興味から意欲へ、らしさからつながりへと向かう表現活動をめざして ~なんだろう? おもしろそう… もっとやろう!~ 米原市立いぶき認定こども園 1. テーマに寄せて 本園は平成 19 年度に認定こども園として開設し、本年度は7年目となる。保育所と幼 稚園の両方の良さを併せ持つ施設として保育を進める中で、おおきな課題のひとつであ った『0~5歳児の育ち』を指導計画の見直しという形で検証してきた。 特に2歳児と3歳児の段差について焦点を当て、その実態や援助について職員間で学 んできた。乳児と幼児に対するねらいの違いや集団の規模の違い、乳児と幼児の子ども 同士の認識やかかわり方の違いなどについて、徐々に見えてきたこともある。また、3 歳児以上の長時部(3歳児ひよこ組、4・5歳児ぞう組)での生活の在り方についても 考える機会となった。 一方で2歳児から3歳児の移行や長時部や短時部の生活のあり方の根本となるものは、 やはり子どもたちのクラスでの生活・遊びの充実ではないかという反省と課題も見えて きた。 平成 24、25 年度の2年間、当園は滋賀県美術教育研究大会の指定を受け、研究・研修 を積むことになった。改めて『造形活動』となると職員間に苦手意識があり、造形活動 をどのように捉え、学んでいったらよいのかと悩んでいた。しかし昨年度の研究を進め る中で、上記の反省と課題が見え隠れし、この“造形活動に対する苦手意識”を真摯に 受け止め、今年度は新鮮な気持ちで素直に就学前の造形活動について研究しようと考え た。スキルの向上はもちろん、『造形活動を通して自分を素直に表現する喜び』『造形活 動を通して友だちと思いを分かち合う楽しさ』について、何か一つでも学ぶことができ ればと願う。 あくまでも子どもたちにとって造形活動は表現方法の手段の一つで、私たち職員はそ こを充実させることで、子どもたちの自己表出や自己肯定感の構築、また人とかかわる ことの楽しさや思いを共有する充実感をねらいとして意識できればと考える。この研究 が就学前の子どもたちだけのものではなく、小学校へとつながる研究であると考えるも のである。 2. 研究の方法 ①日々の保育実践の中で、造形的表現活動に関わる子どもたちの興味や関心、意欲の 表れ方についてその実態を探る。 ②子どもたちが『なんだろう? おもしろそう… もっとやろう!』と思えるような 造形的表現の手法や材料のつながりを確認し、道具を取り入れながら、発達に沿っ た造形的表現の具体的環境について検討する。 ③一人ひとりの子どもが造形的表現活動を楽しむ様子が、どのように周りの子どもに 影響しているかの場面を捉え、一人の子どもと友だち、造形的表現活動の関係につ いて検討する。 ④「おもいがつながる」造形的表現活動を実践するための援助について考える。 3. 25 年度研究内容 月 4 5 6 7 8 9 研究保育・事例研究会 研究主題および 年間計画実践について 研究会の持ち方について (1年間の見通し) 就学前の造形活動について 講師:子育て支援課 嶌真弓先生 滋賀県美術教育研究大会について 4歳児研究保育 講師: 滋賀大学教育学部 藤田昌宏先生 画塾協会 田中由紀美先生 2歳児研究保育 講師:子育て支援課 嶌真弓先生 滋賀県美術教育研究大会・提案 滋賀県美術教育研究大会・ 報告と反省 3歳児研究保育 講師:新規採用教員研修指導員 京極光代先生 保育のねらい ・友だちや保育者と一緒に遊びながら土 粘土の感触を十分に味わう。 ・安心できる保育者との関係の中で、安心 して過ごす。 ・小麦粉粘土の感触を知る。 ・小麦粉粘土に興味を持ち、自分なりに かかわって遊ぶことを楽しむ。 ・保育者や友だちと一緒に小麦粉粘土で 遊ぶことを喜ぶ。 