第65回税理士試験法人税法講評

第65回税理士試験法人税法講評
1 総評
今年の本試験は試験委員の先生の2年目の出題という事で、①昨年度の出題傾向を今年度も踏襲する
のかどうか、②それともやや傾向を変えての出題となるのか、に注目をしていた。その前の試験委員の
先生が基本 1 年目の出題傾向を 3 年間継続したことから現試験委員の先生は、昨年度の出題傾向を踏襲
しつつ、やや軌道を修正してくるのでは?とある程度予測はしていたが、蓋を開けての第一印象は上記
①、②のいずれでもなく、理論・計算共にかなり出題傾向が代わり、少なくとも昨年度の本試験よりは
解きやすいとの印象を持った。
1.理論
まず理論については、
イ.問題の枚数が3枚と少なくなった。
(昨年度は5枚)
ロ.理論は3問での出題となった。
ハ.答案用紙の枚数は3枚とかなり少なくなった。
(昨年度は7枚!)
ニ.問題文も昨年度のような長文・難解でなく、計算問題に近いような形での出題となった。
2.計算
次に計算については、
イ.理論同様に問題の枚数が6枚と少なくなった。
(昨年度は10枚)
ロ.理論同様に答案用紙の枚数も7枚とこちらも少なくなった。
(昨年度は9枚)
ハ.問題についても昨年度や前の試験委員の先生とは異なり、オーソドックスな形での出題と言える。
2 理論 [第一問]
問1
役員の範囲及び役員給与からの出題である。
(1)の使用人兼務役員の意義については、完答が求めら
れる。
(2)については、同族会社の判定をする際に、まず自己株式 2,000 株を発行済み株式数から除く
事に加え、第二順位の株主グループとして㈱丙をカウントできたかどうかがポイントとなる。同族会社
の判定をミスさえしなければ、使用人兼務役員の○×判定、及びその法的理由はさほど難しくない。
(3)については、別解の余地がある。特にBについては判断が難しいので、こちらは正答できなくと
も合否には影響はないであろう。但し、Dについては簡単なので、ここはしっかり確保しておきたい。
(参考)
問 14 役員の意義(理論重要度ランキングAA)
問 15 役員給与(理論重要度ランキングAA)
問 34 同族会社(理論重要度ランキングAA)
問2
資産等に係る調整勘定からの出題である。理論重要度ランキングとしてはDランクにあり、これを暗
記して本試験に臨んだ受講生諸兄はほとんどいないはずである。但し、
(1)の事業譲渡に係る甲社の税
務仕訳は問題文をしっかり読めば十分に解答可能である。
(2)の論述については多くの受験生がきっち
り書けていると言えないので、
「取崩し」というキーワードから取崩額がそれぞれ損金算入、益金算入さ
れると触れられれば十分及第点と予測される。
(参考)
問 71 資産等に係る調整勘定(理論重要度ランキングD)
問3
新株予約権からの出題である。
(1)については理論問題集問 10 の理論のうち、4.手続規定を除いた
1.から3.までの部分をそのまま書けばよいので、完答が求められる。
(2)については、権利行使を
行った前提で、処理が複数ある場合を求めているので、給与等課税事由が生じた場合と生じない場合の
2つに分けて書くことになる(新株予約権が消滅した場合は権利行使期間中に権利行使がなく、権利が
失効したケースとなる)
。給与等課税事由が生じた場合と生じない場合のいずれにおいても、権利行使に
基づく払込みにより資本金等の額の増加があるため、こちらは是非とっておきたい。2行目の前払費用
から役員給与又はその他流出への振替は正答できなくとも合否には影響はないであろう。
(参考)
問 10 新株予約権の費用(理論重要度ランキングA)
3 計算 [第二問]
まず、問題を解く上で、甲社が非中小法人である事に気づけたかどうかが大きなポイントとなる。問
題文のD5で、株主は株式会社Aと株式会社Bの2社であるが、株式会社Aは資本金7億円の大法人で
あり、もう一方の株式会社Cは株式会社Aの完全子会社であることから、甲社は直接及び間接に株式会
社Aにその株式の全てを所有されていることになる。甲社が中小法人ではない事で影響がでる箇所とし
ては、欠損金の繰越控除、交際費等の定額控除限度額、軽減税率の不適用がある。
(問1)
前期分の修正申告に係る問題である。特に難解な箇所はないので、こちらの問題は完答が求められる。
なお、ソフトウエアについての償却率が問題文にないが、定額法なのでここは「0.200」として解答す
る。
(問2)
1 欠損金の繰越控除
ポイントは次の 2 点である。
①平成 20 年 3 月期の控除未済欠損金額の 235,000,000 円が期限切れで控除不可であること。
(∵ 平成 20 年 3 月期までは繰越期間は 7 年間であるため)
②当期(平成 28 年 3 月期)から中小法人以外の欠損金の控除限度額は所得の 65%であること。
2 交際費等
支出交際費等の金額の算定が難問。特にゴルフのキャンセル料や接待用のモーターボートの維持管理
費用。ゆえに、こちらは正答できなくとも合否には影響はないであろう。
3 減価償却費
リース期間(3年)がリース資産の耐用年数(6年)に比し、相当短く所有権移転リースの適用も考
えられるが、問題文では「所有権移転外リースに該当する」とあるので、ここは問題文に従い、所有権
移転外リースに該当するものとしてリース期間定額法で解答する。
4 受取配当等
まず、法人が剰余金の配当を収受するに当たって、現行制度上、住民税が徴収されることはない。
(個
人については適用がある。
)可能性としては、個人名義の株式であるが実質的に法人が所有しているケー
スなども想定されるが、徴収された住民税は利子割とは異なるため、解答欄の「損金経理をした道府県
民税利子割」の箇所に解答をするのは正しくないものと思われる。
但し、受取配当等の益金不算入額の計算そのものは、控除負債利子の計算含め、さほど難しくはなく、
十分に完答が可能であるので、こちらは是非とっておきたいところである。
5 税効果会計
繰延税金資産が前期に比較して 43,180 円、減少しているので
(借)法人税等調整額 43,180 (貸)繰延税金資産 43,180
の仕訳から差額を加算調整する。
6 所得拡大促進税制
非常に難問である。こちらは全部解答できなくとも、合否には影響はないものと思われる。
(その分、
他の問題の解答の精度が上がっていることを前提として)
7 控除対象外消費税
こちらは十分解答可能である。
8 租税公課
概ね基礎期レベルの出題であるが、納税充当金の取崩しの箇所がやや難問。
こちらは、
(借)納税充当金 16,000,000 (貸)納税充当金戻入 16,000,000
(益金不算入)
(借)法人税・住民税 13,212,400 (貸)現金預金 17,106,700
(損金不算入)
事業税
3,894,300
と考えれば、納税充当金支出事業税等の額は、テキストの公式通り、納税充当金の会社取崩額(益金
不算入)から法人税と住民税の本税の合計額(損金不算入)を控除することで計算できる。
第一問の合格ライン
問1
●ボーダーライン:30 点以上
(配点の横に○の付く箇所全て)
●合格ライン:34 点以上
ボーダーライン 30 点+4点
問1(2)②の損金不算入額とその理由
問2(2)の取崩額の損金算入と益金算入について触れている。
問2
●ボーダーライン:30 点以上
(配点の横に○の付く箇所全て)
●合格ライン:34 点以上
ボーダーライン 30 点+4点
税効果、受配その他
全体のボーダーラインと合格確実点
ボーダーラインは理論計算合計で 58~60 点、合格確実点は 65~68 点とみる。