中部国際空港のアクセス考察

2015年2月13日
報道関係各位
株式会社共立総合研究所
(照会先) 調査部 主任研究員 中村 紘子
Tel:052‐564‐1520 (名古屋オフィス)
中部国際空港のアクセス考察
~高速道路の名古屋駅直結と 、あおなみ線延伸を考える~
大垣共立銀行グループのシンクタンク㈱共立総合研究所(大垣市郭町2‐25 取締役社長 森 秀嗣)は、今般標記についてのレポートをまとめましたので
ご案内申し上げます。なお、レポート全文は4月1日発刊予定の当研究所の
機関誌「レポート Vol.157」に掲載予定です。
資料配布:大垣市政経済記者クラブ、名古屋金融記者クラブ
要 旨
< 中部国際空港(セントレア)の現在 >
2005年2月に開港し、本年2月で10周年を迎えるが、国際線旅客便の運航は週299便(27都市、2015年1月)
と開港時(週267便)から大きく伸ばすには至っておらず、「国際拠点(ハブ)空港」の地位を十分に確立したと
は言い難い。
本稿での問題意識:国内外の航空需要を取り込んでいくには、国際線の誘致と併せて
空港までの「地上アクセスの拡充」が欠かせない
1.中部空港アクセスの現状
(1)「愛知・岐阜以遠」からの利用客獲得に苦戦
(2)高速道路より鉄道に依存
(3)便利だが代替のない鉄道アクセス
2.中部空港アクセス拡充への提案
(1)高速道路網を生かすアクセス体系への再編
→高速道路の名古屋駅直結の有効性
(2)鉄道アクセスの二重系化
→あおなみ線延伸の可能性
< 今後の展望 >
2027年:リニア中央新幹線開業=東京(品川)~名古屋が40分で結ばれる
→中部圏から首都圏への「ストロー現象」の懸念。逆にセントレアは首都圏から需要を吸い上げる
ことができるインフラ
・特に羽田空港~中部空港間の移動時間が短縮(90分圏内)、成田空港を含めた3空港で補完関係に
セントレアに「首都圏第3空港」の機能が加わる = 2本目滑走路実現への道が開ける?
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中部国際空港の現在
 中部国際空港(愛知県常滑市、愛称:セントレア)
 開港:2005年2月17日→本年(2015年)2月で開港10周年
 開港時に期待された機能
・旧名古屋空港(現・県営名古屋空港、愛知県豊山町)に代わる中部圏の新たな空の玄関
・成田国際空港、関西国際空港に次ぐ国内3番目の「国際拠点(ハブ)空港」
 国際線旅客便数の推移
・開港時は週267便。地元経済の好況で2007年夏ダイヤで週354便まで増加
→その後は景気後退や原油価格高騰で減便が相次ぐ
→直近(2014年冬ダイヤ)は週299便(2015年1月)まで回復。ただ、一部の格安航空会社(LCC)路線が
運休や就航延期を表明。週300便水準の安定確保に至らず
 中部国際空港の航空旅客数
1,010万人:2014年度見込み
(国際線450万人、国内線560万人)
→6年ぶりの1,000万人超えを目指すが、
福岡空港(1,929万人:2013年度)に及ばない
2020年の東京五輪・パラリンピック開催や世界的な
航空需要の増加予測に対して、国は首都圏空港
(主に羽田空港)の機能強化で応じる考え
こうした状況から、セントレアが国際ハブ空港の地位を
十分に確立したとは言い難い
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1.中部空港アクセスの現状
(1)「愛知・岐阜以遠」からの利用客獲得に苦戦
①中部空港から出国した日本人旅客は、中部5県で9割を超える 【図表1】
・しかし中部の中でも長野県は2.6% 静岡、三重両県も10%に満たない
・北陸は4県合わせても2.2%
※出所の「国際航空旅客動態調査」とは
