日本形成外科学会

形成外科 定期刊行誌
2015.4
11
[ topics ]
日本形成外科学会、日本創傷外科学会、
日本頭蓋顎顔面外科学会による
診療ガイドラインが刊行
[ ここに技あり ]
ケロイド手術および術後放射線治療の手技とポイント
[ 施設訪問 ]
独立行政法人労働者健康福祉機構 東京労災病院 傷のケアセンター(難治性創傷治療センター)
表紙の写真:噴水と虹
+ Topics
日本形成外科学会、
日本創傷外科学会、
日本頭蓋顎顔面外科学会による
診療ガイドラインが刊行
日本で初となる日本形成外科学会、日本創傷外科学会、日本頭蓋顎顔面
外科学会の三学会合同による診療ガイドラインが、2015年春に刊行され
る。ガイドライン作成委員長である清川兼輔先生に、ガイドラインの概要や
作成過程で苦労された点などについてお話いただいた。
(インタビュー:2015年1月19日)
久留米大学医学部形成外科・
顎顔面外科学講座 主任教授
清川 兼輔 先生
■ 三学会合同による診療ガイドライン策定
に至った経緯
皮膚科も関与しており、唇裂・口蓋裂には歯科も関わってい
ます。一般の方々はもとより他科の医師も、どの診療科で治
今回、日本形成外科学会、日本創傷外科学会、日本頭蓋顎
療するのかがわかりにくいのです。だからこそ、日本形成外科
顔面外科学会の三学会合同でガイドラインを策定するに至っ
学会が境界領域のガイドラインを明示する必要があるのです。
た背景として、いままで形成外科医の役割がはっきりと示さ
ただ、私としては、基本診療科の中で一番小さな規模であ
れていなかったということがあります。
る日本形成外科学会だからこそ、他の学会よりももっと大き
日本形成外科学会は、1958年に発足し、既に半世紀以上
なインパクトで存在意義を示すべきだと考えていましたので、
経過しているにもかかわらず、いまだに他科の医師から「形成
境界領域だけでなく、全領域を網羅したガイドラインにする
外科とは何をするのか?」と問われることがあります。それは
ことを提案しました。それには、日本創傷外科学会、日本頭蓋
一般の方々も同様で、どちらかといえば形成外科は、美容的
顎顔面外科学会の協力が不可欠です。また、三学会合同によ
な施術をするといったイメージが強いのです。しかし、形成外
るガイドラインのメリットは、全領域を網羅できることのほか
科とは身体に生じた組織の異常や変形、欠損あるいは整容的
に、日本創傷外科学会と日本頭蓋顎顔面外科学会の存在を広
な不満足に対して、あらゆる手法や特殊な技術を駆使し、機
く知ってもらえることなどがあります。こうして三学会が合同
能のみならず形態的にもより正常に美しくすることにより患
でガイドラインを作成することになりました。
者のQOL向上に貢献する外科系の専門領域であり、今後その
重要性は一層高まっていくものと自負しています。
■ ガイドライン作成の流れ
そこで、個々の形成外科医のスキルアップ、形成外科という
まず、日本形成外科学会、日本創傷外科学会、日本頭蓋顎
基本診療科の役割を果たすため、専門医制度の改善を図って
顔面外科学会のそれぞれでガイドライン作成委員会を立ち上
きました。そして、専門医も日本形成外科学会だけでなく、そ
げ、それらを統括する合同ガイドライン委員会を設けました。
のサブスペシャリティとして2段階の専門医制度を導入し、さ
ガイドラインの項目については、領域を分けた後にそれぞれ
らにガイドラインの作成を決定しました。
の学会のガイドライン委員会に分配し、次に全国から実際にガ
近年、各学会で診療に関するガイドラインの作成が行われ
