JCSSの登録更新に係る不確かさの見積り

群馬県立産業技術センター研究報告(2014)
JCSSの登録更新に係る不確かさの見積り
増田直也
The estimation of uncertainty evaluation with registration renewed of JCSS
Naoya MASUDA
長さ校正業務担当者の変更によって、測定時の人的誤差が変化し、今までの不確かさが
使用できない恐れがある。このため、長さ測定に関する人的誤差について 調査を実施し、
不 確 か さ の 値 の 明 確 化 と JCSS登 録 値 の 修 正 の 要 否 の 確 認 を 行 う 。
キ ー ワ ー ド : JCSS、 不 確 か さ 、 最 高 測 定 能 力 、 密 着 誤 差 、 繰 り 返 し 誤 差
We have the potential of unusable uncertainty in the past that because of change
length calibration controller, to change the human error when we measure. For this
reason, we make sure of necessity for the modified JCSS registration value and the
clarification of uncertainty value, after we investigate the human error of length
measuring.
Keywords:JCSS(Japan Calibration service system ) ,Uncertainty, The best measuring
ability, Error of ringing,
1
repeatability error
はじめに
本センターは公設試唯一の長さ校正
( JCSS) 機 関 で あ り 、 校 正 値 の 信 頼 性 を
維持するために、校正技術の維持・管理が
重要となっている。校正の際には、測定値
の不確かさを評価することが重要であり、
その中には、人的誤差や計器誤差等が含ま
れる。中でも人的誤差については、組織変
更等に伴う校正業務担当者の変更により、
測定値のばらつきが変化し、今までの不確
かさの値が使用できなくなる恐れがある。
今年度、校正業務担当者の変更があった。
このため、本研究の目的として、長さ測定
に関する人的誤差について調査し、ブロッ
クゲージの校正(光波干渉測定)ならびに
ノギス、マイクロメータの不確かさの値の
明確化と修正要否を確認するものとする。
計測係
2
研究方法
2.1 研究内容
ブロックゲージ、ノギス、マイクロメー
タの不確かさの値を明確化するために、測
定時における密着誤差及び繰り返し誤差に
ついて評価を行った。前者については数種
類のブロックゲージを密着させた際の寸法
を光波干渉測定及びノギス・マイクロメー
タ を 用 い た 通 常 の 測 定 と い う 2種 類 の 測 定
を用いて行い、中央寸法との差から標準偏
差を求め、密着誤差としてデータを取得し
た。後者については同じ寸法のブロックゲ
ージを何回か測定し、中央寸法との差から
標準偏差を求め、繰り返し誤差としてデー
タを取得した。
2.2 使用機器
2.2.1 密着誤差取得に関する機器
光波干渉測定にて使用した機器は、ブロ
ッ ク ゲ ー ジ ( 15mm) 、 ベ ー ス プ レ ー ト 、
ブロックゲージ検査機である。一方、ノギ
ス・マイクロメータを用いた測定では、組
み 合 わ せ 寸 法 が 10mmに な る よ う な ブ ロ ッ
ク ゲ ー ジ の 組 み 合 わ せ ( 9通 り ) の も の を
使用した。
図1
ブロックゲージ検査機
表1 密着誤差取得のためのブロックゲ
ージ組み合わせ
1 4.5mm 5.5mm
2 4.0mm 6.0mm
3 3.5mm 6.5mm
4 3.0mm 7.0mm
5 2.5mm 7.5mm
