C -pharmacy-2 Challenge Cooperation Communication 地方独立行政法人 堺市立病院機構 堺市立総合医療センター 臨床実務能力を重視した薬剤師の育成 ∼レジデント制度・連携大学院制度による持続的な教育体制∼ 薬物療法の質向上に対する薬剤師の貢献が期待される中 で、臨床薬剤業務およびチーム医療の実務能力を備えた薬 剤師の育成と研修体制の確立が課題となっている。薬学6 年制により臨床教育の充実が図られる反面、薬剤師の卒後 臨床研修は、医師とは異なり公式には制度化されていない。 堺市立総合医療センター(大阪府堺市・487床)薬剤科は、 日常業務を通じた専門能力の養成に取り組むとともに、 2011年度の薬剤師レジデント制度に続き、2014年度には連 携大学院制度を導入し、独自の薬剤師臨床研修プログラム を構築した。実務能力と研究マインドを兼ね備えた“臨床に 強い”薬剤師の育成を目指す同院の取り組みを取材した。 薬剤・技術局局長兼薬剤科科長 近畿大学薬学部客員教授 薬剤科 主幹 石坂 敏彦 安井 友佳子 いし ざか とし ひこ 先生 やす い か こ 先生 臨床での実務能力や専門知識を磨いて 機感がありました。そこで全国的に高い いる。今後もチーム医療に立脚した多 評価を得ている当院の臨床研修医制度 2015年7月、旧堺市立病院は移転し 様なニーズに総合的に対応できるよう、 を参考に、臨床での実務能力を重視し 機能を大幅に拡充するとともに、 「堺市 各領域で複数の資格者を育成すること た独自のカリキュラムを構築すること 立総合医療センター」に改称して新た が目標だ。 で、継続的な人材確保を図るとともに、 な地域医療の総合拠点としてスタート 人材育成を統括・管理するのが、自身 薬剤科のレベルアップを目指しました」 を切った。最新鋭の設備・機能を備え、 も感染制御専門薬剤師、がん専門薬剤 と、安井先生は導入の経緯を振り返る。 救急医療、高度専門医療を担う基幹病 師など複数の専門資格を持つ安井先生 レジデントは2年間の研修期間中、 院である以上、教育研修体制の整備・ だ。 「ジェネラリストとして経験を十分 一通りの薬剤業務の他、研修医とのラ 強化が欠かせないと薬剤科長の石坂先 に積んだ後、専門分野に進むのが薬剤 ウンドや症例カンファレンス、病棟での 生は考えている。 「当院ではチーム医療 科の基本方針であり、当院では専門資 薬剤管理指導業務を通じて実務スキル の推進を念頭に、職員のスキルアップに 格の取得を推奨・支援しています。専門 を養う。さらに専門薬剤師の指導のも 対する支援が風土として根付いていま 資格は薬剤師として職能を高め、経験 とで全てのチーム医療を経験した後、専 すが、人材育成に予算措置が施され支 を重ねた証であり、自らの可能性を広げ 門分野の選択、学会発表を目指す(資 援体制が一層強化されました。薬剤科 るとともに、後進の指導にも生かしてほ 料2)。 「経験の浅い薬剤師にいきなり では年間約30の学会に参加し、発表も しいですね」 回診やカンファレンスは無理だという意 積極的に行っています」 同院は多くの分野の研修施設に認定 見もあるでしょうが、臨床での実践ほど 薬剤科は薬剤師31名に加え、レジデ されているため、勤務しながら専門資格 知識や技能が身に付くものはありませ ント1名(2年間)、近畿大学との協定に を取得することができる。毎年、求人枠 ん。医師、看護師からの質問に自分で よる連携大学院生1名(4年間)を毎年 を超える応募があるのも、この恵まれた 考えて回答を用意し、分からなければ調 受け入れている。薬剤師のうち約20名 研修環境が一因であることは確かだ。 べ指導薬剤師に質問する。この繰り返 しによって疾患や薬物療法の知識が揺 が何らかの専門資格を持ち、複数の資 は多岐にわたっている(資料1)。現在、 全病棟に専従薬剤師1名とその病棟に 必 要とされる専門性を持つ薬剤師を 薬剤師レジデント制度 研修医制度との連携による臨床研修 薬剤師レジデント制度を導入したの は2 011年で、全国で10 番目だった。 0.5名配置する他、10を数えるチーム医 「当時は薬学6年制移行に伴う新卒の 療にそれぞれ複数の薬剤師が参加し、 空白期間でもあり、薬剤師の確保に危 7 Pharma Scope Vol.22 キュラムの後、3年目からは臨床研究を の適正化に貢献するとともに、医師か ーは、他の薬剤師にも振り返りや確認 重点としたカリキュラムを履修する。その らの期待に応え得る臨床薬剤師の育成 の機会になるなど、レジデントの存在が ため連携病院には臨床薬学研究の体制 に取り組みます」と安井先生は抱負を 刺激となり、薬剤科全体の活性化につ が整備されていること、学位(博士)を 述べる。 ながっている。なお、レジデントは非常 持つ薬剤師が在籍していることが必要 臨床能力を重視した薬剤師の育成は 勤職員として所定の報酬が得られるた とされる。この条件を維持するために、 院内にとどまらず、地域へと広がってい め、経済的に安心して研修を受けること 現在、安井先生が学位取得と後進の育 る。石坂先生は「次の世代を担う薬剤 ができ、修了後には引き続き正規職員を 成に取り組んでいる。 「連携大学院制度 師の育成は地域全体の課題であり、そ 目指すケースも多い。 