熱可塑性炭素繊維樹脂シートの低コスト連続加工技術の開発(PDF

熱可塑性炭素繊維樹脂シートの
低コスト連続加工技術の開発
奥村航*
木水貢*
長 谷 部 裕 之 ** 惣 川 武 勇 ***
松 村 峰 彰 *****
蓬 澤 博 信 *****
曽 原 隆 夫 ****
斉 藤 博 嗣 ******
柏 崎 雅 彦 ****
石 田 応 輔 ******
熱 可 塑 性 CFRP シ ー ト (ス タ ン パ ブ ル シ ー ト ) は 軽 量 で 高 強 度 で あ り , 鉄 の 代 替 材 料 と し て 注 目 さ れ て い
る。しかしながら,現状,スタンパブルシートは高価な海外製品の輸入に頼っている。そこで,低コスト
であるスタンパブルシートの技術開発を行った。まず,熱可塑性樹脂が炭素繊維束に含浸し易くなる炭素
繊維織物の処理について検討した。次に,タンパブルシートを連続的に製造する技術の検討を行った。こ
の結果,炭素繊維織物に付着したサイジング剤を除去し,押出ラミネート加工すると熱可塑性樹脂の含浸
性が向上することを明らかにした。また,これらの処理と加工を施した試料を用い,連続的にスタンパブ
ルシートを製造する技術を確立した。
キ ー ワ ー ド : 熱 可 塑 性 CFRP , ス タ ン パ ブ ル シ ー ト , 炭 素 繊 維 織 物
Development of a Low-cost Continuous Processing Method for Carbon-fiber-reinforced Thermoplastic Sheets
Wataru OKUMURA, Mitsugu KIMIZU, Hiroyuki HASEBE, Takeo SOHGAWA, Takao SOHARA, Masahiko KASHIWAZAKI,
Mineaki MATSUMURA, Hironobu YOMOGIZAWA, Hiroshi SAITOU and Ohsuke ISHIDA
CFRTP sheets (Stampable sheets) are attracting attention as a material that can replace iron, due to their light weight and high
strength. Under present circumstances, however, we are required to rely on expensive imported stampable sheets; therefore, the
technology for manufacturing stampable sheets at a low cost was developed. First, carbon-fiber fabrics were processed so that they could
be impregnated with thermoplastic resin easily. Next, the technique for continuous manufacturing of stampable sheets was examined. As a
result, it was confirmed that the impregnation of carbon-fiber fabric with thermoplastic resin was improved by removing sizing agent and
applying extrusion lamination. And the technology for continuous manufacturing of stampable sheets by removing sizing agent and
applying extrusion lamination was established.
Keywords: CFRTP, stampable sheet, carbon-fiber fabric
1.緒
言
時間から数分レベルに短縮するという試みである。し
炭 素 繊 維強 化 複 合材 料 (以 下, CFRP)は , 軽 量 で 高 強
かしながら,現状,これらの開発の基材となっている
度という特性から鉄の代替材料として注目され,宇宙
