教授戦略に基づいた学習コンテンツの系列化手法とその体系化

The 17th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2003
1E5-05
教授戦略に基づいた学習コンテンツの系列化手法とその体系化
Systematization of Sequencing Methods of Learning Contents Based on Teaching Strategies
松居 辰則
関 一也
岡本 敏雄
Tatsunori Matsui
Kazuya Seki
Toshio Okamoto
電気通信大学 大学院情報システム学研究科
Graduate School of Information Systems, The University of Electro-Communications
Sequencing methods of learning objects/contents are important issue for instructional design processes, particularly
sequencing methods based on mathematical model have been used practically as a theory for the adaptive function in real
computer-based educational/training systems. In this paper, we try to systematize some sequencing methods from some
points which are static/dynamic and calculative/procedural and to clarify the difference and the possible limitation of each
methods. Also in this paper, we show some examples of applications of these methods and discuss which sequencing
methods are effective to use for each various cases.
1. はじめに
授業設計において,複数の学習コンテンツ(学習課題)
を順序関係に着目して構造化するアプローチは,教材の構
造化法と呼ばれ,Gagne の学習階層[Gagne 79]や沼野の論
理分析[沼野 76]などが著名である.教材の構造化法は,学
習課題をノード(節),学習課題間の順序関係をアーク
(有向枝)にそれぞれ対応させた 2 次元のグラフ構造の形
式に表現する技法である.
これに対して 2 次元にグラフ構造化された教材をもとに
して,授業展開のために 1 次元的に学習課題を配列するた
めの方法は,学習課題系列化法(以下,単に,系列化手法
と略す)と呼ばれている.系列化においては授業設計者の
意図,すなわち教授方略が反映される.この教授方略に数
理モデルを導入することによって,教授方略モデルを記述
し,そのもとで課題の系列化を行う手法をここでは「数理
モデルに基づく学習課題の系列化」と呼ぶことにする.課
題系列化とは教授方略のもとで半順序関係を全順序関係の
中へ矛盾なく埋め込み並べる処理であり,有向グラフの条
件付きトポロジカルソートと捉えることができる.
教授戦略モデルの記述に数理モデルを導入することの目
的は「どのような教授方略のもとではどのような課題系列
が得られるか」の普遍的な定式化,および教授方略モデル
において定義される指標の特性解析である.
本稿では,数理モデルに基づく課題系列化手法を生成方
法とその扱いの観点から整理・分類し相違点を明らかにす
る.その上で系列化手法の有効性に関して実例を通して述
べ る . さ ら に , 系 列 化 手 法 の 新 し い 応 用 と し て , elearning 環境における学習過程のダイジェスト作成手法に
ついて述べる.
2. 系列化手法の分類
系列化に関しては様々な手法が提案され,授業設計や授
業展開の場面で利活用されている.ここでは,系列化手法
を,その生成手法がアルゴリズム的か計算的か,扱いが静
的か動的か,という観点からの分類を試みる.
2.1 教授方略の定量化
教授戦略モデルでは,教授方略を「学習課題間の関係構
連絡先:松居辰則,電気通信大学大学院,〒182-8585 東京
都調布市調布ヶ丘 1-5-1,[email protected]
造で表現される性質をどの程度反映しているか」を定量化
するための指標,教授方略指標で定量化する.文献[3]では,
教授方略指標(上位性,下位性,応用性,基礎性,関連性,
連続性,合前提性,合目標性,脈絡性など)を,ポテンシ
ャル性1とコヒーレンス性2の観点から整理し,それらの特
性や関係を解析している.そして,教授方略を系列化基準
と系列化手順で記述し,手続間の関係を解析し,それぞれ
の教授方略の特性を比較している.その結果,教授方略指
標のパラメータの意味を考察し,それに基づく教授方略の
特性と意義・有効性を示している.
