学生対応の手引き

教職員の皆様へ
学生対応の手引き
― 学生相談室 -
この手引きは、日ごろ学生と接する機会の多い教職員の皆様に、従来の認識では対応が難しい新しい世代
の学生たちへの理解を深めていただき、よりよい学生対応法について考える際の参考としてご利用いただ
けることを願って、学生相談室で用意しました。後半の「補足」では問題を抱える学生への対応法につい
てより詳しく述べています。必要に合わせて、どうぞご利用くださいませ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
<こんな学生、回りにみかけませんか?>
対人関係がうまくもてない
傷つきやすく、友人と深い関係を結ぼうとしない
我慢することが苦手・リーダーシップはとろうとしない
言われたことはやるが、自ら考えてやることは苦手
精神的に未熟で、ソーシャルスキルが身についていない
大学に入ることが目的で来たので、入学後目的喪失に陥ってしまう
――――――――――――――――――――――――――――――――
「学生は大人なのだから自主性に任せる」という従来の考えは通用せず、
「学生は未熟であるという認識に
基づいての対応が必要」という考え方が、広く大学関係者の間から出てきています。大学生活に必要な意
欲と力の不足で、学ぶ意欲、人と関わる力、一人で生活する力が未熟なまま入学して、環境の変化につい
ていけず、ちょっとした事で不登校になってしまう学生が増えています。これはこころの病気ではなく、
心の成長の問題です。
1.
【問題の多様性と深刻化】
以下のような学生への対応が大学に求められています。
・不登校、ひきこもりの学生、就職活動がうまくいかない学生、経済的問題を抱えた学生
・広汎性発達障碍や高機能自閉症などの発達障碍があると思われる学生
・ネット依存が高じて日常生活が難しくなっている学生 (会津大学には、この問題を抱える学生が
相当数いると思われます。
)
・人間関係のトラブル、犯罪に関与する学生 (暴力行為・デートDVやストーカー・ネットでの中傷
や迷惑行為等)
・心の問題を抱えた学生、精神科医療機関に通院しながら修学する学生
学生相談室では、学生対応についての学生の保護者からの相談が増えていて、教職員の方からの相談も珍
しくありません。これらの学生に対しては、連携した対応の必要性が求められています。
(SCO2011REVISEDMARCH2015)
1
2 .【 発 達 障 碍 の 学 生 】
発達障碍は、
「発達が遅れていること」と誤解を受けやすいのですが、そうではありません。全般的な知
的な発達の遅れはない、あるいは平均以上ですが、ある点では、できることや得意なことがある一方で、
他の点では極端に苦手なことがあるなど、得意・不得意な面がアンバランスになります。発達障碍には、
いくつかのタイプがあり、学習障碍(LD)
、高機能自閉症(HFA)
、注意欠陥/多動性障碍(いわゆるA
DHD)などがあります。
3.
【学生や周囲が困ることの例】
―すべてが必ずあてはまるわけではありません ―
学 習 場 面
履修計画をたてることができない
ノートを取ることができないかとっても内容が不正確
レポートの提出日や提出期限を忘れることが多く単位
他の科目のテストではそれなりに得点がとれるが、語
取得が遅れる
学はいくら頑張っても得点が低い
実験や実習で手順を理解できず細かい作業ができない
講義室の雑音や照明が気になって授業に集中できない
同時に2以上のことができない
早口を理解することが難しい
自分の意見や感想をまとめることができない
作業を最後まで終わらすことができない
行 動 面 や生 活 場 面
いわゆる社会的常識に欠ける行動をとってしまう
見通しが曖昧な状況や新しい状況に対応できない
好みや習慣へのこだわりが強く、融通がきかない
思い込みが強く、人間関係がうまくいかない
約束の時間をよく忘れる
暗黙の了解や場の状況を理解することができない
相手にかまわず自分の興味のあることを話しつづける
問いかけに応じた応答ができず、答は的をはずれ勝ち
人の話を字義通りに受け取り、冗談が通じない
視線を合わそうとしないか、長い時間相手を見据える
就職活動のやり方がわからず、開始できないかやっても
同級生の中でトラブルをおこしやすく孤立しがち
うまくいかない
4.