6 2.0mm 8.0mm
7 1.5mm 8.5mm
8 1.0mm 9.0mm
9 0.5mm 9.5mm
2.2.2 繰り返し誤差取得に関する
機器
使用した機器を表2~表3にそれぞれ示
す。
表2 繰り返し誤差取得のために使用し
たノギス及びブロックゲージ
測定範
囲
( mm)
0-150
最小目
盛
( mm)
0.01
用いたブロック
ゲージ寸法
( mm)
20,50,75,150
デジタル
0-200
0-500
0.05
0.01
20,50,100,150
20,200,300,500
アナログ
デジタル
0-500
0.05
20,200,300,500
アナログ
備考
表3 繰り返し誤差取得のために使用し
たマイクロメータ及びブロックゲージ
測定範囲
( mm)
最小目盛
( mm)
0-25
0-25
25-50
25-50
50-75
75-100
0.001
0.001
0.001
0.001
0.001
0.001
用いたブロッ
クゲージ寸法
( mm)
5,15,25
5,15,25
25,32.7,50
25,32.7,50
50,62.9,75
75,85.3,100
備考
デジタル
アナログ
デジタル
アナログ
アナログ
アナログ
2.3 測定方法
2.3.1 光波干渉測定(密着誤差)
(1) ベ ー ス プ レ ー ト に 15mmの ブ ロ ッ ク
ゲージを密着させる。
(2) ブ ロ ッ ク ゲ ー ジ 検 査 機 を 用 い て 中 央
寸法を求める。
(3) (1)と (2)を 10回 繰 り 返 し 、 標 準 偏 差
を算出する。
2.3.2 ノギス・マイクロメータ測
定(密着誤差)
(1) 組 み 合 わ せ 寸 法 が 10mmと な る よ う
に 、 ブ ロ ッ ク ゲ ー ジ を 2枚 組 み 合 わ
せる
(2) 電 子 測 微 器 を 用 い て (1)の 中 央 寸 法
を求める。
(3) 呼 び 寸 法 と (2)の 寸 法 の 差 を 求 め 、
標準偏差を算出する。
2.3.3 ノギス・マイクロメータ測
定(繰り返し誤差)
(1) 指 定 の ブ ロ ッ ク ゲ ー ジ 寸 法 を 内 側 及
び 外 側 合 わ せ て 16回 繰 り 返 し 測 定 す
る。
(2) 呼 び 寸 法 と (1)で 得 ら れ た 寸 法 の 差
を求め、標準偏差を算出する。
3
結果及び考察
3.1 光波干渉測定の不確かさ
光波干渉測定において、測定時の様々な
不確かさの影響を表した図を図2に示す。
横軸は光波干渉測定における不確かさを要
因ごとに分けたものであり、縦軸は不確か
さの大きさをそれぞれ表している。測定結
果から、校正業務担当者の変更に伴う密着
の 不 確 か さ は 5.8nm、 最 高 測 定 能 力 に 換 算
す る と 0.037µmと な り 、 JCSS登 録 値 で あ
る 0.040µmよ り も 小 さ い こ と が 確 認 さ れ た 。
1mm
10mm
25mm
40mm
40mm
50mm
75mm
100mm
不確かさ(nm)
12
10
8
6
不確かさ(μ m)
このため、校正業務担当者の変更による現
在 の JCSS登 録 値 へ の 影 響 は な い こ と が わ
かった。
16.0
14.0
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
500A0.05mm
500D0.01mm
150D0.01mm
200A0.05mm
1
2
2
No.
不確かさの要因
0
1
読み取りの分解能
2
繰り返し性/ランダム効果
3
校正値の無補正
4
ブロックゲージの寸法の経年変化
5
リンギング(密着)の不確かさ
6
ブロックゲージ2枚使用
7
ねじの締め付け
8
ノギスとブロックゲージの温度差
9
ノ ギ ス の 温 度 と 20℃ か ら の 偏 差 値
4
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10111213 141516
不確かさの要因No.
図2
No.