2.2 教授方略と代表的な系列化手法
教授方略を反映する系列化手法の原点は,Gagne の学習
階層による系列化[Gagne 79],Reigeruth の精緻化理論
[Reigeruth 78]である.これに数理モデルを導入した教授
戦略モデルのもとでの系列化手法として,沼野のコースア
ウトライン(指導順序)決定法[沼野 76],成瀬・後藤の反
応構造による教授項目の系列化法[成瀬 77],竹谷のクラス
タ分析を応用した系列化手法[竹谷 90a],脈絡性を重視し
た課題系列化法[竹谷 90b],赤堀・清水の系列化シミュレ
ーション[赤堀 89]などがある.
各手法はそれぞれの研究の中で定義されている教授方略
指標を用いて系列化を行うわけであるが,教授方略指標は
課題間の 1 または 0 を要素とする関係行列(隣接行列)を
もとに算出される.しかしながら,授業設計者が課題間の
関係を 1 または 0 で表現することは困難な場合もあるため,
課題間の関係を 1-0 の連続値で表現し,そこから関連性測
度を定義し,教授方略指標を算出する手法[竹谷 92]が提案
されている.また,1-0 の連続値で表された隣接行列から,
重み付きのクラスタ分析を行い,それをもとに系列化を行
う手法[豊田 99]も提案されている.さらに,課題間の関係
を「とても強い,弱い」などの言語的表現によるあいまい
性を教授方略に反映させる手法[赤堀 92]も提案されている.
1
個々の学習課題が教材構造グラフの中で相対的にどのような位
置にあるかによって系列の順番が決定されるとき,その教授方略
をポテンシャル性に基づくと呼び,その程度を定量化した量をポ
テンシャル指数と命名している.
2 構成した系列は論理的な流れ,脈絡の通った配列でなければな
らない.このように課題間の関係に着目した教授方略をコヒーレ
ンス性に基づくと呼び,その程度を定量化した量をコヒーレンス
指数と命名している.
-1-
The 17th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2003
2.3 得られた系列の扱い
2.2 で列挙した系列化手法では,
・系列化の対象となる教材構造は静的
・得られた系列は不変
という扱いである.しかし,系列化の対象となる教材構造
が学習者の活動によって動的に変化し,生成された課題系
列を更新する必要がある場合も考えられる.これは,CAI
システムに学習者の回答に応じて,適応的に復習課題や次
問題を選択する,といった機能を実装する場合などが相当
する.文献[米澤 92][小泉 95][Matsui 97]ではこの点を実
現する手法を提案している.
2.4 系列化における教授方略の扱い
2.2 で列挙した系列化手法は,「系列化の対象となる教
材構造における課題間の関係(2 項関係)が明確に記述で
きる」という前提のもとで教授方略指標が定義されている.
そして,「系列化に反映させる教授方略は唯一である」と
いう制約の下で系列化手続きが記述されている.したがっ
て,教授方略指標や系列化手続きの特性や関係に関する詳
細な理論的考察が可能となる.
しかし,教材構造の中には課題間の 2 項関係が明確に記
述できない,唯一の教授方略で系列化するのは適切ではな
い対象が存在する.例えば,系列化の対象課題の詳細度が
比較的大きい(小さくすることが困難である)場合は,課
題間の 2 項関係の定義は困難であり,唯一の教授方略によ
って系列化することは不適切である.このような場合には,
系列化を多目的最適化問題として定式化し,準最適解とし
て系列を得るという手法が提案されている[松居 02][岡本
98].
表 1 数理モデルに基づく課題系列化手法の分類
扱い
静的
手法
アルゴリズム的
計算的
[沼野 76]
[成瀬 76]
[竹谷 90a]
[竹谷 90b]
[赤堀 89]
[竹谷 92]
[豊田 99]
[赤堀 92]
[松居 02]
※ GA 利用
[岡本 98]
※ GA 利用
動的
[米澤 92]
[小泉 95]
※ Fuzzy 数利用
[Matsui 97]
※ Fuzzy 推論利用
[関 03] ※ GA 利用
[李 03] ※ GA 利用
2.5 系列化手法の分類
2.2∼2.4 の議論をもとに,系列化手法の分類の観点を整
理する.
2.2 で列挙した系列化手法は全て「系列化の手続き(ア
ルゴリズム)が明確に記述することが可能」である.この
ような系列化手法はアルゴリズム的であると呼ぶことにす
る.これに対して系列化の手続き(アルゴリズム)が明確
に記述することが困難な系列化手法は,計算的であると呼
ぶことにする.