【ご理解いただきたいこと】
・発達障碍の主な原因は脳機能の働き方にあります。そして、それに伴う発達の偏り(特性)があり、
特性は人それぞれです。家庭や学校のしつけや本人の性格が原因ではありません。また、薬物療法
や心理療法で、障碍を受容し環境に適応できるようになっても、障碍を治すことはできません。
・周囲とうまくいかない、失敗体験が多くなってしまうことなどから劣等感を抱きやすく、人との関
わりを避ける、過度に自信を失うことなどがおきちです。そのような体験の積み重ねが、不登校・
ひきこもり・問題行動・うつ病などの精神疾患を引き起こすことがあり、これは二次的障碍と呼ば
れます。
・平成17年度の発達障碍者支援法の制定に伴って、幼児期から発達障碍の診断を受け、小中高で特
別の教育や支援を受けながら大学に入学する学生が増加することが予想されます。大学生活に支障
をきたしている発達障碍の学生には、障碍の特徴を理解した関係教員の教育的対応と、二次的障碍
(SCO2011REVISEDMARCH2015)
2
を防止するための大学全体による支援体制の整備が必要になります。
5 .【 学 生 対 応 や 指 導 の 際 の お 願 い 】
・講義や研究室で問題行動がある学生を注意する際は、発達障碍や精神疾患の可能性も念頭に対応して
ください。
・不登校の学生に何度か連絡をとっても返事がない場合、研究室単位などで事前に学生から緊急連絡先
として保護者の連絡先を聞いている場合は、保護者に状況を伝え様子を確認してもらうことができま
す。そうでない場合は、学生相談室もしくは学生課へご連絡ください。
・何らかの精神衛生上の問題が懸念される場合 (7ページ参照) は、早めに学生相談室にご連絡ください。
6.
【学生や保護者とのトラブル防止】
・学生を叱る時は、理由を伝え、感情的にならずに叱ってください。その際、メールや電話の使用は避
けた方がよいでしょう。
・病気や障碍、成績などの個人情報は本人や保護者の同意なく他学生や関係のない教員に伝えないでく
ださい。
・保護者の要望やクレームには、教員や職員個人ではなく、大学として対応したほうがいいでしょう。
・学生への配慮として特別の対応をする際は、他の学生が不公平感を抱かないように留意してください。
7.
【学生相談室の利用】
指導や研究のために多忙で、一人一人の学生とコミュニケーションをとり状況を詳しく把握することが
難しい場合が多いかと思います。心配な学生がいる時は、どうぞ学生相談室をご利用ください。
・学生にカウンセラーへの相談をすすめる
先生や職員の方との信頼関係が築けた後、確実に相談に来るよう、本人の了解を得た上、できれば教
職員の方が電話やメールで相談室の予約をとってあげてください。医療機関での対応が必要と判断さ
れる場合、学生相談室では、精神科など外部医療機関への紹介もしています。
・学生と保護者間での意思疎通がはかれていないような場合
相談室は親子のコミュニケーションの活性化をはかる支援も行います。親子間の意思疎通がはかれて
いないことがうかがわれる場合、相談室ではゆっくり時間をとっての相談が可能ですので、保護者や
学生に相談室をご紹介ください。相談室では、対応についての教職員の方からのご相談にも応じてい
ます。
・学生対応に関して、教職員の方が相談室を利用することができます
・守秘義務について
原則として、相談中の学生が話した内容を本人の了承なくお教えすることはできません。しかし、ご
事情をお聞きしたうえで、できるだけ対応いたします。また、ご紹介いただいた学生の相談結果は、
学生の了承を得てご報告いたします。
(SCO2011REVISEDMARCH2015)
3
(補足)
―
学生対応における基本ルールと留意点 ―
1.
【学生が支援を求めてきた場合の基本ルール】
1-1)学生と話す際の基本姿勢
学生との関係をつくることが第一目標です。学生の話や態度、性格が教員の価値観、教育方針と合わな
い場合、ただちにそれを表に出して注意をしたり叱ったりせず、関係をつくるためにまずは歩み寄って、
その学生がどのようなものの見方や考え方をしているか理解する必要があります。
1-2)相談学生と適切な距離をとる
あくまで、担当教員もしくは担当窓口の立場から自分ができる範囲で学生に関わってください。親身に
なって相談にのることは基本ですが、あまり深く学生の相談に関わると自分が消耗してしまうことがあ
ります。他の学生対応窓口や教職員と協力しつつ、一人の学生を援助していくという姿勢が大事です。
また、学生を励ます目的であっても、他の学生に対してだったらそんなことはしない・自分の家族や同
僚の前ではできないことは、規律違反やハラスメントになる可能性があります。もし学生にメンタルな
問題を感じた時は、早めに専門家にリファーする必要があります。(6頁参照)
1-3)相談の場所
周りに人がいない個室が望ましいですが、その際もドアを開け放して、誤解を招かない配慮が必要です。
また、通常の時間外や学外で学生の相談にのることは、避けた方が賢明です。学生が学外での面談を望
んだ場合は、
「できないことになっている」と断ってかまいません。
1-4)相談の時間
突然学生が来て時間があまりとれない時は、最初に「10 分程ならとれるけどいいですか?」などと確認し
てください。その場で時間がとれない場合は、必ず面談する日時を約束してください。相談時間は、30
分程度を目安として、長くても 1 時間以内にします。あまり長いとお互いに疲れてしまいます。
1-5)よい聞き手になる
学生は、先生に話を聴いてもらって気を悪くしていないか必要以上に気にしています。
・相槌やうなずきなど、身振りで傾聴していることを伝える
「ええ・・・」
「そうなの」
「なるほど」など、言葉での相槌
・話が一区切りついたところで、相手の話をまとめてあげる
「そうか、困っているのは・・・ということなのかな」
「○○するか××するかで迷っているんだね」などの言葉がけ
1-6)学生が困っている内容を把握する
(SCO2011REVISEDMARCH2015)
4
誰の、どんなことで、いつ頃から、そこからどのような悪影響が生じているか、これまではどうしてき
たか、他の誰かに相談したか、できればどうなればいいと思っているかなど
1-7)対応内容のメモの作成
できればメモとり、必要に応じて、学生課窓口や学生相談室と連携をとる場合、その記録に基づいて内
容を伝えてください。
1-8)プライバシー・個人情報の保護
学生との相談中に知りえた情報は個人情報にあたります。直接関係のないほかの学生や教職員に話すこ
とできません。緊急の場合や学生への対応について、カウンセラーに相談することは問題ありません。
2.