スタンパブルシートは高価な海外製品の輸入に頼って
・ 航 空 機 分 野 で 採 用 さ れ て い る 。 近 年 , CFRPの 量 産
いる 。
化に向けた検討が行われており,成形時間を短縮でき
本研究開発では,低コストのスタンパブルシートを
る 熱 可 塑 性 樹 脂 を 使 っ た CFRP(以 下 , 熱 可 塑 性 CFRP)
石川県内から供給することを目的とし,種々の検討を
の開発が盛んに進められている
1-3 )
。これは「スタン
行った。本研究では,炭素繊維織物を基材とし,熱可
パ ブ ル シ ー ト 」 と 呼 ば れ る 熱 可 塑 性 CFRP シ ー ト を プ
塑 性 樹 脂 に ポ リ ア ミ ド 6(PA6)を 用 い た ス タ ン パ ブ ル シ
レ ス 成 形 加 工 す る こ と で , CFRP 部 品 の 成 形 時 間 を 数
ートの試作を行った。初めに,スタンパブルシートの
*
企 画指導 部
****
**
繊維生 活部
優 水化成工業 (株 )
******
*****
***
力学的性質を向上させるための手法を検討した。次に,
テッ クワン (株 )
その成果を基にスタンパブルシートを連続的に作製す
一村 産業 (株 )
る技術開発を行った。さらに,得られたスタンパブル
金沢工業大 学
-1-
シートの力学的性質を評価し,鉄の代替材料としての
ネ ー ト 加 工 の 概 略 図 を 図 1に 示 す 。 こ の 手 法 は フ ィ ル
可能 性を確認した 。
ム 成 形 で 使 用 さ れ る Tダ イ の 直 下 に 炭 素 繊 維 織 物 を 繰
り出すことで,炭素繊維織物と熱可塑性樹脂フィルム
2.実
2.1
験
を 貼 り 合 わ せ る 手 法 で あ る 。 本 研 究 で は , 幅 500 mm
炭素繊維織物の前処理
2.1.1
の 12K平 織 炭 素 繊 維 織 物 に 約 80 µmの フ ィ ル ム を 貼 り
合わ せた。
PA系エマルジョン塗布
高い力学性能を持つスタンパブルシートを作製する
さ ら に , ラ ミ ネ ー ト シ ー ト を 積 層 し て 100 mm角 で
には,炭素繊維織物の隙間に溶融した熱可塑性樹脂を
厚 さ 2 mmの ス タ ン パ ブ ル シ ー ト を 作 製 し , 炭 素 繊 維
1)
十分にしみこませた上で,固化させる必要がある 。
織物とフィルムの積層から得られたスタンパブルシー
そ こ で , PAの 微 粒 子 を 溶 液 に 分 散 さ せ た 「 PA系 エ マ
トとの力学的性質を比較した。スタンパブルシートの
ルジョン」を炭素繊維織物に塗布する処理を行った。
力 学 的 性 質 の 評 価 は , 万 能 試 験 機 ((株 )島 津 製 作 所 製
こ れ に よ り , 樹 脂 の 浸 み 込 み 易 さ (含 浸 性 )の 改 善 を 図
100KNplus)を 用 い て 三 点 曲 げ 試 験 に よ り 行 っ た 。 試 験
るこ とを狙いとし た。
片 は ス タ ン パ ブ ル シ ー ト か ら 炭 素 繊 維 方 向 0°/90°に
具 体的 には, PA系 エマ ルジョ ン槽 に炭素 繊維 織物を
沿っ て,幅 15 mm, 長さ 100 mmに 切 断して試 験片を 作
浸 漬し た後, 余剰 な PA系 エマ ルジ ョンを ニッ プロー ラ
製 した 。試 験条件 は支 点間距 離 80 mm, R5 mmの 圧 子
で 絞り ,乾燥 させ て PA系 エマ ルジ ョン塗 布炭 素繊維 織
を 用い ,曲 げ速 度 5 mm/min, 室温 23 o C, 湿 度 50%と し,
物試 料を得た。
曲げ 強度および曲 げ弾性率を求 めた。
2.1.2
サイジング剤除去
一般に炭素繊維には,平滑性と収束性を向上させる
ために「サイジング剤」と呼ばれる糊剤を付着させて
おり,これが熱可塑性樹脂の含浸を阻害すると考えら
れている。そこで,サイジング剤を熱処理により分解
除去 する方法を検 討した。
具 体 的 に は, 電 気 炉 ((株 )モ ト ヤ マ 製 DC-8080)を 用 い ,
炭 素 繊 維 織 物 を 処 理 温 度 350 o C, 処 理 時 間 10 minで 熱
処理した。熱処理前後の重量変化により,サイジング
剤の 除去を確認し た。
