ワイヤレス給電における送電側による最大効率と 受電側

電気学会論文誌 D(産業応用部門誌)
IEEJ Transactions on Industry Applications
Vol.xxx No.xx pp.1–8
DOI: 10.1541/ieejias.xxx.1
論 文
ワイヤレス給電における送電側による最大効率と
受電側による所望受電電力の独立制御
学 生 員
正
員
フェロー
平松 敏幸∗
加藤 昌樹∗∗
堀
正 員
正 員
黄
居村
孝亮∗∗
岳広∗∗
洋一∗∗
Independent Control of Maximum Transmission Efficiency by the Transmitter Side
and Power by the Receiver Side for Wireless Power Transfer
Toshiyuki Hiramatsu∗ , Student Member, Xiaoliang Huang∗∗ , Member, Masaki Kato∗∗ , Member, Takehiro Imura∗∗ , Member,
Yoichi Hori∗∗ , Fellow
Wireless power transfer via magnetic resonant coupling is becoming ideal for applications in electric vehicles (EV)
because it is considered a potential solution. The transmission efficiency and charging power, decided by the load
impedance and mutual inductance, are very important for achieving a high efficiency in the charging system of EVs.
However, in order to achieve a simple transmitter, communication between the transmitter and receiver sides is not
desired. In this study, a simultaneous control method without communication is proposed to control the transmission efficiency on the transmitter side and the charging power on the receiver side. It is shown that the transmission
efficiency can be changed by manipulating the transmitter-side voltage while the transmitted power is controlled by
the receiver side. A method for estimating the desired power by the transmitter side is also proposed in order to
achieve the optimal transmitter-side voltage without communication. The effectiveness of the proposed method using
the calculated optimal transmitter-side voltage and the method for estimating the charging power is shown through
experiments.
キーワード:ワイヤレス電力伝送,最大伝送効率,所望受電電力,受電電力推定,独立制御,DC–DC コンバータ
Keywords: Wireless power transfer, maximum transmission efficiency, desired power, power estimation, independent control, DC–
DC converter
1.
車 (Electric Vehicles : EVs) までさまざまな応用が検討され
はじめに
ている (1) ∼ (3) 。WPT が様々な電子機器に応用されれば,自
由に充電することが可能になり大きく利便性が向上する。
近年,磁界共振結合 (Magnetic Resonant Coupling : MRC)
方式によるワイヤレス電力伝送(Wireless Power Transfer
さらに,高頻度な充電が可能になることから機器に搭載す
: WPT)が高効率で大ギャップの伝送が可能なことから注
る蓄電装置の重量低減やコスト削減など多くのメリットが
目されており,携帯電話などの小電力のものから電気自動
ある。特に,EV への応用は,EV の大きな問題である航続
距離の問題を解決できることから注目されている (4) ∼ (6) 。ま
∗
∗∗
東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻
〒 277-8561 千葉県柏市柏の葉 5-1-5
た,WPT を用いて EV などの移動体へ給電する場合には,
Department of Electrical Engineering, Graduate School of Engineering, The University of Tokyo
4-6-1, Kashiwanoha, Kashiwa, Tokyo 277-8561
ましくない。これは,送電側は地中深くに埋める必要があ
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学
専攻
〒 277-8561 千葉県柏市柏の葉 5-1-5
れや通信周波数の干渉などの問題から相互通信は望ましく
送電設備の簡略化が求められ送電側と受電側との通信は望
り,メンテナンスが難しいためである。その他にも通信遅
ない。
MRC の伝送効率と受電電力は受電側の負荷インピーダン
Department of Advanced Energy, Graduate School of Frontier
Sciences, The University of Tokyo
4-6-1, Kashiwanoha, Kashiwa, Tokyo 277-8561
c 201x The Institute of Electrical Engineers of Japan.
⃝
スと相互インダクタンスなどにより決定される (7) 。送電側
電源などの小型化や省エネルギーの観点から高効率伝送が
1
送電側効率と受電側電力の独立制御(平松敏幸,他)
て理論的に示す。その際,送電側で所望電力の情報が必要
であるが,受電電力が理論式から推定できることについて
も示し,本制御構成が有益であることを述べる。本稿では,
特に受電側電力を一定制御している際に,送電側電圧によ
り最大効率が達成できる原理について検討を行い,具体的
な制御系の設計法や安定性については考慮しない。
2.