→ 国土交通省航空局が、国内空港からの
出国旅客・トランジット旅客を対象に
毎年度実施している調査。
全国の国際定期便を就航している空港
(2012年度は30空港)で、日本人・外国
人の出国旅客及びトランジット旅客に
アンケート調査を行い、空港ごとの国際
航空旅客の特性を把握する。
アンケートはピーク時の8月とオフピーク
時の11月に実施し、集計結果をもとに
平日と休日、月ごとの利用状況の違いを
踏まえた年間値を算出する。
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②居住地別(都道府県別)に日本人旅客が「出国時に利用した空港」を見ると、
中部空港の利用率が8割を超えるのは愛知、岐阜の2県のみ 【図表2】
図表2 居住地別に見た出国者の利用空港割合
中部
関西
成田
岩手
3.2%
64.7%
宮城
1.1%
2.3%
63.4%
60.6%
東北地方 秋田
山形
0.6%
0.8%
60.9%
福島
75.1%
茨城
89.2%
栃木 0.1%
88.7%
群馬
1.0%
80.0%
埼玉
0.1%
0.7%
78.6%
関東地方
千葉
0.2%
0.2%
84.7%
東京
0.2%
1.0%
68.3%
神奈川
0.2%
0.7%
61.9%
山梨
0.4%
68.0%
長野
23.2%
0.8%
58.9%
岐阜
81.9%
5.0%
12.1%
29.3%
2.2%
42.5%
中部地方 静岡
愛知
83.1%
3.6%
11.4%
三重
66.0%
21.5%
11.1%
新潟
0.9%
0.1%
51.9%
富山
12.1%
15.4%
28.8%
北陸地方
石川
8.0%
16.8%
41.9%
福井
23.7%
51.9%
3.8%
滋賀
5.5%
88.4%
3.6%
京都
0.6%
82.7%
12.7%
大阪
0.2%
90.4%
6.8%
近畿地方
兵庫
0.3%
86.8%
9.1%
奈良
0.4%
93.1%
4.6%
和歌山
90.5%
9.0%
四国地方 徳島
79.5%
9.6%
羽田
8.8%
10.5%
14.5%
26.6%
14.5%
10.1%
10.6%
18.7%
20.0%
14.8%
29.8%
36.9%
31.1%
16.4%
0.8%
13.6%
1.5%
1.3%
10.4%
14.5%
8.4%
0.7%
1.9%
3.3%
2.1%
2.3%
1.7%
0.5%
3.7%
中部空港は、愛知・岐阜両県の
居住者の利用が集中する一方で、
「愛知・岐阜以遠」で中部空港に比
較的近い長野や北陸などの需要を
取り込み切れていない
出所:国土交通省「平成24年度国際航空旅客動態調査」より共立総合研究所にて作成
(注1)中部・北陸地方以外は、出国者の60%超が1か所の空港に集中している都府県
のみを抽出した。
(注2)空欄は0%。
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(2)高速道路より鉄道に依存
・中部空港から出国した日本人旅客の「最終アクセス交通手段」(自宅から空港まで
移動した際、最後に使った交通機関)について、他空港と比較する 【図表3】
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★図表3から見えてくる傾向
・中部空港は、名古屋鉄道(調査項目は「その他私鉄・地下鉄」)が4割強(42.5%)
・関西空港は、「空港直行・路線バス」が4割(40.8%)
・成田、羽田空港は分散型
さらに
・中部空港は「空港直行・路線バス」の割合がとりわけ低い(15.8%)。逆に「乗用車・
図表4 中部空港と関西空港の主な空港直行バス・ 路線バス
タクシー・ハイヤー」の割合は4空港で最も高
中部
関西