イドラインを作成する人員を選出しました。選出にあたっては、
ています。日本形成外科学会においても、
「基本診療科として
全国の形成外科学教室の教授にお願いして専門医の先生方を
の存在を明示するためにガイドラインが必要である」との意
推薦していただき、人員を項目ごとに分配するとともにその中
見でまとまり、2008年に小林 誠一郎先生(岩手医科大学医
から統括責任者を選出しました。
学部形成外科 教授)を委員長としたガイドライン作成委員会
その先の実際の作業は、統括責任者が中心となります。ま
が発足し、その後私が引き継ぐこととなりました。
ず、クリニカル・クエスチョン(CQ)を作成し、そのCQに対し
策定にあたり、最初に行ったのが疾患の選定です。当初は、
てのエビデンスに基づいた文献検索、推奨度を検討します。
他科との境界領域に限定したガイドラインにしてはどうかと
それを、日本形成外科学会総会および関連学会で開催される
いう案もありました。というのも、形成外科が扱う疾患は他
ガイドラインシンポジウムで発表し、会場からの意見などを
科とオーバーラップするものが多く、たとえば、皮膚腫瘍には
ふまえて修正を加えます。その後、学会ホームページにガイド
ライン案を掲載し、会員からパブリックコメントを募集しま
ドラインですが、その作成過程で、われわれ形成外科医にとっ
す。最後は各学会の理事会を経て、ガイドラインの完成に至り
ても、何が標準的な治療であるかを考えさせられる有意義な
ます。
取り組みになったと思います。
今回予定しているガイドラインは、三学会合わせて7疾患
領域になります(表)。なお、褥瘡、熱傷、血管腫・血管奇形
■ 将来は国内で多施設共同研究を
に関するガイドラインは、それぞれ日本褥瘡学会、日本熱傷
ガイドライン作成を通じて、
日本形成外科学会としての新たな
学会、平成21∼23年度 厚生労働科学研究費補助金(難治
課題も見つかりました。ガイドライン作成を進めるうちに、
今後、
性疾患克服研究事業)
「難治性血管腫・血管奇形についての
国内で多施設共同研究を行い、
治療法等について再度検証すべ
調査研究班」
(佐々木班)が作成しているため、日本形成外
きではないかという声が上がりました。合同ガイドライン委員会
科学会としてはそれらのガイドラインに準ずることとし、作
は解散となりますが、
こうした貴重な意見を踏まえて、
学会として
成していません。なぜなら、それらの作成には多くの形成外
もぜひ多施設共同研究に取り組みたいと考えています。
科医が携わっているためです。
また、統括責任者の先生方をはじめ、作業に関わってくださっ
た先生方に横のつながりができたことは、
日本形成外科学会にと
■ ガイドライン作成で見えた今後の課題
って大きな財産となりました。日常診療が多忙な先生方にとっ
形成外科のガイドラインを作成する上で問題となったの
て、
遠方の先生方と情報交換したり一緒に作業をしたりするとい
が、推奨度の基準です。形成外科では、治療法や手技を客観
うことは、なかなかないものです。われわれのような小さな学
的に評価できる文献が少ないということもあり、エビデンス
会が発展していくには、先生方の団結力が大切です。こうし
レベルを巡って意見がまとまらない場合がいくつかありまし
た経験が、今後の学会発展のエネルギーになると期待してい
た。そうした場合は、外部からEBMの専門家を招き判定を委
ます。
ねました。また、エビデンスがほとんどないものの有用であ
なお、
ガイドラインは、
2015年の春から順次刊行していく予
ると、専門医の間で共通認識されている治療法、たとえば感