EV への WPT の応用
EV などの移動体に WPT を応用した際のエネルギーシス
テムを Fig. 1 に示す。WPT により伝送された受電電力は
Fig. 1. The schematic of system applied WPT to EV.
整流器により平滑化され,蓄電装置に吸収もしくはモータ
により消費される。DC-DC コンバータは見かけの負荷イ
ンピーダンスを制御することで伝送効率や受電電力を制御
するために挿入する。
3.
送電側電圧一定時の効率と電力のトレードオフ
磁界共振結合方式の等価回路図を Fig. 2 に示す。L1 , L2
はそれぞれ送電側および受電側コイルの自己インダクタン
ス,C1 , C2 はそれぞれ送電側および受電側の共振コンデン
サの容量,R1 , R2 はそれぞれ等価直列抵抗であり,負荷や
伝送距離に応じて変化しない。また,これらのコイル定数
Fig. 2. The equivalent circuit of magnetic resonant coupling.
は温度により変化するが,本稿では簡単のため一定として
考察を行った。磁界共振結合であるため,送電側と受信側
の共振角周波数 ω0 が同じ,つまり式 (1) を満たすとする。
求められ,蓄電装置の容量と給電時間に限りがあることか
ら,所望の受電電力を実現する必要がある (8) (9) 。先行研究で
ω0 = √
は,それぞれの相互インダクタンスにおいて最大効率とな
る負荷インピーダンスが存在するため,受電側 DC–DC コ
1
1
= √
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (1)
L1 C 1
L2 C 2
V1 , I1 はそれぞれ電源側電圧,電流の実効値であり,V2 , I2
はそれぞれ受電側電圧,電流の実効値である。ZL は受信側
ンバータにより見かけの負荷インピーダンスを制御し,効
率を最大化する手法が提案されている (10) ∼ (12) 。しかしこの
の見かけ上の負荷インピーダンスであり,本稿では実数で
場合,送電側電圧により受電電力が決定するため,所望電
あると定義する。送電側が共振角周波数 ω0 の正弦波電圧
力を実現するためには通信技術を用いる必要がある。所望
源で電源電圧の基本波成分の実効値が V10 ,受電側電圧の
電力を実現するために受電電力を受電側で制御する手法も
基本波成分の実効値が V20 であるとする。このとき,電圧
提案されているが,負荷インピーダンスに対して伝送効率
増幅率 AV ,電流増幅率 AI ,伝送効率 η,受電電力 PL は式
と受電電力はトレードオフの関係にあるため,送電側電圧
(2) ∼ (5) と表される。
一定の場合には最大効率を達成できない (13) (14) 。そのため,
通信を用いずに最大効率と所望電力を達成するためは送電
側電圧の独立制御による効率改善制御が必要となる。これ
AV =
ω 0 Lm Z L
V20
=
.· · · · · · · · · · · · (2)
V10 R1 ZL + R1 R2 + (ω0 Lm )2
AI =
ω 0 Lm
I20
=
.· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (3)
I10 ZL + R2
までに,探索法を用いた送電側による効率改善に関する研
究が行われているが,受電電力と伝送効率の関係が理論的
に明らかにされておらず,受電電力が変化する場合に最適
な送電側電圧が変化するため実現が難しい (15) また,負荷イ
ンピーダンスにより効率が決定するため,受電側で効率制
η=
御を,送電側で電力制御を行うことが考えられてきた。
本稿では,まず WPT の等価回路から負荷インピーダン
V20 I20
(ω0 Lm )2 ZL
=
{
} .· · · (4)
V10 I10 (ZL +R2 ) R1 ZL +R1 R2 +(ω0 Lm )2
スに対して受電電力と伝送効率がトレードオフの関係にあ
ることを示す。受電側受電電力制御を行う場合に送電側電
PL =
圧により効率改善が可能であることを示し,送電側による
(ω0 Lm )2 ZL
V 2 · · · · · · · · · · · · · (5)
{R1 ZL + R1 R2 + (ω0 Lm )2 }2 10
効率制御と受電側による受電電力制御を各々独立に行うこ
このとき,伝送効率 η を最大化する負荷インピーダンス
とで高効率と所望電力を達成できることを等価回路を用い
ZL ηmax とそのときの受電電力 PL ηmax はそれぞれ式 (6), (7)
2
IEEJ Trans. IA, Vol.xxx, No.xx, 201x
100
20
75
15
50
10
PL (experiment) [W]
25
PL (calculation) [W]
Power PL [W]
Transmission efficiency [%]
送電側効率と受電側電力の独立制御(平松敏幸,他)
5
η (experiment) [%]
η (calculation) [%]
0 0
10
1
10
2
3
10
10
Load impedance ZL [Ω]
Fig. 4. The picture of transmitter and receiver coils.
