消化管における生体防御機構並びに 常在細菌の定着・調節機構の解明 氏名 北川 浩 所属 自然科学系先端融合研究環 1.研究の概要とキーワード 人や動物の消化管には多数の常在細菌が常在し,宿主と共生関係にあります。この常在 細菌叢には宿主にとって有用な細菌や逆に健康の維持に不都合な細菌が混在しており, 経口免疫寛容の成立等に対して大きな影響を及ぼしているとされています。しかしながら, 常在細菌の定着・調節の仕組みについては殆ど明らかにされていません。 また,消化管 内の高分子や粒子状物は,粘膜リンパ組織以外の一般粘膜から殆ど吸収されないとされ てきましたが,腸管内腔の高分子や粒子状物が循環血中まで取り込まれる,いわゆるパー ソープションという現象が報告されてきています。そこで消化管における常在細菌の定着や 調節の仕組み,さらには抗原性を有する高分子や粒子状物のパーソープションの仕組みに ついて,上皮細胞のアポトーシスの進行との関連でin vivoの視点から研究をしています。 2.他の研究との相違点・新規な点 常在細菌に関しては,従来微生物学的な視点から主に研究され 1µm てきましたが,本研究では,各種電子顕微鏡や免疫組織化学等を 駆使してin vivoの視点から常在細菌の定着や調節の仕組みを解 Ⅰ 明しています。また,消化管から分泌されるIgAを主体とした抗体 Ⅱ Ⅲ Ⅳ は遮断抗体として食物抗原の生体内への侵入を防ぐと考えられ, 1µm 高分子や粒子状物が生体組織内には侵入しないとされてきました が,本研究では逆に食物抗原に対する特異抗体が食物抗原と 図1.上皮細胞に接着した 複合体を形成して生体内の循環血中まで導き入れる役割を演じ 常在細菌の物理的排除を ていることをin vivoの視点から明らかにしています。また, さらに, 示す透過型電子顕微鏡像 上記の2つの現象が上皮細胞のアポトーシスの進行過程と密接 Fcγ被覆粒子 に関連しており,経口免疫寛容の維持等を通じて宿主の健康に 大きく影響していることを明らかにしつつあります。 3.内容 常在細菌は消化管全長でアポトーシス後期の上皮細胞を中心に 接着しており,接着した細菌に対しては,上皮細胞自身がactinと myosinを主体とした物理的生体防御等により排除することを明ら 10µm かにしています(図1)。また過度に増殖した常在細菌コロニーに対 しては局所的な上皮細胞の細胞動態の亢進やlysozyme,sPLA2等 図2.Fcγ被覆ポリスチレン の一過性の分泌により調節すること等を明らかにするとともに,より 粒子を取り込む腸絨毛先 端部の光学顕微鏡像 広範囲な常在細菌のコロニーの制御には粘膜リンパ組織が深く 関わる可能性も明らかにしています。また,常在細菌の調節には 上皮細胞の膜内TLR-2,-4,-9と各種外分泌腺からのsTLR-2,-4, -9が協同して働くことにより,常在細菌に対する宿主側の過度な 応答を抑えている可能性もin vivoで明らかにしています。 また,腸管内腔の食物由来の抗原分子や粒子状物が,特異抗体 10µm と免疫複合体を形成し,Fcγ受容体を介してアポトーシス後期の 上皮細胞に取り込まれ(図2, 3),門脈血を介して体循環血までパー 図3.腸絨毛先端の上皮細 ソープションされることを明らかにしています。この際,直径30 µmの 胞より取り込まれるFcγ被 巨大な粒子もパーソープションされることもin vivoで証明しています。 覆ポリスチレン粒子(▲) の 走査型電子顕微鏡像 ▲:常在細菌 4.研究の適用分野 上記の常在細菌と食餌性抗原のパーソープションが,呼吸器や消化器系のアレルギーの 予防・治療に重要である経口免疫寛容等の維持や調節に関与していると考えられることか ら,これに関連した研究・開発分野。生体にとって有用な常在細菌によるプロバイオティクス 等への応用を目指す研究・開発分野。 氏名 北川 浩 所属 自然科学系先端融合研究環 重点研究部 ◇研究歴 1979. 4. 1~1989. 4.30 (北海道大学獣医学部 助手) ニワトリの消化管免疫機構に関する形態機能学的研究 1989. 5. 1~1999. 3.31 (烏取大学農学部 助教授) ニワトリの免疫機構とアポトーシスに関する形態機能学的研究 1999. 4. 1~現在 (神戸大学自然科学研究科/農学研究科 教授) 動物の消化管等におけるパーソープションの仕組み,常在細菌 の定着・制御機構並びにアポトーシスに関する形態機能学的研究 ◇専門分野 動物免疫学,動物組織学,動物生理学,動物解剖学 ◇代表的な研究論文 Yokoo, Y., Miyata, H., Udayanga, K. G. S., Qi, W.