定です。
染創に対するデブリードマンなどの位置づけなどについて
最後に、
今回のガイドラインの作成に多大なご尽力を賜りまし
も、専門家の先生にご指導をいただきました。
た委員会の先生方、パブリックコメント等で貴重なご意見をい
形成外科がどのような疾患の治療を行っているかを、医療
ただいた先生方に、
この場をお借りしまして厚く御礼申し上げ
関係者の方々に広く理解していただくために取り組んだガイ
ます。
形成外科診療ガイドラインシリーズ
(全7巻構成)
1 皮膚疾患
5 頭蓋顎顔面疾患(主に後天性)
第Ⅰ編
皮膚軟部腫瘍診療ガイドライン
第Ⅰ編
顔面外傷診療ガイドライン
第Ⅱ編
母斑・色素性疾患(レーザー)診療ガイドライン
第Ⅱ編
顔面変形
(骨切り手術)
診療ガイドライン
2 急性創傷/瘢痕ケロイド
6 頭頸部・顔面疾患
第Ⅰ編
急性創傷診療ガイドライン
第Ⅰ編
頭頸部再建診療ガイドライン
第Ⅱ編
感染創診療ガイドライン
第Ⅱ編
顔面神経麻痺診療ガイドライン
第Ⅲ編
ケロイド・肥厚性瘢痕診療ガイドライン
第Ⅲ編
眼瞼下垂症診療ガイドライン
3 慢性創傷
7 体幹・四肢疾患
第Ⅰ編
第Ⅰ編
乳房再建診療ガイドライン
第Ⅱ編
腋臭症診療ガイドライン
漏斗胸診療ガイドライン
第Ⅱ編
口唇・顎・口蓋裂・その他の顔面先天異常診療ガイドライン 第Ⅲ編
第Ⅳ編
耳介先天異常診療ガイドライン
第Ⅲ編
眼瞼診療ガイドライン
第Ⅳ編
頭蓋
(骨)
縫合早期癒合症診療ガイドライン
慢性創傷診療ガイドライン
4 頭蓋顎顔面疾患(主に先天性)
第Ⅰ編
臍ヘルニア・突出症診療ガイドライン
第Ⅴ編
四肢先天異常診療ガイドライン
第Ⅵ編
四肢再建診療ガイドライン
第Ⅶ編
殿部・外陰部再建診療ガイドライン
各学会のホームページはこちらから
● 一般社団法人 日本形成外科学会
http://www.jsprs.or.jp/
● 一般社団法人 日本創傷外科学会
http://www.jsswc.or.jp/
● 一般社団法人 日本頭蓋顎顔面外科学会
http://www.jscmfs.org/
施設訪問
独立行政法人労働者健康福祉機構 東京労災病院 傷のケアセンター(難治性創傷治療センター)
チームアプローチを強化して足病変の早期治療に取り組む
●
効率性、スピード感をめざして
かつて、治らない傷、難治性の傷といえば褥瘡が代表的であった。
しかし、近年は高齢化、糖尿病患者の増
加などにより、下肢・足部潰瘍、足壊疽の重要性が増している。今日、わが国で行われている大腿部や膝下部
での下肢大切断の多くは、
この下肢・足部潰瘍、足壊疽の悪化によるものである。大切断は患者さんの著し
いQOLの低下を招き、心肺機能も悪化させるため、回避するのが望ましい。そこで、東京労災病院では、以
前から行ってきたフットケア・創傷ケアのノウハウを活かして、2014年7月に「傷のケアセンター(難治性創
傷治療センター)」を開設した。
「足壊疽の治療は、足の傷だけ治せばよいというものではなく、全身性疾患の一部としてチームアプロー
チで取り組む必要があります。
しかし、当院の以前のフットケア・創傷ケアでは、原則として、皮膚科、形成外
科、整形外科、循環器科等の個々の診療科で治療を行っていたため、効率性やスピード感が足りないという
センター長・形成外科部長
高見佳宏先生
問題点がありました。そこで、
これら4科による合同診療チームを編成し、外来初診からチームアプローチができるシステムが必要だと考
えました。それが、傷のケアセンターなのです」と、同センター長(形成外科部長)の高見佳宏先生は語る。
●