04
10
Table 1. The parameters of coils
Fig. 3. Transmission efficiency and power in each load
impedance.
のように表される。
√
ZL ηmax =
{
R2
}
(ω0 Lm )2
+ R2 · · · · · · · · · · · · · · · · · (6)
R1
Operation frequency
100.9 kHz
Inductance of transmitter coil : L1
0.614 mH
Inductance of receiver coil : L2
0.616 mH
Resistance of transmitter coil : R1
1.5 Ω
Resistance of receiver : R2
1.5 Ω
Capacitance of transmitter coil : C1
4.05 nF
Capacitance of receiver coil : C2
4.04 nF
できないことを前章で述べた。本稿では,送電側で伝送効
√
率制御と受電側で受電電力制御の各々を独立に行うことで
{
}
2
R2 (ω0 Lm)2+R1 R2 (ω0 Lm)2V10
PL ηmax = √ {√
}2 (7)
{
}
R1 R1 R2 (ω0 Lm)2+R1 R2 +R1 R2+(ω0 Lm)2
最大効率と所望電力を実現できる手法を提案する。本章で
は,受電側と送電側の双方を制御すれば最大効率で所望電
力を実現できることを示す。また,受電側で受電電力制御
また,受電電力を最大化する負荷インピーダンス ZL PLmax
時に送電側電圧により伝送効率が変化し最大効率を実現で
とそのときの受電電力 Pmax は,それぞれ式 (8), (9) のよう
きる電圧があることを示す。最大効率を実現する送電側電
に表される。
圧が受電側電力に応じて変化するため,送電側から受電電
力を推定できることも示す。
ZL PLmax
(ω0 Lm )2
=
+ R2 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (8)
R1
本検討で対象とするシステムの回路図を Fig. 5 に示す。
また,相互インダクタンス Lm の値は初期状態の送電側と
受電側のパラメータをあらかじめ既知とすることで送電側
PLmax =
(
1
4R1 1 +
R1 R2
ω0 L m
および受電側双方から通信を用いずに推定可能である (16) 。
) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (9)
そのため,本稿では既知であるものとする。
〈4・1〉 矩形波電圧源駆動と整流器による影響
負荷インピーダンスに対する伝送効率と受電電力の値が
計算結果と一致するか実験により確認した。Fig. 3 に負荷
伝送できるバンドパスフィルタの特性をもつ (17) 。Fig. 5 の
インピーダンスに対する伝送効率 η と受電電力 PL の計算
システムでは,電源側はインバータで矩形波駆動を行う。
結果と実験結果を示す。このとき,電源電圧実効値 10V で
このときの送電側電圧,電流,受電側電圧,電流をそれぞ
実験を行い,実験に用いたコイルを Fig. 4 に,コイルのパ
れ Fig. 6 に示す。送電側電流は Fig. 6 のような正弦波とな
ラメータを Table. 1 に示す。この実験結果から,計算結果
り基本波力率は 1 となるため,送電側電圧の WPT にかか
と測定結果がほぼ一致することがわかる。計算結果と理論
わる基本波成分のみを考慮する。矩形波のフーリエ変換か
値のずれは,抵抗値の誤差や共振周波数のずれによるもの
ら,V1 の伝送に関与する基本波成分の実効値 V10 は式 (10)
であると考えられる。また,式 (6), (8) から伝送効率 η と
で表される。
受電電力 PL をそれぞれ最大化する負荷インピーダンス ZL
が異なり,受電側による負荷インピーダンス制御のみでは,
V10
高効率で所望電力を伝送できないことがわかる。
4.
MRC
による WPT は,共振周波数で効率よく大きな電力を電力
√
2 2
=
V0 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (10)
π
また,WPT はイミタンス特性を示すため,送電側を電圧
最大効率と所望受電電力の両立
源とすると受電側は電流源のようになる (18) 。Fig. 6 のよう
受電側受電電力制御のみでは,高効率と所望電力を両立
に WPT は受電側は定電流特性を示し,整流前の V2 は振幅
3
IEEJ Trans. IA, Vol.xxx, No.xx, 201x
送電側効率と受電側電力の独立制御(平松敏幸,他)
Fig. 5. The circuit of energy system.