出発地
出発地
いが(33.8%)、「バス」と「乗用車・タクシー・
名古屋市内 名鉄BC(栄経由)
大阪市内 大阪駅前
藤が丘
近鉄上本町
ハイヤー」の割合の合計(=高速道路利用)
愛知県内
豊田市駅(2路線)
あべのハルカス
岡崎駅
なんば
知立駅
南港・天保山(海遊館)・USJ
は、周辺府県からの直行バス路線が充実し
南安城駅
大阪府内 大阪空港・蛍池駅
知多半田駅
阪急・JR茨木
ている関西空港【図表4】に及ばない
上野間駅
京阪守口
・茶屋町・新梅田シティ・千里中央
・心斎橋・OBP
三重
静岡
桑名駅
新正車庫(四日市市)
浜松駅
掛川IC
兵庫
京都
奈良
和歌山
四国地方
中国地方
愛知
計13路線
枚方市・京阪くずは
東大阪
堺東・中もず
泉北ニュータウン・河内長野
りんくうプレミアムアウトレット
神戸三宮・六甲アイランド
尼崎
西宮
姫路
京都駅
近鉄・JR奈良
近鉄学園前・学研都市
大和八木・桜井
和歌山
淡路・鳴門・徳島
高松
岡山
名古屋(名鉄BC)
計26路線
中部圏は高速道路網が比較的充実している
が、中部空港へのアクセスは、「高速道路」
よりもむしろ「鉄道」に依存しているところが
大きい
出所:中部空港、関西空港、関西空港交通、南海バス、「路線図ドットコム」ホームページより共立総合研究
所にて作成
(注1)2015年1月現在。(注2)空港発のみの路線は除く。
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(3)便利だが代替のない鉄道アクセス
• 名古屋鉄道の中部空港アクセス特急「ミュースカイ」は、他空港のアクセス特急と
比べて、所要時間や料金の面で比較的優位 【図表5】
• 一方、関西、成田、羽田空港は、鉄道会社が2社ずつ乗り入れ
→どちらかが鉄道事故などで運行できなくなっても、もう一方で都心からの鉄道
アクセスを確保可能。羽田空港ではさらなる都心アクセス改善策も
※JR東日本が2014年8月、東京駅・新宿駅・新木場駅を発着として羽田空港と結ぶ新線を開設する
「羽田空港アクセス線構想」を発表
中部空港アクセスは鉄道依存度が高いだけに、代替公共交通機関がないのは
「リスク」。国際空港と都心を結ぶアクセスの競争力確保の点からも物足りない
図表5 4 空港の鉄道アクセス特急(快特・快速)比較
鉄道会社
特急の名称など
区 間
中部
名鉄
ミュースカイ
名鉄名古屋~中部国際空港
関西
南海
ラピート
難波~関西空港
JR
はるか
天王寺~関西空港
新大阪~関西空港
京都~関西空港
成田
京成
スカイライナー
日暮里~成田空港
JR
成田エクスプレス
東京~成田空港
羽田
京急
エアポート快特
品川~羽田空港国際線ターミナル
東京モノレール 空港快速
浜松町~羽田空港国際線ビル
(乗り継ぎ) JR→京急
山手線など→エアポート快特 東京~羽田空港国際線ターミナル
(乗り継ぎ) JR→モノレール 山手線など→空港快速
東京~羽田空港国際線ビル
営業キロ
39.3㌔
42.8㌔
46.0㌔
60.5㌔
99.5㌔
62.0㌔
79.2㌔
12.5㌔
14.0㌔
19.3㌔
17.1㌔
所要時間
28分
35分
30分
48分
74分
38分
53分
11分
13分
約30分
約30分
料金
1230円
1430円
2230円
2850円
3370円
2470円
3020円
410円
490円
580円
650円
出所:各鉄道会社、「駅すぱあとワールド」ホームページより共立総合研究所にて作成
(注1)2015年1月現在。
(注2)所要時間は空港行き方面の平日ダイヤの最短時間。乗り継ぎのケースは乗り継ぎ時間を考慮した。
(注3)料金は運賃と指定席料金の合計額(京急、東京モノレールを除く)。運賃は切符使用の場合。はるか、成田エクスプレスは通常期料金。