-M., Takahara, E., Mantani, Y., Yokoyama, T., Kawano, J., Hoshi, N., Kitagawa, H. (2011): Immunohistochemical and histoplanimetrical study on the spatial relationship between the settlement of indigenous bacteria and the secretion of bactericidal peptides in rat alimentary tract. J. Vet. Med. Sci., (accepted). Mantani, Y., Kamezaki, A., Udayanga, K. G. S., Takahara, E., Qi, W.-M., Yokoyama, T., Kawano, J., Hoshi, N., Kitagawa, H. (2011): Site differences of the Toll-like receptor expression in the mucous epithelium of rat small intestine. Histol. Histopathol., (accepted). Udayanga, K. G. S., Miyata, H., Yokoo, Y., Qi, W.-M., Takahara, E., Mantani, Y., Yokoyama, T., Hoshi, N., Kitagawa, H. (2011): Immunohistochemical study of the apoptosis process in epidermal epithelial cells of rats under a physiological condition. Histol. Histopathol., (accepted). Yokoo, Y., Miyata, H., Udayanga, K. G. S., Qi, W.-M., Takahara, E., Yokoyama, T., Kawano, J., Hoshi, N., Kitagawa, H. (2011): Immunohistochemical study on the secretory host defense system of bactericidal peptides in rat digestive organs. J. Vet. Med. Sci., 73: 217-225. Yamamoto, K., Qi, W.-M., Yokoo, Y., Miyata, H., Udayanga, K. G. S., Kawano, J., Yokoyama, T., Hoshi, N., Kitagawa, H. (2010): Lectin histochemical detection of special sugars on the mucosal surfaces of the rat alimentary tract. J. Vet. Med. Sci., 72: 1119-1127. Yamamoto, K., Qi, W.-M., Yokoo, Y., Miyata, H., Udayanga, K. G. S., Kawano, J. ,Yokoyama, T., Hoshi, N. and Kitagawa, H. (2009): Histoplanimetrical study on the spatial relationship of indigenous bacteria and mucosal lymphatic follicles throughout alimentary tract of rat. J. Vet. Med. Sci., 71: 621-630. Qi, W.-M., Yamamoto, K., Yokoo, Y., Miyata, H., Inamoto, T., Udayanga, K. G., Kawano, J., Yokoyama, T., Hoshi, N. and Kitagawa, H. (2009): Histoplanimetrical study on the relationship between the cell kinetics of villous epithelial cells and the proliferation of indigenous bacteria in rat small intestine. J. Vet. Med. Sci., 71: 463-470. ◇発明名称と特許出願番号 特になし ◇興味のある共同研究分野 消化管,呼吸器,皮膚関連の生体防御,並びにアポトーシスに関わる研究分野 消化管や皮膚等における常在細菌に関わる研究分野 連絡先:神戸大学 連携創造本部 TEL:078-803-5945 FAX:078-803-5947 E-mail:[email protected] URL:http://www.innov.kobe-u.ac.jp/
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