V20 =
I20 =
(ω0 Lm )2 I10 − R2 (V10 − R1 I10 )
· · · · · · · · · · · · ·(12)
ω0 Lm
V10 − R1 I10
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (13)
ω0 Lm
そのため負荷インピーダンス ZL は,Fig. 2 の等価回路か
ら式 (12), (13) を用いて送電側の情報のみで表すことも可
能で,式 (14) として表される。
ZL =
V20 (ω0 Lm )2 I10 − R2 (V10 − R1 I10 )
=
· · · · · · · (14)
I20
V10 − R1 I10
伝送効率 η,受電電力 PL は式 (4), (5), (14) から送電側電
Fig. 6. The waveforms V1 , V2 , I1 , and I2 .
圧の基本波実効値 V10 と送電側電流 I10 のみでも表すこと
ができ,それぞれ式 (15), (16) のように表される。
が整流後電圧の大きさ VWPT の矩形波となる。電流が共振
周波数の正弦波で基本波力率は 1 であるため,伝送に関与
するのは基本波成分のみである。V2 の基本波成分の実効値
V20 は式 (11) で表される。
√
2 2
V20 =
VWPT · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (11)
π
η= f (V10 , I10 )
(ω0 Lm )2 (V10 − R1 I10 )I10 − R2 (V10 − R1 I10 )2
· · · · · (15)
=
(ω0 Lm )2 V10 I10
〈4・2〉 送電側電圧に対する伝送効率と受電電力の変化
PL = f (V10 , I10 )
(ω0 Lm )2 (V10 − R1 I10 )I10 − R2 (V10 − R1 I10 )2
=
· · · (16)
(ω0 Lm )2
送電側電圧 V1 と負荷インピーダンス ZL に対する伝送効率
η と受電電力 PL の変化を Fig. 7 に示す。Fig. 7 (b) より,
送電側電圧 V1 と負荷インピーダンス ZL により受電側電力
PL が定まり,Fig. 7 (a) より,ZL によってのみ伝送効率が
決定することがわかる。このことから,送電側電圧 V1 と負
荷インピーダンス ZL を変化させることで受電側の所望電
式 (15), (16) から伝送効率 η は,受電電力 PL と送電側電
圧の基本波の実効値 V10 の関数として表せる。そのため受
電側による受電電力制御時,つまり受電電力 PL が与えら
れた場合には送電側電圧の基本波 V10 により伝送効率が決
力を最大伝送効率で伝送できることがわかる。つまり,送
∂η
定される。このとき, ∂V10 = 0 を満たし,伝送効率を最大
電側と受電側の双方を制御することで最大伝送効率で所望
にする送電側電圧の基本波実効値 V10opt が存在し,式 (4) ∼
電力を伝送できることがわかる。
(6) から式 (17) のように表される。
〈4・3〉 受電側受電電力制御時の送電側電圧と伝送効率
なる送電側電圧があることを示す。受電側電圧 V20 ,受電
√
{
}
R1 R2 (ω0 Lm)2+R1 R2 +(ω0 Lm)2+R1 R2 41√
V10opt =
R1 PL (17)
{
}1 1
ω0 Lm (ω0 Lm)2+R1 R2 4 R24
側電流 I20 は,式 (2), (3) から送電側情報のみで表すことも
よって,受電側による受電電力制御時には,送電側電圧の
可能で,式 (12), (13) として表される。
基本波実効値 V10 を V10opt に制御することで所望電力を最
の関係
本節では,受電側による受電電力制御時に送電
側電圧を変化させると伝送効率が変化し,最大伝送効率と
大伝送効率で伝送することが可能である。
4
IEEJ Trans. IA, Vol.xxx, No.xx, 201x
送電側効率と受電側電力の独立制御(平松敏幸,他)
(a) Transmission efficiency
(b) Power
Fig. 7. The transmission efficiency and power in each ZL and V1 .
