ME機器の安全性 電気編(全6回)

ME機器の安全性
電気編
第1回
一般家電製品とME機器の違い〜その1〜
はじめに
感電を防止するためには
電気製品の事故で最も注意しなければいけないの
は感電です。一般家電製品はもちろんのこと、ME
機器においても感電しないための対策が施されてい
ます。今回から、ME機器特有の電気的安全対策
について紹介していきます。
第1回では一般家電製品の安全対策について解説
します。
漏電した電気製品に触ったとしても、電気が人よ
アース
端子
りももっと流れやすい方に流れれば、人を守ること
ができます。その方法がアース
です。一般家
漏電(接地)
アース
電製品では、洗濯機、エアコン、電子レンジなど、
湿気が多い場所で使用する機器にはアースが取り
モーター
アースから
付けられています。
コンセント
大地に流れる
感電
漏電と感電
漏電
電気製品の電源部分は絶縁されて
おり、ケース(電気製品の外側)に電
気が流れることはありません。しかし、
経年劣化などで絶縁が破壊されると、
ケースに電気が漏れることがあります。
これを漏電といいます。
人は安全
漏電
モーター
人の身体を伝わって
大地に流れる
コンセント
感電
身体に電気が流れて、電撃(電気
ショック)を受け、
「ビリビリ」と感じ
るときがあります。これを感電といい
ます。漏電した機器に触ったときなど
に感電します。
アース
端子
漏電
アース
アースから
大地に流れる
モーター
人は安全
感電
感電による被害
一般家電製品とME機器の違い
感電したときには、電流の大きさや身体のどこを
流れたかによって、被害の大きさが異なります。商
用交流
(壁のコンセントの100V)の場合、身体の表
面に100mA以上が流れた場合、心臓に直接100μ
Aが流れた場合は、死亡に至ると言われています。
また、身体に長時間電流が流れると、皮膚が炎症
を起こしてやけどのようになります。したがって、電
気製品で感電しないためには、対策が必要です。
感電しても、健康であれば、反射的に、または
意識的に離れることができ、危険を回避できます。
漏電
しかし、ME機器を使用している方は、体調が悪かっ
たり、手術で麻酔がかかっていて、身体をうまく動
人の身体を伝わって
かすことができず、感電しても逃げることができませ
モーター
大地に流れる
ん。したがって、ME機器は、一般家電製品よりも
感電に対して安全対策が必要になります。次回から
は、ME機器特有の電気的安全対策について詳しく
紹介します。
1
ME機器の安全性
電気編
第2回
一般家電製品とME機器の違い〜その2〜
前回は、一般家電製品での感電を防止するためには、電気製品のアース
(接地)が重要
であることを説明しました。今回は、ME機器の感電防止対策について説明します。
ME機器で使用する電源コード
ME機器ではアース線が一緒になった電源コード
(“保護接地線付き電源コード”
と呼ぶ)
を使用します。
保護接地線付き電源コードの端子は、3つの端子を
もつことから“3Pプラグ”
とも呼ばれます。
そこで、電源コードを挿すだけで常に接地される、
このコードが有用になります。
3Pプラグは、保護接地端子(アー
ス線の端子)が、3mm以上長くなっ
コンセント
電源の絶縁が劣化
ています。これは、電源よりも先に、
アースが接続され、感電防止策が先
3P プラグ
に行われるようになっているからです。
豆知識
アース
このコードを使用することにより、万が一漏電が
あっても、3Pプラグのアース線から電気が流れ、患
者さんや操作をしている看護師さんを、感電から守
ることができます。
コンセント
3P-2P変換プラグ(アダプタ)
電源の絶縁が劣化
3P-2P変換プラグを使用すると、アースがとぎ
れた状態となり、本来の機能を果たすことができま
せん。 したがって、3P-2P変換プラグは使用せず、
3Pコンセントに正しく接続し、患者さんや操作をす
る看護師さんを感電から守りましょう。
3P プラグ
アース
3P コンセントのアースから
大地に流れる
人は安全
一般家電製品
(特に、洗濯機、冷蔵庫、電子レン
ジなど)は、購入して設置したら、その設置場所か
ら動かすことはほとんどなく、いつも同じ場所で使
用します。したがって、電源コードとアース線が別に
なっていても、設置時にアース線をきちんと接続す
れば感電対策は可能です。
しかし、ME機器は、病棟や病室を移動して使用
することも多く、電源コードとアース線が別々になっ
ていると、使用場所を変更するたびにアース線を接
続しなくてはいけません。
コンセント
2
3P
プラグ
2P 変換
プラグ
人は安全
3P コンセントのアースから
大地に流れる
保護接地端子
接地刃は電源供給の刃より3mm以上長いこと
電源の
絶縁が劣化
感電
コンセント
3P
プラグ
2P 変換
プラグ
電源の
絶縁が劣化
感電
アースは
とぎれてしまう
アース
アースの機能を果たすことが
できず、感電する
ME機器の安全性
電気編
壁コンセント
第3回
〜その3〜
一般家電製品とME機器の違い
感電
電源コネクタ
第1回と第2回目では、感電防止対策として、電源側(主にアースの重要性)について