は、当院や薬剤科が培ってきた教育研 の仕組み作りに協力して取り組む必要 修文化が結実したもので、薬剤科が将来 があります」と言う。その一環で若手薬 さらに進化するための足掛かりとなるは 剤師の抗菌化学療法の基礎知識の向 ずです」と石坂先生。また、安井先生は、 上、専門資格取得の支援を目的として、 「臨床研究は論文を書いて博士号を得 2014年に「大阪抗菌薬倶楽部(大阪 ることが目的ではなく、患者さんの利益 ABC)」を立ち上げた。また、患者さん につながることではじめて価値を持ちま の治療や療養が入院から外来、在宅へ す」と強調し、臨床実務に基づいた研究 と移行しても薬局薬剤師が継続的に支 成果の発信を目指している。 援できるよう、専門薬剤師などがキーパ 連携大学院制度 臨床実務に基づいた研究活動 2014年度からは近畿大学との協定 による連携大学院制度を開始した。博 士課程(4年制)の大学院生が臨床で 研究活動を行い、学 位 取得(薬 学 博 士)を目指すこの制度は、理論的な研究 るぎない自分の財産となります」 (石坂 院の思惑が一致した新しい教育モデル として注目される。院内の薬剤師もこの 移転を機に基幹病院として大幅な機 制度により、勤務の傍ら学位を取得す 能充実が図られる中、薬剤科でも薬物 ることが可能となり、キャリアアップの 療法の安全性確保に向けて、重要な各 支援体制はさらに充実した。 種情報を処方せんに印字する調剤支援 大学院生は2年間のレジデント制カリ システムの導入やプレアボイド活動、積 還元される。また、研修の一環として行 さまざまな取り組み ◆資格一覧 認 定 組 織 資 格 人数 2名 指導薬剤師 2名 認定薬剤師 2名 がん指導薬剤師 3名 がん専門薬剤師 8名 生涯研修履修認定薬剤師 日本病院薬剤師会 2名 感染制御専門薬剤師 1名 がん薬物療法認定薬剤師 1名 H I V感染症薬物療法認定薬剤師 18名 日本薬剤師研修センター 研修認定薬剤師 4名 認定実務実習指導薬剤師 1名 日本医薬品情報学会 医薬品情報専門薬剤師 1名 日本腎臓病薬物治療学会 腎臓病薬物療法認定薬剤師 2名 日本化学療法学会 抗菌化学療法認定薬剤師 1名 日本緩和医療薬学会 緩和薬物療法認定薬剤師 1名 日本臨床救急医学会 救急認定薬剤師 4名 糖尿病療養指導士認定機構 糖尿病療養指導士 2名 日本静脈経腸栄養学会 NST専門療法士 1名 日本アンチドーピング機構 スポーツファーマシスト ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター(ICD) 1名 3名 日本癌治療学会 データマネージャー 1名 日本病院会 診療情報管理士 日本医療薬学会 を進めている。 「プレ アボイド報告は薬剤 師業務を評価する指 標として積極的に推 進しており、2014年 度は600件弱に達し 日本病院薬剤師会 薬学教育協議会 医薬品医療機器総合機構 施 設 認 定 認定薬剤師制度研修施設 がん専門薬剤師研修認定施設 薬物療法専門薬剤師制度研修事業研修施設 がん薬物療法認定薬剤師研修研修事業研修施設 H I V感染症薬物療法認定薬剤師養成研修研修施設 プレアボイド報告施設 薬学生実務実習受け入れ施設 医薬品副作用報告施設 「仕事の90%はコミュニケーションで 成り立っています。いくら知識があって も情報伝達能力や理解力・共感力がな ければ生かすことはできません。患者さ んのために何をすべきか、地域の薬剤 師や他職種と話し合い、連携しながら 地域医療に貢献したいと思います」と、 石坂先生は力強く言う。 1年後、5年後、10年後――。堺市立 総合医療センター薬剤科が、臨床能力 に裏付けられた患者貢献をどのような 形で実現するのか、期待を込めて見守り たい。 ました。今後は外来 も含めて、薬物療法 資料2 レジデントと連携大学院のカリキュラム 2年目 1年目 レジデント ジェネラリスト 研修 ◆認定施設一覧 認 定 組 織 日本医療薬学会 の薬薬連携が多角的に進んでいる。 極的な処方支援など 資料1 認定・専門資格取得状況一覧 分野の専門薬剤師にとって、レジデント の指導は結果として自らの学びとなって ぎながら勉強会を実施するなど、地域 次世代を担う薬剤師の育成は 地域全体で 先生) 指導薬剤師やがん、感染制御など各 ーソンとなり、医師、看護師の協力を仰 に臨床の視点を加えたい大学と、臨床 の業務を学究的な成果につなげたい病 ゆ ジェネラリストからスペシャリストへ 臨床薬剤師を育む環境を整備 格を持つ者も多い。またその専門領域 われる勉強会や医師によるミニレクチャ 臨床研修 専門分野研修 薬剤業務 調剤・製剤・医薬品管理・ 注射薬調製(がん化学療法・ 高カロリー輸液)・DI・ 当直業務 研修医との 全ての病棟での ラウンド (フィジカルアセスメント) 薬剤管理指導 医局カンファレンス 病棟カンファレンス への参加 症例カンファレンス、 TDM業務 各専門薬 すべての 専門分野の 剤師による チーム医療 選択・学会 教育 に参加 発表 (基礎編) (応用編) 3年目 4年目 連携大学院 薬剤業務 病棟薬剤業務 薬剤管理指導業務 症例カンファレンス、TDM業務 専門分野の臨床研究 論文作成 博士号の取得 Pharma Scope Vol.22 8
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