ダンスを変化させ所望電力を実現可能である。送電側では,
回路方程式から求めた計算式と送電側情報を用いて受電電
力を推定し,式 (17) から,最大伝送効率となる送電側電圧
を実現可能である。この送電側最大効率制御,受電側で受
電電力制御を各々独立に行うことで通信を用いずに最大効
率,所望受電電力の両立が可能である。
ここで Fig. 7 (a) から,負荷インピーダンスによっての
み伝送効率が変化するため,最大効率となる負荷インピー
ダンスに調整することで最大伝送効率を実現できることが
わかる。さらに Fig. 7 (b) から,最大効率を実現する負荷
インピーダンスにおいて,所望の電力を実現する送電側電
圧を実現すれば所望受電電力を実現できることがわかる。
Fig. 8. The schematic of transmitter and receiver side
controller.
そのため,受電側で負荷インピーダンスを変えることによ
り最大効率制御を実現し,送電側で所望受電電力を実現す
ることも可能である。しかしこの場合,通信を用いなけれ
〈4・4〉 送電側による計算式を用いた受電電力推定
式
ば,所望受電電力の情報を送電側で得ることは難しく,受
(17) から,最大効率で所望の受電電力を伝送するには,送
電電力をフィードバック制御することもできない。伝送効
電側で所望の受電電力の情報が必要となる。通信を用いず
率に関しても,理論式から導出した結果を用いてフィード
に実現する場合には,送電側で受電側で求める受電電力の
フォワード制御することしかできず,送受電側ともフィー
情報を推定する必要がある。これは,受電側で所望の受電
ドフォワード制御となるため推定値の誤差やパラメータ誤
電力が実現されるとすると,式 (16) を用いて定常状態にお
差による影響を受けやすくなる。
ける送電側電圧 V10 と送電側電流 I10 から所望受電電力 PL
これに対して,提案する制御構成では受電側で受電電力
を計算により求めることができる。この送電側情報から計
をフィードバック制御器を用いて制御することで,通信を
算により推定した給電電力を P∗Lest とする。
用いずに EV に所望電力をより正確に伝送することができ,
〈4・5〉 提案する制御構成
本論文では上記までの内
送電側で推定を用いて独立に効率改善ができるため大変有
容を考慮し,Fig. 8 のような制御構成を提案する。これは,
益な手法である。
受電側で所望電力となる様に受電電電力制御を行い,送電
側で最大効率となるように効率制御を行う制御構成である。
5.
理論計算と実験結果の比較と考察
ただし,本論文では,制御系設計や応答性,安定性に関する
議論は行わず,原理的に可能であることの確認を行う。受
Fig. 4 と Table. 1 に示すコイルを用い,導出した理論式
電側では,通信を用いずとも所望電力の情報を得られかつ,
を実験により確認を行った。Fig. 5 のようなシステムでは,
受電電力の情報も得ることができるため,文献 (13) のよう
にフィードフォワード制御とフィードバック制御を組み合
DC–DC コンバータにより整流後電圧 VWPT を制御しれ受
電電力制御を行う。この整流後電圧 VWPT を模擬するため
わせて用いることが可能であり,これにより負荷インピー
に,負荷として定電圧特性を有する負荷を用いて給電実験
5
IEEJ Trans. IA, Vol.xxx, No.xx, 201x
送電側効率と受電側電力の独立制御(平松敏幸,他)
25
Transmission efficiency [%]
95
Power PL [W]
20
15
10
90
85
80
75
70
65
60
40
35
30
25
5
0
0
Theoretical calculation
Experimental result
0.5
1
1.5
2
2.5
Transmitter side Current I1 [A]
3
20
PL [W]
3.5
15
20
0
40
60
80
V1 [V]
Fig. 10. The Calculation result of transmission efficiency η.
Fig. 9. The estimation result of power.