10 11 12 1 2 3 3歳児研究保育 講師:新規採用教員研修指導員 京極光代先生 5歳児研究保育 講師: 彦根市立平田幼稚園 高橋容子先生 1歳児研究保育 講師:滋賀文教短大 大下二三子先生 一年を振り返ってのまとめ 園内研究会のまとめと反省 来年度の園内研究のテーマ設定 ・保育者や友だちと一緒に遊びながら自 分なりに遊ぶことを楽しむ。 ・いろいろな素材に興味を持って遊ぶ。 ・秋の自然に触れることを喜ぶ。 ・筆の使い方を知る。 ・友だちと思いや考えを出し合いながら、 一緒に描いたり作ったりすることの楽 しさを味わう。 ・保育者と一緒に安心して過ごす。 ・保育者と一緒に全身を使って素材に触 れて遊ぶことを楽しむ。 4. 研究を進める中で見えてきたこと (1)造形的表現活動のとらえ方 私たちは、子どもたちの日々の何気ない生活の中に、いつも造形的表現活動がある と考えている。特に年齢が小さければ小さいほど、できばえや達成感といった事は関 係なしに手にしたものを積んだり握ったり等しながら、五感でものに浸って楽しんで いるように感じる。そのような姿を目にすると、造形的表現活動の根幹は『安心感』 と『意味ある環境』だと改めて感じる。 (2)援助の在り方 (1)のとらえ方を元に、本園では大きく次の4つを援助の柱に考えた。そして、 この4つの柱を保育の中で実践することに努めた。 ① 愛着、信頼関係が基盤となるどっぷり浸る園生活をめざす。 ② わくわくどきどきする経験を得られる題材、場、テーマをキャッチする。 ③ ②でキャッチしたことに、身近な保育者の雰囲気・喜怒哀楽・歓声など、空 気を吹きかける。 ④ 日々の身近な材料・道具・自然物を生かす。 (3)見えてきた0~5歳児の発達の特性 上述したように、本園は0歳児から5歳児までの子どもが同じ施設で生活する認定 こども園である。0歳児から3歳児あたりの年齢の低い子どもの生活を見ていると、 偶然拾った葉っぱや小枝を様々に見立てて遊んだり、素材そのものに体ごとまみれて 遊んだりする様子が多々ある。一方、5歳児では、単一の材料だけではなく、複数の 材料や道具を用いて、さらには友だちと話し合いながら造形的表現活動を行っている 姿が見られる。 このように6年間のスパンで造形的表現活動の様子を捉えると、いろいろな素材を 楽しむ時期から素材で楽しむ時期へと、発達に応じて移行していく様子が見られる。 そして、おおまかには4歳児の時期にこの様子が混在すること、また階段を上がるよ うに順当に移行するのではなく、その様子は複雑に行ったり来たりしていることを実 感している。 (4)おもいがつながる 造形的表現活動に関わる中で、子どもたちは様々なつながりを経験し、その経験に 何らかの形で影響されながら、再び活動に取り組んだり自分の心を動かしたりしてい ることが実感できた。そして、子どもたちの生活の中にはどのようなおもいのつなが りがあるのか事例から検討し、大きく4項目に整理することができた。 ➀【もの】とつながる 道具や自然と関わる中で、五感を通して活動している。固定概念にとらわれず に様々な道具を使ったり、自然を活用したりすることで、主体的にものとつなが ることができる。 ②【先生や友だち】とつながる 同じ場で活動する中で、楽しい雰囲気を感じたり先生に共感してもらったり、 年齢が高くなると、友だちやグループで話し合いながら、時には自分の思いを主 張しながら活動する姿がある。一人よりも先生や友だちとつながることでその楽 しさが倍増する。 ③【保護者】とつながる 保護者に子どもの思いや取り組む過程を話したり、ねらいや保育者の願いをた よりで発信したりすることで、子どもの学びや感動を担任と保護者が共有できる。 親子のつながりだけでなく、園と保護者がつながることも可能となる。 ④【地域】とつながる 地域の方と触れ合う中で、造形的な活動に結びつくことが多くある。また、園 での活動とは違う新鮮さや発見が地域とのつながりの中で生まれることも多い。 ⇒研究が2年目に入り、今年度は研究の視点を上記の≪(3)素材を楽しむ時期から、 素材で楽しむ時期へとは≫と≪(4)【もの】 【先生や友だち】【保護者】【地域】と 思いがつながる様子とは≫の2点に絞り、昨年度作成した(添付資料あり) 『造形活 動指導計画(案)』の見直しと充実を図ることにする。 5. 実践事例 今年度の研究の視点をより深く考察できるよう、特に4歳児クラスと2歳児クラスに焦 点をあて、その違いや共通点を洗い出していく。 事例➀ 視点≪(3)素材を楽しむ時期から、素材で楽しむ時期へとは≫について 4歳児(土粘土で遊ぼう) “何かを作りたい”“こんなのできた“など 何か形にすることを喜び、満足気な表情 → ←「つめたいなぁ」「ぺたぺたするな ぁ」「あながあいた~」「おもたい わ」などと思ったことを言葉に出し ながら、つついたり、のばしたり、 土粘土の上でジャンプしたり、上か ら落としたりしている 2歳児(小麦粉粘土で遊ぼう) ←ちぎったり、押したり、踏んだり して感触を楽しんでいる ちぎったものを丸めて、「アンパンマン・ しょくぱんマン」などとつぶやきながら 一列に丁寧に並べていく → ≪考察≫・その子の中、その遊びの中で何度も『素材を遊ぶ』と『素材で遊ぶ』を行っ たり来たりしている。 ・ひとつの遊び、ひとつの素材の中に『素材を遊ぶ』と『素材で遊ぶ』が混在 している。 ・ひとつの素材を何かに見立てたり、つもり遊びが始まったりした時点で『素 材で遊ぶ』になる。 事例② 視点≪(4)思いがつながる様子とは≫について 4歳児 ←“何かを作りたい”“何かを作って、そ れを使って遊びたい”という思い ⇒【もの】とつながっている 「せんせい、みて!」と自分の楽しさや発見 を保育者に伝えたい、見てほしい、認めてほ しいという思いや、友だちに「いっしょにつ くろう」「いっしょにあそぼう」とかかわっ ていく姿 ⇒【先生や友だち】とつながっている → 2歳児 ←とにかく小麦粉粘土と向き合っていて、言葉など 必要ない。とことんちぎったり、のばしたり、つ ついたり、くっつけたり、ひっぱったりを繰り返 している ⇒【もの】とつながっている ひたすら小麦粉粘土の感触に浸っている合間に も、ふと顔を上げたその視線の先には必ず保育 者がいる。保育者と目があってほほ笑んだり、 声をかけられたり、うなずいたりすることで 安心し、また遊びを楽しむことができる ⇒【先生】とつながっている → ≪考察≫ 4歳と2歳の姿を比較してみて ① 発達に応じて『素材を』から『素材で』への移行があるのではなく、行ったり来たり を繰り返し、二つが混在している。 ② 『素材で遊ぶ・楽しむ』割合が増えると同時に、対保育者とのつながりから、友だち とのつながりの割合が大きくなる。 ➀、②より友だちとつながることにより、影響し合ったり、刺激し合ったりし、そのこ とで友だちが増え、また周りの友だちとの関係も深まる。そうすることで、ひとりの子 どものイメージは確実に広がりを持っていることが見えてきた。 保育者と一緒に様々な素材にまみれて遊ぶことを繰り返し経験していくことで、子ど もたちは友だちとイメージを出し合い、様々な道具を使ったり、違った素材を組み合わ せながら、より遊びを広げていったりすることができるということを確認できた。 6. 終わりに 造形活動を窓口として、日々の保育の中に様々なつながりが見えてきている。 このつながりから、同時にいぶき認定こども園の子どもたちが、目指す子ども像に近づ くことができるよう、今後も保育の充実を図っていきたい。 研究途中で、まだまだ私たちの中に迷いがあるが、一つひとつの事例を丁寧に読み解き、 引き続き行きつもどりつ学んでいきたい。
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