不確かさの要因
1
レーザ光源の真空波長
2
干渉縞端数の読み取り
3
Edlénの 式 の 不 確 か さ
4
気圧の測定
5
気温の測定
6
水蒸気圧の測定
7
炭酸ガス濃度
8
ブロックゲージの熱膨張係数
9
ブロックゲージの温度測定
10
ピンホールの補正
11
光学系のアライメント
12
コリメータレンズの 焦 点 距 離
13
光学的な位相差の補正値
14
密着
15
器差補正
16
デジタルエラー
光波干渉測定における不確かさ
3.2 ノギスを用いた測定の不確かさ
ノギスを用いた測定において、測定時の
様々な不確かさの影響を表した図を図3に
示す。測定結果から、校正業務担当者の変
更に伴う繰り返し性の不確かさはデジタル
ノ ギ ス で 最 大 値 4.59µm、 密 着 の 不 確 か さ
は 0.04µmで あ り 、 最 高 測 定 能 力 に 換 算 す
る と 、 0.04mmと な り 、 JCSS登 録 値 の
0.05mmよ り も 小 さ い こ と が 確 認 さ れ た 。
このため、ノギス測定においても校正業務
担 当 者 の 変 更 に よ る 現 在 の JCSS登 録 値 へ
の影響はないことがわかった。
図3
かさ
3
4
5
6
7
不確かさの要因No.
8
9
ノギスを用いた測定における不確
3.3 マイクロメータを用いた測定の
不確かさ
マイクロメータを用いた測定において、
測定時の様々な不確かさの影響を表した図
を図4に示す。測定結果から、校正業務担
当者の変更に伴う繰り返し性の不確かさは、
測 定 範 囲 が 75~ 100mmの も の で 最 大 値
0.44µm、 密 着 の 不 確 か さ は 0.03µmで あ り 、
最 高 測 定 能 力 に 換 算 す る と 、 2.6µmと な り 、
JCSS登 録 値 の 3.1µmよ り も 小 さ い こ と が
確認された。このため、マイクロメータを
用いた測定においても校正業務担当者の変
更 に よ る 現 在 の JCSS登 録 値 へ の 影 響 は な
いことがわかった。
標準不確かさ(μ m)
0~25mm
25~50mm
50~75mm
75~100mm
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
1
2
3
4 5 6 7 8
不確かさの要因No.
No.
不確かさの要因
1
読み取りの分解能
2
繰り返し性/ランダム効果
3
基点設定の指示値
4
校正値の無補正
5
ブロックゲージの寸法の経年変化
6
基点設定のブロックゲージ長さ
7
リンギング(密着)の不確かさ
8
ブロックゲージ2枚使用
9
ノギスとブロックゲージの温度差
10
ノ ギ ス の 温 度 と 20℃ か ら の 偏 差 値
9
10
図4 マイクロメータを用いた測定おけ
る不確かさ
4
まとめ
校 正 業 務 担 当 者 の 変 更 に 伴 う JCSS登 録
値(最高測定能力)への影響について、人
的誤差の観点からブロックゲージ、ノギス、
マイクロメータの不確かさの値の調査を実
施し、現在の不確かさ値の明確化を行った。
その結果(表4参照)、全ての測定機器に
おいて現在の最高測定能力に影響がないこ
とを確認し、登録値の修正は必要ないこと
がわかった。
以上より、本研究の実施によって校正業
務担当者の変更に依らず、長さ校正の質は
維持されていることを確認した。
表 4 最 高 測 定 能 力 の JCSS登 録 値 と
評価値
測定機器
最高測定能力
(拡張不確かさ)
評価値
ブロックゲージ
ノギス
マイクロメータ
0.037
単位 備考
JCSS登録値
0.040 μm 100mm以下が対象
0.01
0.02 mm
最小目盛0.01 mmのとき
0.04
0.05 mm
最小目盛0.05 mmのとき
2.6
3.1 μm 100mm以下が対象
参考文献
1) 不 確 か さ 見 積 り 手 順 書 ( 光 波 干 渉
測 定 ) 、 第 12版 ( 2013)
2) 不 確 か さ 見 積 り 手 順 書 ( ノ ギ ス ) 、
第 6版 ( 2014)
3) 不 確 か さ 見 積 り 手 順 書 ( マ イ ク ロ
メ ー タ ) 、 第 6版 ( 2014)