電圧 V1 に対する伝送効率 η と受電側電圧 V2 の計算結果と
実験結果を Fig. 11, 12 に示す。Fig. 11, 12 の計算結果から
を行った。
まず,送電側電
伝送効率がピークとなる送電側電圧 V1opt は,式 (10), (17)
圧と送電側電流から受電電力を推定できるかについて確認
を用いて求めることができ,受電電力 PL = 20W のとき
を行った。Fig. 9 に送電側電圧 V0 = 15V 一定時における
V1opt = 26.08V,PL = 30W のとき V1opt = 31.95V となる。
送電側電流に対する受電電力の理論値と実験結果を示す。
これらの結果から受電側で受電電力制御を行っているため,
式 (16) から求められる計算結果と実験結果がほとんど一致
それぞれの所望受電電力において送電側電圧を伝送効率が
していることから,送電側電圧と送電側電流から理論値を
最大になるように制御すれば,高効率と所望電力を両立す
用いて受電電力が推定できることがわかる。また,送電側
ることができる。また,Fig. 11, 12 の送電側電圧の増加に
電流が小さい場合と大きい場合で理論値とのずれが顕著に
応じて受電側電圧が低下するのは,受電側で受電電力制御
なっている。送電側電流が小さい場合には,受電側電流が
を行うためである。
〈5・1〉 送電側による受電電力推定
大きくなるため受電側の配線による抵抗値のずれや整流器
Fig. 11, 12 から伝送効率と受電側電圧の実験結果と理論
による電圧降下がより影響するためである。送電側電流が
計算の結果がほとんど一致することがわかる。ピークにお
大きい場合には,送電側の配線による抵抗値のずれの影響
ける伝送効率の最大値にずれがあるが,これは整流器によ
が大きくなるためである。その他にも共振周波数のずれや
る電圧降下や配線による抵抗値の増加,共振周波数のずれ,
整流器と定電圧負荷を用いていることによる電流と電圧の
整流器による V20 と I20 の位相のずれによるものと考えら
位相のずれなどが原因として考えられる。いずれにしても
れる。伝送効率が最大となる送電側電圧はほとんど一致し
計算結果と実験結果はほとんど一致しているため,送電側
ていることから,受電電力の情報と式 (17) を用いて送電側
情報から受電電力が推定可能である。
電圧の制御で最大効率を実現できる。また,緩やかなピー
クとなるため提案手法のフィードフォワード制御のみでも
この推定法により送電側から受電電力を推定することで,
十分に高効率を実現できる。
通信を用いずに受電側の所望電力の情報送電側で得ること
これらの結果から送電側の情報から推定できる受電電力
ができ,これを用いて送電側電圧を制御できる。
〈5・2〉 送電側電圧による効率改善
式 (12) ∼ (16) よ
PLest と式 (17) を用いて送電側電圧を制御することで,最
り,受電電力 PL と送電側電圧 V1 に対する伝送効率 η の計
高効率で所望の受電電力を通信を用いずに実現できる。
算結果を Fig. 10 に示す。Fig. 10 は,受電側で電力制御が
6.
行われていると仮定し,Fig. 7 の変数である負荷インピー
ダンス ZL を消去し,送電側電圧と受電電力を変数として伝
まとめと今後の課題
本稿では,移動体の蓄電装置の重量低減やコスト削減を
送効率を示した図である。Fig. 10 から,それぞれの受電電
目的として,EV に WPT を応用するエネルギーシステムを
力 PL において伝送効率 η を最大にする送電側電圧が存在
考え,WPT による最大効率と所望受電電力の両立に注目し
することがわかる。また伝送効率を最大とする送電側電圧
た。これまでは,負荷インピーダンスにより伝送効率が決
は式 (17) に示されているように受電電力 PL の正の平方根
定するため,受電側で伝送効率を,送電側で所望電力を制御
√
PL に対して比例する。
することのみ考えられていた。それに対し本稿では,受電
受電側による受電電力制御時に,送電側電圧により最大
側で蓄電装置の状態に応じた受電電力制御,送電側で効率
伝送効率を達成できることを実験により確認した。式 (12)
改善制御を各々独立で行うシステムを提案した。また,受
∼ (16) から求めた受電電力 PL = 20, 30W 一定時の送電側
電側で受電電力制御が行われている場合には,送電側電圧
6
IEEJ Trans. IA, Vol.xxx, No.xx, 201x
送電側効率と受電側電力の独立制御(平松敏幸,他)
η [%] (experiment)
η [%] (calculation)
V2 [V] (experiment)
V2 [V] (calculation)
90
2
Receiver side voltage V [V]
90
70
85
50
80
30
75
10
15
( 2 ) T. Imura, H. Okabe, T. Uchida, and Y. Hori, “Wireless Power Transfer
during Displacement Using Electromagnetic Coupling in Resonance,” IEEJ
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用した位置ずれに強いワイヤレス電力伝送-磁界型アンテナと電界型
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( 3 ) T. Imura, H. Okabe, T. Uchida, and Y. Hori, “Study of Magnetic and Electric
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95
20
25
30
35
40
Transmitter side voltage V [V]
45
Transmission efficiency [%]
110
70
50
1
Fig. 11. The calculation and experimental result of η
and V2 (PL = 20W).
