学生主体の子供向け科学イベント出展による高専生教育

学生主体の子供向け科学イベント出展による高専生教育
(熊本高等専門学校)○滝康嘉,岩﨑洋平,内山義博,大河内康正,開豊,北辻安次
1.はじめに
2.技術系クラブの参画
八代高専(現熊本高専八代キャンパス)では,
「科
学技術による地域社会への貢献」を学校の理念に
掲げ,小中学校など教育機関との連携を「活動の
柱」のひとつとして位置づけ,平成 12 年度に設置
された地域連携センターを核として継続的に地域
の科学技術教育支援活動を実施しており,平成 21
年 10 月の高専発足以降も PBL 総合教育センターの
科学技術教育支援事業部として活動を継続してい
る 1)2)3).さらに,これらの活動は九州・沖縄地区
の他 8 高専との連携を取りながらネットワークを
作り活動の輪を広げている 5).
具体的な活動の内容は,小・中学校との連携理
科授業(八代市内中学校との SPP 連携理科授業 1)),
子供向け工作実験教室 1)3)(年 6 回実施「わいわい
工作・わくわく実験ひろば」の開催,PTA 行事への
支援など),出張科学体験展示品「ミニミニ科学館」
4)
の製作・貸出・展示,教員研修会などの支援のほ
か,八代こども科学フェアへの出展,地域の公民
館・博物館への出展・講座開催,地元アーケード
街での夏祭り(土曜市)への出店 6),NPO の活動支
援,「八代こどもロボット教室」の開催等,多様な
取り組みを行っている.
通常このような公開講座や出前授業は,関係教
員およびその研究室に所属する 5 年生や専攻科生
に支援を依頼することが多く,技術職員が中心に
なることもある.しかし近年は社会人技術者向け
の人材育成事業,建設材料試験所,受託・共同研
究の受け入れ等,地域連携活動も多忙の一途をた
どっており,教職員・研究室学生だけでなく低学
年の学生による支援が欠かせなくなっている.ま
た,学生にとっても子供や一般の方への接触はコ
ミュニケーション能力の育成など教育的な意義が
大きいという観点もあり,高度化再編後は PBL 利
用教育事業部とも連携して多様な学生を参画させ
ている.
本稿では特に技術系クラブや特別選択科目を通
じて主体的に取り組んでもらった事例について報
告するとともに,科学技術教育支援を通じた共同
教育における学生指導のあり方を探る.
2.1 科学部
平成 19 年度の八代こども科学フェアでは,科学
部に生物・化学系の出展をしてもらった.きっか
けは高専祭で出展していた骨格標本をセンター委
員が気に入ったためであり,少ない部員数ながら
も,「骨格標本」「ヘロンの噴水」「スライム作り」
を企画して出展してくれた(図1)
.
従来科学部は生物・化学の実験や生物オリンピ
ックへの出場を活動の中心としていたが,これを
機に地域連携活動を手伝ってくれるようになった.
(a) スライム作り
(b) 骨格標本展示
図1 平成 19 年度科学部出展
2.2 情報システム研究部
平成 19 年度のこども科学フェア出展時に,見学
に来ていた情報システム研究部の当時の部長から
出展したいとの申し出を受けた.その学生が製作
した太鼓ゲームを出展することになったが,従来
使用していた太鼓コントローラ(既製品)が故障
してしまい,急遽 Wii コントローラを用いること
になった.1月下旬の出展の直前の年末年始の出
来事であり,出展も危ぶまれたが,5 年生の頑張り
により何とか出展でき,好評を博した(図2)
.
(a) システム外観
(b) Wii リモコンで操作
図2 平成 20 年度太鼓ゲーム出展
1
2.3 ロボコン部
従来から高専祭やこども科学フェアで NHK 高専
ロボコンの出場ロボットを出展することは多く行
われていた.熊本市立熊本博物館から平成 21 年 3
月に出展依頼があった際,従来の出展内容にこだ
わらないとのことであったので,シーズンオフに
活発な活動を始めていたロボコン部に声をかけた.
出展内容は図3(a)のように 2007 年・2008 年の
NHK 高専ロボコンのロボットをメインにしていた
が,この年の 3 月に実施したミニロボコンのロボ
ット 8)も出展することになった(図3(b)).NHK ロ
ボコンのロボットはデリケートで出展中に故障す
ることが多いが,ミニロボットは比較的頑丈で操
作もしやすく重宝し,地元アーケード街の土曜市
でも学生の要望で出展した(図3(c)).
また,図3(d)に示すようなラジコンサーボ駆動
の四足歩行ロボットも出展した.八代には亀蛇(き
だ・ガメ)の伝説があり,九州三大祭りの「妙見
祭」における中心的な出し物となっている.本校
では以前に大型の亀蛇ロボットを製作しており 7),
これの歩行版を作ろうという企画を上級生が行い,
先輩から後輩へ引き継がれていっている.
のが多かった.しかし本校では教職員によるオリ
ジナリティの高い工作が盛んであり,学生にもそ
のように取り組んでもらうよう促したところ,次
第にユニークが企画を行うようになってきた.