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2.中部空港アクセス拡充への提案
・ 中部空港アクセスの課題
①高速道路網を生かし切れていないため、広域から空港利用客を取り込めていない
②鉄道1ルートへの依存度が高く、事故・災害時の備えや、訪日外国人の増加などを
見据えた多様なアクセス体系になっていない
そこで
(1)高速道路網を生かすアクセス体系への再編
: 高速道路の名古屋駅直結の有効性
・名古屋高速道路を名古屋駅に直結させて、名古屋駅(発着は名鉄バスセンター)
と全国の主要都市を結ぶ既存の「都市間高速バス」をより活用する
・・・現在は、高速出入り口と名鉄BCの間を10分程度かけて運行
→ 名古屋高速を走行するバスや車が、そのまま駅に乗り入れられるような構造
(ETC専用のスマートICの設置など)にすれば、空港アクセスの点からも利便性・
速達性が向上
→ 名駅(名鉄BC)~空港間の
図表6 名古屋駅~中部空港間の鉄道とバスのアクセス比較
鉄道:名鉄ミュースカイ
バス:セントレアリムジン
ノンストップバスの需要が
名鉄BC~栄~空港
区間
名鉄名古屋~空港
再び生まれる可能性
・名古屋高速「東新町」出入口経由
(セントレアリムジン【図表6】の
栄~空港間と同程度の時間で
空港へ行けるように)
所要時間
最短28 分
運行本数 上り31本、下り32本/日
料金
1230円
85分(名鉄BC~空港)
48 分(栄~空港)
4往復/日
1000円
出所:名古屋鉄道、名鉄バスホームページより共立総合研究所にて作成
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(2)鉄道アクセスの二重系化 : あおなみ線延伸の可能性
・「あおなみ線」(名古屋臨海高速鉄道)
→2004年開業:名古屋~金城ふ頭間、15.2キロ
各駅停車で約24分
<1990年代>
・金城ふ頭~中部空港間の約25キロを海底トンネルで
結ぶ構想を名古屋市、愛知県、経済団体などが検討
→空港アクセスが名鉄常滑線に決まり、具体化せず
<2003年度>
・名古屋市が独自に延伸案を検討
海底トンネルは約6キロ~名古屋港北浜ふ頭で
名古屋臨海鉄道(貨物線)に接続
~名鉄新舞子駅の手前で名鉄常滑線に乗り入れ
→事業費は約800億円と試算
図表7 あおなみ線「新舞子乗り入れ」案のイメージ
出所:名古屋市の構想より共立総合研究所にて作成
「新舞子乗り入れ」案はかなり現実的 【図表7】
・地上区間は既存の鉄道路線を利用 → 用地買収が少なくて済む
・新舞子~空港間(11.0キロ)は名鉄の線路等を共用。あおなみ線が名鉄側に
設備使用料を支払うことで、名鉄の経営に大きな損失を与えずに「共存」
・新舞子~空港間のうち6.0キロは高架化済み
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<「新舞子乗り入れ」案が具体化した場合>
・あおなみ線の名古屋~金城ふ頭~空港ルートは、名鉄名古屋~空港間とほぼ
同じ距離(約40キロ)
→空港行きは途中停車を2~3駅に絞り込んだ「特急タイプ」にすることで所要
時間を短縮
→空港からポートメッセなごや(名古屋市国際展示場)や、「リニア・鉄道館」
などへ行くのが便利に。観光や国際会議で中部空港を利用する訪日外国
人らの移動手段となるメリットに期待
<まとめ>
リニア中央新幹線開業に向けた名古屋駅再開発や、
リニア開業後の首都圏~中部圏の時間短縮効果を踏まえて
官民が連携して中部空港アクセスの再点検を
「首都圏第3空港」の機能につながるようなインフラ投資は無駄ではない
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