第二言語文処理における統語構造の影響 / 須田 孝司

− 66 −
富山県立大学紀要第24巻(2014)
第二言語文処理における統語構造の影響
須田
孝司
(工学部教養教育)
本研究では,習熟度や記憶容量の異なる日本人英語学習者より文法性判断データと読み時間を集め,日本人
英語学習者が埋語と空所の距離の異なる 2 種類の強調文をどのように処理するのか検証を行った.実験の結果,
文法性判断では,習熟度と記憶容量に関係なくどのグループの日本人英語学習者も主語強調文(T1)と目的語
強調文(T2)について,正しくその英文の文法性を判断できることがわかった.さらに,全文提示による読み
時間を分析すると,習熟度の高いグループは T2 より T1 の読み時間が短くなり,また習熟度の低いグループよ
り T1 の読み時間が短くなることが明らかになった.これらの結果を元に,本研究では,L2 学習者も習熟度が
高くなると目標言語の統語情報を扱うことができるようになるということを提案する.
キーワード:第二言語,文処理,統語構造,習熟度,記憶容量
1. はじめに
本稿の構成は以下の通りである.次節では,先行研究と
生成文法理論では,人間は生得的に言語を身につける能
して,関係代名詞の文処理研究を概観し,続く第 3 節では
力を備えており,母語(L1)習得の場合は,文を作り出す
実験方法について説明する.その後,第 4 節において実験
知識(言語能力)と言語を使用する際に用いられる知識(パ
結果を示し,第 5 節では,本実験のデータを元に,日本人
フォーマンス)を自然に身につけることができると考えら
英語学習者の文処理過程における統語構造の影響につい
れている(cf. Chomsky, 1965)
.一方,第二言語(L2)の場
て議論する.第 6 節では,本稿のまとめを述べる.
合は,たとえ目標言語の言語能力を身につけることができ
たとしても,パフォーマンスの面で困難があることがたび
2. 先行研究
たび指摘されている(cf. Sorace, 2005)
.
2.1. L1 における関係詞文の処理
これまでの L2 習得研究では,言語知識の習得について
これまでの L1 文処理研究では,主格の関係代名詞文と
数多く研究が行われてきた(cf. Hawkins, 2001; White, 2003)
目的格の関係代名詞文の処理について研究が行われてい
が,特に 2000 年以降,学習者のパフォーマンスの側面と
る.例えば,King & Just(1991)は,
(1)のような関係詞
して,学習者の文処理過程を対象とした研究が行われるよ
句が中央に埋め込まれている関係代名詞文を使い,実験を
うになってきた(cf. Clahsen & Felser, 2006; Dussias & Piñar,
行っている.
2009)
.それらの文処理研究では,文解釈の曖昧性,形態
素の影響,埋語(フィラー)と空所(ギャップ)の依存関
(1)
係といった異なる言語構造に対する反応の違いや,習熟度
a. 主格関係代名詞文
や L1,さらには記憶容量といった学習者の能力の影響が
The reporteri that ti attacked the senator admitted the error
調査の対象となり,数々の実験が行われている.
publicly after the hearing.
本研究では,L2 文処理における統語構造の影響につい
て議論する.これまでの L2 文処理研究では,たとえ上級
b. 目的格関係代名詞文
学習者であったとしても,L2 学習者は母語話者と同じよ
The reporteri that the senator attacked ti admitted the error
うな統語構造を構築することはできないとする立場
publicly after the hearing.
(Clahsen & Felser, 2006)と L2 学習者も目標言語の統語情
報を扱うことができるとする立場(Hara, 2010, 2011; Omaki
関係代名詞文では,関係詞句内において移動操作が行わ
& Ariji, 2005)があり,活発に研究が行われている.そこ
れており,
(2)のように名詞句が関係代名詞(who/whose/
で,本研究では,日本人英語学習者の習熟度や記憶容量を
which/ø)となり,補文標識句(CP)の指定部に移動すると
測定した上で,フィラーとギャップ(t)の距離の異なる英
考えられている(cf. Radford, 2004)
.
文を日本人英語学習者がどのように理解するのか検証し,
L2 文処理における統語構造の影響について議論する.
