUKU LIGHT とは? お店の内装を解体した後のこの空間の天井には、照明器具がついていませんでした。 そのため、すっきりとしてきれいな天井でしたので、そこに照明器具をつけるのはもっ たいないと思いました。それで、上に光を出すスタンドを立てて、天井に当たったその 反射光で、ギャラリー全体を均一な光で満たすことができれば、と考えました。日没前 の黄昏の時間、どこから来ているかわからない柔らかい光で、部屋全体が満たされます ね。そんな光が理想です。シミュレーションしてみたら、そんな光をつくるためには、 この空間の場合だと4台必要ということがわかりました。ギャラリーに4台も出てくる わけですから、いやでもスタンドが目立ちます。それを見えなくすることはできません。 できるのは、モノとしてそこにあるけれどその存在が気にならないようにすることです。 作品をディスターブしない寡黙なスタンドをつくろうと思いました。 MISHUKU LIGHT は、基本的に、直方体の組み合わせでつくっています。光源の入って いる頭部のサイズは、この空間のアルミサッシの枠のサイズに合わせています。使った のは、街灯用に開発されたハイパワーの光源です。それをかなり絞って、きれいな光を 出しています。そのおかげもあって、このギャラリーは、なんとなく外の空間、室内な のに中庭のように感じられる空間になったと思います。 青木淳 MISHUKU LIGHT 2015 © Jun Aoki 質問4.MISHUKU TABLE と MISHUKU STOOL とは? テーブルやスツールは本来、目的のある物体です。テーブルには、そこで仕事する、あるいはミーティングする、食事をとるなどの目的 があります。スツールには、そこに腰掛けるという目的があります。そういう目的のある物体は、普通、ギャラリーには置いてありませ んね。なぜかと言うと、作品の邪魔になるからです。スタンドも同じ理由で、普通、置いてありません。だから、テーブルやスツールも、 スタンド同様、モノとしてそこにあるけれどその存在が気にならないようにと考え、その目的が見えないようにデザインしました。 MISHUKU TABLE は、まず大きさでテーブルらしさを消そうとしています。大きな楕円だけれど、小口は小さいので、とても薄く感じ られると思います。足は、白ガス管と呼ばれる配管用のパイプです。どこにでもある素材を使って、しかしその素材の別の表情を引っ張 りだしたいと思いました。 MISHUKU LIGHT は長方形でできていて、MISHUKU TABLE は上から見て楕円、真横から見て長方形でしたので、MISHUKU STOOL は、上から見て円、真横から見て折れ曲がった線にしました。この選択は、ギャラリーの空間と、3種の家具の間の形のバランスから割 り出されています。もし MISHUKU STOOL の脚が折れ曲がった線でなかったら、部屋全体で長方形が勝ちすぎたはずです。作品をディ スターブしないために、この折れ曲りは大切なんです。脚の折れ曲りは、細く、肉厚の薄いパイプを使うことで、スツールにわずかでは ありますが、クッション性を与えます。脚は4本ついていますが、4本だと見る角度によって表情が大きく変わって、どんな形をしてい るのかがはっきりしないようになっています。座は、嵌っているだけです。座をその日の気分で変えて使って欲しいからです。 質問5.総体としてどのような場ですか? 室内空間なのか室外空間なのか、仕上がっているのか仕上がっていないのかがまだはっきりとしていない、そういう分化が始まる前の不 定形な状態をつくろうとしました。 質問6.シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリーで開催される三嶋りつ惠 さんとの展覧会「光のあいだ」に向けての抱負を聞かせてください 以前、三嶋りつ惠さんの、資生堂ギャラリーでの個展、「あるべきようは」の会場構成をさせていただきました。そのときは、三嶋さん が出品される作品を前提に、それと空間がどう絡めばいいのか考え、空間をチューニングしました。今回は、その逆で、三嶋さんが、 この空間を読み取って、これとどう彼女の作品を絡ませたらいいか考え、展示してくださると思います。結果、この空間から、ぼくが 気づいていない側面を引き出してくださればいいな、と期待しています。 2015/10/18 シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリーにて
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