【学生相談を受ける際の留意点】
2-1)学生の欠点や問題を指摘する場合
受け入れる素地があるかの判断がまず必要です。学生の話をきいていくうちに、学生の欠点や問題の核
心が見えても、それをストレートに指摘すると学生が逆に落ち込み、教員との関係が壊れてしまうこと
があります。最初は、耳を傾けることに専念し、何回かの相談で指摘を受け入れる素地があると判断で
きてから、欠点や問題の指摘をするようにしてください。
2-2)助言や情報提供をする場合
無理にアドバイスしなくても、ゆっくり話を聴いてあげるだけで相談にのる意義があります。助言はな
るべく具体的であることが求められますが、一方的な指示あるいはきつい言い方だと学生に受け取られ
ないように注意する必要があります。
「私がなんとかしてあげる」といった学生に期待をもたせるような
安易な約束は、トラブルの元になりがちです。
2-3)相談の長さと終わり方
相談は 30 分程度を目安として、足りないときは機会を改めるようにしてください。終わり方が一方的だ
と学生は疎外感を感じますので、相談にきてくれたことをほめ、今後も相談にのる意志があることを伝
えることが大切です。その上で、学生がまた必要に応じて自主的にきてくれそうなら「また何かあれば
遠慮なくきてください」
、心配に感じるときは「○○時にまたきてくれる?」といった終わり方ができま
す。その場で時間をとれない時は、
「○〇日だったら大丈夫ですよ」など、後日時間をとれることを必ず
伝えてください。
2-4)教員から声をかけたり呼び出したりした場合
気になる学生を呼び出すときは、注意や叱るために声をかけたのではなく、事情を聞きたくて来てもら
ったことが伝わるようにしてください。学生が話すのを嫌がったり、
「特に何もありません」という受け
答えなら、無理に聞き出そうとしないで「何かあったら遠慮なく連絡してください」とその場は帰して
ください。そして、その後の日常の様子に引き続き注意してください。
(SCO2011REVISEDMARCH2015)
5
2-5)電話やメールでの相談について
不登校状態で大学にまったく来ない学生や面談には来ない学生を除いて、学生との相談は面談を原則と
することが望ましいです。初回の相談では、学生の人柄や状態をまず把握してください。後に、「その後
どうしてる?」
「よかったらメールください」といった声かけや面談の約束をする際には、電話やメール
で連絡できます。ただし、メールでの相談や頻繁なやりとりをすることは避けてください。
3.
【メンタルヘルス問題の見分け方と対応】
学生のメンタルヘルスの問題や性格的な問題は、学生の口からすぐ語られることは稀です。問題行動と
して周りがまず気づく、あるいは本人が相談に来たとしても、最初は進路、修学、人間関係、生活など、
あまり差し障りのないしことを話題にすることも珍しくありません。
「進路の悩みだから、この学生には
メンタルヘルスの問題はない」とは言えず、注意が必要です。以下はその目安や対応です。
3-1)メンタルヘルス問題を知る手がかり
・授業に出ているか(日課にとりくめているか)
・睡眠 (寝つきが悪い、眠りが浅い、眠りすぎなど)
・食欲 (過食や節食はないか)
・友人や家族など相談できる人はいるか
学生の悩みや内容に関係なく、相談の際や呼び出して話をする際は、上記の4つについてそれとなく聞
いてみてください。このうち1つでも問題がある場合はメンタルヘルス、あるいは性格的な問題が背景
にある可能性があります。
3-2)その他のサイン
・いくら助言しても「はい、でもだめなんです」を繰り返す
・助言に対して「はい」と言いながら、一向に実行が伴わない
・見た目にわかるほど元気がないか落ち込んでいる
・リストカット癖がある、自殺をほのめかす、「死にたい」と言う
・過去に精神科に通院したことがある
・常識では考えられない奇妙な行動をみせる、被害妄想が疑われるなど
4.