各診療科の枠を越えたプロトコールを作成
同センターの特筆すべき点は、各科の診療方針の違いを越えた、統一したプロトコールを初診時から用いていることである。初診から
治療までの流れは、図のとおりである。まず、地域の開業医や他施設から地域医療連携室を通じて予約が入る。そして、同センターにおけ
るプライマリーサーベイとして、創の肉眼的評価、X線評価、血流評価(触診、ABI:足関節上腕血圧比、
ドップラー血流計検査)、知覚評価
(Semmes-Weinsteinモノフィラメント検査)、内科的評価(一般血液化学的検査、糖尿病検査)でスクリーニングを行う。異常がみられ
る場合は、セカンダリーサーベイとして、必要に応じて、エコー検査、SPP(皮膚灌流圧)、CT/MRI、心肺評価を行う。セカンダリーサーベ
イからは中心4科のうち患者の状態に則した主科を決定し、専門治療を行っていくが、患者の状態は傷のケアセンターで共有している。ま
た、4科以外にも必要に応じて糖尿病・内分泌科やリハビリテーション科、
フットケア外来などと連携を取り合っている。
治療としては、厳重な全身管理のもと、重症下肢虚血(CLI)/閉塞性動脈硬化症(ASO)
には、血管内治療(EVT、経皮経管血管形成術:
PTA)を中心とした血行再建を、知覚神経障害には徹底した免荷を行い、潰瘍に対してはヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)製剤な
どを用いた適切な創治療を行う。なお、当センターでは、CLIは全体の58
%を占め、全例にEVTによる血行再建を行っている。
図 治療の流れ
難治性創傷・壊疽症例
紹介:地域医療連携室
重症の細菌感染例の治療プロトコールは、①感染創の開放、②創状態の
傷のケアセンター外来
改善、③創の閉鎖の3段階に分けている。段階的なプロトコールにすること
で、不要な下肢大切断を避けて、患肢を温存することができる。こうした集
学的治療の結果、同センターでの下肢大切断回避率は95%以上にのぼる。
プロトコール化のメリットについて高見先生は、
「チームの誰もが治療の
流れを理解でき、同じ目標に向かっていると認識できることが最大の利点
です。さらに、患者さんに対しても、治療スケジュールを説明できるという
メリットもあります」と話す。
●
地域の医療施設との連携を強めたい
同センターで扱うおもな疾患は、糖尿病、重症虚血、知覚神経症、膠原病
等を背景とした下肢・足部難治性潰瘍および壊疽、褥瘡、ガス壊疽・壊疽性
筋膜炎、間歇性跛行、外傷・術後の治らない傷などである。開設から現在ま
での患者は、平均年齢68歳、男性が75%を占める。糖尿病患者は56%、
維持人工腎臓透析患者は20%である。下肢・足部潰瘍および足壊疽の患
者は全体の3/4を占め、残りは外傷・術後、
ガス壊疽等の難治例である。
プライマリーサーベイ
形成外科、皮膚科、
循環器科、整形外科
退院:医療相談室
入院治療
外来治療
主科
セカンダリーサーベイ
治療
糖尿病・内分泌科
リハビリテーション科
腎臓代謝内科
フットケア外来
外科
前列左から、
高見佳宏先生
(傷
のケアセンター センター長・形
成外科部長)
、
宇都宮 誠先生
(循環器科副部長)
。後列左か
ら、
楠瀬浩一先生
(整形外科部
長・副院長)
、
林 健先生
(皮膚
科部長)
「今は週1、2人の患者さんが外来受診されていますが、センターの認知
度の高まりとともに、医療施設からの問い合わせが増えています。今後は、
院内だけでなく、地域の医療施設とのチームアプローチも強めて、足病変
の早期発見および治癒後の再発予防につなげたいと考えています」と、高