2.2
押出ラミネート加工
図1
押出ラミネ ート加工の概 略図
PA系 エ マルジ ョン は一 般的に 高価 であり ,低 コスト
化には不利である。現状では,熱可塑性樹脂の形態と
2.3
し て は ,「 フ ィ ル ム 」 が 低 コ ス ト 化 に 適 し て い る と 考
プレスによるスタンパブルシートの成形方法は,一
えられる。フィルムはペレットと呼ばれる粒状の熱可
枚毎に生産する為,生産速度が低く,低コスト化には
塑性樹脂を溶融し,平面上に押出すことで製造される。
課題が多い。スタンパブルシートを連続的に成形する
そ こ で , フ ィ ル ム 成 形 時 の 溶 融 状 態 (流 動 性 )を 利 用 し ,
ことができれば,生産速度を高くすることができ,コ
炭素繊維織物上にフィルムを成形することで,炭素繊
ストを低くできると考えられる。そこで,前項までの
維に熱可塑性樹脂を含浸させ,連続的にラミネート加
結果を基に,サイジング剤除去した炭素繊維織物にラ
工す る検討を行っ た。
ミ ネ ー ト 加 工 し た シ ー ト を 4層 積 層 し , 連 続 的 に ス タ
具体的には,いしかわ次世代産業創造支援センター
スタンパブルシートの連続成形
ンパブルシートを成形する検討を行った。本研究では,
に 設 置 さ れ た フ ィル ム 成 形押 出 機 ((株 )プ ラ ス チ ッ ク 工
幅 500 mm, 厚 さ 約 1 mmの ス タ ン パ ブ ル シ ー ト を 作 製
学 研 究 所 製 )を 用 い , 炭 素 繊 維 織 物 上 に 溶 融 し た PA6樹
した。得られた試料について前項2.2と同様に三点
脂を塗布する押出ラミネート加工を行った。押出ラミ
曲げ 試験により, 試料の力学的 性質を評価し た。
-2-
3.結果と考察
3.1
た,連続成形条件を制御することで,熱可塑性樹脂の
炭素繊維の処理
含 浸 性 を 制 御 し , 曲 げ 強 度 が 約 100MPaか ら 約 500MPa
図 2に 炭 素 繊 維 織 物 に 種 々 の 処 理 を 施 し て 得 ら れ た
の範囲のスタンパブルシートが得られるようになった。
スタンパブルシートの曲げ強度と曲げ弾性率を示す。
樹脂含浸を抑制したもの(樹脂含浸抑制タイプ)とし
PA系 エ マルジ ョン 塗布, およ び, サイジ ング 剤除去 を
ていないもの(樹脂含浸タイプ)の曲げ強度と曲げ弾
炭素繊維織物に施して作製したスタンパブルシートは,
性率 を図 6に示す 。
未処理のものと比較して,高い曲げ強度と曲げ弾性率
を示した。特に,炭素繊維織物のサイジング剤除去を
行うと,曲げ強度と曲げ弾性率の向上が顕著となり,
曲 げ 強 度 は 670MPa, 曲 げ 弾 性 率 は 63.6GPaに 達 し た 。
いずれの処理も炭素繊維束への熱可塑性樹脂が空隙無
く含浸したため,曲げ強度および曲げ弾性率が向上し
たも のと推察され る。
800
600
60
500
50
400
40
300
30
200
20
100
10
0
図2
70
未処理
PA系エマルジョン サイジング剤
除去
塗布
曲げ弾性率(GPa)
曲げ強度(MPa)
700
80
曲げ強度
曲げ弾性率
(a)ローラー部分
0
炭素繊維織物の処理によるスタンパブルシートの
曲げ強度と曲げ弾性率
3.2
押出ラミネート加工
図 3に 押 出 ラ ミ ネ ー ト 加 工 の 試 作 状 況 を 示 す 。 サ イ
(b)巻き取り部分
ジング剤を除去した炭素繊維織物とフィルムを貼り合
図3
押出ラミネート加工の試作状況
せ た 試 料 (ラ ミ ネ ー ト シ ー ト )で は 炭 素 繊 維 織 物 の 目 ズ
レが起こらず,積層時のハンドリング性が良好である
200
が曲げ強度および曲げ弾性率が高くなることが分かっ
た。
曲げ強度(MPa)
曲 げ 弾 性 率 を 示 す 。 図 4よ り , ラ ミ ネ ー ト シ ー ト の 方
150
30
100
20
50
曲げ弾性率(GPa)
40
織物を積層して作製したスタンパブルシートと上述の
ラミネートしたスタンパブルシートの曲げ強度および
50
曲げ強度
曲げ弾性率
こ と を 確 認 し た 。 図 4に フ ィ ル ム と 未 処 理 の 炭 素 繊 維
10
3.3
スタンパブルシートの連続成形