第二言語文処理における統語構造の影響
(2)
c. Inanimate-Animate Subject relative
a. 主格関係代名詞文
The accidenti [CP øi [C that ti terrified the musician
− 67 −
The reporteri [CP øi [C that [TP ti attacked the senator] admitted
angered the policeman a lot]].
b. 目的格関係代名詞文
The reporteri [CP øi [C that [TP the senator attacked ti ] admitted
d. Inanimate-Animate Object relative
The accidenti [CP øi [C that the musician witnessed ti
したがって,
(1)のような関係代名詞文を理解するため
angered the policeman a lot]].
には,主格関係代名詞文(1a)の先行詞 The reporter は,
関係詞句の主語位置で照合され,また,目的格関係代名詞
(3a)と(3c)は,主格の関係代名詞文であり,(3a)に
文(1b)では,先行詞は関係詞句の目的語位置で照合され
は有生名詞が,(3c)には無生名詞がそれぞれ使われてい
なければならない.
る.
(3b)と(3d)は,目的格の関係代名詞文であり,
(3b)
そこで,King & Just は(1)のような関係代名詞文を使
には有生名詞が,
(3d)には無生名詞が使われている.
い,移動窓方式により英語話者の読み時間(reading times:
実験では,日本人英語学習者に英文を読ませ,その英文
RTs)を測った.その結果,英語話者は(1a)の主格関係
の複雑さの度合いを 1(理解しやすい)から 5(理解しづ
代名詞文より(1b)の目的格関係代名詞文の RTs が長くな
らい)段階のスケールで判断してもらった.実験の結果,
ることが明らかになった.
日本人英語学習者は(3b)の先行詞に有生名詞が使われて
関係代名詞の L1 文処理研究は,英語以外の言語を対象
としても行われており,それらの研究では,フィラーであ
いる目的格関係代名詞を最も複雑な文であると判断する
ことが明らかになった.
る先行詞とギャップの距離,つまり統語構造の違いが L1
この結果について,Omaki & Ariji は,次のように議論し
の文処理に影響を与えていると提案されている(Gennari &
ている.L2 学習者は,統語知識の 1 つと考えられている
MacDonald, 2008; Gordon et al., 2001, 2004; Just & Carpenter,
Active Filler Strategy1(AFS: Frazier, 1987; Frazier & Flores
1992; King & Just, 1991; MacWhinney & Pleh, 1988; Mak et
d’Arcais, 1989; Stowe, 1986)を利用しているため,
(3a)や
al., 2002, 2006; Miyamoto & Nakamura, 2003; Lin & Bever,
(3c)のようにフィラーの近くにギャップ位置が置かれて
2006; Traxler, at al., 2002; Warren & Gibson, 2002; Waters &
いる主格関係代名詞文の方が目的格関係代名詞文より処
Caplan, 1996a, 1996b).
理を素早く行うことができる.また,L2 学習者は,有生
名詞は主語,無生名詞は目的語といった語彙情報(Traxler
2.2. L2 における関係詞文の処理
et al., 2002)も利用することができるため,
(3d)のような
L2 文処理研究においても,主格や目的格の関係代名詞
先行詞に無生名詞が使われている目的格関係代名詞文も
の文処理過程について実験が行われ,フィラーとギャップ
比較的容易に理解できる.つまり,Omaki & Ariji は, L2
の距離の影響が検証されている.例えば,Omaki & Ariji
学習者は,AFS のような統語情報と名詞句の有生性のよう
(2005)では,英語の習熟度がかなり高い日本人英語学習
な語彙情報を使い文処理を行っていると提案している.
しかし,この研究は RTs や眼球運動を測定するといった
者を対象とし,
(3)のような関係代名詞文を使った実験を
行っている.
学習者の即時的な文処理過程を調査したものではなく,こ
れまで L2 習得研究で行われてきた文法性判断テストと同
(3)
じように,英文理解の困難度を実験参加者の感覚で判断さ
a. Animate-Inanimate Subject relative
せている.したがって,この結果だけで L2 学習者が統語
The musiciani [CP øi [C that ti witnessed the accident
情報を利用していると主張することには無理があるよう
に思われる.
angered the policeman a lot]].