見先生は抱負を語った。
独立行政法人労働者健康福祉機構 東京労災病院
〒143-0013 東京都大田区大森南4-13-21
電話 03-3742-7301
ここに技あり
ケロイド手術および術後放射線治療の手技とポイント
日本医科大学形成外科 大学院教授 小川
令 先生
ケロイドの治療では、治療目標、ケロイドの部位、症状などによって治
療法を選択する。ここでは、ケロイド手術と術後の放射線照射による
集学的治療の手技と効果について解説する。
1. 放射線治療の進歩
てしまう。よって、真皮縫合をしっかり行う という考えから 真
皮に張力がかからずに自然にぴったり寄ってしまう状況をつく
形成外科の先輩方は、
「ケロイドは手術のみ行うと必ず再発
る という考え方にシフトする必要がある。張力の高い部位では
し、手術前よりも悪くなる、だから手を出してはいけない」とい
「真皮縫合=減張縫合」ではなく、真皮縫合は、
しっかりと皮膚に
う 医学の常識 に挑戦してきた。歴史的に軟X線(デルモパン)
対して減張縫合した後に行うものである。縫合後、表皮は7∼
が術後併用療法として幅広く用いられ、その後、軟X線に比べ
10日で治癒するが、真皮の強度は1ヵ月たっても50%に満た
て深部に影響を与えず、皮膚にのみ照射できる電子線(β線)
が
ないと言われ、適切な縫合に加え、術後しばらくの間は安静・固
一般的となった。その後さらに、凹凸や局面を有する部位には
定を要する。
小線源治療(γ線)がより優れていることがわかってきた。さら
さらに、皮膚が伸展される方向と切開線の方向との関係を常
にわれわれは、再発率の高い部位で線量を増加し、再発率の低
に考えねばならない。通常、ケロイドは伸展される方向に増大
い部位で線量を減少する、部位別照射プロトコルを作成し、で
する
(図2)。よって、その方向に生じる力を分散するためにZ形
きるかぎり副作用を減らすべく努力している。放射線治療も
成術などを行うとよいと考えている。すでに存在するケロイド
日々進歩しているため、形成外科医はさらに放射線腫瘍医と連
を切除する場合は、その切除デザインが限られる場合が多い
携して治療にあたる必要がある。
ので、Z形成術で適宜、張力を分断すると効果が高い。すなわ
2. 真皮縫合≠減張縫合
一方、形成外科的手技に関しては「真皮縫合で盛り上げるこ
ちケロイドの手術の2大ポイントは、①切除の方向と、②縫合の
深さ、
であると考えている。
とが大切」という 形成外科的常識 にわれわれは挑戦してき
3. 典型的部位の手術および術後放射線治療
た。というのは、ケロイド発生のメカニズムを考えた場合、ケロ
A. 耳垂ピアスケロイド
(図3)
イドは常に真皮から発生し、真皮に過剰な張力がかかることで
初発例では、多くの場合ケロイドを楔状切除し、単純に表面
炎症が遷延し、
ケロイドが生じると思われるからだ。真皮でぎゅ
縫合するだけで良い。再発例では適宜耳垂を再建する工夫を
っと皮膚を寄せれば、
ケロイド発生のリスクが上昇する。そのた
要する。術後は電子線を用い、10Gy/2分割/2日間あるいは
め、真皮縫合ではなく 創縁の真皮同士が自然に密着するよう
8Gyの1回照射を行っている。
な縫合 すなわち 浅筋膜や深筋膜など皮膚よりも深くの強固
B. 耳介軟骨部ピアスケロイド
な支持構造でしっかり創縁を合わせ、真皮縫合は創縁を寄せる
全切除は行わず、ケロイド上に皮弁を作成し、線維塊のみを
ためではなく、合わせるために最小限に行う という縫合法を行
切除し、単純に表面縫合する。基本は15Gy/3分割/3日間だ