平成 20 年度に輪状に切った白いケント紙を重ね,
裏面に色を塗って下部にライトの置いた光のツリ
ー工作を行っていた.これはライトからの光がケ
ント紙裏面の色で反射し,下の紙の表面に色が浮
かび出るものである.次年度はこれを発展させ,
ケント紙は白いままで光の色を変える,図4のよ
うな三色 LED を用いた「七色ツリー」を考案した.
また,小さな子供が工作することや製作時間の配
分も考慮し,ブレッドボードの使用や下準備(事
前のハンダ付け等)の工夫を行った.
(a) ツリー外観
図4
(a) NHK 出場ロボット
(b) LED ユニット
(c) 回路
(d) 色が変わる様子
三色 LED を用いた光のツリー
3.工作実験教室を通じた特別選択科目
(b) ミニロボコン体験
(c) 土曜市出展
(d) 四足亀蛇ロボット
図3 平成 21 年ロボコン部ロボット出展
2.4 CAPPA団
CAPPA 団は Creative(創造的),Affirmative(積
極的),Progressive(進歩的),Productive(生産的),
Active(活動的)な課外活動を通して「科学技術に
よる地域社会への貢献」を実践することを目的と
しており,名称は前述の言葉の頭文字を八代発祥
の河童伝説に絡めたものである.
従来はボランティア要素が強く,工作のレパー
トリーも過去に教員が実施したことがあるものや
一般書籍に掲載されているものをベースにしたも
2
3.1 特別選択科目「創造セミナー」
本キャンパスではカリキュラムの中で学年をこ
えた科目として「特別選択科目」として「創造セ
ミナー」を設けており,ロボコンやプロコン,デ
ザコンといった技術系競技会への取り組み,オー
プンキャンパスや高専祭における創造的取り組み
について単位の認定を行っており,地域への科学
技術教育支援についても「わいわい工作等支援企
画」というテーマ名で設定されている.
3.2 工作実験教室「ペットボトルライト」
図5に平成 20 年度の土曜市(本町アーケード)
とテクノ・サイエンスキッズ(熊本博物館)で実
施したペットボトルライトを示す.加工したアル
ミアングルにスイッチと自己点滅 LED,電池ボック
スを搭載したユニットを製作し,スイッチのナッ
トを利用してフタに固定したものである.
土曜市は随時対応の工作(屋台方式)であり,
マンツーマン対応で一人当たり 5~15 分で工作を
終わらせる必要がある.そのためまず学生達には
見本を見せて試作してもらい,その後下準備を自
分達で考えてもらった.この時の参加学生はロボ
コン部に所属する 2~5 年生であり,4・5 年生がリ
ーダーシップを発揮してユニットの設計,部品の
量産を学生主体で実施してくれた.
示品開発に取り組むことも行われていたが,既存
の展示品の保守が課題になっており,各学科の創
造セミナーとしても取り組むようになった.
4.2 平成 20 年度取り組み
平成 20 年度には,その年に高校普通科から編入
してきた機械電気工学科の学生が参加した.
夏休み中に集中して取り組み,8 月下旬の熊本博
物館出展に焦点を合わせて取り組んだ.スケジュ
ールが厳しかったが,部品加工では専攻科生の協
力を仰いだり,寮の点呼ギリギリまで頑張ったり
して間に合わせてくれた.編入したばかりであっ
たが,地域連携イベントを通して先輩・後輩の知
り合いができる機会になっていたようだ.
(a) 内部 (b) 点滅時 (c) 土曜市での様子
図5 ペットボトルで LED ライト
3.3 工作実験教室「メタリック風鈴」
平成 21 年度のわいわい工作・実験ひろば(2 時
間半),及び土曜市(随時対応),テクノサイエン
スキッズ(随時対応)では,アルミの針金で作っ
た支柱に黄銅や鋼の丸棒や黄銅板を吊るした風鈴
作りを実施した(図6)
.機械電気工学科の学生か
らセミナー受講者としてスタッフを募り,2 年生 2
名,4 年生 3 名,3 年生 1 名が受講した.前年度の
工作の補助をしてくれた学生が中心であった.
2 年生は工作教室の実施に先立って試作品の製
作をしてくれた.4 年生は旋盤による支柱の量産を
中心に頑張ってくれたが,土曜市で随時対応の工
作にアレンジする必要があった際,支柱の製作方
法を考案し,2 年生に指導する等の工夫を行った.
(a) 試作品
図6
(a) バブルハニカム
(b) 弦のない琴
図7 平成 20 年度創造セミナー
4.3 平成 21 年度取り組み
平成 21 年度は,CAPPA 団に所属する 3 年生達に
声をかけて,修理・再製作を行ってもらった.生
物工学科の女子学生が 4 名,土木建築工学科の男
子学生が 1 名という構成で,図8(a),(b)に示す
ような CAD 講習,安全講習,加工・組立実習を行
った.男子学生はロボコンにも参加しており,こ
の学生がリーダーシップや指導教員のアシストを
してくれた.