0
フィルム+炭素繊維織物
ラミネートシート
0
図 5に ス タ ン パ ブ ル シ ー ト の 連 続 加 工 の 状 況 を 示 す 。
連 続 加 工 を 検 討 し た 結 果 , 厚 さ 約 1mmで 幅 500mmの 長
尺のスタンパブルシートが得られるようになった。ま
-3-
図4
ラミネートシートから得られたスタンパブルシート
の曲げ強度と曲げ弾性率
また,連続成形で得られるスタンパブルシートのコ
可能 性が示された 。
ストは,一枚毎にプレス成形して得られるスタンパブ
4.結
ル シ ー ト の コ ス ト と 比 較 し て 約 3割 の コ ス ト ダ ウ ン が
見込 めるようにな った。
言
本研究では,熱可塑性樹脂が炭素繊維織布に含浸し
本研究で連続加工により得られたスタンパブルシー
易くなる炭素繊維織布の処理を検討すると共に,スタ
ト と 金 属 材 料 の 曲 げ 強 度 と 比 重 を 表 1に 示 す 。 本 研 究
ンパブルシートを連続的に製造する技術について検討
で得られたスタンパブルシートは鉄とほぼ同等の曲げ
した 結果,以下の 知見を得た 。
強 度 を 持 ち な が ら , 鉄 よ り 比 重 が 約 1/5, ア ル ミ ニ ウ
(1) 炭 素 繊 維 織 布 に PA系 エ マ ル ジ ョ ン を 塗 布 す る こ と
ム と 比 較 し て も 比 重 は 約 1/2で あ る 。 こ の こ と か ら 軽
や,炭素繊維織布に付着しているサイジング剤を
量化 に資する,鉄 の代替材料と して 熱可塑性 CFRPの
除去することで,熱可塑性樹脂が含浸し易くなり,
その結果,その炭素繊維織布から作製したスタン
パブルシートの曲げ強度および曲げ弾性率が向上
する 。
(2) 押 出 ラ ミ ネ ー ト 加 工 す る こ と で , 積 層 時 に 炭 素 繊
維織布の目ズレを抑制できると共に,熱可塑性樹
脂が含浸し易くなり,ラミネートシートから作製
したスタンパブルシートは曲げ強度および曲げ弾
性率 が向上する。
(3) サ イ ジ ン グ 剤 除 去 し た 炭 素 繊 維 織 物 に 押 出 ラ ミ ネ
ート加工したラミネートシートを積層し,連続的
にスタンパブルシートを作製する技術を確立した。
こ れ に よ り , 従 来 と 比 較 し て 約 3割 の コ ス ト ダ ウ
図5
600
謝
50
曲げ強度
曲げ弾性率
500
辞
本 研 究 は , 経 済 産 業 省 「 平 成 23年 度 戦 略 的 基 盤 技 術
40
400
30
300
20
200
曲げ弾性率(GPa)
曲げ強度(MPa)
ンが 見込めるよう になった。
スタンパブルシートの連続成形状況
高 度 化 支 援 事 業 」 の 委 託 を 受 け , テ ッ ク ワ ン (株 ), 優
水 化 成 工 業 (株 ), 一 村 産 業 (株 ), 金 沢 工 業 大 学 と の 共
同研究の一環として実施しました。記して関係諸氏に
感謝 の意を表しま す。
10
100
参考文献
0
樹脂含浸抑制タイプ
図6
樹脂含浸タイプ
0
1)
Wataru Okumura, Hiroyuki Hasebe, Mitsugu Kimizu, Ohsuke
Ishida, Hiroshi Saito. Development of Carbon Fiber Fabric
連続成形で得られたスタンパブルシートの
Reinforced Polypropylenes. Sen’i Gakkaishi, 2013, vol. 69,
曲げ強度と曲げ弾性率
no. 9, p. 177-182
表1
材質による曲げ強度と比重
2)
材質
曲げ強度(MPa)
比重
鉄
300~600
7.8
アルミ
200
2.7
本研究の
スタンパブルシート
橋本雅弘, 岡部朋永, 西川雅章. 単子分散炭素繊維によ
る熱可塑性プレス基材の開発とその力学特性評価. 日本
複合材料学会誌, 2011, vol. 37, no. 4, p.138-146
3)
高橋淳, 鵜澤潔, 大澤勇, 北野彰彦, 山口晃司, 臼井勝
宏. 自動車の安全設計と信頼性向上に貢献する複合材料
100~500
1.4~1.5
-4-
技術-Ⅷ. 日本複合材料学会誌, 2007, vol. 33, no.3, p.82-86