ってきた
(図1)。
が、ケロイドが少し残存することを考慮した場合、15Gy/2分
従来、口唇裂の縫合の際も、筋層でしっかり創を寄せ、
さらに
割/2日間の電子線照射がよいようである。
真皮縫合で丁寧に創縁を合わせる、
という手技が行われてき
C. 下顎痤瘡後ケロイド
た。ただし、顔面においては前胸部や肩甲部ほどは強い緊張が
下顎下縁の方向に合わせて切除し、
どうしても下顎下縁の
生じないため、真皮縫合で丁寧に創縁を合わせるという縫合が
90度の方向になる場合は、下顎下縁に合わせてZ形成術を施
強調され、いつの間にか「真皮縫合=減張縫合」という図式が
行 する。照 射 の 基 本 は 2 0 G y / 4 分 割 / 4 日 間 で あるが 、
生まれてしまったように思う。
18Gy/3分割/3日間もしくは15Gy/2分割/2日間の密封小
しかし、前胸部や肩甲部では、
「 真皮縫合を丁寧に行えば良
線源による高線量率表在照射を行うこともある。
い」
と考え、皮下や筋膜の縫合をおろそかにすると、術後日常生
D. 前胸部正中切開後ケロイド
活における皮膚の張力で真皮が刺激され続け、炎症が遷延し
全切除し、大胸筋深筋膜下で剥離し、左右の深筋膜同士ある
いは深筋膜と胸骨膜をしっかりとポリジオキサノン糸にて縫合
F. 肩甲部痤瘡後ケロイド
し、創縁が自然に合った状態をつくり、
さらに浅筋膜、真皮、表面
肩甲部皮膚は腋窩の方向に向かって伸展されるため、水平
の計4層縫合を行っている。Z形成術は水平方向のケロイドを
方向に増大する。よって、前胸部痤瘡後ケロイドと同様に、水平
作ってしまう可能性があるため、たとえ創を分断する意味でも
方向の張力を分断するようにZ形成術を適宜入れる。術後照射
施行しないが、胸骨下縁のところで1ヵ所入れても良い。術後
は胸部と同様である。
照射は20Gy/4分割/4日間が基本で、18Gy/3分割/3日間
G. 腹部正中切開後ケロイド、恥骨上部ケロイド
(図5)
の密封小線源による高線量率表在照射を行うこともある。
腹部皮膚は腹直筋が垂直方向に伸展・収縮するため、前胸部
E. 前胸部痤瘡後ケロイド
(図4)
皮膚と90度異なる方向に張力がかかる。よって、適宜Z形成術
通常は水平方向に増大するため、水平方向に切除する。張力
を行い、張力を分断するとよい。整容的な点を考慮し、臍周囲
を分断するようにZ形成術を適宜入れると、術後炎症が軽減す
および恥骨上部の有毛部との境界部位にZ形成術を行うと結
るまでの期間が短縮する印象がある。あまりに巨大なものは、
果がよい。照射の基本は20Gy/4分割/4日間であるが、
局所皮弁を用いて再建することも可能である。照射は前胸部
18Gy/3分割/3日間もしくは15Gy/2分割/2日間の密封小
正中切開後ケロイドと同様である。
線源による高線量率表在照射を行うこともある。
図1 ケロイドの縫合法
図2 ケロイドの増大方向
皮下の脂肪層をつけてケ
ロイドを全摘する
筋と深 筋 膜の間を剥 離
する
深筋膜、浅筋膜をしっかり
寄せて、創縁が自然に密
着した状態をつくり、
その
後、真皮と表面
(表皮およ
び真皮浅層)
を縫合する
ケロイドがどの方向に伸展していくかは、皮膚の動きに連動
している筋肉の線維の方向を考える
(腹部=腹直筋、胸部
=大胸筋)
図4 前胸部痤瘡後ケロイド
(術後2年)
図3 耳垂ピアスケロイド
(術後1年半)
術後1年半
術後2年
図5 恥骨上部ケロイド
(術後1年半)
術後1年半
企画 科研製薬株式会社
発行 株式会社協和企画
2015年4月作成
FGF237-15D-07-KY1