そこで,本研究では,日本人英語学習者の RTs を測り,
日本人英語学習者の即時的な文処理過程について検証を
b. Animate-Inanimate Object relative
行う.
The musiciani [CP øi [C that the accident terrified ti
1
angered the policeman a lot]].
AFS とは,統語構造内にギャップ位置が作り出され,フィラー
はギャップを見つけたらすぐに照合されるというものである.
− 68 −
富山県立大学紀要第24巻(2014)
3. 実験
3.2. 実験文
3.1. 参加者
3.2.1. 単語
実験参加者は 31 名の大学生(平均年齢 20 歳 2 ヶ月)で
単語の難易度が文処理に影響することを避けるため,中
ある.英語学習期間は 6 年間から 10 年間であり,数名の
学生用の単語集3より難易度と音素数を考慮して実験に使
海外旅行経験者はいたが,海外留学経験者は 1 人もいなか
用する単語を選んだ.有生名詞には,3 音節からなる 10
った.実験に先立ち,富山県立大学「人を対象とする実験」
種類の固有名詞(Ana・Bill・Bob・Eve・John・Ken・Kim・
の倫理審査部会規定に従い,実験参加者に実験の概要説明
Liz・Meg・Tom)
,無生名詞には 4~5 音節からなる 10 種
を行い,その後実験参加への同意書を提出してもらった.
類の普通名詞(action・bench・card・cloth・error・event・
実験は,概要説明や実験終了後の確認を含め約 30 分で終
matter・movie・river・tower)を使用した.また,動詞には,
了し,実験終了後に薄謝を渡した.
7~8 音節からなる 10 種類の動詞(borrow・climb・count・
英語の習熟度は英語検定 3 級の試験問題
(旺文社, 2008)
により測り,その結果を元に実験参加者を Elementary(E)
create・cross・hold・paint・print・start・study)の進行形が
使われた.
グループと Intermediate(I)グループに分けた.E グルー
さらに,実験の途中で単語の意味がわからないため文の
プは正答数が 23 問以下であり,I グループは正答数が 24
RTs が不自然に長くなる可能性を避けるため,あらかじめ
問以下の学習者である.また,記憶容量については,日本
実験参加者に知らない単語がないか確認した上で本実験
語版のリーディングスパンテスト(Reading Span Test: RST)
を行った.
(苧阪, 1998, 2002)を使い,実験参加者のワーキングメモ
リを測った2.
3.2.2. 文タイプ
RST は,3 文,4 文,5 文と提示される日本文を実験参
加者に口頭で読ませると同時に,下線の引いてある語句を
本研究では,2 タイプの強調文(各 10 文)を使い,全文
提示によりその RTs を調査した.
覚えてもらうという手法を用いた.あらかじめ PowerPoint
のスライドに日本文を用意し,実験参加者がスライドの日
強調文は,元々(4)のような文に(5)のような変化が
加えられたものである.
本文を読み終えたらすぐに次のスライドを提示するよう,
実験者がスライドの提示スピードを調整した.RST の得点
(4) John was printing the card then.
は,音読している間に並列的に記憶される語句の再生数か
ら算出した.RST の結果,実験参加者を 3 点以上の High
(5) a. <T1> It was Johni that ti was printing the card then.
(H)グループと 2.5 点以下の Low(L)グループに分けた.
b. <T2> It was the cardi that John was printing ti then.
習熟度と RST を元に,実験参加者は表 1 のように 4 つ
のグループに分けられた.
(5)は It was ~ that の強調文であり,強調させたい語句
表 1: 各グループの人数
WM Span
を that の前に移動させている.
(5a)は主語である有生名
詞句が強調された主語強調文(T1)であり,
(5b)は目的
Proficiency Level
Elementary
Intermediate
High
8
7
Low
7
8
記憶容量が H で習熟度が E の HE グループは 8 名,記憶容
語である無生名詞句が強調された目的語強調文(T2)であ
る.T1 と T2 の統語構造は(6)のようになっている.
(6) a. It wasj [FP Johni [F tj [CP ti [C that [TP ti was printing the
card then]].
