-がん診断初期から始まる社会的サポート-

がん患者の早期社会復帰に対する支援
-がん診断初期から始まる社会的サポート-
2015年6月12日
第25回がん臨床研究フォーラム
国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院
サポーティブケアセンター/がん相談支援センター
がん相談統括専門職 坂本 はと恵
本日のメッセージ
 社会資源は、「困った」と言える人だけのものではない
 “知らなかった”が故の不利益を減らす
 個々の関わりで見えてきた課題を多職種で、
多職種で解決できない問題を地域・社会で、
社会全体で創造した支援策を、個々の患者に還元する
2
社会資源(社会保障制度)の意義
 社会生活の困難
社会関係の不調和・社会的役割の欠損・社会制度の欠如
 社会福祉政策の目的
自立の確保・社会的統合性を高めること・社会生活の再構築
 措置から契約へ
対象者は、生活困窮者からすべての国民へ
 社会福祉の役割
個々人が社会制度を主体的に利用できるように支援すること
3
本日の内容
Ⅰ. がんに罹患することで生じる社会生活の困難
Ⅱ. 社会資源の効果的な活用と社会復帰支援
Ⅲ. まとめ
4
患者の苦悩は、より“社会生活”
に関連するものへと変化
1983年
1993年
2002年
1
嘔吐
脱毛
家族への影響
2
悪心
悪心
脱毛
3
脱毛
全身倦怠感
全身倦怠感
4
治療への不安
治療への不安
家事・仕事への影響
5
治療時間の長さ
うつ状態
社会活動への影響
6
注射への不快感
家族への影響
性感減退
7
呼吸促迫
不安
立ちくらみ
8
全身倦怠感
家事・仕事への影響
下痢
9
睡眠障害
嘔吐
体重減少
10
家族への影響
多尿
息切れ
Eur J Cancer Clin Oncol(‘83), Ann Oncol(‘96),Cancer(‘02) 5
サポーターは十分なのか
2000
単独世帯
世帯主が65歳以上
1901万
1500
1355万
1.7倍
1000
500
0
(世帯)
387万
(28.5%)
2005年
1161万
(35.4%)
2025年
厚生労働省:第73回社会保障審議会介護給付費分科会資料,2012
6
社会復帰までに与えられる猶予期間
300人以上
18.0
100~299人
18.0
(
13.5
)
従
業
員
数
50~99人
6.0
20~49人
6.0
6.0
3.0
3.0
1~19人
23.5
12.0
所得保障期間 7.5か月
身分保障期間 6.0か月
全体
0.0
5.0
10.0
所得保障期間
15.0
20.0
25.0 (月)
身分保障期間
がん患者の就労支援に関する授業所実態調査 2015年3月
7
1か月のがん治療に必要な費用
承認年
2008年
2010年
治療薬
適応がん種
投与
スケジュール
薬価
(1か月・10割)
薬価
(1か月・3割)
スーテント
腎がん転移再発
4投2休
957,152円
287,145円
ネクサバール
腎がん転移再発
毎日
651,120円
285,336円
アービタックス
大腸がん転移再発
毎週
946,092円
283,827円
パニツムマブ
+
mFOLFOX6
大腸がん転移再発
2週毎
738,994円
221,694円
8
経済的問題が社会生活にもたらす影響
経済的問題が「大きい」患者と問題が「ない」患者との比較
 うつ病のリスク 約
3倍
 社会活動・関係を「不良」と評価する率が約
3倍
1/4に減少
 生活の質が良好と評価する率は
 経済的問題により、がん治療の継続を断念、あるいは
処方を遅らせた経験のある医師は11.8%
濃沼信夫2010,Neal J.Meropol2009,Kathleen M 2014 9
なぜ今、病院の中で社会的サポート
が重要視されるのか
 制度活用の側面から
 個人的なサポーターの有無は個人差あり
 治療の継続・完遂のために
 ASCO Cost of Care Task Force
“治療の意思決定に
治療費の問題を組み込むことが必要”
本日の内容
Ⅰ. がんに罹患することで生じる社会生活の困難
Ⅱ. 社会資源の効果的活用と社会復帰支援
Ⅲ. まとめ
11
「困っている」と言語化する患者だけが
支援の対象か?