また,2.2 で列挙した系列化手法は全て,「系列化の対
象となる教材構造は静的に与えられており,得られた課題
系列が変化することはない」というスタンスである.この
ような系列化手法を静的であると呼ぶことにする.これに
対して「系列化の対象となる教材構造が動的に変化し,そ
の変化に基づき課題系列も更新する」というスタンスの系
列化手法を動的であると呼ぶことにする.
以上より,系列化手法を「アルゴリズム的⇔計算的」
「静的⇔動的」という観点から整理・分類すると表 1 のよ
うになる.静的な系列化は授業設計段階で行う系列化手法
であり,動的な系列化は学習過程で行う系列化手法である
とも考えられる.
3. 系列化手法の実例
2 章で分類を行った系列化手法の代表的な手法の概要を
述べる.
3.1 「アルゴリズム的・静的」系列化手法の例
[竹谷 92]では,系列化に用いら
g
れる戦略を整理し,系列化戦略は,
系列化基準と系列化手続で定式化
f
できるとしている.系列化基準と
は,任意の 2 課題をどの程度系列
12
上で近接すべきかを定量化したも
のである.従来の系列化手法
11
( [ 沼 野 76] , [ 竹 谷 92] ,
[Reigeluth 78] ,[成瀬 77],[竹
13
15
d
10
谷 90a],[竹谷 90b],[赤堀 89])
は,何らかの関連性を表す系列化
基準にのっとり,系列の先頭課題
14
から(階層)構造グラフに沿って
系列の末尾課題まで順に求めるア
e
ルゴリズムであると纏めており,
ボトムアップ型と命名している.
3
2
1
この研究では,途中の最適な部分
系列が得られない,というボトム
6
5
アップ型の問題点を指摘し,トッ
プダウン型,および部分統合型の
4
系列化手順を提案し,そのアルゴ
リズムを示している.この系列化
8
手順のアルゴリズムは,最も関連
性の高い部分系列(先頭課題とは
7
限らない)から順に求めて最終的
に一つの系列を求めるものである.
例えば,図 1(沼野の国語「文
9
節」の形成関係図(単一目標グラ
フ))の教材構造グラフから沼野
のコースアウトライン法によって
得られる系列は次の通りである.
[9,7,8,4,5,1,6,2,3,e,14,13,11,15,10,d,12,f,g]
しかし,この系列に関しては沼野自身が次のような問題点
を指摘している.
・[1,6,2],[10,d,12]不自然
・[6,2,1][d,12,10]に変更すべき.
次に,[竹谷 92]で提案されている系列化手法によって得ら
れる系列は次の通りである.
・関連性に基づく戦略による系列
[(6,3),9,7,8,4,5,1,2,e,d,(10,15,[14,13,11]),12,f,g]
・前提性に基づく戦略による系列
[(6,3,d),9,7,8,4,5,1,2,e,(10,15),14,13,11,12,f,g]
・目標性に基づく戦略による系列
[([([9,7,8,4,5],6),2],1,3),e,([([14,13,11],15,d),12],10),f,g]
したがって,次のような点が考察され,提案手法の有効
性が示されている.
・沼野の問題点は解消されている.
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・単一目標(前提)グラフの場合は合目標(前提)性
係数に基づく系列化基準が適している.
3.2 「アルゴリズム的・動的」系列化手法の例
[米澤 92]では教材構造と学習履歴に基づく復習課題系列
の生成手法を提案している.この研究では,教材構造グラ
フの各ノード間に影響力という方向性のある結合力を導入
し,この影響力を要素とする N 次正方影響行列で N 個の
ノードからなる教材構造の形状を記述している.復習課題
系列は,グラフの有向枝をたどって整列するのではなく,
木構造の形状を表す影響行列に学習履歴行列を作用せるこ
とによって得られる実数値のソートで求めている.さらに,
影響力を助長項と抑制係数が付いた抑制項の 2 成分の和か
ら構成されると考え,抑制係数の値を調整することにより,
復習課題系列の精度を向上させるとともに,理解できなか
った課題を強調した復習課題系列の生成を可能としている.