量が H で習熟度が I の HI グループは 7 名,記憶容量が L
で習熟度が E の LE グループは 7 名,記憶容量が L で習熟
度が I の LI グループは 8 名となった.
2
この実験では,実験参加者は,日本文を声に出して読みながら
語句を保持するという二重課題を行う必要があり,ワーキングメ
モリが活用される並列的な処理が行われていると考えられる(近
藤ら, 1999).
b. It wasj [FP the cardi [F tj [CP ti [C that [TP John was
printing ti then]].
(6)では,強調される要素が,時制辞句(TP)の主語位
3
文理『昇級・昇段式 英単語練習』
− 69 −
第二言語文処理における統語構造の影響
置や目的語位置から CP を越え,強調句(FP)の指定部に
それぞれ移動している(Kiss, 1998, 1999)
.もし,L2 学習
者の文処理過程において統語構造が影響を与え,日本人英
これから実験を始めます。
語学習者が名詞句の移動距離に敏感であるのであれば,名
○を押すとスタートします。
詞句の移動距離の短い T1 の方が T2 より正確に早く処理さ
れると予測される.
実験では,表 2 のような 2 つのパターンを作り,実験参
加者のうち 15 名はパターン A から,残りはパターン B か
ら読み始めるように E-PRIME を設定した.
表 2: 提示文の内容
******
Pattern A
Number
主語強調文(文法的)
5
目的語強調文(文法的)
5
主語強調文(非文)
5
目的語強調文(非文)
5
統制文(文法的)
10
統制文(非文)
10
Total
40
It was John that was printing the card then.
図 1: 提示方法
Pattern B
Number
統制文(非文)
10
統制文(文法的)
10
目的語強調文(非文)
5
まず,最初のブロックには,実験参加者が SR-Box の一
主語強調文(非文)
5
番左側にある○ボタンを押すと実験が始まると書かれて
目的語強調文(文法的)
5
おり,実験参加者は準備ができたら○ボタンを押すよう指
主語強調文(文法的)
5
示が与えられた.次のブロックは注視のために置かれてお
40
り,そのブロックは 2 秒後に自動的にターゲットブロック
Total
図 1: 文提示の方法
に切り替わるよう設定された.実験参加者は,ターゲット
パターン A と B に含まれる英文の内容は同じであるが,
ブロックに提示される英文を読み,その文の文法性を早く
順序は逆になっている.最終的に,意味の通じる文法的な
正確に判断することが求められた.英文が文法的に正しい
文と非文の数が同じになるよう,また強調文と実験とは関
と思った場合は,SR-Box の右から二番目のボタンを,正
係のない統制文の数が同じになるよう英文を 80 文作成し,
しくないと思った場合は一番右側のボタンを押すよう指
実験を行った.
示が与えられた.実験では,英文が提示されてから実験参
加者がどちらかのボタンを押すまでにかかった時間を RTs
3.3. 実験方法
実験では,E-PRIME と SR-Box を使い,図 1 のように全
文提示により実験参加者の RTs を測定した.
として測定した.
本研究では,全文を読んだ時の判断時間を調査対象とし
ているため,実験参加者の文法性判断の正答・誤答に関わ
らず全ての文の RTs を分析の対象とした.また,データ分
析の際は,各領域の RTs が 1,000 ms 以下,もしくは 15,000
ms 以上のデータはあらかじめ取り除き,残ったデータの
中で平均値から標準偏差±2.5 倍よりも外れた値は,境界
値(M±2.5SD)で置き換え,分析を行った.その結果,T1
では 2.7%(7/263)
,T2 では 3.4%(9/263)のデータが調査
対象から除外された.
− 70 −
富山県立大学紀要第24巻(2014)
RTs は 5392ms.であり,T2 の RTs は 5832ms.であった.LE
4. 結果
グループの T1の RTs は6369ms.であり,T2の RTs は 6540ms.
4.1. 文法性判断の結果
であった.HI と LI グループは T1 より T2 の RTs が長くな
タイプ別の正答率を表 3 に示す.
っているようである.
