No.34 「平準化なくして、かんばん成立せず」に惑わされるな! 補充時間 Tr の間の受注数量の平均 Dtr とその分散 Vdtr は次の式で表すことができます。 Dtr = Ntr ⋅ Q 式(34-1) 2 2 Vdtr = Q ⋅ Vn ( ti) + Ntr ⋅ Vq + Dtr ⋅ Ctr 2 式(34-2) ここで、 Q は数量/件の平均、Vq は数量/件の分散、 Ntr は受注件数の平均、Vn(ti)は受注 間隔 Ti の変動に起因する受注件数の分散、Ctr は Tr の変動係数です。 この式を使って、かんばん方式を分析してみたいと思います。かんばん方式については、 業界、学会等で、様々な研究がされているようです。関連する論文も数え切れないほどあ って、もう研究し尽くされているっていう感じですね。 かんばん方式(図 1 参照)は、原理は簡単なんですが、失敗例も多数報告されています。 うまくいかない原因のひとつが平準化できてないこと。かんばんの振れが 3%以内じゃない とダメ、とか言われています。3%の根拠ってどんなことかと、調べてみたんですが、納得 するような説明はみつかりませんでした。多分、論文の中にはあるんだろうと思いますが、、 、 図1 かんばん方式の概念図(出展;トヨタ自動車株式会社 Website) かんばんは、 「仕掛けかんばん」と「引き取りかんばん」があります。 「引き取りかんばん」 は運搬、「仕掛けかんばん」は生産ラインを経由して回りますが、原理はどちらも同じ。但 し、「仕掛けかんばん」は生産ラインの特性が影響しますので、かんばん枚数が多くなるん じゃないかと思います。 1/4 引き取りかんばんをイメージしてみましょう。かんばん枚数の計算式はつぎのようになっ ています。 かんばん枚数=(D x Lw + Is)/u 少数以下は整数に切り上げ ここで D;平均需要量 Lw;かんばんがはずされてから引き取りが完了するまでのリードタイム Is;安全在庫数量 U;パレット収容数量 具体的に数字を入れて確認してみましょうか。1 日の稼働時間は 8 時間とします。 D=48/日 Lw=2 時間(0.25 日) U=4 個 ここまではいいんですが、Is はどのようにして求めるんでしょうか? とりあえずゼロと しましょう。そうすると かんばん枚数=48x0.25/4=3 で、かんばん枚数は 3 枚。U=3 のときはかんばん枚数は 4 枚となります。まったく変動がな い場合はこれでいいのですが、現実はそうはいきません。 で、かんばん方式の安全在庫について考えてみたいと思います。使うのが冒頭に挙げた式 (34-1)と式(34-2)です。かんばん枚数の式の(D x Lw + Is)で、D x Lw の部分は Lw 間 の消費数量で式(34-1) 、Is の部分は消費数量のバラツキで、式(34-2)で表すことがで きると考えられます。その式を使ってみます。ここで、 Lw の平均を Lw 、その変動係数を Clw、 Lw 間の消費数量の平均を Dlw 、その分散を Vdlw、 部品の消費間隔(消費頻度)を Tcns、その変動係数を Ccns とします。 Dlw と Vdlw は式(34-1)と式(34-2)を変形して、次のようになります。 Dlw = Lw 式(34-3) Tcns 2 Vdlw = Dlw × Ccns 2 + Dlw × Clw 2 式(34-4) (ここでは Q が 1 となり、Vq は 0 ですので、式(34-2)の第二項はなくなります) Dlw の最大値は安全係数を標準偏差の 3 倍として、次の式で表すことができます。 Dlwの最大値=Dlw + 3 × Vdlw かんばん枚数は次のようになります。 2/4 かんばん枚数= Dlwの最大値 u を整数値に切り上げ 安全在庫を求めるためには、変動要因を確認する必要があります。式(34-4)でわかる通 り、消費間隔の変動(Ccns)と Lw の変動(Clw)の二つです。u=3 および u=4 の場合、 Clw=0 のままで、Ccns だけを 0~1 に振ってみました。そのときの必要なかんばん枚数が どうなるかを計算した結果を図 2 に示します。 後工程での部品を消費する時間間隔のバラツキ(Ccns)が大きくなると、必要なかんばん 枚数は増えていくことになります。Ccns が 1 では 0 のときと比べて、かんばん枚数は 2 倍 になります。 図 2 消費間隔の変動とかん 9 8 ばん枚数の関係 かんばん枚数 7 6 5 4 3 2 u=3 u=4 1 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 消費間隔の変動係数(Ccns) 今度は、Ccns=0 のままで、Clw だけを 0~1 に振って、必要なかんばん枚数がどうなるか を計算してみます。結果は図 3 のようになりました。こちらの方は、Clw に対して指数関 数的にかんばん枚数が増えていきます。Clw が 1 だと、0 のときと比べて、かんばん枚数は 13 倍になります。 60 かんばん枚数 図 3 u=3 u=4 50 枚数の関係 40 30 20 10 0 0 0.2 Lw の変動とかんばん 0.4 0.6 0.8 Lwの変動係数(Clw) 3/4 1 Ccns と Clw は独立と考えられますので、両者が重なれば、かんばん枚数も加算されること になります。 この二つグラフはかんばん方式の基本的な特性を表しているのではないかと思います。平 準化がかんばん方式成立の絶対条件となっているのはなぜか。推定される理由は、 9 バラツキが大きくなると、かんばん枚数が急に多くなり、仕掛が増え、その結果リー ドタイムが長くなったり、品種の切替に時間がかかるなどして、生産性が低下する。 9 バラツキが大きくなると、必要なかんばん枚数が急に増え、その結果かんばんが足り なくなり、回らなくなる。生産ラインは混乱し、工場の生産性を著しく低下させる。 このようなことに結びつくのは、かんばん枚数が指数関数的に増加する Lw のバラツキの影 響が大きいのではないかと考えられます。少しのバラツキでかんばん枚数が急激に増える。 かんばん枚数を増やさない(仕掛を増やさない)ためには、バラツキを極力少なくしなけ ればならない。そのためには平準化生産ができていなければならない。了解。 少し、視点を変えてみましょう。かんばん方式の特性を受け入れてみてはどうか。極端に 言えば、バラツキをありのままに受入れる、とどうなるか。後工程の消費間隔についてみ てみましょう。 消費間隔の変動が最大(変動係数が 1)となると、かんばん枚数は 2 倍になります。であれ ば、かんばん枚数を 2 倍にしておけば、後工程のバラツキを吸収できるのではないか。後 工程が不特定多数でも良し。複数の顧客からランダムに舞い込む注文でも、不特定多数の 客が来る小売店でも、あるいは、親会社からの発注がばらついて困ると嘆く下請けでも、 かんばん方式は使えるかも、、 、。 但し、仕掛けかんばんの場合、補充時間(Lw)のバラツキについては管理の仕組みを構築 する必要があると思います。かと言って、平準化が絶対条件ではありません。補充時間の バラツキをある範囲に抑えることで、指数関数的に増えるかんばん枚数を抑えることがで きます。(補充時間のバラツキを抑える方法については動的生産管理を参照下さい) かんばん方式はトヨタ生産方式と一体化して理解されていますが、在庫管理論的視点から みれば、極めて基本的でオーソドックスな方法です。ですから、あらゆる生産環境で、か んばん方式の原理は利用できます。平準化ができないために、かんばん方式をあきらめた 企業はたくさんあると思いますが、 「平準化なくして、かんばん成立せず」に惑わされては いけません。 出展;DPM研究舎 http://tocken.com 4/4
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