説明しました。今回は、患者さん側での感電対策について説明します。
壁コンセント
電極リード線
電源コネクタ
感電の事故事例
1990年頃、ドイツのある病院で心電図をモニタし
ていました。測定が終わり、ME機器から電極リード
線は外されましたが、その電極リード線は患者さんの
身体に着けられたままでした。そこに、他の人が病
室に入ってきて「ケーブルが外れている」と思い、そ
の電極リード線の先端
(チップ)
を、あわてて電源コー
ドのコネクタに挿してしまいました。患者さんは感電
しましたが、救命処置
(除細動)
により助かりました。
感電
このような安全対策により、ME機器で使用する
電極リード線の先端を、間違って、
電極リード線の先端は金属部が露出しない構造とな
電源コネクタに挿してしまった
り、
患者さんを感電から守ることが可能になりました。
電極リード線
電極リード線の先端を、間違って、
電源コネクタに挿してしまった
金属部が露出している
壁コンセント
電源コネクタ
感電
従来品
(
“MEチップ”
、
“PINタイプ”
、
“オスタイプ”など)
電極リード線
電極リード線の先端を、間違って、
電源コネクタに挿してしまった
プラスティックに覆われているので
金属部は露出していない
安全対策
上記での問題は、電極リード線の先端を、電源
コードのコネクタに挿してしまったことです。このよ
うな事故を防止するには、フールプルーフ設計とし、
操作を間違ったとしても危険な状態にならないこと
が必要です。具体的には、電極リード線の先端を電
源コードのコネクタに「挿し込むことができない構
造」、または「挿し込んだとしても、電気的に安全な
構造」にすることです。
このような事故報告をうけ、ME機器の安全規格
IEC60601-1では、次のような安全要求事項を定め
ました。
「患者から離れた側の接続器の導電接続する部分
が、大地または危険性がある電圧に接続できないよ
うな構造とする。」
IEC規格に基づいた製品
(
“DINタイプ”
、
“メスタイプ”など)
IEC60601-1とは?
IECとはInternational Electrotechnical
Commissionの略で国際電 気標準化会議と呼
ばれています。IEC60601-1は 医 用 電 気 機 器
の安 全に関する一 般的要求事項を定めた規格
です。
3
ME機器の安全性
電気編
第4回
一般家電製品とME機器の違い〜その4〜
医療現場では、薬液や血液などの液体がME機器にかかってしまうことや、救急現場のよう
な屋外で雨や埃のなかで使用することが想定されます。このような過酷な状態で使用する
ME機器にはどのような対策が施されているのでしょうか?
一般家電製品の事故事例
具体的な数字と、保護の程度の関係は次のよう
になっています。
携帯電話やデジタルカメラを水のなかに落とした
ことはありませんか?このようなことが起きた場
合、機器が動かなくなり、新しい携帯電話やデジタ
ルカメラに交換することになります。携帯電話やデ
ジタルカメラのデータが無くなってしまうのは悲し
いですが、使用者が死亡するような事故につながる
ことはほとんどありません。
一方、ME機器、例えば生命維持装置に水がかか
り、その生命維持装置が動かなくなったらどうなる
でしょうか? 患者さんは死亡してしまいます。
ME機器における水や粉塵への対策
事故を防ぐためには、水や粉塵があってもME機
器が安全に動作するための対策が求められます。
IEC60601-1医用電気機器の安全通則
(第3回参
照)
では、ME機器の“水または粉塵に対する保護
の程度”を定め、
『IPXX』で表記することにしてい
ます。
『IPXX』と書いて『アイ・ピー・エックス』
と読みます。
この2つの『X』のところに、粉塵に対する保護
がどれくらいあるのか、また水に対する保護がどれ
くらいあるのかを『数字』で記載します。
まめ
知識
I PXX
粉塵に対する保護
1
製品上部から垂直滴下す
直径50mm以上の大きさ
1
る水に対する保護
に対する保護
直径12.5mm以上の大き
製品を15°傾けた状態で、
さに対する保護
2 製品上部から垂直滴下す
る水に対する保護
直径2.5mm以上の大きさ
3
に対する保護
製品上部から噴霧する水
3
に対する保護
直径1.0mm以上の大きさ
4
に対する保護
あらゆる方向からの水の
2
4
飛まつに対する保護
粉塵が入っても動作およ
5 び安全性を損なわないよ
あらゆる方向からの噴流
5
うに保護
水に対する保護
6
あらゆる方向からの強力
粉塵が入らないように
6
な噴流水に対する保護
保護
7
一時的に水に浸かっても
保護する
8
連続的に水に浸かっても
保護する
AED-2100は屋外での使用が想定さ
れることから、
『IP55』すなわち「粉
塵が入ったとしても所定の動作および
安全性を損なわないような保護、 あら
ゆる方向からの噴流水に対する保護」
の設計対策が施されています。
自動体外式除細動器
AED-2100 カルジオライフ
4
水に対する保護
ME機器の安全性
電気編
第5回
病院内での電気安全
これまで、ME機器の電気安全について、アースの重要性、3Pプラグなどを解説しました。