この RTs について 2×4(グループ×文タイプ)の分散
表 3: タイプ別の正答率
Group
HI
HE
LI
LE
Mean
分析を行うと,グループ間には項目分析において有意差が
T1
T2
Mean
あった(F1(3, 26)= 1.36, p > 0.2 ns., F2(3, 36)= 6.10, p <
81.4
88.6
85.0
0.01)が,文タイプ間については被験者分析と項目分析の
( 57/70 )
( 62/70 )
(119/140)
85.0
87.5
86.3
( 68/80 )
( 70/80 )
(138/160)
96.3
92.5
94.4
( 77/80 )
( 74/80 )
(151/160)
87.1
81.4
84.3
( 61/70 )
( 57/70 )
(118/140)
87.6
87.6
(263/300)
(263/300)
26)= 1.60, p > 0.2
両分析において有意差はなかった(F(1,
1
.また,交互作用において
ns., F2(1, 36)= 1.17, p > 0.2 ns.)
も有意差はなかった(F(3,
26)= 0.49, p > 0.6 ns., F(3,
36)
1
2
= 0.35, p > 0.7 ns.)
.
単純主効果を検証すると T1 の RTs においてグループ間
に差が見られ,Bonferroni 法による下位検定を行うと,習
熟度の高い HI と LI グループは T2 より T1 の RTs が有意に
短く,また HI と LI グループは T1 の RTs が習熟度の低い
HE と LE グループより有意に短くなっていることが明ら
かになった.
どのグループの学習者も T1 と T2 の英文を 80%以上の
割合で正しく判断しており,英文の文法性の判断について
は,習熟度や記憶容量の影響はないように思われる.
正答数について 2×4(グループ×文タイプ)の分散分
5. 議論
文法性判断の正答率では,日本人英語学習者は英語の習
熟度や記憶容量に関係なく,主語が移動した T1 も目的語
が移動した T2 も正しくその英文の文法性について判断で
析を行うと,グループ間にも文タイプ間にも有意差はなか
きた.一方,RTs については,習熟度による差が見られ,
った(グループ: F(3, 26)= 0.72, p>0.5 ns.; 文タイプ: F(1,
習熟度の高い HI と LI グループが習熟度の低い HE や LE
26)= 0.00, p>0.9 ns.)
.また,交互作用についても有意差は
グループより T1 を早く読んでいることがわかった.さら
なかった( F(3, 26)= 0.45, p>0.7 ns.)
.
に,HI と LI グループでは T2 より T1 の RTs が短くなって
いることも明らかになった.
Marinis et al.(2005)では,たとえ上級学習者であったと
4.2. 読み時間の結果
次に,それぞれのグループの平均 RTs を図 2 に示す.
しても,L2 学習者は L1 話者のようにギャップ位置を適切
に作り出すことはできないと提案されている(cf. Clahsen
7000
& Felser, 2006)が,本研究の結果では,主語が移動した T1
6000
の RTs より,目的語が移動した T2 の RTs の方が長くなっ
5000
ており,フィラーとギャップの距離が日本人英語学習者の
4000
文処理に影響を与えていると考えることができる.つまり,
3000
L2 学習者も習熟度が高くなると統語構造にギャップ位置
2000
を作り出すことができるようになるだけではなく,統語情
報を扱う AFS に沿った文処理を行うようになることが推
1000
0
測される.
HI
HE
T1
LI
LE
T2
図 2: グループごとの平均読み時間(ms.)
6. 終わりに
本研究では,初級・中級の日本人英語学習者を対象とし,
習熟度と記憶容量の異なる日本人英語学習者が,統語構造
HI グループの T1 の RTs は 5490ms.であり,T2 の RTs は
の異なる英文をどのように処理しているのか検証を行っ
5982ms.であった.HE グループの T1 の RTs は 6323ms.で
た.文法性判断の結果では,習熟度と記憶容量に関係なく
あり,T2 の RTs は 6221ms.であった.LI グループの T1 の
どのグループの日本人英語学習者も強調文についてその
第二言語文処理における統語構造の影響
文の文法性を正しく判断することができた.また,全文提
− 71 −
Memory and Language 58, pp.161-187.
示により主語が移動した強調文 T1 と目的語が移動した強
Gordon, P. C., Hendrick, R. & M. Johnson. 2001.