例えば,図 2 のような教材構造グラフにおいてノード
10,9,8 に誤答した場合は,次のような復習課題系列が
生成される.ただし, α は抑制係数である.
0 ≤ α < 0.73 :10,1,2,4,3,9,8,(5,6,7)
α = 0.73 :10,1,2,4,(9,3),8,(5,6,7)
0.73 < α < 1.23 :10,1,2,4,9,3,8,(5,6,7)
α = 1.23 :10,1,2,4,9,(8,3),(5,6,7)
本手法は,復習課題系列の
生成は行列による関係演算,
および整列アルゴリズムを用
いているため,アルゴリズム
的な生成手法である.しかし,
復習課題系列は学習過程で学
習履歴に基づいて生成される
ため動的系列として扱われて
いる.
[小泉 95]では課題間の関連
性に授業設計者のあいまい性
を反映させるために,関連性
を Fuzzy 数で表現し,復習課
題系列を動的に生成する手法
を提案している.この研究では,教材構造間および課題系
列間の類似度を Fuzzy 演算を用いて定義し,学習者の回答
による類似度の変化を系列化指標に反映させることによっ
て,動的に系列を更新している.
3.3 「計算的・静的」系列手法の例
[松居 02]では遺伝的アルゴリズム(GA: Genetic
Algorithm)を用いた学習活動の系列化手法を提案してい
る.この研究は,「授業形式,グループ構成,思考形態,
指導様式,使用機器,使用ソフトウェア・ツール」で記述
される 1 つの授業を,授業の構成要素(教師と生徒の学習
活動)の系列として表現することを目的としたものである
(本研究の本来的な目的は,この手法を用いて授業を動画
像系列として表現し,授業の実践事例ベース推論の機構と
して実装することである).図 3 に生成された学習活動系
列の例を示す.
本研究では,授業を表現する最適な授業構成要素の系列
を求めることを目的とするが,
・系列化のための明確な指標の定義が困難
・複数の系列化方略を同時に用いる必要がある
という理由からアルゴリズム的な手法は適用できない.し
たがって,本研究では教師・生徒の学習活動を授業の構成
要素として抽出し,授業形式,思考形態,指導様式を授業
の構成要素の状態遷移図として表現し,生成される系列の
評価に用いている.図 4 に思考形態(問題解決的)の状態
遷移図を示す.図中の T,S は教師・生徒の授業の構成要
素を表す.
図 3 生成された学習活動系列の例
T1ab
T2c
T2b
S
T1c
S3
S1bc
E
T5
T3
図 4 思考形態(問題解決的)の状態遷移図
本研究における系列化の対象は授業の構成要素群である.
構成要素間の 2 項関係は,授業形式や思考形態に依存する
ため一意に決定することは不可能である.また,明確な系
列化基準や系列化手続を記述することも不可能である.さ
らに,系列化の方略は唯一ではない.したがって,本研究
では系列化の問題を多目的最適化問題として定式化して準
最適な系列を求めている.評価実験の結果,妥当な授業系
列が生成されているとの評価を得ている.
3.4 「計算的・動的」系列化手法の例
[Matsui 97]の系列化の目的は,3.2 で述べた[米澤 92],
[小泉 95]と同じであるが,教材構造の類似性と教材間の順
序性から出題項目の優先度(指向性)を Fuzzy 推論で行っ
ている点が異なる.2 種類の系列化方略(構造の類似性の
向上,順序性の維持)を用いて系列化している点が特徴で
ある.[Matsui 97]のシステムは図 5 に示すように,物理
の力学の問題に対して学習者が図と運動方程式を入力し,
システムは入力情報から動的に出題項目を決定している.