110
95
η [%] (experiment)
η [%] (calculation)
V [V] (experiment)
90
2
2
Receiver side voltage V [V]
V [V] (calculation)
70
85
50
80
30
75
10
15
20
25
30
35
40
Transmitter side voltage V1 [V]
45
Transmission efficiency [%]
2
90
70
50
Fig. 12. The calculation and experimental result of η
and V2 (PL = 30W).
を的確に制御することで最大効率で所望の電力を電力伝送
できることと,提案した制御系に必要な所望の受電電力を
送電側から推定できることを等価回路を用いて理論的に述
べた。それぞれの妥当性について実験で確認を行い,相互
通信を用いずに最高効率と所望受電電力の両立が理論的に
可能であることを示した。
今後は,本稿で提案した相互通信を用いない伝送効率と
受電電力を両立する手法の実装を行い,応答性および制御
設計,安定性解析などに関する検討を行う予定である。
文
献
( 1 ) A. Kurs, A. Karalis, R.Moffatt, J. D. Joannopoulos, P. Fisher, and M.
Soljacic,“Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances,” Science Express, vol. 317, no. 5834, pp.83-86 June, 2007.
7
IEEJ Trans. IA, Vol.xxx, No.xx, 201x
送電側効率と受電側電力の独立制御(平松敏幸,他)
堀
IEEJ Transactions on Industry Applications, vol. 129 no. 5 pp. 511-517 2009
(in Japanese).
入江寿一・田原陽介:
「非接触給電装置における T-LCL 形と T-CLC
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511-517 2009
洋
一 (フェロー) 1955 年 7 月 14 日生。1978 年東京大
学工学部電気工学科卒業,1983 年同大学院博士課
程修了。助手,講師,助教授を経て,2000 年 2 月
電気工学科教授。2008 年 4 月より東京大学大学
院新領域創成科学研究科教授。この間,1991 年∼
1992 年,カリフォルニア大学バークレー校客員
研究員。専門は制御工学とその産業応用,特に,
平 松 敏 幸 (学生員) 1991 年 3 月 4 日生。2013 年 3 月千葉
大学工学部電気電子工学科卒業。同年 4 月東京大
モーションコントロール,メカトロニクス,電気
学大学院工学系研究科電気系工学専攻博士前期課
自動車などの分野への応用研究。電気学会産業応用部門元部門長,自
程(修士課程)入学。現在,キャパシタ・バッテ
動車技術会技術担当理事,日本能率協会モータ技術シンポジウム委員
リハイブリッド蓄電装置とワイヤレス電力伝送の
長,キャパシタフォーラム会長などを勤めている。IEEE Fellow,自動
電気自動車への応用の研究に従事。
車技術会,計測自動制御学会,システム制御情報学会,日本ロボット
学会,日本機械学会,パワーエレクトロニクス学会などの会員。1993
年,2001 年および 2013 年,IEEE Trans. on Industrial Electronics 最優
秀論文賞,2010 年産業応用部門高憲章,2011 年電気学会業績賞など
を受賞。
黄
孝
亮 (正員) 1985 年 10 月 3 日生。2014 年 9 月東京
大学新領域創成科学科先端エネルギー工学博士課
程後期課程修了。電気自動車のエネルギーシステ
ム,DC-DC コンバータ制御,スーパーキャパシ
タの研究に従事。
加 藤
昌
樹 (正員) 1973 年 10 月 23 日生。1998 年芝浦工業
大学工学部電気工学科卒業,同年 4 月電子計測機
器製造会社に入社,2003 年 8 月自動車用制御ユ
ニット製造会社に入社。2011 年 3 月東京大学大
学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専
攻修士課程修了,2014 年同専攻博士課程修了。現
在同研究科客員共同研究員。磁界共振結合による
ワイヤレス電力伝送の研究に従事。
居 村
岳
広 (正員) 1980 年 8 月 11 日生。2005 年上智大学
理工学部電気電子工学科卒業。2007 年 3 月東京
大学大学院工学系研究科電子工学専攻修士課程修
了。2010 年 3 月同大学大学院工学系研究科電気
工学専攻博士後期課程卒業。同年 4 月同大学大学
院新領域創成科学研究科客員共同研究員。同年 9
月より同大学大学院新領域創成科学研究科助教。
現在,磁界共振結合,電磁共鳴を用いた電気自動
車や電気機器へのワイヤレス電力伝送の研究に従事。
8
IEEJ Trans. IA, Vol.xxx, No.xx, 201x