調文 T2 の RTs を測定すると,習熟度の高い HI と LI グル
“Memory interference during language processing.”
ープの学習者は T2 より T1 を早く読むことがわかり,さら
Journal of Experimental Psychology: Learning,
に T1 の RTs においては HI と LI グループの学習者は習熟
Memory and Cognition 27, pp.1411-1423.
度の低い HE と LE の学習者より早く処理していることが
Gordon, P. C., Hendrick, R. & M. Johnson. 2004.
明らかになった.したがって,L2 学習者でも目標言語の
“Effects of noun phrase type on sentence complexity.”
習熟度が高くなると統語情報を利用することができるよ
Journal of Memory and Language 51, pp.97-114.
うになり,L2 文処理においても統語構造の違いが文処理
Hara, M. 2010. “Second language gap processing of
Japanese scrambling under a Simpler Syntax account”.
過程に影響を与えると考えることができる.
本研究では,記憶容量の影響については明らかにはなら
In VanPatten, B. & J. Jegerski. (eds.), Research on
なかった.記憶容量の違いは,文処理過程においてより高
Second Language Processing and Parsing, (pp.
い負荷がかかった時にその影響が現れるため,本実験の刺
177-206). Amsterdam: John Benjamins.
激文ではそれほど処理負荷が高くはならなかったと考え
Hara, M. 2011. “Real-time reading and reactivation
られる.より複雑な構造を持った英文やフィラーとギャッ
evidence of syntactic gap processing in Japanese
プの距離が長い英文を用い,さらに刺激文の提示方法に変
scrambling”. In Plonsky, L. & M. Schierloh. (eds.),
更を加えることで,より処理負荷が高まると思われる.今
Selected Proceedings of the 2009 Second Language
後,記憶容量の影響を議論するためには,処理負荷を高め
Research Forum, (pp.31-50). Somerville, MA:
た実験を行う必要があるであろう.
Cascadilla Proceedings Project.
Hawkins, R. 2001. Second Language Syntax. Oxford:
Blackwell.
Just, M. A. & P. A. Carpenter. 1992. “A capacity theory
謝辞
of comprehension: Individual differences in working
本研究の一部は,富山県立大学特別研究費(奨励研究)
(代表: 須田孝司)によって助成を受けたものである.
memory.” Psychological Review 99, pp.122-149.
King, J. & M. A. Just. 1991. “Individual differences in
syntactic processing: The role of working memory.”
Journal of Memory and Language 30, pp.580-602.
Kiss, K. 1998. “Identificational focus versus information
参考文献
focus”. Language 74, pp.245-273.
Chomsky, N. 1965. Aspects of the Theory of Syntax.
phrase. In Mereu, L. (ed.), Boundaries of Morphology
Cambridge, MA: MIT Press.
Clahsen,
H.
processing
&
in
C.
Felser.
language
Kiss, K. 1999. The English cleft construction as a focus
2006.
“Grammatical
learners”.
Applied
Psycholinguistics 27, pp.3-42.
Dussias, P. E. & P. Piñar, 2009. “Sentence parsing in L2
learners.” In Ritchie, W. C. & T. K. Bhatia (eds.), The
New Handbook of Second language Acquisition,
and Syntax, (pp. 217-230). Amsterdam: John
Benjamins.
近藤洋史・森下正修・苧阪直行. 1999.「読みのワーキング
メモリとリーディングスパンテスト」
『心理学評論 42』
pp.506-523.
Lin, C.-J. C. & T. G. Bever. 2006. “Subject preference in
(pp.295-317). Bingley: Emerald Group Publishing.
the processing of relative clauses in Chinese.” In
Frazier, L. 1987. “Syntactic processing: Evidence from
Baumer, D., Montero, D. & M. Scanlon. (eds.),
Dutch”. Natural Language and Linguistic Theory 5,
Proceedings of the 25th West Coast Conference on
pp.519-559.
Formal Linguistics, (pp.254-260). Somerville, MA:
Frazier, L. & G. B. Flores d’Arcais. 1989. “Filler
driven parsing: A study of gap filling in Dutch”.
Journal of Memory and Language 28, pp.331-344.