【仕事に関する相談】
1年5か月
 相談時点で退職あるいは退職予定の患者は約70%
 診断から相談開始までの日数(中央値)
その他
8.3%
治療中に退職
13.9%
治療開始時に
退職
16.7%
就労継続中
11.1%
有給休暇取得中
36.1%
自宅待機
(指示待ち)
11.1%
欠勤
2.8%
12
患者はいつ、どのような支援を求めているのか
 当院における外来初診患者への実態調査(中間報告・n=188)
確定診断前に退職を決意(解雇含む):5.6%
初診の時点で相談したい事柄
(%)
受診日や治療方針の決定に仕事の都合を考慮することが必要
23.8
休職中に受けられる支援制度について知りたい
休職中に受けられる支援制度について知りたい
12.5
他の患者が仕事と治療の両立をどのようにしているのか知りたい
12.5
職場とのコミュニケーションについて知りたい
7.5
6.3
一般的な休職に関する会社の仕組みについて知りたい
一般的な休職に関する会社の仕組みについて知りたい
仕事は継続できるが、家事や育児などに関する負担の軽減策
3.6
契約社員・派遣社員・自営業であり、仕事を続けることが困難
1.3
病名を職場に伝えたことにより不当な扱いを受けている
0.5
再就職を希望しているが、どのようにしていけばよいか知りたい
0.2
経済的基盤の確保が必要となった
0.2
その他
0.2
0
5
10
15
20
25
がん研究開発費大江班(中間報告) 2014
制度の柔軟性を集約し活用する
-障害年金-
がん
身体状況
障害認定日
人工肛門造設・尿路変更術
装着日から6か月
人工膀胱
装着日
喉頭全摘出
摘出日
在宅酸素療法
療法開始日
胃ろう等の恒久的措置実施
原則6か月経過日以降
治療の副作用による倦怠感・悪心・嘔吐
下痢貧血・体重減少などの全身衰弱
初診日から1年6か月
参考:2012年11月28日 年金給付部企画G
障害認定事務にかかる意見への回答
14
各分野での問題と対応を構造化し
患者が困る前に社会資源に繋がる環境づくり
個々人・病院・地域が
知らなかったが故の不利益を減らす
高額療養費制度
医療機関医療費と院外薬局における薬剤費の費用合算について
4(4) 医療機関において薬剤の投与に代えて処方せんが交付された場合には、
当該処方せんに 基づく薬局での薬剤の支給は、
処方せんを交付した医療機関における療養の一環とみなして
取り扱うように配慮されたいこと。
厚生省保険局保険医療・社会保険庁医療保険部健康保険・船員保険課長連名通知「高額療養費支給事務の取り扱いについて」
(昭和48年10月17日保険発第95号、庁保険発第18号)
個々のかかわりで見えてきた課題を
地域単位で解決する
「医療機関医療費と院外薬局薬剤費の合算請求に対応しているか?」
「その根拠となる通知はご存知ですか?」
 実施していない:
11市町村
7
 通知を知らなかった市町村: 市町村
3
 今回の調査をきっかけに運用開始する: 市町村
5
 今後も行う予定はない: 市町村
国立がん研究センター東病院・千葉県健康づくり支援課がん対策室 2011
社会資源を適切に活用することが
医療機関にどう貢献するのか
 支払い困難者の約80%が20歳~64歳
 支払いの意思はあるが、
具体的手法の獲得に苦慮している患者は約22%
 約40%は、社会保障制度の活用に成功
18
家族全体で社会資源を活用する
地域福祉など
医療
緩和
ケア医
主治医
心理士
PT
看護師
MSW
国立がん研究センター
介護による
就労時間調整
夫
A氏
訪問診療
訪問看護
PT
娘
介護保険
ケアマネジャー 福祉用具
ヘルパー利用
在宅医療関係者
療育手帳
学校
市役所
障害福祉課
精神保健相談員
主治医
PSW
児童精神科病院
19
がんと診断されてから終末期まで
すべてのフェイズにおいて、社会的統合を目指した支援を
多職種による
患者向け教室開催
からだ
院内外多職種による
退院前合同カンファレンス
医療
受診
検査
診断
入院
診断初期
家族
初期治療
退院
通院
緩和ケア病棟
放射線治療・
化学療法
終末期ケア
進行・再発期
社会復帰に向けた
専門職支援
こころ
くらし
手術・
放射線治療・
化学療法
地域と協働した診療
(化学療法連携など)
患者会・
サポートグループ開催
がん関連
情報冊子の
作成・配布
サバイバー
治療中に滞在する
施設の紹介
終末期
本日の内容
Ⅰ. がんに罹患することで生じる社会生活の困難
Ⅱ.社会資源の効果的活用と社会復帰支援
Ⅲ. まとめ
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本日のメッセージ
 社会資源は、「困った」と言える人だけのものではない
 “知らなかった”が故の不利益を減らす
 個々の関わりで見えてきた課題を多職種で、
多職種で解決できない問題を地域・社会で、
社会全体で創造した支援策を、個々の患者に還元する
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