a
Candidate 3
⑨ Acceleration
a
⑨ A cc el er atio n
a
Object A
N = Mg
⑤ Equation of motion
T − µMa = Ma
T
④ Tension
µMg
T
③ Fric tion fo rc e
µMg
⑧ Equation of motion
⑤ Equation of motion
mg − T = ma
T − µ Ma = Ma
T
② Ve rt ic al d ra g
N = Mg
④ Friction force
µ Mg
a
GW
⑦ Tens ion
T
⑥ A dd it io n of
fo rce
mg
② Vertical drag
Object B
mg − T = ma
T
③ Tensi on
T
⑧ Equation of motion
⑦ Tension
Mg
N = Mg
① A dd it ion of
for ce
Candidate 2
⑥ Addition of
force
mg
Mg
mg
教材構造
① Addition of
force
Candidate 1
教材
Mg
・ ・・Candidate for Weak-Point-Strengthening Problem
図 5 教材構造の記述と扱い
[関 03]では,e-learning 環境での学習オブジェクトの適
応的な系列化を分散遺伝的 GA を用いて実現している.こ
-3-
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こでは,学習オブジェクトに付与されたメターデータをコ
ード化し,それに学習履歴情報を制約条件として付加する
ことにより,学習オブジェクト系列の動的な最適化を実現
している.
4. 学習過程のダイジェスト作成手法
e-learning では学習コンテンツや学習者情報,学習者履
歴 等 の 様 々 な 情 報 を 統 合 的 に 管 理 す る 機 構 LMS
(Learning Management System)がその中核となる.
本研究では,LMS の機能の一つである評価機構に焦点を
あて,新しい学習環境に対応した評価機構,特に学習プロ
セスの再現手法を提案する.本研究の目的は,学習者のハ
イパー空間内の探索によって得られた学習履歴情報に基づ
いて学習過程をそのダイジェストとして再現するシステム
を開発することにある.
[李 03]では,学習過程は学習者が辿ってきたノードをそ
の順番に系列化し,学習系列として表現する.ダイジェス
トとは「学習系列から学習の文脈に従い要点のみを抽出し
て構成される部分系列」と定義する.具体的には以下の 3
つの観点から,あるノードが必要であるかどうかを判断し,
ダイジェストを構成する.学習過程とそのダイジェストの
直感的なイメージを図 6 に示す.各ノードはその番号で表
示されている.
(観点 1)ノードの重要度:あるノードがハイパーメディ
ア教材の中でどんな役割を果たしているかを判断する指標
である.ノードに含まれているキーワードの数やリンクさ
れている別のノード(ページ)の数で評価する.
(観点 2)学習者のノードに対する学習状況:学習者がノ
ードに対して時間をかけて学習したか,かつ理解できたか
を判断する指標である.ノードに対する参照時間や問題に
対する解答で評価する.
(観点 3)学習者の学習形態:学習者の学習スタイルが反
映されているかを判断する指標である.学習者の属する学
習形態に基づいて評価する.
図 6 ダイジェストのイメージ
観点 3 における学習形態とは,学習者の学習スタイル,
すなわち文脈に基づいた学習順序の特徴などを意味ずる.
具体的には,学習系列のもつ特徴を意味する.本研究では
4 つの学習形態(発見的,逐次的,演繹的,帰納的)を定
義し,ダイジェスト作成の際の参照モデルとしている.
[李 03]でのダイジェストの作成は,学習系列から,要点
となるノードのみを抽出・組み合わせて部分系列を生成す
ることである.この際,ノード数は学習活動とともに逐次
的に増加する.また,その量が多いため可能な組合せの数
は莫大である.したがって,本研究ではダイジェストの作
成を組合せ最適化問題として定式化し,GA(遺伝的アル
ゴリズム)を適用する.そして,学習者の学習履歴情報に
基づき,ダイジェスト(部分系列)を出力する「ダイジェ
スト作成システム」を開発する.また,本システムはハイ
パーメディア教材の作成を支援する機能も実装している
5. おわりに
本稿では数理モデルに基づく学習課題系列化を系列化手
法および系列の扱いという観点から整理・分類を試みた.
また,各手法の概要と有効性に関して実例を通して述べた.
系列化手法は授業設計のみならず,教育システムにおける
適応性を実現する機能として重要な理論・技術である.数
理モデルによる手法は統計的手法を理論的基盤におくこと
が多く,普遍性の高い実装方法が期待される.数理モデル
に基づく手法は知識モデルに基づく手法と頻繁に対比され
る.双方の特徴,特性を明らかにし共通性,相補性を見出
すことが重要である.
参考文献
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