今回は、ME機器を使用する病院では、どのような安全対策が必要なのかを解説します。
ME機器を正しく使用するためには、病院の電
気設備においても、いくつか対応が必 要です。
JIST1022「病院電 気設備の安全基 準」では、
ME機器を正しく使用するために、病院側の電気
設備で必要な項目が決められています。いくつかご
紹介します。
医用接地方式(図1参照)
JIST1022では、医用接地方式として、次の2つ
の方式が定められています。
上の階へ至る
接地幹線(建物の鉄骨または鉄筋を利用する)
病院電気設備の安全基準
接地幹線(横引きした接地幹線)
医用接地センタ
接地分岐線
接地分岐線
水道管
接地
分岐線
水栓
洗面器
医用接地
センタ
等電位
接地点
医用コンセント
医用接地端子
医用コンセント
医用接地端子
医用室
医用室
プルボックス
①保護接地
ME機 器は保 護 接 地 端 子
を持ったプラグ(3Pプラグ)
が使用されます。したがって、
そのME機器を使用する病院
では、3Pプラグが使 用でき
るように、3Pコンセントを備
える必要があります。
電 位 差が生じると、人間
には電気が流れます(第1回
参照)。したがって、患者さ
んが触れる可能性のあるすべ
②等電位接地
ての金属表面間の電位差を、
ある一定レベルに抑える必要
があります。これを等電位化
接地と呼んでいます。
特に、心臓に直接触れる可能性のある部屋(手
術室、ICU、CCU、心臓カテーテル検査室など)
では、等電位接地設備を設ける必要があります。
ME機器の等電位化
このように等電位接地が必要な部屋ではME機
器も等電位化が必要です。その場合は、ME機器
の等電位化端子(写真1 の端子)にアース線を接
続します。
医用接地
センタ
据置形 X 線装置
据置形 X 線装置
医用室
接地極
図1 医用接地方式の概念図
(JIST1022)
等電位化端子
写真1
ME機器の等電位化端子
病院電気設備の安全点検
ME機器を安全に使用するためには、ME機器
の定期点検が必要です。それと同じように、病院
電気設備も定期点検が必要です。一般的な電気
設備点検(電力会社や電気設備会社の点検)のほ
かに、JIST1022に基づいた点検項目も必要です。
5
ME機器の安全性
電気編
第6回(最終回)
ITネットワークとME機器の電気安全
医療機器とITネットワーク
ITネットワークにおける電気安全
現在の医療はIT化が進み、医療機器は院内ネッ
トワークに接続され、検査室での検査データは医
療情報ネットワークに送られて、外来診察室で診
察時に閲覧することも可能になりました。また、
電子カルテや、院内基幹システムとの連携も行わ
れるようになりました
(システム編参照)。
ME機 器のシステム安全 規格(IEC60601-1-1)
では、ME機器をネットワーク接続する場合の対策
について、それぞれの部屋の状況を場合分けし、
対策が決められています。当社製品の取扱説明書
の巻末では、システム安全規格に基づいたITネッ
トワークへの対応方法を説明していますので、参
考にしてください。
ITネットワークにおける感電
ME機器を何台も接続すると、機器間に電位差が
生じて電気が流れるということは前回説明しました。
これと同じことがME機器とIT機器の間でも起こ
ります。ME機器とIT機器の間に生じた電位差が、
ITネットワーク(LANケーブルなど)を経由してME
機器に流れ、患者さんに流れる可能性があります。
したがって、ME機器を何台も接続するときと同
じように、ME機器とIT機器を接続するときも、等
電位化すればよいということになります。しかし、
ME機器とIT機器の接続でやっかいなのは、ME
機器に接続されたLANケーブルの先にあるIT機器
がME機器の部屋から離れた部屋に設置されてい
ることです。このような場合は、同一のアース端
子に等電位接続することは難しくなります。では、
どうやって電気的な安全を確保するのでしょうか?
LAN
感電
患者さんがME機器を使用中に、
ネットワークコネクタを挿すと感電することがあります。
6
ネットワーク分離装置
このシステム安全規格で求められている対策方
法のひとつに、
“ネットワーク分離装置”があります。
これは、LANケーブルの間に取り付け、電気は流
れませんが通信は可能という機能をもっています。
ME機器とITネットワークを接続するときは、この
ネットワーク分離装置を使用することで、電気的
安全を確保することができます。
ネットワーク分離装置 HIT-100
まとめ
最近は、ME機器のIT化が進み、電気安全の考
え方も少しずつ変わってきていますが、電気安全の
基本は人体に流れ込む電気のルートを作らないこ
とです。
6回の連載でご紹介した以外にも、ME機器に
はたくさんの電気安全対策が施されています。ME
機器を安全に使用するためには、正しく使用する
ことが必要です。そのためには、病院を訪問した
ときに「アースがきちんと接続されているか」など、
製造メーカーだけでなく、販売部門、保守部門の
協力が必要です。
ME機器の誤った使用方法で事故がおきないよ
うにしましょう。