【学生相談室を紹介する】
メンタルヘルスの問題や性格的な問題が疑われる場合は、学生相談室を紹介してください。学生が了承
した場合は、できるだけ教職員の皆さんが相談室に連絡して、日時を決めてください。同意の上、相談
室まで学生を同行することもできます。なお、ご紹介いただいた学生の相談結果は、学生の了承を得て
カウンセラーから報告します。
(SCO2011REVISEDMARCH2015)
6
4-1)学生相談室を勧める際の留意点
・学生との関係ができるだけできてからにする
急にカウンセラーのところ行けと言われても学生は戸惑います。何回か話してみて「こ
の先生は自分の事を本気で心配してくれている」と学生が感じてくれれば、先生の助
言も受け入れてくれるでしょう。
・
「見捨てられた」との誤解が生じないように配慮する
言葉かけの例:
「今後も相談にのるし自分の立場でできることはする。でも心の問題は専門家に相談
した方がよい。
」
「力になってくれる人を増やそう。
」「よかったら一緒に行こう。」
・学生相談室の情報を教える
「自分とは違う立場からゆっくり話を聞いてくれるカウンセラーがいるから」
「女性・男性のカウンセラーもいるようだから」
「焦って結論を出すより、カウンセラーに話して自分の気持ちを整理してみたら」
・
「精神的におかしい」と思われたと誤解されないように気をつける
「そこまで悩んでいるなら私も心配だ。もしかすると休養や薬でよくなるかもしれな
い。相談室で相談してみて、少し元気を回復してから今後のことを話し合おう」
・行きたがらない場合
「どうしていきたくないか」を学生に聞いてみてください。理由は学生の誤解に基づ
くものかもしれません。
「人に頼るのはダメな人間」とする風潮もあるようです。
「相
談」は人に頼ることではありません。結果を押しつけることはなく、相談の結果、
決断するのは自分自身です。相談は極めて自律的行為で何ら恥じることではありま
せん。
4-2)
「相談した内容が知れ渡るのではないか」との懸念がありそうな場合
心理職には医師と同様、守秘義務が課せられています。本人の了承がなければカウンセラーは話の内容
を他の人に話しません。それでも拒否する場合は無理強いはしないでください。何度か会ううちに学生
と関係ができて応じてくれるかもしれません。窓口になった人との信頼関係を維持することが一番大切
です。見守るだけでは不安かもしれませんので、そのような場合は、窓口になった方がカウンセラーに
今後の対応についてご相談ください。
4-3)学生が精神科医療機関や学生相談室に来談中とわかったら
学生と話していて、学生の口から精神科に通院中であるとか、学生相談室に相談中だと語られる時があ
ります。
「どのような力になれるか知っておきたいから、カウンセラーに話をきいてもいい?」と学生に
了解を得たうえで、相談室に連絡することができます。また、学生相談室の方から、教職員の方に連絡
して学生対応をお願いすることがありますが、その場合は学生から了解を得て行います。
(SCO2011REVISEDMARCH2015)
7
5.
【精神科に通院中の学生への対応】
・基本的には一般の学生の相談と同じように、教員もしくは支援窓口の立場でのできるだけのサ
ポートをお願いします。
・病院にきちんと通院しているか時々確認してください。
・助言の前に「その件についてお医者さんは何と言ってるの?」と確認し、医師の意見を
できるだけ尊重してください。
・必要に応じて学生を相談室に紹介してください。
・ご心配な場合は、対応について相談室にご相談ください。
6.
【学生相談室に相談中の学生への対応】
・基本的には一般の学生の相談と同じような対応、助言をしてください。教職員の立場での、
できるだけのサポートをお願いします。
・学生のことでカウンセラーに尋ねたいことがある場合は、原則として学生に了承を得たう
えでご連絡ください。
例:
「どのような力になれるか知っておきたいから、カウンセラーに話をきいてもいい?」
カウンセラーもできるだけ連携して学生の援助をしたいと思っています。
・カウンセラーの方から先生や支援窓口の方に連絡して、修学や単位取得面の助言やサポート
をお願いする場合もあります。その場合、カウンセラーは緊急時を除いて学生の了解をとっ
ています。
(参考資料:岩手大学学生相談資料等)
* * *
上記内容について、ご質問やご意見等ございましたら、どうぞいつでも、まずはメールにてご連絡くだ
さいませ。
学生相談室 林幸子
研究棟 2 階 252 号室
0242-37-2610 (内線 2133)
メール:[email protected]
(SCO2011REVISEDMARCH2015)
8