(b) 土曜市での様子
メタリック風鈴
(a) 3D-CAD 講習
(b) 加工・組立実習
4.展示品製作を通じた特別選択科目
4.1 科学体験展示物「ミニミニ科学館」
八代市には科学系の博物館がないため,小中学
校や公民館に出張して展示できる科学体験展示品
「ミニミニ科学館」を製作しており 4),平成 21 年
度末で展示品は 56 を数えるようになった.4 年次
総合実習や 5 年次課題研究の中で学生が新規の展
(c) 平面シャボン玉 (d) 二人の顔の融合器
図8 平成 21 年度創造セミナー
3
最初はガラス管やファンを交換するといった簡
単な作業を行い,次に壊れていた2品目の再製作
を行った.平面状にシャボン膜を生成する器具は
以前の素材では腐食が激しかったため,図8(c)の
ようなアルミ製のものにした.また,ハーフミラ
ーを用いて向かい合った人の顔が合成される器具
の再製作も行った.学生がアイデアを活発に出し
てくれ,図8(d)に示すようにデザイン性の向上や,
分解・組立式による可搬性の向上が実現できた.
6.おわりに
本稿では,八代高専地域連携センターから引き
続き熊本高専 PBL・総合教育センターとして組織的
に行った科学技術教育支援における学生教育と学
生指導について述べた.本センターは九州・沖縄
地区のスーパー高専としての活動が期待されてお
り,九州・沖縄地区科学技術教育支援 WG において
も中心的立場を担っている.今回得られたノウハ
ウを蓄積・整理・発展させることにより,他高専
においても活用可能なものにしていきたい.
5.問題点と展望
なお,出展にあたっては関係教職員,特に各ク
以上述べたように学生主体と一口に言っても
ラブの顧問の先生方に大変お世話になりました.
また,岐阜高専現代 GP「創発的なものづくりリテ
様々な形があって取り組むことになったきっかけ
ラシー教育活動」や詫間電波高専現代 GP「『ものづ
も多様であるが,学生に自分達の仕事を意識させ
くり』による地域連携プログラム」から刺激を受
ることが第一と言える.また,同じクラブの中で
も中心となる学生の負担が大きくなることもある. けるとともに,本キャンパスの現代 GP「中学生プ
ロコンによる実践的技術者への育成」や校長裁量
特に冬休み,春休みの時期であると,学校に出て
経費から一部支援を受けました.この場を借りて
くる学生が少なく特定の学生に負担がかかること
感謝の意を表します.
になり,担当教員によるバックアップが重要とな
る.ただ逆にクラブにおけるリーダーシップや役
参考文献
割分担,意識・モチベーションについて,学生が
考え議論する良い機会にもなっていた.
1) 久保田智:小・中学校と高専の教育連携,工
なお,出展先から謝金が支給される際,出展当
学教育,第 51 巻 1 号,(2003),pp.168.
日に受領するための印鑑を忘れる学生がいて後日
2) 大河内康正他:SPP 中学校連携理科授業の新展
に対応を迫られたり,学生が相談なしに物品を購
開,熊本高専研究紀要,第1号,(2009),pp1-8.
入して対応に苦慮したりすることもあった
3) 上土井幸喜他:八代高専における地域連携(科
また,学生との日頃のコミュニケーションがあ
学技術教育支援)の取り組み,化学と教育,
ってこそ参加に結びつく傾向がある.特にクラブ
Vol.53,No.2,(2005),pp.62-65.
は年によって活発さが異なるため,その都度状況
4) 河崎功三他:体験的科学実験装置による青少
を見て依頼する必要がある.また,出展時にはシ
年の科学的好奇心の育成,宮島クリエイト,
ビアにならざるを得ず,学生に厳しく言ってしま
12,(2001),pp.43-62.
い人間関係がこじれかけたこともあった.
5) 北辻安次:九州沖縄地区高専が連携した「科
なお,クラブ活動でも特別選択科目として取り
学技術教育支援活動」~ワーキンググループ
組んだ後でも,継続的にイベントに協力してくれ
による3年間のまとめ~,第 17 回九州沖縄地
る学生が出て来ていることが特徴である.これは
9)
区高専フォーラム,(2007).
熊本県中学校プログラミングコンテスト におい
6)
宇野直嗣他:地域中心街活性化に合わせた土
ても同様で,スタッフを経験した後も図9に示す
曜夜市「高専店」の開設,第 4 回全国高専テ
ような小学生向けのロボット教室に講師・スタッ
クノフォーラム,(2006),2-10.
フとして参画してくれている.
7) 森内勉他:亀蛇のロボット開発とモノづくり
教育 -創立 30 周年記念事業ガメロボット製
作-,八代高専紀要,第 28 号,(2006),pp.17-22.
8) 藤井一光他:平成 20 年度オフシーズン課題
ミニロボコンについて,第 27 回日本ロボット
学会学術講演会講演論文集,(2009),1N3-04.
9) Y. IWASAKI et.al: Developing communication
skills necessary for engineers of advanced
(a) 平成 20 年度春休み (b) 平成 21 年度冬
IT, Proc. of ISATE2008, (2008), A-15.
図9 八代こどもロボット教室
4