Gennari, S. P. & M. C. MacDonald. 2008. “Semantic
indeterminacy in object relative clauses.” Journal of
Cascadilla Proceedings Project.
MacWhinney, B. & C. Pleh. 1988. “The processing of
restrictive relative clauses in Hungarian.” Cognition
29, pp.95-141.
Mak, W. M., Vonk, W. & H. Schriefers. 2002. “The
− 72 −
富山県立大学紀要第24巻(2014)
influence of animacy on relative clause processing.”
of sentence comprehension: Critique of Just and
Journal of Memory and Language 47, pp.50-68.
Carpenter
Mak, W. M., Vonk, W. & H. Schriefers. 2006. “Animacy
in processing relative clauses: The hikers that rocks
(1992).”
pp.761-772.
White, L. 2003. Second Language Acquisition and
crush.” Journal of Memory and Language 54,
Universal
pp.466-490.
University Press.
Marinis, T., Robert, L., Felser, C. & Clahsen, H. 2005.
“Gaps in second language sentence processing.”
Studies in Second language Acquisition 27, pp.53-78.
Miyamoto, E. T. & M. Nakamura. 2003. “Subject/object
asymmetries in the processing of relative clauses in
Japanese.” In Garding, G. & M. Tsujimura. (eds.),
WCCFL 22 Proceedings, (pp.342-55). Somerville,
MA: Cascadilla Press.
旺文社. 2008. 英検 3 級全問題集 2008 年度版. 東京: 旺文
社.
Omaki, A. & K. Ariji. 2005. “Testing and attesting the
use of structural information in L2 sentence
processing. In Dekydtspotter, L., Sprouse, R. A., & A.
Liljestrand. (eds.), Proceedings of the 7th Generative
Approaches
Conference,
to
Second
Language
(pp.205-218).
Acquisition
Somerville,
MA:
Cascadilla Proceedings Project.
苧阪満里子. 1998.「読みとワーキングメモリ」
『読み−脳と
心の情報処理』 (pp.239-262). 東京: 朝倉書店.
苧阪満里子. 2002.『ワーキングメモリ』東京: 新曜社.
Radford, A. 2004. Minimalist Syntax. Cambridge:
Cambridge University Press.
Sorace, A. 2005. “Selective optionality in language
development”. In Cornips, L. & K. Corrigan (eds.),
Syntax and Variation. Reconciling the Biological and
the Social, (pp.55-80). Amsterdam: John Benjamins.
Stowe, L. A. 1986. “Parsing WH-constructions: Evidence
for on-line gap location”. Language and Cognitive
Processes 1, pp.227-245.
Traxler, M. J., Morris, R. K. & R. E. Seely. 2002.
“Processing subject and object relative clauses:
Evidence from eye movements”. Journal of Memory
and Language 47, pp.69-90.
Warren, T. & E. Gibson. 2002. “The influence of
referential processing on sentence complexity.”
Cognition 85, pp.79-112.
Waters, G. S. & D. Caplan. 1996a. “Processing resource
capacity and the comprehension of garden path
sentences.” Memory and Cognition 24, pp.342-355.
Waters, G. S. & D. Caplan. 1996b. “The capacity theory
Psychological Review 103,
Grammar.
Cambridge:
Cambridge
第二言語文処理における統語構造の影響
− 73 −
The Influence of Syntactic Structure in L2 Sentence Processing
Koji SUDA
Department of Liberal Arts and Sciences, Faculty of Engineering
This study collects grammaticality judgment and reading time data from Japanese learners of English (JLEs) with
distinct proficiency levels and working memory capacities, and argues how they comprehend two types of focus
sentences in English, where the distance between the filler and its gap is different. The grammaticality judgment
data revealed that JLEs correctly judged the grammaticality of both subject focus sentences (T1) and object focus
sentences (T2) in English irrespective of their proficiency levels and working memory capacities. However, the
reading times of whole English sentences indicated that JLEs with higher proficiency levels read T1 faster than T2,
and that they read T1 faster than JLEs with lower proficiency levels. From those results in this study, it will be
proposed that L2 learners can make use of syntactic information as they develop their proficiency levels.
Key Words: second language, sentence processing, syntactic structure, proficiency, working memory